マルクが元スプリガン
「━━━スザク!!」
「がっ!!」
地面に倒れ込んでいるスザク。満身創痍となっている彼の頭を、ドグラマグは踏みつける。ナツとスザクは傷だらけになっているにも関わらず、対するドグラマグの体には傷一つ付いていなかった。
「古より、人間が大地に逆らうと様々な厄災が訪れた。いつの時代でも人間は愚かな物だな」
「それでも精一杯生きてんだよ!人間ってのは!!」
「………人間?お前は怪しいもんだ。ドラゴン…いや、悪魔の匂いもするなァ?」
「鼻悪いんじゃねーの、そいつはもう…昔の話だ!!」
構え、そして一気に走り込むナツ。拳に魔力を貯め…そして炎とし、一気に飛び込んでいく。以下に通じないとわかっていようとも、それで逃げるほど、退くほどナツは弱腰では進まない。どれだけの強敵であっても、必ず1歩は進むのである。
「俺は選んだ!人間を!!俺は!!
「うぐっ…!」
『ダメージは受けない』そう考えていたドグラマグの頬に、ナツの拳が入り込む。そして
「━━━━ッ!?何…!?俺の体に、ダメージが…何故だ…!ッ!そうだ、セレーネとあのもう1人の悪魔の人間は……!!」
ダメージを受けたことによる思考の『ブレ』。それが今、ドグラマグの隙となった。そして、その隙を当然ナツが見逃す訳もなく……ドグラマグの目の前には、巨大な炎を拳に纏わせたナツが今にも殴りかかろうとしているのであった。
.
「あと3つ……いや、2つになった…この二つを壊せばドグラマグを弱体化できる……しかし、ガジルが先程から戻ってきていない…見に行ってもらったリリーも戻ってきていない…もう1つの方は…場所さえ分からぬ…何故だ…」
「ドグラマグに吸収されてんじゃねぇのか!?」
ドグラマグにダメージが入る少し前。コアをほぼ破壊し終えた一同は1度セレーネの元へと集まっていた。だが一つを追ったガジルは戻って来ず、それを見に行ったリリーも戻ってこない。もう1つの方に関しては、セレーネですら探知不可能となっていた。
「それは無いはず……」
「っ…ホント動きづら……すいません今戻りました!!」
そうして困惑している時に、マルクが帰ってくる。声がした方に全員視線を向けて……絶句した。当たり前である。
「「「「誰ー!!?」」」」
「ま、マルクです……」
「どうやら…介入してきた第三者によってこうされたらしい」
「え、あんたそれ…ホントどうなってんの…?本当にマルク…?」
「正真正銘マルク・スーリアですよ!!」
「……き、着替えと下着いるか?私なら換装して違うのを取り出せるから…」
「困惑しすぎて要らぬ心配ですよ!!…………じゃなくて!!今どうなってます!!?」
女となったマルクに驚きながらも、改めて状況確認を行する一同。それを聞いたマルクは顔を顰めていた。突如として現れた第三者の介入で、非常に面倒なことが起こっているからだ。
「……ガジルさんとリリーの所へは、俺が行きます。ごめんハッピー、手伝ってくれるか?」
「あいさ!」
「けど、どっちにしろ残り一個がない…どうしたら…」
「━━━これの事か」
ルーシィが呟いたその瞬間、突如として新たな声が届く。そこに居たのはディアボロスのキリアだった。そして、手にはドグラコアが存在していた。
「キリア!」
「お前…」
「勘違いするな…スザクの為じゃ、ワシに取っては仲間じゃからな」
そう言いながらコアを壊すキリア。これによって残り一個となる。それを見届けたと同時に、マルクとハッピーがガジルとリリーの入ったゲートへと向かう。
「ウェンディ!セレーネの回復よろしく!じゃあいってきま…うおっとと…行ってきます!!」
「う、うん…行ってらっしゃい……」
何も無いところでよろけていたマルク。ウェンディが微妙そうな顔をしながら手を振り送り出す。その微妙そうな表情の原因が…マルクにあると、言えるわけもないのであった。
.
