骸竜…スカリオンの魔法はありとあらゆるものを骸にする力である。炎、氷、水でさえも灰へと変えてしまう強力無慈悲な技だが…スカリオンはこの力をあまり使いこなせていないと薄々感じていた。
能力としては破格に強いが、ナツ達に明確に負けてしまったドグラ大迷宮での戦いでふと感じてしまったのだ。使いこなせていれば勝てたのではないか、と。
そも、ナツ達1,3世代の
それは魔法の師事を受けたかどうか、だ。第5世代と似たような立ち位置の第2世代にも言えることだが、魔法の師事を受けているか否かで目指すべき練度の差が明確に出てくるのだ。
単に力を得るだけなら、実際第2世代や第5世代のように竜の力を体内に宿すだけでいい。実際、スカリオンと戦ったラクサスは強いのだ。だが果たして彼は本当に力を宿しただけか?否である。そもそもラクサスは滅竜魔法を隠してギルドのトップにたっている。
しかしスカリオン…引いてはディアボロスというギルド全体で蔓延っていた空気感は、竜を食らうこと。力を得るために、ドラゴンを殺すというその空気は…練度を高めづらい環境に置いていた。故に、彼らは
「━━━━そう、か」
「………は?」
糸に絡まれ、ありとあらゆることに制限をかけられる。魔呪法
「なんで生きてる…?」
「……生きていない。俺の力は骸竜…灰ではないのだ。死にかけている今、その深淵に指がかかったようだな」
「そんな事が…!!」
「起こってしまったものは仕方ない………だがしかし、この覚醒も長いこと続けてられるほど…精神が持ちそうにないな」
足の底から頭のてっぺんまでが、冷え込んでいる。体が固く、指の1本すら無理に動かしているこの状況。冷え込み無となっている自らの『魂』を感じ取り続けるのは、スカリオンにもキツかったのだ。今の所は、彼もマッドモールも死にかけているだけで死んではいない。だがもう少し放置していると、彼も危うくなってくるところである。つまりは…これからすぐに決着をつけねばならない。
「ッ……!」
セニティスは歯噛みをした。尽く相性の差が悪かった為である。完全に相性が悪いと思っていたのは、グレイと暴食の力を持つマルクだと思っていた。相性以前の問題なのがナツだと思っていた。
だがまさか、この二人にここまで苦戦させられるとは全く感じていなかった。この2人こそが、明確な相性の悪い相手だったのだ。
セニティスの魔呪法は、使用中動くことが多々ある為に呪法によるエネルギーの無限回復が行われづらい事がある。しかしそれはほんの数分間という程であり、しばらく待てば勝手に解決するのだ……なぜなら相手が死に至るのだから。
しかし今回は例外である……相手は既に死に至り始めており、呪法を利用した過剰エネルギーの贈与による身体機能不全を起こす戦法は通じず、物理的な攻撃はもとより通じない。魔呪法の最中でこうなのだから当然魔呪法も通じない。つまるところ……決定打が無くなってしまったのだ。
「ふざ…けんなよ……!!!こんな、こんな都合のいいことが…!」
「申し訳ないが………さっさと終わらせたいのでね、『彼』も起こさせてもらうとしよう……マッドモール!!」
「…無駄だ!!同じように死に流れるようにしたんだぞ!?呼びかけた程度で起こるわけが━━━!」
「━━━っちゃ…?何が起こったっちゃ…?」
「━━━はぁ?」
セニティスはマヌケ声を上げる。何事も無かったかのようにマッドモールが蘇ったからである。骸竜という理屈を振りかざしたスカリオンは、腹が立つが彼女は理解をした。しかし鎧竜である彼もまた同じ…というわけにもいかない。物理防御がスカリオンよりも優れてるのは、セニティスも理解していた。故にエネルギー譲渡が上手くできなかったのだ。
しかしこれは違う、ルールという概念を防げるほどあの鎧は万能でも頑強でもない。では、何故か?
「骸となった身でこそ出来るようだが……対象を骸にすることができるのならば、逆に骸から脱却させることもできるという訳だ」
「いや……そもそもこの空間自体に魔法禁止の縛りを設けている!どうして、魔法が使える!!」
「ふ…
「はあぁぁぁぁ!!?」
そんなことがありなのか、いや起こってしまってるのだからありなのだろう…という納得はせざるを得ないが、それにしたってと言う話である。
「貴様のこの技は一時的な技であり、普遍的に存在し続け…これからもあり続けるものではないだろう?」
「……?」
「水は腐り、炎は燃え尽き、ルールは形骸化し、結界は消される……簡単な話だ。
「えぇ……」
最早セニティスは、詳細の理解を放棄した。何故ならもう勝てる気がしないからである。しかしそれでも、一応はやらねばならないのだ。そもそもこのパワーアップも一時的…時間が経てばスカリオンのこの異様なパワーアップも元に戻るだろう。但し、もう一度同じことをしても恐らく同じことが繰り返されるだけだが。
「…まぁいい、貴様にトドメをさしてやろう」
「よく分からないけど……同じく、っちゃ」
「………あぁ、もう…あぁもう!!
