少女は1人貪り食らう。愛を、正義を、知恵を、節制を、希望を、信仰を、色欲を、傲慢を、嫉妬を、怠惰を、強欲を、怒りを。
閉じ込めていた監獄から抜け出した彼女は、今までの人生を取り戻すかのようにそれらを貪る。しかしそれを1人で消化していく。
知恵を知り愛を得た、節制をして得られる希望を得た。信仰の自由を知りその一つ一つの正義を知った。
焦がれる人物に色を見た、自分だけのものにしたいと傲慢になった、その人物が惹かれている友に嫉妬した、何もせずに怠惰であった、奪い取りたいと強欲に願った、八つ当たり気味に怒りを消化した。
しかし彼女は満足しない、満足に食らうことも出来ずその勇気を踏みしめることをしなかった。満足する事に尻込みをして、勇気を出さずに…始める前に終わっていた。
彼女が満足する日は、一体いつになるのか…それはきっと彼女が今のままでは来ることは無いだろう。
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マホーグ改め、暴食担当グラサスとして持っている魔法。それはイメージした自分の行動を確約させるというもの。相手の頬を殴るというイメージをすれば、そのイメージは寸分違わず発動する。では常に行っていればいいのでは?という話になるだろう。無論、それもできる。だがあくまでこの魔法の範疇にあるのは行動の確約だけであり、相手の魔力やスタミナは考慮されないのだ。
その事に、戦っているウェンディやジェラールはきっと気づかないだろう。
「|七星剣
「無駄無駄…!」
「ぐはっ…!くっ、またか…!」
故に無謀にも魔法の発動を行い、そして発動しきる前に自身が攻撃をされる。この行為も相手の魔法を少しでも知る…その目的のために行われているが、この行動で彼に理解できる部分はせいぜいが『止めに来るタイミング』であろう。しかしそれも無駄なのである。
「どれだけ強い魔法が来ても…!」
「必ず防がれる…!」
「わかってるなら、辞めたら?」
「それでも…!」
「無駄なこと、してるみたいだけど…」
グラサスは未来視によって相手の行動を読み、行動の確約によって相手の魔法を確実に潰す。未来視が相手の攻撃によって自動発動してしまう都合上、脳への負担と魔力の過剰消耗を抑えるために、そして確実に相手にダメージを負わせる為にこの方法を取っているのだ。しかしこの方法は、ある一つの弱点がある。それは相手が攻撃する意志を見せない限り、防げないという点だ。つまり相手が回復魔法などの攻撃手段ではない魔法を使うことに関しては、未来が見えないので止められないのだ。意識すれば未来視で止めることも出来るが、手動発動と自動発動は同時に発動する可能性もある。そうなると未来の確約のために必要なイメージがしづらいのである。
「私は、私…!それが治るなんて…私が消えるなんて、ありえない…!」
「ッ…!」
ウェンディはそれでも、何度も何度もレーゼをかけて状態異常を治し続けていく。元に戻る保証なんてない、だが倒しても治る保証も無ければマスターであるシンを倒して戻る保証もない。
しかし回復魔法ならば可能性がある。洗脳されてるにせよ、記憶を失わされてるにせよ、新たな人格を植え付けられてるにせよ…連れ去られてからグラサスとして一同の目の前に姿を現すまでにかかった時間は1日もない。魔法か呪法かは定かではないが、何かしらの術によって変えられてる可能性は高いだろう。
いくら何でも、何も使わず洗脳や記憶喪失などを起こすのは時間がかかるからだ。故にウェンディは続けていく。友が治るのを願って。
「よそ見をするな!!」
「する余裕しかない…!」
ジェラールの天体魔法に対して、いとも容易くカウンターを入れダメージを与えていくグラサス。このままジェラールを倒しきればいいものを、何故かウェンディに対して意識を執拗に向けていた。
「どうした?回復魔法ばかり掛けているウェンディが気になるのか?」
「…うるさい、一々鬱陶しいだけ…!天空の滅竜魔法がとんでくるかもって思っているだけ…!」