「これがいつもナツさんとウェンディが感じてる景色かぁ…」
「ねぇマルク」
「なんだ?」
「何がどうなってそうなったの?」
「錬金術師に嫌がらせされた……っと次右だ」
ハッピーに背中を掴まれながら、迷宮内で匂いと魔力探知をしながらガジル達の所まで移動していくマルク。だが、その途中で明らかに異質な気配がしていた。
「……ハッピー」
「何?」
「コアを破壊出来たかどうか確認取れ次第、逃げんぞ」
「えぇ!?な、なんで!?ナツのところに一刻も早く向かうとか…そんな話?!」
「それもあるけど……相手がやばい…俺なら相手になるかもしれないけど…」
臭ってくるのは1人の匂い。しかし魔力の気配は8つある。しかもよりにもよって感じ取った魔力の気配は
「し、知ってる人?」
「知り合いでは無いな、俺がほぼ一方的に知ってる感じだ……」
「誰、なの?」
「あぁ、そいつは━━━」
案内を続け、迷宮内を探索し続けたマルクとハッピー。そして、辿り着いた先は迷宮の出口…というよりも迷宮に入る前に皆がいた場所…そこに勢いよく出た2人の目の前に現れた光景は━━━
「岩窟竜の!!!」
「ハッピー離せ!!」
「あい!」
「大地…むっ!!?」
「魔龍の咆哮!!!」
ガジルとリリーの前に居る男に向けて、マルクはブレスを放つ。それに気を取られてしまい、その男は1歩引いてブレスを避ける。そしてガジルとリリーの前に立ち男に視線を向ける。
「今の技…いや、でも…誰だお前!?」
「話は後!!まさか本当にお前だとは思ってなかったぞ!『八竜のゴッドセレナ』!!」
そう、目の前にいるのはかつてのイシュガル最強格の1人であるゴッドセレナである。8つの
「…………」
「……?なんだよこっちじっと見て」
「ファン!!かな!!可愛いガール!!」
ポーズを忙しなく変えながら、マルクに向けて指をさすゴッドセレナ。今のマルクを見て、何をどう勘違いしたのかファンが来たと思っているようである。
「……………ふー…………」
「ん?俺との出会いが幸せすぎて━━━」
「てめぇのとこの機械錬金術師のせいで女にされた男だわボケーッ!!!!」
一瞬で沸騰し、ゴッドセレナに殴り掛かるマルクだったが…その拳は簡単に避けられてしまう。もしマルクが男だったならば、今の拳は当たっていたかもしれない。なれない体つきでの動きでは、マルクが思っている以上に彼の動きを阻害していたのだ。
「ふむ…機械、錬金術…あぁ、ワールか。成程性別を入れ替えられてしまったのか…今回のカスタムでは極度の戦闘は考慮していなかったからな、相手の撹乱で入れていたと記憶しているが……刺さったわけだ」
「倒したのに戻らねぇし!!うおっ!!」
「やられた程度で戻るような錬金術をしなかった、ということか。成程つまりそれほどの相手…この程度で済んでいるのが助かった、というところか」
攻撃してはバランスを崩し、攻撃してはバランスを崩し……マルクの拳は全くゴッドセレナを捕えることがないまま、勝手にマルクだけが疲弊している。
「動けねぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!!」
「当たり前だ、単にワールの趣味趣向で変えてるだけだと思っているのか?その錬金術は、肉体と脳に影響を及ぼす錬金術だ」
「は…?」
疲労で地面の膝をつけているマルクを見下ろすゴッドセレナ。浮かべているその笑みと言葉に、マルクは背筋が寒くなる感覚を覚えて
いた。
「肉体を変えると同時に、脳に『異性だった場合の肉体構成』を任せているんだ。でなければ元の体にあるべき部分が無くなり、無いものが出てくるだけだからな。
そして、今回の場合脳に『元々女だった』という入れ替えを錬金術で行い、肉体その物も変貌させることで…完全に他人になった…という訳さ」
「だから、どうした…!」
「脳が『元々女だった』という認識をしているんだぞ?その内…性格や精神構造さえも変貌していく、少なくとも完全に今のまま…ということは無いだろうな」
「は…?!」
「どちらにせよ、男だった時の戦い方は出来はしない上に今更別の戦い方も模索できない。まぁ本来そこまで錬金術は長持ちするでは無いが…どうにも普通じゃない
