これは大魔闘演武終了後のある日の話。
実は統合前のAチームBチーム…というかBチームとマスターが一つ盟約を交わしていた。要するに上になった方を勝利チームとし、勝利チームは負けたチームに一日限定でなんでも言うことを聞かせられるというものであった。たが、結果としてチームは統合で有耶無耶になってしまっていたのだが……この度、勝敗をジャンケンで決めることになった。
「勝てよエルザー!!」
「やっちまいなラクサスー!!」
エキシビジョンマッチでBチームに参加したマルクは、当然ウェンディ狙い。勝てばの話だが。そしてウェンディはウェンディでマルクを狙っていた。というか下手にほかのメンバーに手を出すのもはばかれるからだ。
そして、運命のジャンケン。
「「じゃーんけーん!!!」」
Aチーム代表エルザ、チョキ。Bチーム代表ラクサス、グー。つまるところ、勝ったのはBチーム。つまるところ、Aチームはなんでも言うことを聞く立場となってしまったのであった。
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「━━━━っていう体で行くぞ」
マルクとウェンディがこの場に来る数刻前、2人以外のメンバーは集結していた。ガジルが発案したこの作戦、全員が呆れた目をしてガジルを見ていた。
「……ガジル、てめぇその作戦…」
「な…ンだよ、ラクサス」
「大魔闘演武のあれやこれやを建前にするのはいい………いいが、茶番だとバレねぇようにしてぇ……つまり、だ」
ラクサスはAチームの面々を見ながら、ガジルの立てた作戦に異議を唱えていく。だが、要するに『バレなければいい』と言うだけの話なので……
「マルクとウェンディのサポートをするついでに、本当にきっちり決着をつけてやろうじゃねぇか」
「……そうか、ラクサス…という事は」
エルザとラクサスの視線が交差し合う。AチームとBチーム、この際どちらが勝者かを決めるということになったのであった。その際に…マルクとウェンディの関係性を進めていく…そういう形に、落ち着いたのであった。
「…………こういうのって本人達で進めないとダメだと思うんだけど」
「ハッピー、言っちゃダメよ……なんか皆乗り気だし」
ハッピーとルーシィの言葉は届かない。というか、今はもうノリに任せておいた方がいいという判断で…この場でマルクとウェンディを焚き付けてやろう作戦が始まったのであった。
「……で?どうすんだ?勝ったから告白させんのか?」
「馬鹿かよナツ、それができる関係ならもう付き合ってんだろあの2人」
「んだと?ならてめぇは」
「話が進まんくなる、あとにしろ……で?実際どうする気だ?」
エルザからの一括で黙るグレイとナツ。エルザは改めて向き直り、作戦の概要をガジルに投げる。しかし、当の本人のガジルはキョトンとした顔をしていた。
「あ?俺らが勝ってもお前らが勝ってもどっちも相手を選ぶだろ?んで、無難に「一緒にお出かけ」つってそれで終わると思うぜ」
「雑だねぇ……いやでも……」
カナが呆れながら酒を煽るが、よく考えたら確かにそうだと全員同じことを思い始める。今この場にいるメンバーは、『こいつに好きに命令してやるぜ』くらいの気持ちだが…マルクとウェンディには特にそういうのはないだろうと思っていた。
「あら、分からないわよ?」
「えっと…つまり、どっちかが結構凄い罰ゲームをしてくるかもしれない…という事でしょうか?流石に……」
「グレイにゾッコンなジュビアみたいに、マルクはウェンディにぞっこんだけど、体裁さえ整ってしまったら…オオカミになっちゃうかも…がおーって感じで」
野獣の様なポーズを取って冗談を言うミラジェーン。それを想像したのか、驚いた顔になるジュビアだったが…ないないと他のメンバーは首を横に振っていた。
「……だが、単にそれだけじゃあいつもの関係性と変わらねぇな……おいグレイ、こん中でお前が1番マシな格好…いや待て…ルーシィ、ロキを出せ」
「へ?い、いいけど……開け!獅子宮の扉、ロキ!!」
「話は聞いていたよ…ウェンディが惚れ直すような格好に仕立ててくればいいんだね?」
「話がはええな、そういうこった」
ロキを開門させ召喚するルーシィ、そしてロキはいつの間に聞いていたのか即座に内容を理解する。そしてラクサスはマルクのことをロキに任せることにした。
「……さて、次は…AチームとBチームの女共!ウェンディの服装見繕ってやれ!!」
「命令形!!?」
ラクサスがテキパキと指示を出していく。当の本人達の与り知らぬところで、このようなことが起こっているとは夢にも思わなかっただろう。しかし意外だと全員がふと思ったのは、ラクサスが意外と乗り気なことであった。
「しかし…意外だなぁラクサス、お前こういうの乗らねぇタイプだと思ってたぜ。意外と茶々入れるの好きなのか?」
「あぁ?見ててもどかしくなるから、あたらめてくっつけようってだけだ」
「そんなお節介なタマかよオメー…」
ナツがジト目でラクサスを見るが、その当の本人であるラクサスは上を見上げながら…妙に遠い目をしていた。それは、単なる野次馬根性ではないのでは?と皆に思わせていた。
「………あいつ、ウェンディの為なら割と無茶する方だろ…身を犠牲にしてでもな」
「……まぁ、そういうとこはあるかも?
