「マルク、ハッピー、シャルル…ウェンディを頼むぞ」
「あいさ!」
「気をつけなさいよ?」
「相手は錬金術……呪法や霊術なんかとは毛色の違う技です」
再び
「あぁ…大体の人員は把握してる」
「特にシグナリオ姉妹…あの二人は厄介だ」
「兎に角…デュークを倒してウェンディ達の魔力を取り戻せれば…」
「こ、今回の…元凶…ビエルネス、倒せる……」
「ついでにローグ達のも取り返しちゃいましょ!」
未だ寝ているクォーリとローグが文句を言っているような気がしたが、気のせいで済ませておき…残ったメンバーはギルドの扉に手をかける。
「一日で2回も同じギルドに乗り込むってのもしまらねぇけど…行くか!おらァ!!デューク!!決着付けに来たぞぉ!!」
そう言って扉を開ける一同。突然の攻撃が飛んでくる事も考えてマルクは身構えるが……扉が開きナツ達が飛び込んだ瞬間に、マルク達の周りにいつの間にかワール・イーヒト『達』が現れていた。
「ッ…ハッピー!シャルル!ウェンディを……!!」
「うああああああ!!!」
「きゃあああああ!!!」
「ダメか━━━!!」
そのまま4人は…地面へと飲み込まれてしまう。残った者は何も無く、マルク達もワール達でさえも初めから存在していなかったのか…と勘違いするほどに、何も残らなかったのであった。
,
「うぐ…ここは…!?っ…拘束、されて…!」
気がつくと、マルクは異様な空間で拘束されていた。何かしらの木の中に埋め込まれているような、そんな拘束のされ方であった。
「━━━ケケケ、無様なれば」
「ッ…!ワール・イーヒト!!」
「君達4人は拘束させてもらったよ、人質としては使えるだろうし…魔導士そのものとしても錬金術の素材として申し分ない」
「ッ…!!デューク…!!」
そして、マルクの前に現れたワールとデューク。拘束されていれば何も出来ないと考えているのか、はたまた今のマルクの現状を鑑みて油断しているのかは分からないが…笑みを浮かべていた。
「抜けられるはずもなく、魔力の抜かれたお前には為す術がない…違うか?」
「……ほんとにもう一体いたなんて…これが人体錬成の力ってこと?」
「半分は正解だ、しかしもう半分は違う」
「……へー、聞かせて欲しいものね」
マルクは話を引き伸ばしつつ、右腕に魔力を貯めていく。越魔の力こそ今は使えないものの、あくまでもそれは越魔くらすの魔力量の話。あれは属性を混ぜたとか悪魔の力を使っているだとかそういうものでは無い。
あの力を使っている最中に体からラクリマが生えるのは、濃すぎるエーテルナノが結晶化しているだけなのだ。つまり、やろうと思えば普段のマルクでも行える……その後魔力かすっからかんになってしまうだろうが、今はそんなことを言っている場合ではないのだ。
「人体錬成で作ったのは事実…しかし、その後は彼自身の力で作られた兵隊なのだ」
「俺が相手したのも…」
「そう…兵隊だったのだ」
「そういう事……」
「……ところで、気づいているか?」
「……何が?」
「肉体どころか…話し方までもが変わってきているぞ?くく、随分とまぁ悠長に放置したもんだ」
「……」
マルクはワールの笑みを浮かべた煽りに、ほんの少しだけ驚いていた。『錬金術を覚えて男に戻る』という一旦の目的の為に動いていたが、今この時点まで明確に覚える事は出来ず放置のような状態となっていた。
そうなるとわかっていたものの、どうしても自分ではそれが認識できないのである。
「何かしているようだが、無駄だ……魔力を取られ体のバランスを崩しているお前では……誰にも勝てない…!」
「そっか……なら、ずっとそう思って━━━━!!」
「「!!!」」
右腕…正確には右手首からラクリマが生えて拘束を解除する。それに驚く2人。しかしデュークが指示を出す前に、既にワールはマルクを始末しようと腕を巨大なレールガンへと変貌させていた。
「遅いッ!!」
「そっちがね!!!」
レールガンが放たれる前に、マルクはアイリーンに貰っていた悪魔の力を込めたラクリマを破壊する。悪魔龍単体では、かつてのように体が悪魔へと変貌するだろう。解決策も未だきちんと掴めていない。だが、糸口はある。
「ぐううううう!!!」
力の圧迫感に犯されながらも、マルクは呪力を振るい放たれたレールガンを暴食の力で無力化していた。だが制御なんてとても出来ている訳では無かった。
「くっ…!?」
「オオオォォォォォォォォオオオオオオ!!!!」
マルクは力の限り叫ぶ。自らを拘束している部分を飲み込み、一気に飛び出す。だがデュークとワールを同時に相手するのは、彼とて骨が折れると内心認識していた。
「抜けられたか…しかし問題は無い、悪魔の力を今は制御できていないようだ」