「は……!!!?」
「さて、本当に俺を相手していていいのかな?」
事実かどうかは分からない。全くのデタラメを言っている可能性もある。しかし、可能性としては0では無い。そう思ってしまったマルクは顔面蒼白となっていた。
「━━━ギヒッ、何だかよくわかんねぇが…」
「ん?なんだ、まだ動けるのか」
「おい、ガキ。戻んぞ」
マルクの頭の上に手を置くガジル。しかし、マルクは気がついていた。わざわざガジルとリリーがゴッドセレナを追っていたという事は、コアを取られている可能性が高いのだと。
「え!?いや、でもコアは!?」
「ふっ、そうだ…このゴッドセレナが持っているコアを……コアを……ん…?」
服の内側を探すゴッドセレナ。しかし、懐に入れて置いたはずのコアが見つからず、熱心に探し始める。そして、ないことに気づきガジルに視線を戻すと━━━
「遅せぇよ、気づくのが」
「げーっ!!破壊された!?」
「ッ!!これで全部破壊できた!!って今の誰だ!!」
「ふー……仕方ないな、サイ…戻ろうか」
「い、いいのかよゴッドブラザー!このままだとシグナリオ姉妹に殺されちまうよ!」
「仕方ないさ、事実は事実だ……俺のせいにでもして俺が背負っておこう…下手に争うのも、宜しくない。この少女に今の体で戦うのに慣れられたら…恐らく負けるのはこちらだ」
「逃げんのか!!」
「あぁ…ま、その内会えるだろう。ゴッドバイバイ!」
そう言って、ゴッドセレナとサイと呼ばれた男は踵を返してその場を離れていく。どうやら目的はコアだった様だが……全て破壊されたと聞いて無駄だと悟り、ギルドに戻って行った様である。
「と、とりあえず俺達も戻りましょう」
「おうよ、全部壊したってんならドグラマグって奴を倒せるだろうし…うぐっ!!」
1歩踏み出した瞬間に蹲るガジル。マルクは知る由もないが、ガジルは一度ゴッドセレナに完敗していたのだ。そのせいで大怪我を負っていたのだが、先程までは無理して動いていたのである。
「ガジルさん!!」
「クソッ…!ここまで来て動けねぇってか…!?」
「無理をしすぎだガジル、ここでもう休んでおけ……マルク、オレはガジルをここで休ませておく。お前が変わりに行ってやれ」
蹲ったガジルを近くの瓦礫を背に座らせるリリー。リリーにそう言われ、マルクは頷き…走り始める。ハッピーもまだ魔力が持つのか、走り始めたマルクの背中をつかみ、マルクの移動のサポートをする。
「行くぞハッピー!」
「あいさー!!」
.
「━━━ぐう……!!!?」
全てのドグラコアが破壊された瞬間、ナツに殴り飛ばされたドグラマグ。今まではドグラコアがあったおかげで全ての攻撃を無力化できていたが、既にそうはいかない。弱体化した彼はナツの攻撃を受けるとダメージを負う体となってしまっているのだ。
「ドグラコアが破壊されたのか…!くくく、はははははははは!!!面白ぇ!!人と神が戦うんだ、これくらいのハンデがねぇとな!!
……いいぜ、来いよ。たっぷり遊んでやるからよォ」
「━━━火竜の!!鉤爪!!」
「へっ…ぬるいぬるい……!ホレぇ!!」
「ぐあっ!!」
炎を纏うナツの蹴りの一撃が、ドグラマグの脳天に迫る。しかし弱体化したとはいえ、相手は神と呼ばれしドラゴンの一角。ナツの足をそのまま掴み、壁へと投げつける。そして、そのまま追撃を入れんと自らの拳に瓦礫を纏う。
「土神竜の!!ガ・メルジオ!!」
瓦礫がドグラマグの拳に集まり、大きな土の拳となる。それがナツに目掛けて振り向けられるが、壁に激突したナツはすぐさま復帰しその拳に向けて自身の拳をぶつける。
「ぐうう…!!」
「ははは!!ほらどうしたァ!!」
「うぐううぅぅぅぅぅぅ………!!炎竜王の!!!崩拳!!!」
凄まじい炎が噴き出し、ドグラマグの拳を貫き破壊する。その勢いでドグラマグはナツに吹き飛ばされ、後退りする形となってしまう。だが、その程度でナツは止まらない。
「ぐあっ…!?馬鹿な…!」
「うおらああああ!!!!」
「舐めんじゃ…ねぇぞ!!」
「ぐあっ!がっ!!」
飛び込んできたナツに肘を当て地面に落とし、そしてそのまま蹴りあげる。更にギアを上げてきたドグラマグに対して、ナツも根性で食らいついていく。