「ウェンディが強くなってる、って言うのは理解してるみたいだけどな。それ以上に守らねぇと…ってのは感じる」
グレイとルーシィは思い当たる所を述べる。マルクならやりかねない、というのは共通認識のようだ。
「だからよ、せめてあいつに『死ぬ気でやるが死ぬ気は無いし殺される気もない』って思って貰えるようにしてぇわけだ」
「なるほど、要するにくっつけた上で『死んだらウェンディ泣くぞ』作戦でいくわけか」
「そーゆーこった、グレイ」
ふっ、と微笑むラクサス。その為にもこの作戦は成功させねばならないと言ったことを付け加え、改めて作戦を説明する。
「つまり、だ!マルクとウェンディにデートさせて、結構強めに意識させんぞテメーら!!」
「「「おー!!!」」」
「……」
「ハッピー」
「うん、オイラあんまり余計なこと言わないようにするよ」
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そして改めて、Aチームが負けた所からである。
「………」
今、マルクの中でウェンディ以外を選ぶ選択肢はなかった。
と言うかなにかさせたい訳でもない。そして逆に他のBチームのメンバーにウェンディを取られるのは、ないとは思うが何をさせるか分からないメンツなので……ウェンディ以外を選ぶ選択肢は、本当に初めから存在していなかった。
「俺はウェンディです……まぁ、この後一緒にお出かけするのが罰って事で」
「ほっ……」
全員が「来た」と判断した。すかさずカナとジュビアが、マルクにフォローを入れていく。
「んじゃあお出かけするんならそれなりの格好しないといけないし、させないとねぇ」
「えっ」
「さぁさぁ!ウェンディの準備をさせないとですから!」
「へっ?へぇっ…!?」
マルクが困惑している間に、ウェンディも同じく困惑しながら連れ去られていく。一体何が起こったのか分からず困惑していたマルクだったが、その後ろにはロキが立っていた。
「じゃあマルク、着替えようか」
「え、いやお出かけなんだからいつもの格好でも…」
「女の子とお出かけなら、恥ずかしくない格好しないと!ウェンディに恥ずかしい思いはさせたくないだろう?」
「はっ…!!」
突如としてマルクの脳内に浮かぶウェンディの顔。『マルク…その格好恥ずかしいよ……』と言いながら離れていく幻覚を一瞬にして見てしまったマルクは、そう言われないためにそのままロキについて行くのであった。
「━━━━着いてきたはいいですけど、これ高くないですか?」
「高い服はいいものだよ…まぁ、装飾は派手じゃない方がいいね君の場合。上が白で下が黒、ダボッとするよりもシュッとさせた方が綺麗に見えるから……後は黒色のトレンチコートかな」
「……いや、俺払えない…」
「大丈夫、僕の奢りで払ってあげるから!!」
『後で埋め合わせをする』という事で、その奢りを受け入れるマルク。服の金額は払えないわけでないのだが、それでも結構なお値段がするレベルであった。
そして、マルクとロキが服でワチャワチャしている同時刻……女性陣も同じようにウェンディの服を選び……というよりもウェンディを着せ替え人形にしていた。
「うーん…これとかどうだい」
「これなんてどうです!?」
「あら、こういうのもいいわよ」
「ねぇねぇこういうのは!?」
「あ、あの皆さんどうしてそんな乗り気……」
最初はまだマシな服だったが、次第にナース服、チャイナ服バニー服、スク水、胸が出たレザー服と過激になっていく。流石に最後のはウェンディは着るのは拒否したが。
「じゃあ、もう少し落ち着かせるか…」
「もう少しじゃなくてまともな服を着せてください…」
「何言ってんだ!!こう、ちょーっと過激な服を着てマルクをとりあえずベッドあるとこで押し倒しゃあ一気にイチコロなんだから!!」
「カナ、流石にそこまでは行き過ぎな気がするわ……」
「ジュビアもそう思います……恋愛関係のお話とはいえそこまで早いと何だか色々問題な気が……」
「ウブだねぇ………まぁそもそもマルクもそこまで馬鹿じゃないだろうし、あんまり過激な服着せるとあたしが怒られそうだねぇ…」
