蒼の電撃を身にまとい、キリンは目の前の敵を殴り飛ばす。願いを叶えすぎる空間、魔呪法『
だが…幾度となく訪れる死は精神を削り、心を軋ませ…メンタルを崩壊させるだろう。その時が、明確な死の瞬間である。しかしその流れが今、崩されていた。
願いはキリンには届かなかったのだ。強欲担当アヴァルティアは、頭を回すが…情報を得る為に願いの方向性を変えていく。
「どうなっているんですかそれはァ…!」
「お前自身で確認してみろや!!」
死の願いはキリンに届かない。ならば他の願いならば届くのか?アヴァルティアはキリンに直接かかる願いをやめ、間接的に干渉できるような願いをし始める。
「なら、これならどうです!!!」
「ほう…!」
異形の九尾と化した姿で、前足を振り下ろす。砕けた瓦礫達が、願いによって変質していき…まるで生物のようにキリン目掛けて飛んでいく。高速で逃げられるか、それとも砕かれるか。まずはこの二択のどちらかを持ってして、願いが直接届かなかった原因を探ろうとしていたのだ。しかし結果として…どちらもハズレであった。
「━━━よう、読みは外れたか?」
「なっ…!?」
しかしその瓦礫全てがキリンを貫通し…そのまま消失してしまう。まるでキリンに飲み込まれたかのように消え去ってしまった瓦礫達に、アヴァルティアは困惑を出してしまう。
「消えた…!?いや、砕いて…けどそれなら破片は…!?」
「へへ、さっきまでの余裕綽々って態度は…もう無さそうだな」
「ぐっ…!?」
アヴァルティアの態度が崩れ去る。目に見えない速さで粉塵すらも出ないほど粉々に砕かれたのか、それともまた別の要因なのか。それを考えている間にも、キリンはそれを待つことはなく攻め立ててくる。
「ッらァ!!!」
「ぐうっ!!」
電撃を纏った拳の一撃、そして追撃を入れるかのように入る電撃そのものの一撃。魔呪法によって異形化はしたものの、それ自体に何か特殊な能力がある訳ではないのだ。
魔呪法で干渉すればいくらかはそれらしい事はできるが、鎧のようなものでもなく…安定のために使われている霊力によって変質しただけの姿には、キリンの苛烈な攻撃を防ぐ手段は存在していない。
「こ、の…!」
「当たんねぇよ!!」
こちらの攻撃は当たらず、そして向こうの攻撃は当たる。当たらないというのも躱されているという雰囲気はなく、どちらかと言えばすり抜けていると感じてしまう…と、考えたところでアヴァルティアに閃きが訪れる。
「ッ……!!!なん、と…!空間ッ!!!空間ですねッ!!!!ならば…!」
彼女は気づいたのだ。空間を司るミサキの魔法、それを喰らい無理矢理その魔法を自分の形へと押し広げているのを。ミサキの魔法は強力な魔法だが、稀に相手に主導権を握られる場合がある。エルザに1度空間を乗っ取られた時があり、その時の同じようにしたのだ。キリンに主導権を譲り、空間を操作するミサキの魔法と雷を司るキリンの魔法が今一つとなっているのだ。
「あ…?」
「
獣の顔になっているが、それでさえも分かるほどに彼女の口角が上がる。不気味な笑みだが、キリンはそれにより更に早くカタをつけようと気持ちを改める。
「
「ンだ、そりゃあ…!?」
アヴァルティアの尻尾が伸び、見た目にもわかるほどに細く尖る。硬度もあるだろうとキリンは推測する。何か一撃を入れられる前に…と、空をかける。
それと同時に9本の尻尾も同時に動く。突き刺しに来るかのような動きに、雷の速度を持ってキリンは対応する。早いが、見えないほどではないのだ。しかし━━━
「忘れてないでしょう!!私の強欲!!!」
「すまん忘れてた!!!」
キリンの魔法のコピー。それにより速度だけはキリンと同等となった。しかし動かす練度が足りない。キリンは空間を操作する魔法を食らったことで、多少の操作を可能とした。
空間に面を作り出し、そこを足場として空中でも自由に跳び回れるようになったのだ。故に尻尾の隙間を掻い潜り、アヴァルティアの顔へと迫れるのだ。そして…一撃を当てる。正確には一撃どころか速度のせいで10の打撃とその追撃で襲いかかる雷撃があるのだが。
「うがががががががッッッッ!!!!!!」
「ッとォ…!!」
さらなる追撃を入れようとしたところで、尻尾が襲いかかる。キリンはそれを躱す事に成功するが、ふと俯瞰してみるとアヴァルティアの様子がおかしい。
「うふふふ…なるほどなるほど……ただ行ったり来たりしてる訳では無いのですねぇ…!」
「あ…?」
「『適応』するには、まだ時間がかかりそうですが……えぇ、えぇ…私の強欲はこんなにも素晴らしい…!」
「何を言って……」
「貴方のその力…私のこの魔呪法内、現実空間、相方の方の魔法による空間…
「…で?」
「私が飛ばした瓦礫は、青き空間と同じ場所へと消えた…他の攻撃は魔呪法外の空間を得ることですり抜けさせていた…理解が難しい魔法ですが、対応するのは強欲の成すべきところ…私は願いました…『相手の魔法をもっと良く知りたい』と!!!!それにより!瞬時にではありませんが…あなたが私に触れる度!私が貴方に触れる度!私はあなたの魔法の性質を知っていく!あなた以上に知げぶぉっ!!」
「長い」