「まだま゙ッ!!」
「鬱陶しい…!!どんだけ渋てぇんだよ!!」
更にそこから殴り飛ばすが……それでもナツの目はドグラマグを睨みつける。それによりドグラマグは揺らされる。怒り、呆れ……その中に眠る恐怖。目の前のナツに対して、先程まで全く意にも介して無かった相手に対して、ドグラマグはその執念深さに無意識的に恐怖し、そしてその感情の揺れを怒りで出していた。
「さっさと……寝ちまいなぁ!!」
凄まじい量の瓦礫を飛ばすドグラマグ。ナツ目掛けて飛んでくるそれは、ナツには防ぎ切ることは勿論避けることも許されないほどの物量となっていた。
「ふっ…!」
一瞬の内の凄まじい斬撃。全ての瓦礫は叩き切られ、ナツに届く前に全て地面へと落下する。そして、スザクのこの行動によってスザクとドグラマグは確信した。今ドグラマグ自身と迷宮の硬さが弱まっていると。
「スザク!!」
「変化…この石、斬れるようになった故」
「何!?なら…!」
そう言って、ナツはその辺の瓦礫に拳を打ち付けるが……割れるどころかヒビが入る様子さえなかった。どうやら、スザクの斬撃とナツの打撃では少し話が変わってくるようである。
「壊れねーじゃねぇか!!」
「拙者は『斬れる』と申した故……奴が弱体化したのだ、何故かは知らんが推測はできる。セレーネと猫、もう1人の紫髪が離脱していた。恐らく何かしたのだろうな」
「ハッピー!やっぱお前すげぇ!!」
「今が好機だ……征くぞナツ」
「オウ!見せてやるぞ!スーパーファイアーズの力!!」
「……困惑、戦う前に決めたチーム名が変わっている故」
2人のやり取りを眺めながら、ドグラマグは静かに怒っていた。してやられたことも勿論だが、未だ勝つ気のあるナツ達に腹が立っていたのだ。
「……すー………ふー…………すまねぇな、イグニア。ナツってのは殺すな、って話だったが……なんかムカつくんだよなコイツら…人間如きが偉そうに神に楯突く姿がよォ…!」
「「ッ!!」」
今まで人間態だったドグラマグ。それはナツ達に負ける事がないという驕りから来ているものだった。だがそれはたった今無くなった。散々にされている事に怒り、目の前の『敵』を叩き潰す必要があるからだ。無論、ドグラマグはナツ達の事を敵と認識しているのは…完全に無意識だが。
「━━━━━━!!!!!」
「くっ…!」
「またドラゴンの姿に…!」
轟く咆哮。ドグラマグは再びドラゴンの姿となり、ナツ達に立ちはだかる。その表情は見てわかるほどにイラついており、ナツ達に腹を立てているのは明確である。故に今、先程まであった冷静さからなる余裕が……
「……殺すわ、オメェら」
「ッ!!マズイ!!」
足を上げ、ナツ達を踏み潰そうとするドグラマグ。ナツ達の命を絶つには、これが手っ取り早いという判断だろう。それは恐らく間違っていない。ナツ達は既に満身創痍であり、それを容易に避けることは難しかったからだ。
「死ねや━━━━」
「てめぇがなァァァァァアアアアアアアア!!!」
「ぐおっ!!?」
「マルク!?」
ドラゴンの姿となったドグラマグにぶつかる存在…それは悪魔龍の力を解放したマルクであった。スピードに乗り、悪魔龍の力を使い図体を大きくし、さながら巨大な銃弾の如く飛んでいきドグラマグを吹き飛ばしていたのだ。
「オイラもいるよぉ!!」
「ハッピー!!」
「クソが…てめぇセレーネと逃げた悪魔の…!」
「ぶっ飛ばしたくて戻ってきたんだよ!!やる事ァ全部終わらせてきたからな!!」
「んだと…!」
ナツ達の後ろに立つ悪魔龍となったマルク。その姿にナツはニっと笑い、ドグラマグを睨みつける。ナツの背にはハッピーが、そしてナツの横にはスザクが立つ。
「クソが…!悪魔ごときが…神に…!」
「てめぇは強えだけのドラゴンだろうが!!何が神だ!!」
「うーし、行くぞみんな!!」
ナツは号令をかける。それによりこの場の全員にやる気が満ち溢れる。それに対して、ドグラマグには怒りが溜まっていく。
「オウ!」
「あいさー!」
「はい!!」
「全員…ぶっ殺してやんよ…!!」
初めはディアボロスとの対決だったが…今や死んだ筈のドグラマグを倒す事となったこの戦い。しかし、その決着も今や目の前へと迫っているのであった。