マホーグが攫われた。100年クエストの最中ではあるが、ナツ達はマホーグを助ける為に街から出て直ぐにある森へと突入した。攫ったと思われる男の魔力の気配を追って、慎重に…慎重に追いかけていく。
「…ルーシィさん、このまま進んだらどこに着きますか?」
「森を出ても…暫くは何も無いわ。この森自体結構深い森だし……」
「それより皆、はぐれないようにな。霧が少しづつ出てきているからな」
ルーシィとエルザが地図を確認していき…エルザの注意を元に、進んでいく。事実、森に入るまでは何も無かったはずが進むにつれて霧が出始めてきていたのだ。周りの自然のせいもあり、
「んだよしかし…くせぇなこの森…」
「俺らの鼻にもちーとばかし、青臭さが気になるレベルだからな…」
「……あ…あそこ!ちょっと明かりが漏れてますよ!」
ウェンディが指を向けた方向、確かに明かりが漏れていたのだ。一同はその方向に向けて歩みを進めていく。残された魔力の痕跡も、そちらへと伸びていく。
「……あれ?こんなに早くこの森…出れるの…?」
「俺達が思っていたより早く進んでいただけだろ?慎重すぎんのも、よくねぇぞ」
「…どちらにせよ、ここからよ」
「あいさー!」
そうして一同は森を抜けるとそこには……
「む、村…!?森の中も周り何にもない筈なのに…!!」
「いや…これは…」
「……周りにまだ森が残っている。つまり…この村は森の中にある」
エルザとジェラールがよく確認すると、村の周りは木々で囲まれていた。つまりは森の中にある大きな村…そう言った所だろう。しかし、どちらにしても地図には載っていない村なのだ。それが一同の警戒心を高めていく。
「…つーかよう、変だぜ」
「えぇ、ほんとに」
「…さっきまであった、青臭さや霧の独特な匂いが…それどころか………」
森の中にいた時に感じていた木々や霧の匂い。それらが全て感じ無くなっていた。それどころか、先程まで濃くなる一方だった霧が全く存在していなかったのだ。
「怪しすぎるな……」
「どうなってるのよ…」
「これ…ほんとに離れたらまずいやつだよね」
「皆、離れないようにな」
エルザが改めて警告する。全員が頷き、マルクが改めて魔力の痕跡を追うつもりで先頭に立った瞬間……
「なっ━━━!?」
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「━━━━首尾はどうなっている?」
「それって〜…どちらのことですか〜?マスタぁ〜」
とある一室。白く、大きな石部屋…ステンドグラスが取り付けられたその部屋はまるで大きな結婚式場のようであった。そして、そこには一人の男…マルクと戦いマホーグを攫ったと思われる男であった。
そしてもう1人…その男に体を預ける妖艶な美女がいた。もはやほんの少ししか隠せていないような過激な水着の格好で、スタイルの良い体をグッと押付けている女がいた。
「どちらも、だ……だが先に『代役』の方から聞こうか」
「ふふふ…私の力をぉ…ちょーっと弱めに打つ事で、意識の混濁は成功してまぁす。後はマスターが手を加えてくれれば…」
「ふむ……本命とおまけ達の方は?」
「無事に区分け完了でぇ〜す、わざと違和感を残しておいて…ばーっちり引っかかってまぁす…けーどぉ…良かったんですかぁ?雑兵共じゃなくてぇ、最初から直接『私ら』がいけば……」
「いいのさ…負ければその程度、勝ったとしてもそもそも我々には彼等を皆殺しにする必要もないからな…だが…早めに倒されたのであれば…足止めはしておいて欲しいところだ」
ニヤリと笑みを浮かべる男に対し、満足気な表情を浮かべる女。その瞬間に姿は掻き消え……まるで初めからいなかったかのように、その場には何も残っていなかった。
「……ふふふ…さて、彼らには味わってもらわないとな…悪魔の力というのをな━━━」
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「はぁはぁ……!誰だこいつら…いや、さっきまで確実に…いつの間に入れ替わって…!?」
気づけば仲間たちとはぐれ、仲間達に変装していた敵を倒していたマルク。問題は、彼の魔力感知や嗅覚でさえそれが全く作用していなかったのだ。強い匂いで鼻が潰れたとか、注意力散漫になっていた等ではなかった。そもそも彼はずっと魔力感知を行うために注力していたのだ。入れ替わっていたのならどこかで気づかないとおかしい筈なのである。
「……何らかの魔法か…試しに…ふんっ!!」
