愛とは何か。
情欲とは何か。
恋とは愛か?それとも、情欲か。
汚れた物と認識される色欲に、上っ面を被せ愛と呼ぶ。
共にいたいと思っているだけの感情に邪な考えを捻り出し情欲と呼ぶ。
人によって変わるものは、定義としては根付かない。だが人はその二つを分けて呼ぶ。それは何故か?自らが抱いているのは汚れた性的なものでは無く、綺麗な心の物だと謳う為である。
だがそれらを分けて呼ばず、一つのものとして扱う者もいる。愛の延長線上に情欲があると考える者がいる。ならばその者は情欲と愛が結びついており、汚いものだと認識していないのか?それとも愛そのものが汚れた物だと認識しているのか?
どちらも、いるだろう。では、自らを色欲担当だと謳う彼女はどちらか?
答えは、後者である。正確には、彼女は『そう信じている』である。信じなければ、彼女は誰からも愛されず育った可哀想な子になってしまう。哀れみだけは、抱かれたくないと彼女は無意識下でそう思う。
彼女は、自分が愛を知らぬ者であると確信したならば…人を愛する事も出来ぬ存在だと考えてしまうだろう。
それを確信しないために、自らは愛することが出来る愛される立場と信じきっているがために……彼女の力は、愛そのものなのだ。
しかしその知ってもいない始まってすらいない愛も、もう……終わる。
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「畜生…!無駄に広いなここ!!!」
グレイは幻影の街を走り抜けていた。質量のある幻影の街を走り抜けながら、エルザかハクを探していた。もしくは、敵である少女1人。
「…ハクって奴はよく分かんねぇけど、エルザはやばい…!」
滅悪の力を持たず、滅竜の力もない。ただ地力が凄まじく高い彼女では、ここの空間の攻略は不可能である。相手は直接的な戦闘能力が低い少女1人。だが搦手には特化しており、滅悪の力を持つグレイでさえ抗うのに時間がかかってしまったのだ。
「畜生……都合よくいつもの感じみてーに………いや、流石に今回は絡め手すぎる…!」
エルザ・スカーレットという女性は、いつも無茶苦茶をする。その無茶苦茶振りで何とかならないかと考えるが、今回ばかりは難しいかもしれないと考える。
都合のいい夢を、ひたすらに見せられているのだ。愛する者との蜜月を、これからの未来を考えさせられる。それはとても幸せで、逃したくない物なのだ。
「エルザとジェラールは、俺とジュビアよりも関係が面倒なんだよな……だから余計にやべぇって感じるんだが…」
恐らく望めば望むほどに堕ちてしまうだろう。愛する者がいない……この場合恋愛的な意味だが、認識していない又はそもそも居ない人物には通じない技ではあるとグレイは考える。故にこの場にナツか他のディアボロスの誰かがいてくれたら攻略は簡単だっただろう。よりにも寄って、ハクである。ウェンディに恋しているハクはまずいだろう。
「……いや、そっちこそ案外効いてなかったり……ッ!?あっちか!?」
色々と考えながら走り抜けていたグレイ。だがその最中に彼の耳が爆発音を捉える。それは誰かが戦っている音であると確信する。エルザかハクか、どちらでもいいが彼はそちらの方へと一気に速度を上げながら向かうのであった。
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爆発音が聞こえる。エルザとジェラールはカフェで食事を楽しんだ後、服屋に寄っていた。何せジェラールは今までが今までだったこともあり、かなりオシャレに無頓着だったのだ。第三者から見ればエルザもセンスは独特なのだが、それでも無頓着よりかはマシかもしれないという判断で買い物に来ていた。グレイとハクが戦っているのだろう、しかしエルザには感知することが出来なくなっていた
「……エルザ、流石の俺もこれは着ないぞ」
「む…そうか?似合っているが……」
「何故海賊風の衣装なんだ……」
「え…好きなんじゃないのか、マントっぽい服…」
「そんなに着ていたか…?いや、確かに昔はよく着ていたかもしれないが……」
「ふむ……なら別の服にしよう……ナツやグレイを参考に…」
「参考になるか…?その2人…」
「む…?ルーシィかウェンディか?」
「いや待て、性別が違う」
「………ふふっ、流石に冗談だ」
平和なやり取り。なんでもない冗談を言い合いながら、平和に過ごす事が何よりも幸せだったのだ。これは未だ先の話であり、100年クエストを達成して以降しか成されない。
「ジェラールは何か気になるのはないのか?」
「そうだな……これとかは良さそ………あっ」
「マントっぽい服ではないか……ふふっ」
「……ははっ、どうやら本当に気に入ってたらしい」
「なら、その服を買って今日は一度帰るとするか」
「そうだな」
「エルザ!!」
「…………?」
グレイが呼んでいる。戦いの途中で見つけたのだろう。店の扉を叩いているが、エルザには見えもき声もしていない。しかし違和感は出始めていた。
