マホーグことグラサスが発動した魔呪法『
術者本人が攻撃する際、範囲内にいる敵がその攻撃によるダメージを予測してしまったが最後そのイメージした攻撃のダメージを受けてしまうのだ。しかもそれはイメージした直後であり、本命の攻撃はまた別なのである。その後に攻撃を続けようとも続けなくとも、喰勇によるダメージは確実に入る。イメージをしないことが重要であるが、万が一それによって死を連想してしまったが最後……直後に死んでしまうのである。
だがその全てをウェンディは知る由もない。シャルルとジェラールが戦闘不能となった今、彼女に残された道は……グラサスに状態異常回復の魔法をかけ続けるか、グラサスの魔力切れを狙うか…その2つである。
「でも、二人がやられたのはどうして…!?」
2人の頭の中など、ウェンディが細かく知ることは無い。推測することは大事だが、その推測をするための情報が今は圧倒的に不足しているのだ。
「……フフ、何モワカラズ…死ンジャエ…!」
「絶対負けない…!」
先程までは、ジェラールが前に立つことでウェンディに対する攻撃をさせないように立ち回れていたのだが…今となってはそれも出来ない。回復魔法で傷の手当をしようにも、一瞬の隙が命取りになってしまう今の状態では勝ちようもないのだ。
「デモ、攻撃ハ通ジナイ…!」
「ううん…!私がすることは、変わらない…!モード魔天竜!!」
ウェンディの髪が変色し、天竜と魔龍の2つの力が放出する。魔と天を喰らい、圧倒的高火力を叩き出せるこの力。しかしウェンディは魔天竜の力を防御に回していた。理由は2つあり…1つはこの形態では空気中のエーテルナノを自動的に吸収し、魔力へと変換するから。もう1つはそれによって相手の魔力を用いた攻撃を抑えられるから。マルクと比べればその吸収度合いの差こそあれど、無いより遥かにマシなのである。ウェンディは自らに回復魔法をかけることが出来ないが故の今できる最善策なのだ。
そして……まだ試したことの無い方法が、一つだけウェンディは思いついていた。先程までは下手なことをするべきでは無いと考えていたが、手段を選んでいられる状況では無くなった今…その方法を使うしかないのだ。
「………やるしか、ない…!」
「………」
対するグラサスは、ウェンディの目がまだ諦めていない事を悟っていた。この魔呪法はほぼ無敵である。しかし相手が攻撃によるダメージのイメージを全くしていなければ、物理攻撃しかできないのだ。
図体こそ大きくなっている為、その一撃は強力な勢いを持っているが……避けられたり弾かれたりされる可能性が大いにあるのだ。
「すー…はー……いきます!!」
「……?」
急に魔力を全力で解放するウェンディ。グラサスはヤケを起こしたのかと考えたが、ウェンディの目がまだ諦めていないことを感じ取っていた。
「ヤッパリ、諦メナインダ…ナラ…!!」
グラサスは握り拳を作り、ウェンディに向かって敢えて正面から叩き付けるように動く。普通ならわかりやすい挙動だが、敢えて分かりやすい攻撃を行えば…イメージが誘発されやすいだろうと考えたのだ。イメージさえさせれば極論勝ちなのである。だが━━━
「━━━はあっ!!」
「ギャッ!!?弾、イタ…!?イヤ、
ウェンディがその場で手を下から上へと…まるでアッパーをするかの如き動きをした瞬間、グラサスの腕が上へと急に持ち上がったのである。それだけではない、衝撃を感じた部分が気がつけば消し飛んでいたのだ。現実の体じゃない故に、今現在の戦闘で問題があるだけだが…受けた衝撃は確かに強力だったが、消し飛ぶほどのものではなかったのでグラサスは困惑していた。
「……この魔呪法という技…ある程度の範囲を決めて使う技なんですね。その空間内に魔力と呪力を混ぜこぜにして満たし、錬金術でそれらを利用して自分に都合のいいルールを作り出し、自分は影響の出ないように霊力で保護して姿を変える…」
「何デ、ソレヲ…!?」
「…マルクの、力です。貴方が想っていた、彼の…!」
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━━━ウェンディは、マルクの越魔龍の力を見てからふと思っていたことがあった。マルクの見ている世界と、自分の感じている世界はどこか違うのではないかと。
