男は信じる。何を信じる?『神』という存在を。しかし男は神話上の神という存在ではなく、いわゆる『自分が信じ仰ぐ』存在のことを神と呼称する。
人にはそれぞれ、神が存在している。子にとっての親、というのが彼の信念に一番近い神だろう。彼にとってのその対象は自らのマスターとその信念であり、ほかの対象はそれに値しないものではあるが……『そういうものなのだ』と理解する。
彼がマスターにとって使い捨ての道具というのは初めから理解していた。しかしそれでも、その信念は彼にとってはとても神と崇めるに相応しい物であった。
彼の思考は、精神は、信条は、性格は…全てが世間一般から外れているものだった。しかし彼はそれを直そうとは思えなかった。今の所属組織でも外れてしまっているが、彼はそれを直そうとはしていない。唯一直そうと思えるべきところは怒りが制御出来ないことだが、怒っていても冷静な判断が下しにくいその怒りを直そうと思っているのだ。別に、怒りやすいところを直そうとは微塵も考えていなかった。
そんな彼は世間一般で言うところの………『地雷が分からない癖に沸点の低いやつ』という認識の、厄介者扱いである。
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「━━━ハゲがいるな」
「いきなりそれはねーだろがよォ…」
「君はその言葉遣いを罪だとは思わないのかい?」
「全く」
「自己中だったわ、コイツはよォ……」
この場に集うは、ディアボロスの三人衆。裁竜のスァーヴァク・ユーディカーレ。奪竜のダーツ・サンオーファー。史竜のレーク・イーシー。
3人は気がつけば同時にある部屋にたどり着いており、その部屋の中央にいる人物に、同時に意識が向いた。そして開幕の…スァーヴァクの一言である。
「どうせ悪魔に魂を売ったのだろう?嘆かわしい存在だ、罪しかないではないか」
「…………はぁ、貴方は裁竜のスァーヴァクですね?」
「ほう、罪ありきの者でも俺の事を知っているか?」
「貴方の信じる物は、なんですか?人でも、物でも、概念でも…何でもいいですよ?」
「俺が信じるのは法ただ1つ…………つまり、俺だ!!!」
「要するに貴方は自分が法だと認識している異常者なのですね、それでしたら確かに法を信じている=自らを信じるということに相違はありませんね」
「「ぷっ……」」
憤怒担当『フォーラー・イラ』…彼は平然とした対応でスァーヴァクを煽る。その言葉に他二人は笑いをこらえきれていなかったが、スァーヴァクはやれやれと言わんばかりに首を横に振っていた。
「正義は法、法は裁きを与える物、であるならば裁竜のこの俺は正義そのものだろう?逆に、悪魔に魂を売ったお前は文字通りの悪だ…何か間違っているか?」
「間違いしかありませんね…あなた個人の思考を押し付けないでもらいたい。まず法は正義ではない、間違っても神でもない………知っていますか?『悪法も法なり』という言葉を」
「……何が言いたい?」
「法は個人の味方であり、個人の敵である。その数が多いか少ないかだけであり、法を司る立ち位置に近いほど味方になりやすいと言うだけ……貴方は裁く者ではあるが、正義では……ない」
その瞬間、スァーヴァクの側面から突如として謎の化け物が現れ殴りかかっていた。咄嗟に気づいたスァーヴァクはすんでで避けるが、逆に言えばその気配に直前まで気づくことができなかったのだ。
「…なんだ?」
「…そいつの出した生命体だ!星霊程じゃない、近しいところで言えばアルドロンの上に住んでいた人間達のようなものだ!!」
レークの言葉に、スァーヴァクはピンと来た。アルドロンの上にいた人間達…人間のような姿こそしていたが、アルドロンが起き上がる際には皆アルドロンへと還っていったのだ。つまるところ、まともな生命体ではないという話なのである。
「そうか…ある程度、出す位置は選べるという訳だな?」
「えぇ、その通りですよ……それと━━━」
ふう、と一息つくフォーラー。その瞬間彼の体から、まるで竜巻のように炎が吹き上がる。同時に彼のこめかみは前頭部にまで血管が浮き出ており、炎の中でもわかるほどに真っ赤に顔が染まっていた。
「━━━私相手に不躾な態度だなコソ泥ォ!!!!」
「あ゙っづ!!!?」
気配を消し、後ろから近づいていたダーツ。彼の力で一時的にフォーラーの魔法と呪法を奪おうとしていたのだが、それは叶わず。燃えたぎる炎を前に、弾き飛ばされてしまっていた。
「分かっているぞ貴様の力は!!私の魔法と呪法を奪おうとしたのだろう!!そう簡単に終わらせるわけがなかろうが!!」
「チィッ…!」
「史竜と奪竜など恐るるに足らず!!唯一の懸念点は裁竜のみだ!!」
「ほう、吠えるだけが脳の怒りに燃える赤だるまがよくも理解できたものだな!!!!そうだ!竜は恐れ!悪魔さえ恐れおののく!!!それが俺だ!滅悪がなくとも滅ぼせる悪魔など俺の敵にすらならん!!」
「ならばァ……貴様を倒し悪法を終わらせるとしよう!!」
フォーラーの炎が成りを沈めていく………が、その体には僅かに炎が残っていた。まるで体に生える産毛程度の短さだが、その炎は蒼炎となっていた。
「我が炎!怒りによって猛威を振るう呪いの炎なり!内に溜め込めば溜め込むほど……その猛威は、より強く、振るわれる!!」