「ならばマスター……ここは」
「あぁ、任せ━━━」
デュークが2人に背を向け、ウェンディの方へと向かおうとした瞬間…彼のすぐ後ろにナツとマホーグが現れる。
「━━━━ウェンディを!!!」
「離して!!!!」
そして、2人の1撃がデュークに入る……そう思われた瞬間に
「なっ…!?」
「気づいてないとでも思ったか?ナツ・ドラグニル…マホーグ・オロシ…君達が影で狙っている事くらいは分かっていた…だから、君達の相手は『こいつ』に任せよう…紹介しよう…アテナII…モード天影竜だ」
「黒い、アテナ…!?」
「本来であれば魔龍の力も乗せたかった所だが…それはワールに乗せている。氷竜の力もな…火竜の力は…どちらに付けるべきか……影天炎…炎天影……魔氷炎………氷炎魔…?ふむ、ネーミングは色々と考えておくべきだな」
はっきり言えば、今考えることでは無い。だがそれだけ余裕があるという証拠でもあるのだ。だがその余裕が仇になるということも、起こりうるのだ。
「ひとまず…行け!アテナII!そいつの竜の力を奪うのだ!ワール!貴様はもう片方の女とその『抜け殻』の始末だ!」
「了解した、マスター!」
「ぐっ……」
マルクは思い浮かべる。今は自らの体を犯そうとしている力だが、使っていた時のイメージを。そして、初めて新しい力の振るい方を覚えた時のその感覚を。
「マルク!!」
「邪魔だ、女…!」
襲いかかってきたワールとマルクの間に、マホーグが入り込む。そして、彼女はワールの攻撃を受け止めるが…すぐさま錬金術により腹から銃口…ならぬ砲口を開く。その力は、マルクから得た越魔の力を錬金術から錬成したものであった。
「半永久的な力の奔流だ、無様に散るがいい━━━!!」
「ッ!!」
避ければマルクが死ぬ。避けなければ自分が死ぬ。一瞬だけだが、マホーグは迷ってしまった。しかし答えが出せなかった訳では無い。
「え…!?」
「な゙…に゙…!?」
「はー…!はー…!丁度、いい…!新しい悪魔の使い方、って事…!?なら、越魔と同じ…ここで、完成させる……!!」
マルクは苦しさを味わいながらも笑みを浮かべる。体の半身が黒く染まり、黒い液体のようなものが滴りながらその体は震えていた。
「ま、マルク…!!」
「ぐ……ゲケッ、ケッ…!1人、だと思った…か…!?」
貫いたワールその物はその言葉の直後に爆散した。しかし、息付く間もなく周りから大量のワールが現れていく。その数は10や100では済まない…数え切れないほどの大量の人数であった。
「へ、へへっ………ウェンディを、助ける…為に…丁度いい…!」
「う、うん…!単なる、有象無象…なら…!こ、ここ…で…!削り、きる…!」
「はぁはぁ……ナツさん!!!そっちは…!」
「おう!!デュークの野郎と…このアテナは俺に任せろ!!へへっ、よーし━━━」
「さ、て……やるぞ、マホーグ…!」
「う、うん……!!」
「「「燃えてきたぞ……!!!」」」
,
大量に襲いかかってくるワール。あまりにも数が数な為に、あまりにも隙が無さすぎる連続攻撃に晒されていた。だが未来視が出来るマホーグと、新しい力の使い方に目覚めつつあるマルクは耐えることが出来ていた。
「ちっ…貴様…未来視持ち…!」
「わ!私、の…!情報、ない……んだ…!」
「雑魚を調べるほどの余裕は無かったからな」
「はー…!はー…!しゃべくってて…いいのぉ!!?」
まるで大岩の様な黒い塊をワールの一体に投げつけるマルク。あまりにも重かったのか、ぶつかりそのまま地面へと激突して破壊してしまう。
「無駄無駄!!我らは常に生み出される!!貴様の魔力のお陰でな!!」
「ではでは見せてやろう!!」
「もう一つあるのさ!」
「氷竜の力が!!」
そのワール達の連鎖していった言葉の直後に、辺り一面から巨大な氷柱が生えてくる。それは未来視で読めたのか、マホーグがマルクを連れて跳ぶ事で回避ができていた。
「危、なっ…!?」
「飛んだな!跳んだな!!空中であれば!!」
「人間である以上空中で移動するには魔法がいる!それ即ち大きな弱点!」
「既に錬成済みだ!凄まじい兵器を!!」
「ッ…!誘導、されて…!」
周りには大量の小型爆弾のようなものがあった。マホーグが読めたのは氷柱を生やして攻撃する所まで、既に置かれていた物に対しての未来視は…出来ないこともないがその映像が出てる時点でこの場合は手遅れに近い。
「はー…はー…!」
マルクは苦しみつつも頭の中でイメージをしていた。ふと思い浮かんだのは『怒り』のイメージ。力で打たれて、言葉で攻められ…そんな『攻撃』に反発する『怒り』。