ウェンディの力は天竜、空気中のものを事細かく感じ取ることが出来る。嗅覚や味覚がナツ以上に発達しており、それは時として仲間の危機を救うことがある。
マルクは空気中のエーテルナノや、魔力を事細かく感じとれる。彼自身もそれを明確に区分けして判断している訳では無いが、五感全てで他の
そしてそれらの能力の差が、越魔龍によってさらに乖離した。自身の魔力やエーテルナノを鎧のように結晶化し、纏っていた。
「今、何ヲ…シタ…!?」
「言う必要は、ありません!!」
「やぁっ!!」
「ガッ!!!?マ、マタ…!!?」
ウェンディはこの技を
しかし、先程言った通りこの技はかなり環境が整ってなければ利用できない。操り固めるものが少なければ、まともな威力は出ないだろう。だがウェンディは魔天竜となった事で、この空間が魔力と呪力に満ちた空間という事に気がついた。
「ハァッ…ハァッ…!?コンナ、コンナ…!?」
「ッ…魔力の消耗が思ってた以上に…!!このまま、決めます…!!」
「ッ…!!サセナイ、サセナイイイイ!!!」
残った片腕が、ウェンディを握り潰そうと動く。その勢いは凄まじく、最早グラサスにはウェンディしか見えていなかった。だが魔天装の力はこの空間の力を削いでいた。上半身だけとはいえ巨大な骸骨の姿が揺らめき、それがほんの少しの隙となる。
「隙、だらけだぞ…!!」
「ガッ!?グ、ググッ…!!」
余りにも余裕のない状態により、ジェラールの一撃を受けてしまっていた。隙を見せた事で与えられた天体魔法による一撃が、グラサスの意識をウェンディから完全にジェラールへと移していた。
「身動キモ、満足ニ出来ナイ分際デ…!」
「そうだな……だがウェンディからは意識を逸らせる」
「ハッ…!?シマッ…!!」
「いきます!!滅竜奥義………アノマリートレナージ…!!」
ウェンディは両手を合わせる。まるでそれは祈りを捧げる聖女の如し。先程までの激しい戦いとは打って代わり、ウェンディはとても落ち着いた様子となっていた。
同時に…グラサスの動きがピタリと止まる。意識を完全に逸らしていたとはいえ、それに気づいた直後にウェンディを止めようと動いた。しかし勢いの苛烈さはどこに行ったのか、と言わんばかりにそのままの止めようとする体勢で止まっていた。
「ア、ガ…!?」
「……何だ、どうした…?!」
シャルルは気絶しているが、ジェラールはピタリと止まったグラサスに驚いていた。今何が起こっているのか、彼の目には何も映ってないからだ。
「………この技は、攻撃用の技じゃない…ミルキーウェイと同じ…」
「動きを止める、魔法…なのか?」
「ううん……この技は、天竜の回復魔法と魔龍の力を合わせた技なの」
滅竜奥義『アノマリートレナージ』、その効果は『異常の完全回復』である。元より使える技だろう、と言うにはまだ早い。これは状態異常回復魔法と魔龍の合わせ技ではなく、状態異常回復魔法と治癒魔法と魔龍の掛け合わせ……レーゼでは治せない異常の原因を魔龍で喰らい、治癒魔法で体力と傷を回復させる技なのだ。
「消費は、多いけど……これなら魔障粒子で犯された体も、元に戻せる……」
「部分を喰らい……そして治す技、か…だがそれはお前の体に入るんじゃ…」
「取り出した部分は…魔龍の力と一緒に消えるみたいで……初めて使ったから、自分でもあんまりわかってないけど……けど、それで複雑に重なってた魔法を…全部消滅させたの…その分魔力は…本当に減っちゃうんだけど……」
魔力を大量に消費…それこそ、戦闘がある日に1度使えればいい程に消耗してしまうが…魔障粒子等の異常すら、取り除いて直せてしまうのだ。ウェンディがやろうと思えば、病巣さえも取り除けてしまうが…それはまた別の話である。
「はぁっ、はぁ……魔天竜が……」
「ウ、ガ…ァ……」
魔力が足りなくなり、魔天竜が解除されたウェンディが膝を着く。そしてそれに追随するかのように…巨大な骸骨は霧散していき、中から現れたグラサスが地面へと落下する。
それに伴い魔呪法は解除され…ひっそりと元の空間へと戻っていた。
「マホーグ…!」
ジェラールがなんとか立ち上がり、体を痛みによって震え揺らしながらグラサス…マホーグの元へと急ぐ。そしてウェンディもシャルルを抱き抱えてから向かっていく。
「……息は、しているな」