カナの冗談に若干頬を赤らめるルーシィとジュビア。酒瓶を煽りながら、カナはからかうように笑うが…『そういうこと』の話はまだマルクとウェンディには早いのである。
「うーん、そうだねぇ…ただいつもの服ってのも味気ないから……あ、そうだ…これなんてどうだい」
カナが持ってきたのは、袖が長いワンピースである。スカート部分は緑、それ以外の部分は白となっている。そして、上から薄い青色のレースが取り付けられていた。
「よし、これにしなウェンディ」
「は、はい!でも、お金…」
「いいのいいの!あたし達で払うから!ね!カナ!ジュビア!ミラさん!」
「……あ、ごめん酒買ったから金ないや今」
「ジュビアはグレイ様貯金しか残っていなくて…」
「なら私の奢りね、ルーシィは家賃の支払いもあるだろうし」
「え、いいんですか!?」
女性陣………ではなく、ミラジェーンの奢りとなってしまったがウェンディの服も購入することが出来た。
そして、2人の衣装が決まり……お出かけという名のギルド総出でのデートが始まるのであった。
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「…あ!マルクおまたせ!」
「お…ウェンディ…いや、大丈夫待ってないよ」
新衣装に身を包み、先に待ち合わせ場所に待っていたマルク。そして、ウェンディはそこに駆け寄り……改めてまじまじとマルクの格好を見つめる。
「………変か?」
「ううん!よく似合ってる!かっこいいよ、マルク……!」
「ふふ、ありがとうウェンディ…ウェンディの格好も可愛くてよく似合ってるよ」
お互いに格好を褒めるマルクとウェンディ。いつも通りの2人……の様に見えて、マルクの方は凄まじく焦っていた。否、ウェンディの可愛さに度肝を抜かれていた。それでもそれを態度に出さないようにしたのは、彼なりの努力だった。
「それにしても……」
「ん?どうした?」
「……マルク、大きくなったね」
「……そう、かな」
ウェンディは改めてマルクの全身をじっと見つめていた。いつの間にか身長は伸び、ウェンディの頭一つ分はゆうに超えており…それよりも少し高いほどの身長となっていた。
「あー、でも…確かに…出会った頃はナツさん達もっと大きかった気がする」
「ふふ、だよね」
「成長期かな」
「多分?」
「ふふ…とりあえず、行こっか。美味しいケーキのある喫茶店寄ってから…色んなお店、回っていこう」
「うんっ!」
「……というわけで、お手を拝借」
「あ……」
多少の会話を挟み、そして手を差し出すマルク。格好を改めているためか、少し顔を赤くしたウェンディが恐る恐るとその手を取る。平然としている風に見えるマルクだが━━━━
「……おい、ウォーレン…マルクに繋げられそうか?」
『おうグレイ繋げてもいいぞ、普段あいつの魔力に邪魔されて聞けないけど…それ突破するくらいやかましくなってる』
「ぶはっ!そんなうるせぇことになってんのかマルク…」
「ちょっとナツ…!大きな声出さないでよ…!マルクとウェンディどっちも耳いいんだから…!!……でもウォーレン、あたしにも繋げて」
━━━2人のいる位置から、それなりに離れた場所でギルドの面々が覗いていた。普段ならマルクやウェンディが気づきそうだが、今は目の前の相手に集中しているのだ。そして、興味本位でマルクの心の声を聞こうとしていた。
『うわああああああああ!!!!!!ウェンディの手!手ぇ!!!なんか、なんかすっごい可愛い!!いやいつも可愛いけど今日ほんと100000割増くらいで可愛いんだけどヤバいって!!大丈夫か!?手汗とか着いてないか!?服にタグが付いたままとかになってないか!?ロキさんに再三確認してもらったけどそんなダサいことになってないよな!?あぁでもほんとに今日のウェンディの格好可愛すぎる!!!大丈夫かなぁ!!?俺ほんとに今平然としてられるかなぁ!!!このまま喫茶店とか行ってケーキの味とか分かるかなぁ!!!俺ウェンディの可愛さで頭おかしくなっちゃってもわかるかなぁ!!というか格好つけとか思われてないかな!?もしウェンディが赤くなってる理由が俺の態度が恥ずかしいからとかだったら俺腹切る自信しかないって!!ウェンディはいい子だから俺が恥ずかしいことしてても多分我慢して言ってくれないとかありそうだから怖いんだよォ!!とりあえずいつも通り!いつも通りでいたいんだ俺は!!頼む俺の表情筋と思考回路頑張ってくれ!!いつも通りの俺を出してくれ!!そしてウェンディが満足するデー……じゃない!!お出かけを完遂させなきゃいけない!!とりあえずありがとうございます!!女性の皆々様ほんとにありがとうございます!!後で埋め合わせします!!イエアアアアア!!!』