そして同時にもう1つイメージをしていた。自分と、マホーグを守る為にはどうするか?簡単だ、包みこめばいい…大きな布のような何かで。明確に反発するイメージを植え付けた、包み込む布。
「…ちょっと、ごめん…!」
「ぴゃああああああ!!!!?」
体を動かし、マホーグを抱きしめるマルク。そして、その上からイメージした布を自分たちに巻き付けていき…その直後に、周りの爆弾は一斉に爆発してとてつもない破壊力を生み出していた。
「……今、錬金術を使ったな貴様…!」
「あ、ありが…とう、マルク…!」
「言いっ子なし……」
マホーグは、マルクを抱き抱えながら着地する。そして今のマルクの手元には先ほどまで2人を包んでいたと思われる黒い布のようなものがあった。
「貴様、錬金術を…!」
「2度も、同じこと言うなんて…痴呆症かな?」
イメージするは銃。小さくて懐に収めやすい、ハンドガンを思い浮かべる。細かい仕様などは今は後回し。必要なのは『放つ者』というイメージだ。そのイメージで……布は、銃の形へと変貌する。
「……返すぜ、1部」
「は━━━」
1発。マルクと喋っていたワールの頬を掠めて、後ろにいたワール軍団がいきなり爆散する。その衝撃はまるで
「10……」
「ひゃ、100は…削れてる、よ」
「…衝撃吸収、それに解放…それが新しい力か?」
「急かさないの…多分『1部』」
拳銃は小さな球体となり、マルクはそれを後ろへと放る。地面に落下……せずにマルクのすぐ背後の空中でピタリと止まる。その状態に、ワール達はどうするか考え始める。
「はぁ…はぁ…来ない、なら…俺達から━━━」
イメージするは暴食、そして悪食。目に付いたもの、触れるもの…その全てを何でも食らい糧にする。それ以上のイメージは暴食にはいらない。
イメージするは鞭。長い長い鞭。鞭は長ければ長いほど奮った時の速度は先端であればあるほど速度を増す。味方が今傍にいるマホーグ1人だけならば、存分に長くできる。
「何だ、ロープ…!?」
「━━━攻めさせてもらおっか」
そう言って、マルクは振るえる限りの強い力で鞭を振るう。マルクの動きに合わせて鞭も動き始め…その速度は先端に伝われば伝わる程に、加速度的に増していく。そうして大きく高いしなる音が、一つだけ鳴り響く。
「━━━━ぐぁ…!?」
「ぼーっと…突っ立ってたら駄目だよ」
鞭は届く範囲のワール達を捉えていた。捉えているが故に、触れた瞬間に触れた箇所のごく狭い範囲だけを食らい…まるで鋭利な刃で斬り飛ばされたかのように周りにワール達を転がしていく。
「な、舐めすぎ…だよっ!!」
「ぐ、ぐぐ…!?計算外、予想外埒外…!悪魔の力程度でここまで出来るはずがない!!」
「残念……ちょっとだけ、触ってたんだよ…悪魔のお話についてね……」
「ならば!!その鞭も先程の布切れでさえも吹き飛ばせるほどに大きな力で!!!」
壊れたワール達を、生き残ったワール達があるものへと錬成していく。それは巨大な巨大な……魔導砲であった。マルクやマホーグには知る由もないが、かつて存在していたギルド『
「……でっか」
「あ、あれは…どうするの…!?」
「貴様の魔力の殆どをエネルギーへと変換させ!この魔導砲は放たれる!!貰った魔力の方は無くなってしまい数は増やせなくなるが!!些細な事!少し待てばこの力の性質のおかげで魔力は回復する!!」
「あぁ、知ってる…俺の力だからさ」
まるで底が見えない大穴と勘違いしてしまうほどの砲口。マルクはかつての評議会に会ったエーテリオンや、まだ見ぬ兵器達もこのような物だろうかと他人事のように考える。
「先程の力は貴様の暴食に酷似している!!だが我らの1部、触れた箇所しか喰らえないようだな!!ならばこれは防げまい!!」
「うん、いつもの暴食の力なら防げてた……悪魔龍は、今下手に使えない……」
「し、しかも!!撃たれる前、に攻めようとしても…!」
「然り然り!!無様に踊れ!焦るがいい!我らが邪魔をし、手の空いた我らが貴様らを撃つ!!」
エネルギーをチャージしている間も、ワール達の1部はマルク達を攻め続ける。未来視の出来るマホーグが、倒す事は出来なくとも殴り飛ばしたりしているのでマルクに攻撃の手が伸びることは無いが……ジリ貧なのは間違いがない。
「……3つ目」
イメージするは傲慢。驕り、慢心し、そして不遜であれ。自らの力は振るい、相手の力は存在することさえ許さない。己が己であることを許す為に、相手を根拠もなく否定し拒否し…存在を許してはならない。
イメージするは盾。剛健、堅牢…その硬さは一切の攻めを許さず、一切の受けを許さない。硬い防御とはそれ即ち相手を疲弊させる攻めと考えろ。
「…そう言えば、エルザさんが盾を持ってたなぁ…確か…金剛の盾だったか…今度見せてもらお…」
「何をゴチャゴチャと!!