魔力を全身に込めて、マルクは一気に全身から解き放つ。魔法無効化のフィールドを一時的に形成したのだ。越魔の力も使って村さえ超えて森全体を覆えるような…それほどまでに巨大なものを作ろうとしたが━━━
「……なんも変わらない。誰も現れない…魔法じゃ、ない?ってなると知らない間に呪法か霊術…いや、錬金術の可能性だって…………いや、考えていても仕方ないか」
『どうせその内ナツが大暴れして全部燃やしそうだし』と少し考えてしまうマルク。ナツに頼りきりではダメな話であるが、魔法の無効化が不可能ならばナツの超高温の魔法の炎がこの異様な空間を溶かすことに賭けるしかないのだ。しかし、魔封石で拘束されてしまえばナツも無力である。それも可能性として考え、マルク自身が解決のために動かなくてはならない。
「……ひとまず、進んでみるか」
そう言ってマルクは進み始める。何があるかも分からない村を歩いていく。今彼は自身が見ている物や感じているものを、ある程度『現実のものでは無い』と考えながら進んでいく。進みながら、マルクは戦っていた敵の事を考えていた。
「…なんか、黒魔術教団思い出したな」
過去に戦った黒魔術教団アヴァタール。全く同じ、という訳では無いが…戦った敵の格好は黒づくめのローブ姿だったからだ。違うところといえば、顔さえも完全に覆い隠しており…フードと言うよりはローブと一体化した覆面の様な…それこそ過激化した宗教団体に近いイメージだったからだ。
「…って事は、何らかの宗教団体がマホーグを攫って…?」
「━━━近いのは、そうだろうな」
「ッ!!誰だ!!」
進む中で突如として聞こえる声。意識が思考に集中しきっていた訳では無い。魔力感知にも五感にも感じ取れなかったのだ。まるで
「………悪魔研究機関兼現闇ギルド『
「……悪魔、研究機関…だと?」
「その通りだ…暫定暴食担当の男よ」
「……暴食、か。俺の事言ってんのか?」
マルクの頭の中で、無関係と思われた2つの点が繋がり始めていた。自らの力の根源の悪魔と、目の前の男…つまりはマホーグを攫ったであろう者達が繋がったのだ。何せ、暴食ときて悪魔とくる。推測程度とはいえ、無関係ではないだろう。
「チッ……聞いてばかりだな、自分で考えることも出来ないのか?」
「あ?」
「烏滸がましいと言っているんだ、自分ばかりが聞ける立場だと?貴様は俺よりも上の立場だと?そう勘違いしているのが腹立たしいのだ。無知な事は美徳にも罪にもなりはしないただ愚かなだけの物だ、知らないというのは誰にだってあるだろう。それは愚かであっても治すことは出来る。しかし馬鹿は違う、馬鹿は自らを認めない癖に他人より上だと思い上がる。そんな愚かな思考をしている愚かな愚者が他人を下に見るのがあまりにも烏滸がましいのだ。貴様は」
マルクは聞き終える前に暴食の力を投げつける。手加減も遠慮もない、初めから殺す気で動いていた。そして見事相手の男…スペイルヴィの上半身が消し飛んでいた。だが━━━
「━━━やはり馬鹿は罪だ。罪である以上罪人、つまり悪その物だ」
「再生…いや、違う…この感覚は……」
「それに敵対する俺は、やはり『正義』だ」
再生した訳では無い。まるで『無かった事』になったかのように一瞬で元に戻っていたのだ。それにマルクは焦る事はなく、冷静に考えていく。
「魔法とか呪法での再生能力じゃないな、それ…」
「バカなりに思考は出来るらしい」
「挑発か?それとも素か?」
「だがやはり聞いてばかり、醜い雛鳥もいいとこだな」
マルクは冷静に頭を回しながら相手の能力を考える。魔法が発動した感覚はなかった。つまりは呪法ということになる。だが再生ではなかった、気がつけば元に戻っていた…まるで無かったことにされたような感覚であった。
「幾ら考えたところで、無駄もいいところだ…貴様は無知で愚かな悪であり…俺は正義。それは変わらないことなのだ」
「…さてな、本当にそう思うなら試してみるか?」
「……既に、貴様は終わっている」
「…?何を……」
そう言って、スペイルヴィは軽く手でその場を薙ぎ払う。しかし動きは仰々しいものでは無く、近くに羽虫が寄ったから払った…その程度の動きである。いきなりそのような動きをしたスペイルヴィに、マルクは警戒心を高めるが…
「━━━━ッ!!!!」
「…怠惰の力か」
マルクは体に怠惰の力をぶつけ、体をくっつけていた。余程余裕があるのか、スペイルヴィは見ているだけであり何も追撃を入れるようなことはしてこなかった。
「はぁっ…はぁっ…!?」
「……何が起きたのかも分かっていなさそうだな」
「……斬撃…!?いや、でも…」