「あ゙っづ…!?」
炎の勢いは、はっきりと言えば見た目には全く反映されていないだろう。産毛程度から、よく見なくても分かるほどに体から伸びている程度…ナツと比べればその炎の勢いは小さなものである。
しかし、温度はそうでは無い。ナツの様な服を溶かすほどの高音にはならずとも…体からほとばしる熱気はこの部屋内の温度を一気に上げてしまっていた。それ故か、気づけば3人の体表面は乾き…唇が割れ血が流れ…即座に固まるほどであった。
「サラマンダーの方がやべぇが…」
「あれは規格外だけどね…こっちも、まずいか…あれ並とまでは言わないがこのままだと……」
「超え可能性があるか、炎竜王を……」
3人は判断した、即座に目の前の敵を滅ぼそうと。それを察したのか、フォーラーが召喚した化け物が3人に向かって襲う……が、その体は3本の剣によって貫かれていた。
「悪魔を滅する裁竜の力…複製しないわけないよね」
「レークがコピー、それを俺が奪い物にし…またレークがコピーし直す」
「不服ではあるが、この場に3人の裁竜が揃ったというわけか」
コピーした裁竜と本来の裁竜の計3人分。その力を宿した刃が化け物を貫き、そしてその化け物は消え去っていった。しかし油断はしない。1度出して消されれば、暫くは出せないというのは誤りである。
「それにしても…醜い化け物だった。蝙蝠の翼、牛のような大きな角、怒り狂った顔は…あぁそうだ、元マスターに似ている」
「…?何を言ってるんだ?鷹の様な鉤爪、月光のような毛並み、どちらかと言えば現マスターのセレーネに近かっただろう?」
「あ゙…?いや、紫の水晶を体に大量にくっつけてんのは…ありゃマルク・スーリアだ」
「「「……何を言っている…?」」」
三者三様、違う言葉を吐いていた。しかし3人全員が、それぞれの言葉が事実だという認識も持っていた。この場で意味の無い嘘を着く意味が分からないからだ。
「……ふっふっふっ…そうか、それが今のお前らが最も怒れる事か」
「……そうか、やつの化け物を生み出す魔法…僕達が今までで1番怒った人物やイメージに引っ張られるのか…明確な見た目はない、と」
「そうだ…単に手足があるというのが共通点だな…」
フォーラーは含んだ笑いを抑えない。炎は未だ昂り続けていることから、その怒りも同様にずっと続いているのだということを3人は何となく察していた。
それ故に不気味であった。確かに炎は痛手だが、あくまでそれは直接触れる場合の話だ。ナツのような魔法や服すらも燃やし溶かす…『燃やし尽くす』という概念が形になったような魔法のレベルでは無いのだ。
「そうか…それで?事実上、3人の滅悪に囲まれている訳だが…降参するのか?」
「するわけが━━━」
即ち、油断せずに一撃をもって戦闘不能へと持ち込む。三者三様に放たれた悪魔を滅ぼす聖剣を叩きつける。どれだけ硬い…それこそマッドモールの様な防御能力を持ち合わせていようとも、悪魔である限りその一撃は必殺の一撃足りうるのだ。
その剣により、遠慮のない致命となる一撃がそれぞれ1人ずつ行われる。一撃もあれば、悪魔にとっては致命傷となる1撃を3度。並大抵なら、それで終わっていただろう。
「━━━なかろう、この程度で」
「………何?」
「あ…?」
「なぜ効いていない…!?」
確かな手応え、レークは動揺していたがスァーヴァクは思案していた。ダーツは顔にこそ出さなかったが…長い付き合いのスァーヴァクの力はよく知っていた為に、この状況に驚いてしまっていた。
「たかが滅悪如きの力で、滅ぼせるとでも?」
「………」
スァーヴァクは思案する。切るために使った剣、それが破壊されているということはなく…同時に相手の服にはきちんと切れ味が着いていた。しかしその肉体からは血が流れておらず、よく見れば体は一切の傷を折っていなかった。
「ならば…!滅竜奥義!!聖天霹靂!!」
その言葉の直後に放たれた魔力の玉から、裁竜の魔力がまるで豪雨のようにフォーラーに襲いかかる。それは悪を貫き、悪を殺し、悪を滅する滅竜奥義。しかし━━━
「……チッ」
「おい!なんで魔法解除してんだテメェは!!」
「…見ろ」
すぐさま魔法を解除したスァーヴァクに対し、ダーツは叫んでいた。しかし、彼に目を向けずにスァーヴァクはフォーラーのいた場所を顎で示す。そこには一切なんの変哲もなく、何事も無かったかのように立っているフォーラーがいた。
「……まじかよ」
「……実態はある、分身体などでは無い。ナツ・ドラグニルみたいな無茶苦茶を発揮してる訳でもない………どういうことだ…?」
一切の反撃すらもしてない、という意見が3人の中で一致していた。かと言って今あげたような理由でもないのも明白である。では一体、どういうわけなのか。
「…史竜の目を持ってしても、分からないことがあるだなんて…」
「触れりゃあ何とかなんのによ…!」
「くっくっくっ……我が怒りの炎はその程度では収まりはせん…!」
3人の困惑は深まるばかり。その余裕からか、フォーラーは自分から攻めるようなことは決してない。しかし3人は諦めない。各々が持てる方法を持ってして…フォーラーを倒すと、ドラゴンイーターのプライドにかけて誓うのであった。