ゲートで男湯と女湯を繋いでいたセレーネ。湯船越しに声だけを聞こえる様にしていたそのゲートを使い、ナツは女湯へと到達していた。そのまま男湯に強制送還されたのだが、その際にディアボロス女性陣からボコボコにされて帰ってきていた。
「おー……いてぇ…ほんとに男湯と女湯が繋がってるか確かめただけなのによォ…」
「自業自得だね」
「ナツさんウェンディの体見てきました?」
圧を出すマルク。ナツは目を合わせないまま冷や汗をかいて体を震わせていた。余計な好奇心により、虎の尾を踏んでしまっているのだ。つまり、誤魔化すしかない。
「ミテナイミテナイ」
「そうですか、後で
「見てたよ」
「ナツさん後でディアボロスギルド入口まで」
誤魔化すことは出来なかった。仲が悪いにも関わらず一瞬で状況把握を終わらせてしまったので、またナツは余計に疲労を負うことが確定してしまっていた。
「自業自得だよ」
「は、ハッピー…助けてくれ……グレイでもラクサスでもこの際ガジルでもいいから……」
この場にいるマルクを除く
「いや普通にテメェが悪いだろクソ炎」
「一児の父親に女湯入ったバカ庇わせんな」
「ちょっと前の荒れてた時の俺ですらンなことしなかったぞ」
「なあッ……!?じゃ、じゃあ
余計な疲労を負いたくないのか、今度はディアボロス男性陣に助けを求めるナツ。だが、同様に目が呆れてしまっていた。
「マルク・スーリアと争うのは勘弁だね」
「右に同じだ」
「そもそも覗きは罪だろう」
「スザク!!!」
最後の頼みでスザクに助けを求めるナツ。だが、スザクはムッとした表情でナツの前に立つ。
「拒否。恋仲関係でもない異性の体を見るというのは宜しくないこと……そもそもナツ、ゲートで繋がった先を見てみたいというのは分からないでもないがそのまま女湯に突入するのは宜しくないこと。誰かがいたから…ではなく節操というものがある…故に━━━」
説教タイムへと入ったスザク。そんなナツを横目に見ながら、ふとエレフセリアが視界に入るマルク。当の本人のエレフセリアはじっと湯船を見ていた……のだが、その鼻の下が伸びた表情に嫌な予感を覚えていた。
「ワ、ワシも確かめてみるかの〜!!」
「聞こえてんぞおっさん……」
流石に窘めるグレイ。しかし、女湯の方からとすぐ傍からエレフセリアに向けて殺気が放たれる。
『ほう…?こちらへ来るのか?エレフセリア』
「行くんなら…ちょっと話聞かせてもらおうかァ?」
女湯からはセレーネの本気の殺気が、すぐ傍……つまり男湯から放たれている殺気は、悪魔龍の力を解放したマルクからであった。何なら眼前で悪魔龍化している。
「………………ス…スミマセン、でした……」
『……そもそもそこにマルク・スーリアがいるだろう』
現在錬金術によって性別を変えられたマルク。彼の尊厳の問題と、見知った女性陣達も男に見られるのは嫌だとマルク自身が思ったので男湯にいた。
「もしかして今俺売られました?」
「売られたな」
「いや男と分かってるし流石に……」
「あのジジイ滅竜していいですか?」
「やめとけ」
下品な目線を向けられるのも嫌だが、エレフセリアの態度にどこか腹が立ったマルク。流石に暴れられると後が面倒なので、グレイは止めていた。
『しかし、そっちにいては下卑た男達の目線に晒されてしまうぞ?』
「っ!!」
突如風呂から跳び跳ねるように勢いよく出て、悪魔龍の傲慢の力を纏うマルク。今彼は、とてつもなく嫌な予感がしてしまったのだ。無論、セレーネの言うことを信じて男性陣の目線が……という訳では無い。
「い、今お前ゲート開いたな!?」
『バレたか……ふふっ』
「何してんだマルクの奴」
「セレーネがゲートでイタズラしようとしてたみたいだよ」
よく見れば先程までマルクがいた場所にはゲートが開いていた。どうやら、足元にゲートを開くことで女湯に送るイタズラをしようとしてたようだ。