段々と、グラサスにイライラが募り始める。鬱陶しいのは彼女の中では事実だが……無視してもいい影響である。攻撃魔法が飛んでくるというのも、グラサスからすれば自動的に察知できるものである。本当に何も無いのであれば、グラサスはウェンディに意識を割く意味合いはない。それなのに鬱陶しさを感じているのは……グラサス自身にかけられているレーゼが、ほんの少しだけ影響を与えているからだ。その事にグラサスは気づかない。ジェラールとウェンディも、何も気づかない。
「お得意の未来視で止めればいいだろう…!それがお前の戦い方だ!!」
「うるさいうるさい…!お前も、その子も…!私はグラサス!グラサス・グーラーなの!!」
「…やはり、効いているか…!?しかしウェンディがもつか…!?」
攻撃魔法を尽く潰されているジェラール。それに対して、ウェンディはグラサスに状態異常回復を、ジェラールにダメージ回復を、そして自身は天竜の滅竜魔法による攻撃を…頻繁に行っていた。ある程度空気を食べることで魔力を回復することが出来る。それに魔天竜になれたおかげか、通常時でも空気中のエーテルナノから魔力を少しづつ回復するようにもなっている。
それでも尚、消費は凄まじく…回復すると言っても出す量が多ければそれだけ負担がかかってしまう。攻撃魔法を使う際には、グラサスからのカウンターが入るためにさらにダメージが入る。
「もう少しこちらの負担を増やすか…!はっ!」
「だから…!私に攻撃は通じな━━━ッ!!」
グラサスへと殴り掛かるジェラール。グラサスは最小限の動きでそれを避けて、ほぼ同タイミングでジェラールの肘を外側から殴りつける。だが…殴りつけた瞬間にジェラールの体が光る。そしてジェラールの体は速度を上げて…腕を力任せにグラサスに振りかぶり…ギリギリの所で止められていた。
「危なッ…!?」
「未来が見えるからと油断していたな…!」
「ダメージを受けながら…無理矢理魔法で速度を上げて……ぐっ…!?」
1度体勢を立て直すために、ジェラールから距離をとるグラサス。しかしその瞬間に、一瞬だけ脱力してしまう。何度も何度も状態異常回復魔法であるレーゼをかけていたウェンディの行動が、今一瞬実を結んだのだ。
「隙あり…!グランシャリオ!!!」
その一瞬の隙を逃す程、ジェラールは甘くはなかった。油断したところに攻撃を受けかけて、意識が完全にジェラールに向ききった瞬間に訪れた脱力。レーゼをかけ続けていたことで複雑に絡み合っていたグラサスという存在が、紐解かれ始めたのだ。そこに入る初めての一撃。強力無慈悲な一撃が、グラサスの体にダメージを入れていく。
「グッ…!?うぐうううう…!攻、撃ッ…!はァ………効かな、いいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」
グランシャリオは直撃していた…しかし彼女には暴食の呪法が残されていた。それは彼女が受けていたダメージ全てを無力化し、そして液状として吐き出していた。それに触れれば彼女が受けたダメージを受けてしまう。その液状のダメージに触れないように、全員が離れて行動していた。
「はあっ…!はあっ…!油断、してた…!」
「未来を見れるという傲りがあったな…グラサス」
「……………」
息を整えながら、グラサスはジェラールを睨みつける。その目には既に油断は存在しておらず、確実に戦っている2人と空を飛んでウェンディをサポートしているシャルルを葬る為に思考を変えていた。
「…ふ……ふふ………そうだ、これが…手っ取り早い…!」
グラサスの口角が上がる。同時に異様なオーラを3人は察知する。それが何かおぞましい事が起こる事の合図だと瞬時に察し、それぞれが動き始める。
「シャルル!!」
「えぇ!」
「9つなる星が天を穿つ…!オリオン!!!」
「天竜の…咆哮!!」
攻撃魔法はグラサスには通じない。発動する前に叩ける上に、攻撃を受けたところで、呪法によってダメージを体内から吐き出すからだ。しかしそれは回復ではない。どちらかと言えば、『無かったことにする』の方が強いのだ。つまるところダメージを負った事による肉体的精神的疲労は少なからずあるのだ。
「━━━未来を手繰り勇気を持って傷と也死に至れ…魔呪法、