「ぶっ…!くくっ…うるせぇ…!まじでうるせぇ…!!」
「ふっ…ふふっ……ごめ、ごめんマルク……!あの、真面目な顔して…心の声…こうなってるの…笑っちゃ、いけないんだろうけど…!」
普段見ないウェンディ、そして格好を変えたことによる心境の変化。それはマルクに思考の暴走をさせていた。普段おそらく言わないであろう言葉遣い…そしてテンションの高い文の羅列は、ナツとルーシィを笑わせてしまっていた。
「と、とりあえず俺らは…見守っとくか…!」
「そ、そうね…!」
野次馬根性を働かせているギルドメンバー。ナツとルーシィだけでなく、結果が気になったメンバー全員が今ウォーレンを通じて繋がっていた、繋がっていたのだが━━━━
「…………」
『ん、あれ』
「んぁ?どうしたウォーレン」
『さっきまで聞こえてたマルクの声が聞こえなくなった』
「元々繋がんねぇだろ、あいつ」
『さっきまで聞こえるレベルで荒ぶってたのに、急に聞こえなく……おいもしかして気づいたんじゃねぇのか』
その言葉にナツとルーシィはマルク達のいた方向を見る。よく見れば、マルクは周囲を警戒するかのようにキョロキョロと見回していた。
「……マルク?どうしたの?」
「………ウェンディ、特に何も匂わないよな?」
「へ?う、うん…空気からは…何も匂わないよ?」
こと、空気に関してはウェンディの方が上である。そのウェンディが感じない…という事にマルクは思考をめぐらす。そして、意を決したかのように喉を鳴らす。
「マル……ふぇえああああ!?」
「我、慢……してくれェ…!」
さすがに隠しきれなかったのか、声をうわずらせるマルク。何をしたのかと言われれば…ウェンディをお姫様抱っこしていた。そして、足にありったけ魔力を貯めて……一気に、斜めに飛び上がった。
「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ━━━━━━━━」
「お、おい!どっか飛んでったぞ!?」
『マルクが気づいたんだ!!あいつ周りの魔力感知は得意だからな!!』
そして、結果が気になる者達は追いかけていく。そして、マルクはウェンディをお姫様抱っこしたまま、マグノリアから離れたところで着地する。
「っと…!」
「ま、マルク…!どうしたの…!?」
「んー…?いや、みんなに見られてるっぽかったから……」
「え!?」
「………」
ふと、何かを思いついたのかウェンディの顔をじっと見たあとに少し笑みを浮かべるマルク。そんな様子のマルクに、ウェンディは首を傾げるばかりであった。
「このまま数日離れちまうか」
「え!?」
「折角だしクロッカスに行こう」
「えぇ!?」
「ってわけでしゅっぱーつ!!」
実に楽しそうに、ウェンディをお姫様抱っこしたまま爆速で走り始めるマルク。新しい格好による心境の変化が、彼が滅多に取らないであろう選択肢を取らせていた。
そして、ウェンディにも…心境の変化を与えていた。
「……ふふっ」
マルクの胸元に、顔を預ける。マルクは彼女と一緒にいられるのが楽しいためか…そのことに気づかない。だが、それでも2人は幸せそうであった。
すっかり
.
「マグノリアから直で来たんすか!?」
「おう」
「その足でクロッカスに直で…!?」
「おう」
「それで逢い引きで御座いますか!?マルク様!!ウェンディ様!!」
「イカれてるぜ!!控えめに言ってその行動!!!」
その後、何となく
因みにその後戻った際どこまでやったかなんかを聞かれたのも…また別の話である。
ちなみにこの後ちゃんと他メンバーは罰ゲーム受けてます。