ふと、エルザは思い立っていた。二人で帰る途中に夕飯の支度をするために買い物をしようと。まだ先のこととはいえ、手料理を振る舞えるようになっていなければこの先苦労するだろうと。出来ないわけではない、しかし家庭料理という枠組みに入るものが作れるかと言う話である。
「エルザ?どうかしたか?」
「い、いや…今誰か私を呼んだような……」
「ナツがまた何か叫んでいるんじゃないか?まったく…振り回されるルーシィの苦労が窺い知れるな」
「あ、あぁ……そうだな……」
違和感。まるでそれを修正しようとしているかのように、ジェラールの幻影は彼女を誘導する。だが得た違和感と今までの戦いの経験から、エルザはその違和感を確かなものとして扱っていた。
一般家庭なら両親や信頼できる親族、または友人から学ぶという手が取れるだろう。だがエルザの知り合いで料理ができるのが誰か、となってくると少し考えねばならなかった。母親であるアイリーンはあれでも元王族、その後の生活も鑑みると料理が出来る事は無いだろう。寧ろできないから何も言ってこないのかもしれない。ルーシィも似たようなもので、一人暮らしだから出来るかもしれないが家庭料理となると微妙なところだろう。それ以前にルーシィには家族問題はできる限り振らない配慮をしている。ジュビアなら出来るかもしれないが、レパートリーがグレイの好むものばかりになりそうである。1番マシなのは恐らくレビィだろう、ガジルの好むものを作るかもしれないが知識としての家庭料理は彼女が一番多いかも知らない。ミラジェーンとリサーナは全く不明である。しかしレビィから習うのなら、他の者も集めて1度にやるといいだろう。ギルドの男集は大体大雑把で粗野で荒くれ者と言っても過言ではない性質だからだ。しかし人間としては善人である。この場合だいたい好む料理は肉料理とかになるかもしれない……ガジルを除いて。
「ッ……!?ぐ、うぅ…!!!」
空間がエルザの思考を誘導し始める。違和感の大きなところを悟らせないようにと、しかし本来は違和感を持たないのが正式な仕様である。違和感を抱いて無理やり誘導させようとしているせいか、エルザは膝を着いてしまう。
そう言えば、とビスカの存在をエルザは思い出した。天狼島から帰ってきた時には既にいた娘、つまるところ母親としては先輩も先輩なのだ。エルザの違和感は大きくなっていく。ビスカも混じればきっと有意義な女子会ならぬ保護者会ができるに違いない。直感的に違和感を取り除くために必要なのは何か、とエルザは持ちうる鎧、武器、エンチャントを考えていく。そしてすぐさま思いついた武装を取り出す。
「換装ッ………!!!破邪の槍!!」
「エルザ!?」
「ッ…!」
「ハイエンチャント…!」
「何をしているんだエルザ!!」
「氷魔の冷気…!」
破邪の槍ごと、自らの腕を凍らせるエルザ。こういうのも平和の一つであるただの氷の力ではない、グレイには劣るが多少の滅悪の力が宿っていたのだ。愛する者と過ごす為の行為もまた幸せなのである。それが破邪の槍と合わさりなのに弾くのか?……悪魔の力をさらに跳ね除ける。否定するなどちらか一方では、私の愛を否定するな恐らく防ぎきれずにいただろう。私を否定するな
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ何で誰もかからないんですか愛する者といられるのに平和で愛し合いながら過ごせるのに蜜月で愛を語らいながら体を交え子を成して過ごせるというのにどうしてその愛を否定するんですか私が今まで過ごしてきた色んな人との愛を否定するな間違っていると言わないでなんでなんでなんでなんで
「エル━━━━」
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「━━━━どいつも、コイツもぉ…!!!!」
エストラスは歯軋りをしていた。この空間は彼女が主。この空間で起きた事は彼女は全て把握している。故に、誰一人として堕ち無かった事に酷く怒りと悲しみを覚えていたのだ。
「どぉおおおおおして!!!私の愛が!!!通じないんですかねぇ!!!!?NTR趣味ですかそれとも実は愛してないんですか何なんですか!!」
「……ウェンディが、マルクの事をあんな軽く扱うわけないんだもん。ボクが好きになったのは、マルクの事が好きなウェンディだから……その上で、振り向かせたいって思ってるから…!」
「ちょっとバカし危なかったけどな……ところどころジュビアじゃ言わないなって思ったのが多かったんだよ。上っ面だけじゃねぇ……なんつーか、中身が…魂がちげぇんだよ」
「青臭いガキと滅悪の力で戻っただけの癖してェ…!」
エストラスの目が、2人から離れてある方向へと見ていた。そこに立っていたのは、破邪の槍と
「あんたは…なんで、なんで…!!」
「エルザ!!」
