FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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惰性の怠り

彼女は自らを糸に例える。常に力まず、常に力を抜き続ける。それはまるで張りつめられていない糸の様だと、彼女は自分を昔からそう例えている。

その意図は張りつめられた試しはない。何故なら彼女は生まれながらに怠惰でいることが最適解だからだ。『あり続けなければならない』と言うものではなく、『そういうもの』なのだ。故にその糸が張りつめられるというのは、今まで1度もなく…そしてこれからもないと彼女はそう思っていた。組織の幹部にまで上り詰めていても、その糸が張りつめられることはなかった。何も考えていない訳じゃない、寧ろ利用されるだけされてどこかで捨てられるんだろうというのは間違いなくあったのだ。そこまでいてなお彼女は組織に属し続ける。理由はない、ただ流れのままに過ごしていたらそうなった…と言うだけなのだ。

だが…

その考え方が今少し、変わろうとしていた。何かしらの形で起こるであろうと感じていた大きな戦いの一つ。その戦いの一つに、今彼女の糸がどんどん張り詰めていってるのを…セニティスは自覚しつつも、その糸が張り詰めていくのを止めることは……出来ないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

,

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えずとも…触れずとも……!!貴様を倒す…!」

 

「行くっちゃー!!」

 

スカリオンとマッドモールの戦い。怠惰担当セニティスは様々な糸を作り出しその戦いに挑む…が、彼女にとってこの二人は基本的に相性の悪い二人であった。自らの体を灰にすることで物理攻撃が通らないスカリオン。圧倒的防御力によって、高水準に位置する『並大抵』の力ではダメージさえ与えられないマッドモール。

前者は見えない魔力の糸により灰を掴むことで、体の中に糸を残すことに成功していたのだ。その意図を通じ、セニティスは自らのエネルギーを遠慮なく流し込む。それはスカリオンの体に毒となり全力が発揮しづらい状態へと追い込まれていた。

 

「………鬱、陶……しい…」

 

ワイヤー、炎や水、電撃などの糸、スカリオンに繋いでいると同じ糸…様々な糸が2人に向けて襲いかかる。しかしどの攻撃も一切通じない。セニティスが相手するには、本当に分が悪い相手となってしまっている。故に、怠惰でありながらもセニティスはマッドモールに通用する『糸』を探していた。その間にもスカリオンは全てを灰へと変えてくるので、彼の相手も同時に行っていく。

 

「方、法………………変、え……る……………」

 

出し続けていた糸はそのままに、彼女はワイヤーを追加で生み出し…束ねていく。そして束ねられた円錐型の物が、凄まじい回転をしながらマッドモールへと飛んでいく。簡単に言えば………糸で作られたドリルが、マッドモールを貫かんと飛んでいるのである。

 

「そのようなものいくら出そうとも……ぐっ!?」

 

「お前は……こっち…!」

 

糸のドリルを骸に変えようとしたスカリオンだったが、瞬間的に視界が遮られる。マッドモールへの追撃をさせないように、セニティスが糸によって壁を作り出したのだ。

そして、その壁からも糸の弾丸のようなものが次々と発射される…体調が芳しくない中で、それでもスカリオンは全力を尽くし動いていく。

 

「消し飛べ…!ブラックアッシュ!」

 

「このくらいなら…鎧竜の…鋼鉄拳!!!」

 

マッドモールは飛んできたドリルが届く前に、タイミングを合わせ…そして破壊する。他のドリルも幾つか当たりはしたが、貫通する前に余裕を持って破壊することが出来た。

それと同時に糸の壁は消し飛ばされ、ほぼ無傷の2人がセニティスの前に姿を表すこととなった。あまりの攻撃つの通じなさに、セニティスは大きくため息を着く。エネルギーを…魔力を送り、体が耐えきれない魔力を与えてスカリオンを一時的に戦闘不能に近い状態に追い込むことはできても、それ以上に魔力を大袈裟に使われるのであればあまり意味をなさない。ブラックアッシュとやらは滅竜奥義に近い技なのだろう、魔力消費が大きいために連発しているようだ。

 

「………動い、ちゃう………から、使い…たく、ない…………んだけど………」

 

「む…!?」

 

「ちゃ…?!」

 