『因みに魔法無効のその鎧もゲートそのものを無効化するのは難しいぞ』
「そもそもたった今エレフセリアを咎めてナツさんもボコボコにされた所で、俺がいってもボコボコされるだろ!!」
『当たり前じゃ』
『わた、私は…いいよ…?』
『さ、さすがに勘弁!!』
『私も、流石に見られるのは……!』
『男だと分かってたら普通に嫌だと思うのだけど……』
「ほら!否!!賛否両論じゃない!否だけ!!」
女湯側の声を聞いて逆に安心するマルク。実際問題マホーグとエルザ以外は否定側の者達ばかりであり、きちんと貞操観念がある事にマルクは安心していたのだ。
『ナツやエレフセリアは兎も角、赤くなって慌てるようなウブさなのが悪い。イタズラしたくなる』
「何なんだお前ーッッッ!!!」
「だいぶ気に入られてるよね」
「ペットなのか玩具なのかどっちなんだろうな」
「というか男湯女湯分けて入る節操があんのになんで入れようとすんだよ!!」
『いやそもそも一緒に』
「言うなーッ!!!」
マルクの声がセレーネの声をかき消すほどに響く。セレーネの言葉に被せて喋る。事情を知ってるのはセレーネとナツ、そしてグレイ。必死に叫ぶマルクをナツとグレイは同情の目で見ていた。
『まぁいい、もう少しからかう準備は出来た』
「え」
『足元を見よ』
「あっ」
マルクの足元は穴が空いていた。それはゲートであり、よく見れば真下には女湯が見えていた。そして傲慢では空を飛べないので落下……したが、地面に置いた手で無理矢理耐えていた。当たる事で魔法を無効化する鎧だが、ゲートそのものではなく両腕を伸ばした際に届く地面にギリギリで腕が届いているためにゲートが無効化されずに済んでいた。
「うおおおおおおおおお!!!!」
「すげぇ、気合いで耐えてる」
「必死だね」
「ハッピー助けて!!!!」
「えぇ〜どうしようかな〜」
「3日間魚奢るから!!!いっぱい食え!!」
「そこまで言われたら仕方ないよね!!」
ハッピーがゲートに捕まってるマルクの背中を掴もうとして……その瞬間
「ごめんマルク、駄目だった」
「ウワーッッッッ!!!!」
ハッピーは一旦手を離し、空中へと投げ出されるが……そのままエーラを広げて一同の元へと戻ってくる。そう、ゲートの下は女湯なので戻ってこようと思えば戻ってこられるのだ。
「そろそろ諦めたらどうなのー?」
「俺は!!諦めない!!!絶対!!!」
マルクの足元からセレーネの声が聞こえてくる。そしてマルクはまるで戦闘時のような、覚悟の決まった声で返事をしていた。このまま耐え続けても腕の力が弱る一方なのだが、テンパっているマルクにはそこまで思考ができていなかった。
「まぁそもそも手の届く範囲にゲート開けばいいのだけど」
「えっ」
踏ん張ってるマルクの足元にゲートが開く。そしてそこからセレーネの腕が伸びてきて、マルクの足を掴んでいた。
「よいしょっ」
「へっ」
そしてそのまま勢いよく引っ張られ、マルクは女湯に突入していた。あまりの事に思考停止してしまっているのと、手際が良すぎて早いせいで抵抗ができていなかった。
「えい」
「嘘」
そしてそのまま傲慢の鎧を素手で叩き割られていた。神と呼ばれるドラゴンの魔力を込めた一撃は、傲慢の鎧のキャパを超えてしまっていたのだ。
「ほれ、エルザ。これは貸していたのだろう?」
「む、マルクに貸していたのだが」
「今剥いだ」
「手際が良すぎるし気づいたら女湯突っ込んでるし鎧は破壊されてるし服も剥ぎ取られたけどけど絶対に目を開くことは無いぞ!!!!!助けて誰か!!!俺はほんとに男なんです!なんでこんな所いるんですか助けて神の竜に精神的いじめだよ!!!」
そして最後の砦の俊敏の鎧まではぎ取られた。目を瞑っているが既にマルクはパニックを起こしていた。最早逃げることさえ頭から無くなってしまっていた。逃げたところで、セレーネに無理やり連れ戻されるのは目に見えているのだが。