今までよりもさらに重い一撃を、キリンは放つ。理屈はともかくとして、今のキリンの状態を完全に対処されてしまうと今度こそ手が無くなるのだ。故に、魔力消耗を抑えていたが…抑えずに叩く事にした。長期戦も危ないと判明した以上、短期決戦しかないのである。
そして殴る、殴る…ひたすらに殴る。雷を込めた拳はアヴァルティアの体力と意識を徐々に狩り取っていく。
願いの力によって電撃そのものによる麻痺耐性はこっそり習得しているのだが、如何せん拳が重い。単なる電撃でも、単なる拳でもない…雷の力をまとい破壊力の増した一撃はただひたすらに彼女の脳を揺さぶるのだ。
「おぶぁ!!ぎっ!ごぶっ!!」
「しぶてぇ…!!」
祈る、祈る。殴られながらも彼女は祈る。キリンの魔法に対する適応を、自らの意識が繋ぎ止められる事を。思考を常にクリアに回せるようにと。死んだとしても、行きたいという欲望は生きている生物である以上は常に抱き続けている。故に彼女が死んだとしても、すぐに蘇生されこの空間は維持されるだろう。しかし『気絶しても意識が直ぐに戻るように』というのは、中々本能レベルで願うことは難しい。それだけは彼女も、中々できないことであった。故に今は意識を奪われないように常に祈りを捧げ続けながら、尾をキリンの攻撃へとまわしている。アヴァルティアは長期戦を望み、キリンは短期決戦を望む。その戦いが、殴り合いは……長くは続かなかった。
「ぐっ…!?」
「━━━━短期決戦をしようと、全力…出しすぎてしまったようですねぇ……」
━━━キリンが膝を着いた。攻撃は一度も受けていないが、短期決戦をしようと消費を考えなかった為に、魔力が底を着いてしまったのだ。蒼い電撃は姿を消し、いつものキリンの電撃の色へと…黄竜の色へと戻っていた。
「しかし…これで終わりです…適応が完了する前でしたが、呆気ないものですね」
「はぁっ……はぁ……」
「したところで、意味はありませんがね……さてこれでもう終わ…もう1人は、どこに…?」
ふとミサキが自らの意識外にいることに気がついたアヴァルティア。仲間1人で戦わせておいて、自らはどこかへと逃げ延びたのだと言うのだろうか?否である。彼女の魔法を鑑みるに、何かをしていることは間違いではないだろう。だが何を?思考がぐるぐると巡る中で、キリンが呟く。
「………逆は」
「…は?」
「逆は…考えなかったか?」
「何が━━━━」
言い切る前に、アヴァルティアの視界が一瞬暗転し…1面黄色の空間と移り変わる。切り替わった先で思考が追いつかず、困惑を広げるアヴァルティアだったが…たったコンマ数秒のその隙が、敗因となる。
「…は?」
「考える隙は与えないわよ…喰らいなさいな
「がッ━━━!?」
電撃が走る。体に、脳に。その全てに電撃が走り肉体も思考も麻痺していく。最早祈る事さえ許されない電撃の痺れが、意識を奪っては戻し奪っては戻しを繰り返し彼女を疲弊させていく。
「ががががががががががががががががががががががが!!!!!!?」
「キリンが私の魔力を食らっているのなら、彼の魔力私が食らっていてもおかしくはないでしょう?まぁ彼と私で同じ力にはならなかったようだけど」
キリンは電撃はそのままに空間の面を捉え、空中の移動を可能とした。そしてその場にある様々な空間に所謂『当たり判定』を高速で動かすことで、目には見えているが当たらないという状態となっていた。
だがミサキは違う。彼女は『彼女の魔力を込められている物を空間に出し入れできる』という力となった。そしてそれには電撃がチャージされ『チャージされている秒数分の時間、雷属性を与える』というものになった。
つまりミサキの魔力も込められたキリンの一撃により魔力が込められ、今は空間に閉じ込められることで電撃がチャージされているということである。無論、それにアヴァルティアは苦しめられてしまうが。
「あぁ…貴方の空間、折角だから使わせてもらうわよ」
「ががががががが━━━━━!!!!!」
「『貴女は一生何も願えなくなる』って…ね」
このあと1分ほど彼女は電撃を味わっていった。戻った後、元に戻った彼女自身の衣服やアクセサリーなどに着いていた電撃が再び彼女に襲いかかることになり…1分…つまり60時間の苦しみを味わうこととなる。
しかし当の本人は既に意識を飛ばしてしまっているのと、ミサキの計らいによって望むことができなくなった彼女は、無意識で願う事でしか生きられなくなってしまう。本来であれば、敵意や殺意はふとした事で抱いてしまうものだが…皮肉なことに彼女はそうならない性格であった。不幸にも、彼女は他者に嫉妬せず願って自らの力で手に入れていく人間だったのだ。今まで嫉妬することもなくよく部下に願ってきた彼女には……悲しい事に、誰かを嫉妬し敵意を抱いて殺意を滲ませる事は彼女には出来ないのである。
つまりは、そう……彼女はもう何も出来なくなってしまったのであった。
キリンは兎も角ミサキとハクは何竜かは実は分かってないんですよね
そのままの名前じゃね?って思ったけどスザクが異名とは別のドラゴンの力の使い手なので……
なので今回明確な名前も技名もありません。それと力も今回限りで使い切り、という形です。