異質な気配を、2人はセニティスから感じ取る。咄嗟に動こうとするが…それよりも早く彼女が自らの切り札を切る。即ち幹部が使える技法…『魔呪法』

 

「魔呪法…『怠縛節(タイバクセツ)』」

 

瞬間、魔力と呪力が彼女の体から溢れ出る。その勢いに飲まれながらも2人は彼女の変化に目を見張る。彼女の下半身は肥大化し、まるで棘のような細長い何かが6本ほど生え…まるで支え棒のように彼女の体を起き上がらせる。そして彼女は……一気に跳び上がったのだ。

 

「なっ!?」

 

「へ、変身したっちゃ!?」

 

「……ううん、違う。魔呪法はその制御のために体を作り替えるんだ。霊力を制御用で使ってるから、所謂東方の…『妖怪』っていう存在が近いのかな…そういう姿になるってマスターが言ってたよ」

 

今までとは全く異なる話し方。まるで喋るのすら億劫だと言わんばかりの喋り方だったセニティスが、スラスラと喋り始める。その違和感に少し恐れを抱きながらも……彼女の変化の前には、その恐れはより大きな恐れへと変わっていく。

 

「私は蜘蛛……絡新婦(じょろうぐも)、って言うらしいよ」

 

人間の上半身、そしてそれが下半身…というよりも蜘蛛の頭部から生えている。つまり手足が合計8本あるようなものである。そして異質な彼女は飛び上がり即座に作った蜘蛛の巣に捕まりながら、上下反対の状態で2人を見下ろしている。その様子は文字通り…獲物を狙う蜘蛛であった。

 

「ふ、随分と大きくなったものだな……だが油断していたんじゃないのか?」

 

「……何が?」

 

「貴様の変身時…『糸』が切れたぞ?どうやって我ら二人と戦うつもりだ?」

 

スカリオンはすっかり取り戻した体調に違和感を覚えながらも、敢えて煽るようにセニティスへと言葉を投げかける。先程までの『エネルギーを送る』攻撃ならばいざ知らず、まともな攻撃ならば2人には届かないのだ。故にエネルギーを届ける糸が無くなった以上、スカリオンは二度とそのヘマをするつもりもなければ…油断するつもりもなかった。しかしそれに対しセニティスは一切表情を動かさずに、淡白な様子であった。

 

「……この姿を取った以上、私は呪法を使えない。自分から動くための形態だから。動けば動くほどエネルギーは有限になり、減っていく……()()()()()()()()()()()。そもそも私のこの魔呪法は…1番、理不尽だから繋ぐ必要もなくなった」

 

「…何?」

 

「見せてあげる…怠惰と節制…だらけ、節し、怠け、制する…そんな私の魔呪法を…!」

 

そう言いながら、たわんだ糸をセニティスは上から大量に落としていく。今までの糸は攻撃するためにどれもこれも張り詰めているものだった。だが今は…まるで地面に投げ捨てるかのような雑さであった。しかしわざわざスカリオンに対しては優位性を発揮していた糸を切るほどの技、2人は油断するつもりは毛頭なかった。

 

「全て無力化するぞマッドモール!!」

 

「わかったっちゃ!」

 

二人は迫り来る糸を吹き飛ばし、無力化する為にブレス等の遠距離技を構える……が2人はセニティスの罠に引っかかってしまう。それに気づいたのは、魔法を放とうとした瞬間であった。つまり…時既に遅しなのだ。

 

「はい…引っかかった」

 

「うぐっ!?」

 

「がっ…!?」

 

魔法は霧散してしまい、そして同時に2人は魔力を寝ることができなくなっていた。そして気づいた、降ってきた糸は罠だったのだ…と。しかしこれは1段階の罠ではない………彼女が自信を持ってして『理不尽』というこれは彼らの予想を上回っていたのだ。

音もなく、一切のダメージもなく、一切の重さなく……彼女が自由落下させた糸達は綺麗にスカリオン達に被っていく。それはさながら祝い事に使われるクラッカーのテープを被ったようで……

 

「ぁ゛………」

 

「ッ…………」

 