やろうと思えば、魔法を燃やすことが出来るナツでさえこれの相手をするのは一苦労だろう。色々な武具や防具を持っているエルザでさえ、これを防ぐのは至難の業だろう。傲慢の悪魔龍であっても、普段は鎧である。つまり防げたとしても、今回の魔導砲の様に大きすぎるものであれば凄まじく周りに飛び散る可能性もあっただろう。下手をしたら反動でマルクが吹き飛んでダメージを負っていたかもしれない。
「━━━傲慢、
━━━マルクの傲慢の盾は、触れた箇所を消し去り…はみ出た部分は器用に周りに受け流していた。受け流された部分は…周りのワール達を大量に消し飛ばしていた。
「ッ………!?」
「凄……」
「ば、馬鹿な……」
「……おー、上手く出来たもんだ。大きさよりも角度気にして作った甲斐があった。拡散と受け流し…うん、楽ちん楽ちん」
そう言いながら、マルクは1人のワールに狙いを定める。減らしたワール達の中に、濃い魔力の匂いを感じとった個体がいた。それをマルクは越魔の力を手にしているワールだと考えていた。
「…うん、段々楽になってきたし…力の使い方も分かってきた」
「馬鹿な…馬鹿な…!まさか、この土壇場で完成させたのか…!?錬金術を…!?」
「そうなるかな……」
先程までの息苦しさは無い。体を覆いつつあった黒い部分も、今となっては腕だけに留まっていた。代わりに、背中には3つの黒い球体がマルクを追うように浮いていた。
「……馬鹿な…!呪力を、『何か』に錬成させて…武器を作る…!?」
「わかんないでしょ、その『何か』ってのが……だからそっちはこの力を
「ぐ、ぐぐ……」
「名付けるのなら…そう━━━」
そう言いながら、マルクは自らの顔に黒くなった手を当てる。そしてその黒い部分が腕から離れるように弾け…マルクの体を包む黒い炎のような姿になる。
「━━━
「……あれ、今…声…」
「ぐ、ぐぐ…!?」
「さて…よーくもやってくれやがったなぁ」
炎の中から聞こえる『低い声』。それは、紛れもなく男の声でありマホーグに取っては聞きなれた言葉の一つでもある。そう、つまりは━━━
「もう二度とテメェの肉体錬成に付き合うことはねぇ!!このままぶちのめしてやる!!溜まりに溜まったフラストレーション、ここで解消してやる!!ついでにデュークとビエルネスもしばく!!!もう二度と日の目を見ることはねぇと思えやァ!!!」
男に戻ったと同時に、マルクはワールに対して怒りをあらわにした。それとは反対に、ワールは冷や汗を流しながら苦境に立ちつつあることを感じ取るのであった。
錬金術は『AをBにする』為に自分か相手の頭の中を作用する(例:サイが知らない筈のジュビアにグレイが変貌させられた事と、本来存在しないはずの拡散しない煙をゲンナイが錬成したことを踏まえ)という解釈なので
『呪力を錬成して作られた『何かが』分からないと再錬成の対象にできない』という感じです、形だけ変えてる状態なので呪力では無い何かを再錬成する為には「何か」を理解する必要があります
尚マルク自身『呪力を錬金術で取り出したらこうなった』くらいの認識なので、詳しい事ってなると彼もよくわかってないです。なので再錬成はマルク以外実質不可能です。
因みに黒くてドロっとした不快感のある何か、という認識です