自暴自棄と化したセニティスから、大量の糸が放たれる。2人は直感的に、それが自分達に制限を化す糸だと察していた。だが…スカリオンは慌てていなかった。右手をセニティスに…まるで、銃を向けるかの如くその指を立てていた。そして、その指先に魔力を集め━━━
「━━━バレット・アッシュ」
その一言と共に彼の直線上の糸は全て消え去り、同時に蜘蛛のような体となっていたセニティスの下半身も消えていた。だが上半身は…セニティス自身はまだ意識を保っていた。
「ぐ、が……!まだ、まだ!!!」
「いいや終わりっちゃ!!」
「あっ…!?」
魔呪法は強制解除された。もう一度使おうにも、既に目の前には物理が通じないマッドモールがいた。仮に使えた所で二の舞になることは確定している上に、なんなら先程よりも早く同じ結果にさせられてしまうだろう。
どれだけ頭を回したところで、今回のこの戦いにセニティスが勝つ道理はないのだ。彼女が忌避したナツやグレイ、マルクの3人は確かに相性が悪いだろう。しかしそれは彼女が彼らの事を『どうしようもない理不尽』だと認識していたからだ。大きな津波で木々が流されたところで、『木は水に弱い』とは誰もならないように……この3人を相手にしたところで、相性が悪いなんて話にはならないのだ。
本当の相性の悪さというのは……どう足掻いても勝てない、そういうものなのだ。
「鎧竜のオオオオオオオ!!!鋼鉄拳!!!!!!」
「━━━━━━!!!」
深く、重く、硬い…そんな拳がセニティスへと突き刺さる。そして勢いよく地面へと落下し、セニティスの意識はそこで失われる。既にスカリオンによって形骸化していた魔呪法は、そこでようやく全てが消え去っていた。
「……終わったっちゃ?」
「あぁ……しかしまさか臨死体験をすることになるとはな…」
「にしても…スカリオン、それ生きてるっちゃ?」
「……今気づいたが、とっくに骸になるのを脱していたようだ。どちらにせよ、いい体験ではあったな」
「二度とごめんっちゃ」
「さて…他の者達の加勢に行くとしようか…」
「流石に生き返りたてだから…休みたいっちゃ」
「………同意だな」
2人はその場に腰を据える。同時にセニティスの拘束をしっかりとしてから、ふとスカリオンは思い至る。同時に技を食らっていたが、マッドモールは死んでいなかったと。骸竜としての力が本格的に出始めたほどにはスカリオンは死にかけていたが、それはつまりマッドモールも同じように死にかけていたということである。しかもマッドモールの場合骸竜に似通った力という訳でもないので、下手をすれば死ぬ事に対する耐性も無いのでは?と思ったのだが、ふと発想が逆転する。耐えれたのであれば、それは即ち耐性があるのでは?と。
「……もしや、鎧竜の本質的な力は…『耐える』事なのか…?」
「……?」
「……だとしたら、鍛えたらもっと堅牢になりそうだな」
しみじみとそう呟くスカリオン。よくよく思い出してみれば、服さえも融解させるほどのナツの炎を、その身に直に受けても尚、焦げてたとはいえ立ち上がれたのだ。即ち火への耐性がそれほどまでに高いということ。マッドモールはただの頑強さというよりも、耐性面でも優れた防御性能を誇ることになる。
今回の件で、スカリオンは自らの新たな可能性を得た。マッドモールも気づいてないだけで、教えれば理解と納得をするだろう。ともすれば、自分の同期のようなものであるチームメンバーの残り2人……その2人もまた自らの力の根源を知れば、もっと強くなるだろう。スカリオンは竜喰らいとしての自分の強さが、まだ伸びることに…少し、楽しみを見出すのであった…のだが。
「…………うん?いや、まさか………」
「どうしたっちゃ?」
「………いや、なんでもない」
マッドモールのあらゆる物に対しての耐性の高さ、スカリオン自身の死への圧倒的優位さ。それを踏まえてもなお…彼らを瞬殺したラクサスのことを、思い出してしまった。2人の受けにおいての強さ、それを超え2人を倒したラクサス。
「なんなんだ…あいつは……」
それを聞いたところで、彼と同じギルドのメンバーからは『ラクサスだから』としか返って来ないので……答えはないようなものなのであった。
バレット・アッシュ:ブラックアッシュより強い!速い!くらいの技イメージです