「…アノマリートレナージが成功してるなら……大丈夫、だと思う…あれはレーゼで治せないところを、一気に取ってから治す力だから……けど、体力じゃなくて…」
「精神的な消耗か……」
ウェンディの魔法では、体力や傷の回復は出来ても魔力や精神的なの回復は行えなかった。魔天竜の力を使えば、魔力は回復できる目処はある為に…あとは精神…心の回復ができる魔法を作れれば、と気持ちを新たにしていた。
「………………ぅ…」
「マホーグ!?」
そして気絶していたと思われていた彼女が、その目を開ける。マホーグか、グラサスか……どちらかはわからない2人は、固唾を飲んでいた。そして発せられた言葉は━━━
「━━━━━ウェン、ディ………ジェラ……ル……」
「……ほっ」
「…マホーグ、よかった…」
マホーグとして、彼女は目を覚ましていた。それに2人は安堵し、完全にその緊張を解いていた。ジェラールは彼女をゆっくりと寝転ばせ、自らはその傍に腰を下ろして彼女の目を見る。それは仲間を取り戻せて安堵している姿であった。
「今は、休んでおけ…また後でお前の力が必要になる」
「………ん……」
ジェラールに言われるがまま、マホーグは目を瞑る。グラサス・グーラーは敗北し、今ここにいるのは仲間であるマホーグ・オロシである。
その彼女は今…目を瞑り、体力を回復する為に休み始めた。仲間のため、友の為と動いてくれた皆の為に…そして思いを寄せる彼の為に…彼女は今元に戻り、力を蓄えるのであった。
未だこのギルドとの戦いは続く。仲間を取り戻す戦いであったが、それが終わってはいさよならと言う訳にはいかない。ウェンディとジェラールは魔力と体力の回復に務め、今は1度休むのであった。
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「━━━色欲と暴食がやられたか」
マルクが着く前、シンは1人ラクリマに触れながらそう呟く。だが彼の外面にも内面にも焦った様子は無い。寧ろ、心待ちにしていたと言われても仕方がない落ち着きぶりだった。
「残りは強欲…怠惰、憤怒、嫉妬、そして傲慢か……」
シンはラクリマを通して得られる力を、ゆっくりと観察する。部屋から送られてくる魔力が、呪力がシンに新たな力を与えていく。それは何も
「……滅悪魔法は、相性が悪いが…なるほど氷の造形魔法。これは使い勝手が良さそうか」
━━━戦いを終えたメンバー全ての力を、シンは得ていた。だが練度は足らず、持ってないアイテムは使いようがない。換装魔法は換装先がなければ意味は無く、練度の足りない魔法は使い勝手を考慮しなければならない。
「くく……こうも研究が捗りやすくなるとはな…次の幹部達は、更に強くなるだろうな…滅悪魔法が得られた事もいい結果だ。滅悪魔法に耐性をつけれるかもしれない…夢が広がるな」
まるで子供のように未来に期待を寄せるその思考。万人が恐らくは唾棄する程のものなのだが、本人はそれを気にしない。彼からすれば全ては研究材料となり得るというだけなのだから。
「さぁこいマルク・スーリア……お前使って、研究を一段階あげてやろう…!」
狂った研究者は、意図しない研究結果を待ち望む。それがこの戦いにどういう結末をもたらすのかは…誰も分からないのであった。
魔天装:空気や空気中の物、そしてエーテルナノや残存魔力を自分の魔力を介して操作する技。空気中のエーテルナノや魔力が濃くなければ使用はほぼ出来ない。モーションキャプチャーとVR機器を使い、体で操作するような感覚。何をどう操って動かすかは本人のイメージ次第。
効果は魔龍の魔力による魔法の無効化や触れてる相手の魔力吸収、それと物理ダメージ。使用者本人には見えているが、第三者からは見えない。尚マルクだけ何となくどういう動きなのかは感じ取れる。因みにマルクには同じことは出来ない。空気も魔力もエーテルなのも操作できる魔天竜だからできる技。
アノマリートレナージ:原因を喰らい、食らったところを治す技。
病巣や複雑化した状態異常系の魔法を一旦無効化できる。ウェンディ自体基本的に傷を治したり状態異常を治したり出来る為作者的にはあんまり出番出てくることは無い。
原作で可能な範囲があるとすれば、ゴッドシードのドゥームの死の運命を文字通り食らい消滅させられる、という感じです。なおこっちも消費魔力が多すぎるのでほぼ使えません。