「ま、マルク…おムネ…!!」
「まぁ、かけられた錬金術の話から推測するに…『女として成長してたらこうなった』という感じだろう。だから女性としてのマルク・スーリアという人物は低身長だが年相応に…という事じゃないかしら」
「セレーネ様…あの、流石にイタズラが過ぎるのでは……」
「風呂に入っとるのに顔が青くなったり赤くなったりじゃからな、他人事なら面白かったかもしれんが……」
「まぁ流石に出してあげるとしましょうか、楽しんだし」
「うむ、そうだな…後でマルクに謝る方がいいだろう…さて、マルクは私の手を掴むといい」
そう言って、マルクの手を掴むエルザ。必死に目を瞑るマルクだったが、手を引かれてゆっくりと歩き始める。若干マルクが同情されて誰も瞬時に気づけなかったが……エルザはこのままマルクを男湯まで連れていくつもりなのである。
「「「ちょっと待てー!!!!」」」
ルーシィ、キリア、ミサキの3人が止めようと迫る。だが、ここは水分の多い風呂場…警戒もせずに安易に走ってしまえば、予期せぬ事が起こってしまう。
「きゃう!」
「きゃっ!」
「ちょっと!!」
まずルーシィが浴槽内でバランスを崩し転ぶ。その際の水飛沫が若干ウェンディとシャルルにかかってしまい、2人が目を瞑ってしまう。そして、転んだルーシィは近くにいたミサキの足を掴んでしまう。
「ちょっ!?危なっ!!」
「ぬおおおおおおお!!!?」
「何っ!?」
「何だァァァァァァアアアア!!?」
掴まれたミサキも転びそうになるが、咄嗟に魔法を発動させて転んて地面にぶつからない様に空間を操作する。それで助かりはしたのだが、問題は近くにいたキリアであった。魔法に巻き込まれたキリアは、咄嗟に操作された遠慮のないミサキの魔法により高く飛び上がってしまう。その際にマルクの手を掴んでおり、マルクごと吹っ飛んでしまう。
「落ちたら危ないわね…」
流石に落ちるのはまずいと判断したのか、セレーネがゲートを開き2人を湯船の中へと移す……のだがここで一つ問題が起こる。そして、開いた後にセレーネも気がついた。
「……落下速度はそのままね」
「うわあああああああ!!」
「ぬあああああ!!」
「きゃあっ!?」
落下速度そのままに飛び込むような形になってしまったキリアとマルク。その勢いにキリアは手を離してしまい、2人はそれぞれ別方向へと吹っ飛んだ。そして、マルクの飛んで言った先にはウェンディがおり━━━━
「いたた……あれ、なんかこの感覚……」
「は、わ…う…!?」
「………………………━━━━━━━」
マルクはまず、自分が触れている場所が地面では無いことに気がついた。なぜなら妙に柔らかかったからだ。土か?否、土とはまた違う柔らかさである。
なら他に柔らかいものと言えば?近い感覚でいえば自分の体を触ってる時が近いだろう。だが、あれよりもさらに柔らかい。そしてここでマルクは今自分がいる場所を考えた直後に…嗅ぎなれた匂いがほんとにすぐそばに居ることに気がついた。そう、
「きゃあああああああああああああああああああ!!!!!」
そして、直後にパニックになったウェンディの悲鳴と大きなビンタの音が鳴り響きながら……この1件は幕を閉じたのであった。
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「…非常に申し訳ないと思っている」
「………これから学べばいいと思うけど、一先ず人間相手にする時には嫌だと言ってることはやらないようにしてくれ……」
「……そういう事なんだな、ミサキ」
「はい、そうです……」
翌日の朝、流石に申し訳なさそうな顔をしたセレーネに謝られたマルクはセレーネに冷静に諭すのであった。そして、セレーネも人間と相対する時の対応をまた1つ学べたのであった。
嫌がることは…辞めようね!