放った2人の攻撃は、直後に発動したグラサスの魔呪法のオーラによって吹き飛ばされる。そこからグラサスの変貌は始まる。
彼女の背後に巨大な髑髏が現れ、そこから上半身の骨が形成されていく。同時に彼女自身は、髑髏へと吸い込まれていき…溶け込むようにその姿が髑髏と一体化する。
「ガイコツ…!?」
「なんだ、姿が…!?」
「ハハ、アハハ…!!ワタシ、ノォ…!本当ノ、力ァ!!!」
眼球が存在するであろうドクロの穴に、赤い光が灯る。ケタケタと笑うと同時に乾いた骨同士のぶつかる音が大きく響く。その腕は圧倒的に大きく、長く。その手は人間など簡単に握り潰せそうなほど広く。それに合わせて上半身だけとはいえ、その体の大きさは建造物と言っても過言ではなかった。どうやって直立しているのか不思議なガイコツ……グラサスは、その巨体から3人を見下ろしていた。
「どうなっているのよ…!?」
「ガイコツに、なっちゃった…!?」
「くっ…!?これが魔呪法とやらの力か…!?」
「魔呪法ハァ…魔法ト、呪法ヲ併セ持ッタ技…!制御ノ為ニィ、錬金術、霊術…混ゼ合ワセテル…!ソノ分、消耗ハ…大キイケドォ……強イ!!!!」
「ッ!!攻撃…なら弾いて━━━」
ガイコツと同化したグラサスは、その巨大な腕を振り上げる。そして振り下ろそうとした瞬間、三者三様で攻撃が飛んでくると直感した。シャルルはウェンディの翼となっているので、ウェンディを掴んだまま避けようと動き、ジェラールは回避を取ろうとし、ウェンディは空中での動きをシャルルに任せてブレスで弾く………筈だった。
「がっ…!?」
「ぐはっ!?」
「2人共!?」
その瞬間、シャルルとジェラールが同時にダメージを受けたのだ。ウェンディにはダメージは無かったが、シャルルが攻撃を受けてしまったせいか…まるで吹き飛ぶかのように後方へと飛んでいく。
シャルルは気絶しており、それに気づいたウェンディはシャルルをかばいながら、地面へと激突していた。
「がはっ…!!?」
「ウェン、ディ…!!なんだ、今のは……!」
ジェラールとシャルルに襲いかかったダメージ。受けた本人達は強い衝撃も体で味わっており……シャルルは勢いよく吹き飛び、ジェラールは地面へと叩き伏せられていた。
「ハハ!アハハ!!サッキヨリ、確実ニ殺セル!!私ハ、オ前達ヲ殺ス!!!」
「2人に、一体何が……!?」
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━━━魔呪法『喰勇』の能力。それは未来の先取りである。しかし『攻撃しようとすれば、その攻撃は必ず起こる』というものではない。
術者本人以外が『このような攻撃が来る』という推測を立てた場合、その推測による攻撃のダメージが即時反映されてしまうのだ。今回の場合、シャルルとジェラールは攻撃が来ると予測した為にその攻撃を受けた時の衝撃とダメージが反映されてしまったのだ。
では何故ウェンディには通じなかったのか?それはウェンディが攻撃の推測を全くしていない…というよりも、『振り下ろされる前に反撃する』という動きをしていたので明確に行われる攻撃のイメージが無かったのだ。
この魔呪法による最大の注意点は、『死』を予想しないこと。死ぬと確信した瞬間、イメージ通りの死が訪れてしまうのだ。考えないようにしていても、人間とは直感的にでも死を感じてしまう瞬間がある。
ナイフを胸の前で寸止めされてしまえば、誰だって刺されるのを少しは考えてしまうだろう。喰勇は、その『少し』でさえも拾ってしまう。そして仮に死を考えない、感じないようにしても攻撃を受けることを推測、予測してしまえばダメージを受けてしまう。
「もう……2人は戦えない…!」
シャルルは気絶し、ジェラールはダメージにより戦闘続行は不能。残ったのはウェンディ一人。魔呪法の突破法も、その能力さえも不明なまま戦うこととなってしまう。
「けど…私は、諦めない…!!」
突破方法も、相手の倒し方でさえも分からない。しかしウェンディはそれでも諦めない。勇気を持ちつつ、グラサスと……マホーグと、対峙するのであった。