「……そもそも魔呪法っていうのは、霊力で制御してる内側に魔力と呪力を見たし、その空間に錬金術でルールとして変質させ固定させる技なの。故にそのルールは…空間内で私達が作ったもの全てにまとわりつく。私が作ったこの空間に作ったルールは…『魔法に制限をかける、その代わり魔法を使わなければ使わない程に睡眠欲が湧いてくる』こと…けど私はそれを応用した。魔呪法内で、魔呪法と同じ理屈で…糸を作った。その全てに、別々でルールを儲けた……

1つは『思考に制限をかける、考えなければ考えないほど恐怖が無くなる』

1つは『筋肉の動きに制限をかける、動かなければ動かないほど体の不調が治っていく』

1つは『意思の働きに制限をかける、何も決めなければ決めないほど空腹が収まる』

1つは『心臓の鼓動に制限をかける、小さくなればなるほど魔力がみなぎる』

…………メリットの効果は可能なら付与したくはないんだけどね。こればっかりは仕様だから仕方ない。私達の魔法と呪法を掛け合わせた技なんだもの…怠惰の呪法はやらなければやらないほどに強くなる呪法だからね」

 

つまり…スカリオン達は魔法を使うことも、考えることも、動くことも、突き進むことも、心臓を動かすことも…徐々にできなくなってきているのだ。あと数分もすれば2人の心臓は止まり、その命を終えてしまうだろう。これを初めから使えば良かっただけの話だが、彼女が生来の面倒くさがりなのだ。それは自分の所属する組織がどれだけ危機に瀕しても変わらないだろう。それ故に、この切り札を温存していたのだ。

 

「…これならどれだけ防御が強くても関係ない。まぁ、相手が貴方達だから切った迄だけどね…これがもしナツ・ドラグニルやグレイ・フルバスター、マルク・スーリアの誰かなら危なかったかもね…1人はなんか溶かしてくるし、1人は滅悪だし、もう1人は同類で…しかも暴食だし……けど…単なる竜喰らい程度では勝てないよ、私達は竜の対策の為にずーっと研究されてた存在…だから勝てなくてもしょうがないんだよ……ま、多分聞こえてないよね」

 

既にスカリオン達は冷めぬ眠りへと連れ去られかけてしまっている。だが完全に終わるまではこの形態は維持しなければならない。万が一でも、億が一でも負ける可能性を残してはダメなのだ。結局この切り札を切らなければ、この2人に勝つことはできなかった。魔法そのものを封じてしまえば誰だって太刀打ちできない…はずなのだが先程上げた面子だけはそれでも突破してくるだろうと踏んでいた。

 

「…ま、そろそろ心臓の鼓動も止まるだろうし…もうあと5分すれば解除していいか」

 

「━━━━」

 

「━━━━」

 

2人のドラゴンイーターを見下ろし、セニティスはつまらなさそうに欠伸をする。怠惰と節制、2つの力を行使している彼女は先程までの苦戦とは打って変わってあっという間に終わってしまった戦いに辟易していた。

彼女は戦いを好まない、面倒だから。彼女は力を行使するのが好きではない、面倒だから。彼女は動きたくない、面倒だから。その面倒くささで一度はグレイに負けているというのにも関わらず、その姿勢は崩すことはない。

 

「ふぁ……待つのも面倒だけど、さっさと切り上げるのも面倒……」

 

「━━━ッ」

 

「……………今動いた?いや、動けるわけないか…」

 

━━━━スカリオンは、骸竜である。灰では無く、骸。骸とは基本的には生物が死した際に最終的に辿り着く境地だ。つまるところ彼の力は物を灰に変え、灰を操作する力ではないのだ。

骸、即ち『死』。彼の仲間には魂だけの存在がいたが、方向性は違えどスカリオンもまた『死』に関する力なのだ。しかし悲しいかな…他の滅竜魔導士とは違いドラゴンイーターは親であるドラゴンもいなければ、当然力のことを教えてくれるドラゴンもいない。力の質は高いが、力に対する見識は低いのだ。

だからこそ、実体験でのみ力の真髄に触れることができる。そう、すなわち今の彼は…()()()()()()()()()()()()()

しかしその事にセニティスは気づかない。知識は多少あれど、他人に対する興味も彼女は持ち合わせない。『単なる敵』と侮ったことが彼女の敗因になる事は…彼女自身、分からないのであった。

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