「仲間が助けてくれた……正直、幸せで、平和で…いつまでも浸っていたい…そう思えていた…事実グレイが呼ばなかったら、私は沈んでいただろうな」
「だったらなんでぇ!!!」
エルザの目は、覚悟を決めていた。そしてその目はエストラスを射抜くように睨みつけており、エストラスはその様子に更に苛立ちを隠せないでいた。
「
「……………………るな………ざけるな………ふざけるな!!愛に沈み色欲に溺れ何も考えず安寧を過ごせ!!!これが、私の愛が……間違ってるなんて言わせない!!!魔呪法
私の愛で歪む世界は意のまま思いの限りさらけ出す!!3人ともかからなかったのなら丁度いい!!本気を出して意識を沈めて愛で包んで殺してやる!!!!」
蝙蝠の羽が生えただけと思われた彼女の姿が、変わっていく。羽は肥大化し、2枚合わせればその長さはこの場の全員を包み込めるだろう。下半身はサソリの姿に変貌していき、5mはくだらないほどの長さの驚異的な尾が黒光りしていた。背中からはこれまたサソリのハサミのようなものが出現し、元々の両腕には大鎌がそれぞれ1本ずつ握りしめられていた。
「なんだ…!?これも、幻覚か…!?」
「ハァーッ……!!!魔呪法は、一時的に使用者の姿を変貌させる…!それに加えてぇ……私は、他者を除き私を含めたこの空間の全てを変質できる…!他者だけは…記憶と意識がせいぜいですからねぇ…!」
「うわー……」
「つまり、元々変貌してたのがさっきまでの姿か……けど幻覚幻影じゃねぇ…粘土遊びみてぇにこの空間と自分をイジれんのがこの技ってところか…!」
「マ、そんなところですねぇ……!御託は、ここまで…!一気に沈めてあげますよぉ……!夜に鳴かせる愛を噴き出せ!!ナイトレイン!!!」
大きくなった羽が囲うように広げられ、そしてその翼膜から針のように噴出された液体が大量にグレイ達に襲いかかる。しかしこの場にいるのはその程度では倒されない者達なのだ。
「アイスメイクルーム!!」
「助かったぞグレイ!!」
グレイが咄嗟に氷で全員を囲うように部屋を作る。それはちょっとやそっとでは壊れることの無い、鉄壁の防御である。そしてエストラスの攻撃も、これを突破できるほど突出した貫通力は持ち合わせていなかった。
「イジれねぇのはあんた達だけでぇ!!!造形魔法で出されたモンはイジくれるんですよぉ!!!!」
「ッ…!!魔法が、消えッ…!」
「
天一神の鎧の魔力が、冷気が付与された破邪の槍へと流れる。槍の横薙ぎの一閃の軌跡にそれらの魔力が乗り、破裂するかのように一瞬光り輝く。すぐさま光は収まるが、エストラスの放った技は幻であったかのように消えていた。そして━━━
「ぐ、ぐうう…!?その武器、投擲武器でしょほんとはァ…!!なーんでそんな技が…!」
「効いてる…!?」
「直接攻撃系の技ではない筈だが……悪魔因子を持っていると、多少効くようだな……マルクの傍では使わないようにするか一応……」
「………」
消されたグレイの魔法、消されなかったエルザの技と武器と鎧。この違いは何か?グレイの頭の中で仮定がふと浮かぶ。そしてそれを確認するべく、悶えているエストラスを前にしてハクにとあることを訪ねていく。
「ハクつったな確か……お前、人形出したり人形にしたりすんだろ?使わねぇのか?」
「うーん…人形だしてもさっきのお兄さんの魔法みたいに消されちゃうし、人形にしようと思っても出来ないんだよね…まるでそこにいるのにいないみたいで……」
グレイの氷とハクの人形。この2つの共通点は使用者本人から離れた位置に出せるという点である。そして逆にエルザの武器と鎧は本人にほぼ密着している。つまりエストラスはある程度距離が空いてないと他者の魔法に関与出来ないのだ。逆に密着していれば問題ないので、ほぼ近距離戦になるだろう。
では、ハクの人形化の魔法が通じない理由は?そこにいるのにまるでいない。そこでふと、グレイは満腹感のある自らの状態を思い出し……そして気づいた。
「そうか……目の前のあいつは本人じゃねぇ…この空間にあるものと同じで…物体的に存在している、幻影だ」
「え、じゃあ本人はどこにいるのさ」
「……この空間の外、だろうな」
「…じゃあ、どうしようもないってこと?」
「いや…多分そうじゃねぇな…あいつの魔呪法って奴は…一つの空間に自分…というか対象者の望む空間を貼り付ける技なんだろうなだから本来馬鹿でけぇ部屋の一つであるはずのこの空間に街が作られてる」
「……対策できるか?グレイ」
「ちいと時間かかるから、時間稼ぎ頼むわ………1個だけ思いついた」
グレイのその言葉を聞き、エルザは未だ悶えるエストラスに向き直る。エルザの中でもひとつの仮説があったのだ。目の前のエストラスが幻影の類ならば、攻撃が通じるのはおかしいと。
つまり
「頼んだ……ハクも、手伝ってくれ」
「何するのかわかんないけど……わかった!!」
エストラスは、自らを見る2人を睨みつける。こうしてエルザとハクはグレイのための時間稼ぎ、エストラスはここの3人を倒すという戦闘が開始されたのであった。