明らかに怪しいのは、動かした手である。薙ぎ払った手である。しかしそれがどう作用してマルクの体を真っ二つに仕掛けたのかは、マルク自身も理解できなかった。
「だが流石に7つ持ちか、しぶといな…次は5等分にでもしてやろう━━━」
マルクは理解した。今まで戦った敵と比べても、相手はとても異質な存在なのだと━━━━━
,
同時刻…はぐれた仲間達は空間こそ違うものの、マルクと同じ場所にいた。そしてスペイルヴィの仲間が、それぞれナツ達の前に姿を現していたのだ。
「んだァ?てめぇ…」
「うふふふ!私は悪魔研究機関兼現闇ギルド『致命的な美徳屋』というギルドの幹部、強欲担当を務めておりますアヴァルティア・コピディタスというの!貴方は
「あ?てめぇなんか知らねぇよ、俺の仲間を返しやがれ」
「えぇ!えぇ!!そう思う気持ちもごもっともでございます!ですがどうかお話を聞いて欲しいのです!私達は
あるところでは、ナツが青い長い髪の少しテンションの高い女性と睨み合いをしており…そしてまたあるところでは━━━
「その力は7つに分けられる…元はマスターの研究で生まれた存在…それを様々な技でより安定し、強くした物。故に幹部も7枠あり…私はギルド『致命的な美徳屋』の憤怒担当…フォーラー・イラと申します」
「憤怒、か…闇ギルドがまともな研究機関であるわけも無い…非人道的な研究の実験台を見れば、それこそ憤怒しそうなものだがな…貴様自身、その対象の割には怒っていなさそうだ」
「……………すー…………ふー………………」
「…?」
大きな呼吸をする…頭全体に余分な髪がない男性、フォーラー。その目は目の前の男…ジェラールへと向けられる。その瞳には、微かな怒りが滲んでいた。
「非人道的な研究全てが、全ての人に怒りをつけられる訳では無いのです…さて、私はあなたの事を知っていますよ…貴方こそ、自らの罪を作る事になった元凶に怒っているのでは無いですか?ジェラール・フェルナンデス…いや、ジークレイン」
「生憎と…その罪には既に目を向けている、元凶にもな」
二人の男は睨み合い、そして警戒し合う。頭をまわし、単に力任せにならないように…それぞれ構えを取るのであった。
「━━━で?てめぇらは俺らに喧嘩売るってのか?」
「……………ん…?んー…ん………」
「俺はてめぇがどこの誰だかもわかんねぇのにか?」
「ん……んー……」
「いい加減なんか言えやァ!!!」
そして、グレイはと言うと…お世辞にも綺麗とは言えないボサボサの長い髪で目の前に寝転がってる女性に、苛立っていた。何せ、他のところとは違い彼女はグレイに何も説明していないのだから。
「…………………………ギルド『致命的な美徳屋』…怠惰担当…………………えっと…セニティス…ピグリティア……終わり……」
「何だこいつ……まぁいい、寝転がってるだけなら…ッ!?」
無視して先に行こうとした瞬間、グレイの動きが止まる。というよりも…止められていた。身体中に巻きついた糸によって、動くことを禁止されてしまったのだ。
「……………動かない…方が……いい、よ………体、バラバラ……だから……」
「てめぇ………」
相手は視線すら動かさないままに、グレイを拘束していた。それにグレイはより一層怒りで心の炎を燃やし…それに反するかのように、頭を冷静にしていくのであった。
「━━━━って訳でぇ、こっから先通りたいなら…私らと時間を潰してもらわないとぉ…って感じですねぇ?」
「そうか……ならば…貴様を斬って進むとしよう」
「さて…出来ますかねぇ?ギルド『致命的な美徳屋』色欲担当…エストラス・ルクスシア。こと戦闘力においては自信が無いですがねぇ……人を惑わす事に関しては、人一倍…いや10倍くらいは出来ちゃうかも、ですよぉ?」
「ふっ…ルーシィの本を読んである程度知っているぞ……色欲とは!ちょっとエッチなあれだ!!」
「かの妖精女王も知識的にはウブなんですかねぇ……」
顔を赤くしながら剣を向けるエルザに、エストラスは妖しく微笑む。その瞳や雰囲気は、まるでゆっくりと獲物を飲み込む蛇のような雰囲気を纏っていた。
「……今回の件…つまりあんた達はマホーグを攫って、マルクをおびき出すつもりだった。そして案の定あたし達は助けに来た…けど、実際はマホーグは助けられても構わない…最低でも、マルクの傍に居てマホーグと同じ様に資格のあるウェンディが手に入る…上手くいけばマルクが手に入る…それが目的でしょ」
そして、別の場所ではルーシィが目の前の男に自らの推理を披露していた。目の前の男は、心底だるそうに…青筋を立てながらルーシィの話を聞いていた。
「多分、本来かなり長く一緒にいないと悪魔の力は周りに影響を及ぼすことは無い…けどマホーグは元々下地があったから、早く馴染んだ。
ウェンディと私達の違いでいえばそれこそ長さ…私達は諸事情で7年くらい同じ島にいたけど、特殊事例で多分影響が出なかったんだと思う…だから私達には時間稼ぎの為に…こうやって戦いをけしかけてきてる」
「…………ちっ、乳のでけぇなんも出来ないお嬢様かと思ったらよォ」
「評価酷くない!?」
「妬ましいほどに頭回しやがって!!ムカつくぜ!なんだァ?私頭いいですアピールってか!?うぜぇんだよ鬱陶しいんだよ一々んな事言うんじゃねぇよ、説明されてる俺がバカみてぇに感じるだろうが!!くそがァ!!」
突如として怒り狂う男に、ルーシィはドン引いていた。怒り狂っていることに関してもそうだが、それ以上に男からの言葉もかなり酷い為に引いてしまっていた。
「ギルド『致命的な美徳屋』嫉妬担当テリブレイショー・インヴィディア!!てめぇらまとめて燃やしてやる!!」
「嫉妬深い以上に、あんた下品よ!!」
鍵と鞭を構え、ルーシィは睨み返す。怖いのは変わらないが、それ以上に仲間を取り返さんが為…勇気を振り絞って行動するのであった。
そして━━━
「…さて、また会ったな。しかし名を名乗っていなかった…改めて名乗らせて頂こう…悪魔研究機関所長兼、闇ギルド『致命的な美徳屋』のマスター……そうだな、今はシン…とだけ覚えてくれればいい」
「…わざわざマスターが出迎えるなんて…」
ウェンディの所には、マスターの立場である…ウェンディとマルクを襲った男が立ち塞がっていた。ウェンディはいつでも戦えるように、魔力を十全に漲らせていた。
「一応これも研究の一環でね…ウェンディ・マーベル、君も念の為にギルドに迎え入れるつもりだ…今の研究が終わり次第、また新たな研究ができるように土台を整えるつもりだが…どちらにせよ7つの席は埋めておかねばならないからな」
「研究って…なんの……」
「少し昔だが…何だったか……イシュガルの闇ギルドのマスターが、土塊から悪魔を作り出す事が出来たらしいな。その技術と私の技術を使って、無制限かつ無尽蔵の強力な悪魔の兵団でも作ろうかと思っている…土塊から作られた悪魔は、7つの席の呪力に影響を受けるのかどうか。受けた場合それは主の性質に依存するのか、また個体ごとで変わってくるのか…その結果をまずは確認したいところだ…あぁ、7つの中で掛け合わせも実験したいな…」
「ッ…!なんの為にそんな研究を…!」
「……?なんの為?今言ったこと自体が目的だ。それも終われば、また新たな研究のために動くだけだ……あぁいや、今やっている研究の話か?それなら簡単だ、人間に悪魔の力を使えるようにする…悪魔と言っても種族的な物では無い。どちらかと言えばゼレフ書の悪魔に近い系統だな」
男は淡々と述べる。まるで子供が親に一生懸命話すかのような勢いで、しかしその言葉の雰囲気は一切楽しそうではなかった。その異質さにウェンディはただ絶句していた。この男の目的は、単純明快で『研究がしたい』だけなのだ。目的と手段が入れ替わると言うが、そもそもこの男は研究という手段その物が研究なのだ。
「しかしまぁ今のギルドは安定性にかけていてね、暫定成功品達を幹部に差し替えている…まぁどちらにせよ本来は7人用意するはずだったが、6人しかいない」
「だから、さらって無理矢理…!?」
「あの女は元は粗悪品の失敗作だったがな…だが、『調整』のおかげか暴食には凄まじい速度で適応している。本来は年単位でようやく、と言ったところなのだがな…それでも暫定品ではあるが…まぁ、マルク・スーリアと貴様のどちらかをさらえば話は別だ……貴様をさらえば、あの女の因子を貴様に組み込むだけでいい。滅竜魔導士で悪魔の力を得ているのは、中々強力になりそうだからな……ふむ、そう考えればENDも欲しいところだ」
『止めねばならない』とウェンディは感じていた。1人でそれが出来れば、の話であるが。直接的な戦闘要員ではないにしろ、全く戦えないという訳では無いのだ。魔法の強さではなく、完全な技術での強さ。苦戦は、恐らく免れない……それでもやれるだけやらねばならないのだ。
「━━━モード魔天竜!!」
「ふむ…属性では無い魔龍の性質を自らに組み込めている…これは暴食に適応したが故の強さ、というわけか?面白いな、どういう戦い方をするか…直で目で確認するとしよう」
ウェンディは魔天竜の力を行使する。それをシンは興味深そうに眺めていた。
こうして、突発的に起こった悪魔研究機関と名乗る闇ギルドとの戦いの幕が上がるのであった。