男は『そういう目的』の生物であった。
呪力を産み、魔力も産み、それらを自力で運用することのできる生物であった。しかしその為に感情の抑制が利かず、本人も自分のために治すつもりはあった。あくまでも、感情によって消し飛ぶ思考ではいつか死ぬと判断したためだ。それ以外の場所で抑えるつもりも毛頭なかったのだ。しかしそれでは神と崇めるマスターの為にならぬと判断し、彼と話す場合も追加していた。
それによって彼はある1つの呪力の可能性に気がついていた。感情を抑え込めば抑え込むほど、彼の持つ呪法の力が彼に意外な効果をもたらしていたからだ。
彼の呪法は怒りによって燃えたぎる炎…と書くと、正解ではあるが正確では無い。彼の呪法は『自らを炎の様な体にする』呪法なのだ。そのために怒りという感情を燃料にしているだけなのである。そして、『炎ではない』というのがキモなのだ。彼自体の質量はそこに残っている。故に殴ったり斬ったりすることはできる。通じるかは別だが……
だがそれをバカ正直に教える程、彼は敵に甘くは無い。そもそもこの戦い自体も、マスターのために捧げる茶番でしかないのだ。故に相手に魔力を使わせ、少しでも多種類の魔力を満たしておくことに意味があるのだ。果たしてその目的を、スァーヴァク達が気づけるかは……神のみぞ知るところである。
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「はあああああ!!」
「おらああああ!!!!」
光り輝く聖剣がフォーラーの体を切り裂いていく。しかし確かな手応えはあるのにも関わらず、その体には一切の切り傷が付かない。違和感は募っていき、同時にその状態を見ているレークは答えを絞っていく。
ダーツも合わせて貰い受けたコピーの裁竜の力を行使しているが、一切の手応えがない。そして相手からは戦いとは思えないほどに攻撃の手が緩かった。魔法による召喚術も使用されず、相手にすらなっていなかった。
「……大凡は掴めてきたな。貴様、物理攻撃を呪法で躱しているな?いや、魔法攻撃も当たらない以上…『そういうもの』か」
「ほう……」
「そもそも触れることができない状態ってことかよォ…!」
「……仮にそうだったとして、では貴様はどうする?純粋な魔法も、物理も通じないこちらに一体どう対処する?それとも…降参するか?」
「はっ、悪魔がほざくな。貴様は呪力の無限製造機関ではないだろう……ならば尽きるまで攻撃するだけだ」
スァーヴァクのその言葉に、フォーラーは溜息を着く。わざとらしく首を横に振りながら、スァーヴァクを煽っていく。しかしその様子にも、スァーヴァクは不遜な笑みを崩さないでいた。
「呪力の残り量も分からないのにか?随分とまぁ裁竜の
「ふん…買い被っていないどころか、貴様の薄塗りの余裕を剥がす事さえ可能だぞ?」
「…何だと?」
「貴様、先程の人によって見え方が変わる化け物…それを召喚しないのは、『しない』のではなく『できない』の間違いだろう?」
「ア?」
「……そうか…感情…『怒り』か。奴の炎も、先程の化け物もその2つを使っているという事だな?」
「流石だなレーク、お前もその答えにたどり着いたか」
指を鳴らし、自分の事のように自慢げな顔をするスァーヴァク。なんの事だか分からないダーツだけが、説明を求めるようにレークに促していた。
「…やつの呪法と魔法は、相性が悪いんだ。どちらかを使えば、どちらかが使えなくなる…何故相性が悪いか?やつは化け物の見えた姿に対して、『恐れ』という言葉を使った……が、それはブラフだ。種明かししない程度の意味しかないだろうが……」
「………」
チラリとフォーラーへと視線を向けるレーク。彼は動くことなく、しかしあからさまに不機嫌な表情でレークを睨みつけていた。それが証左だと言わんばかりに、レークは溜息を着く。
「恐れ…即ちトラウマということなのだろうが…セレーネは兎も角、元マスターやマルク・スーリアにはそれほどの恐れは抱いていないだろう…特にスァーヴァクは」
「当たり前だ、どちらかと言えばあの粗暴さには腹が立つほどだな」
「…………怒り、って事か?」
「その通りだ。化け物を作るエネルギーも、見える姿の違いも『怒り』が原点になってるんだ。そして、奴は怒りを継続させやすい性格のようだが…先程から動かないのと、化け物を呼ばないのは…怒りが継続させにくくなるからだろうな…理由は定かではないが」
「時間稼ぎの側面も勿論あるのだろうが…動けば、それに思考が割かれる。割かれてしまえば怒りをどこかで忘れる可能性もある…故に、攻撃行動には移さず…おっと」
言葉を続けようとしたスァーヴァクに向かって、炎が放たれる。それを軽々と避けたスァーヴァクは、煽るような笑みで…フォーラーを見る。
「ベラベラと…喋っているんじゃあ、ないぞ!!!」
「ハハハ、図星をつかれて焦っているのか?感情を消費する…正確には怒りを消化させて冷静になってしまうのだろうな!化け物自体も、出せばするだろうな!しかし我ら3人集えば事実上滅悪が3人!滅悪でなければ同時展開もしていただろうが、そうはいかないという冷静な判断が!貴様の怒りを鈍らせる!!」
フォーラーの魔法『
化け物を生み出すことは変わりないが、それは捧げた怒りの分だけ仕様が変わる魔法なのだ。感情を一定量捧げるか、常に捧げるか。一定量捧げた場合捧げた感情の強さによってその強さは上下する。ジェラールとの戦いの時は、一定量だけ捧げていた。何故ならジェラールの魔法は滅悪では無いからである。
しかしこの3人…取り分けスァーヴァクは違う。自身が悪魔の力を1部でも持っている以上、呪力の絡まない魔力による生命体であってもフォーラーの影響を受けてしまうのだ。故に常に捧げて力を上げさせていたのだが、よりにもよって能力をコピーする史竜と能力を奪う奪竜がセットできてしまった。実質三倍、相性の不利は凄まじいものであった。
「━━━いたし方ない、か…!」
「なんだ、負け惜しみか?」
「いいや…!だが、しかし…!貴様らと私の相性が悪いことは認めよう…!それ故に、私は自らの体を捧げてこの戦いを終わらせなければならない…!」
千日手…このまま目的である時間稼ぎをすることは簡単ではあるが、それは事実上の敗北。しかし自らが敗北しても、最終的にマスター・シンが勝てば自軍の勝利である。
「故に発動させよう!我が魔呪法!!発動せよ!
その言葉と共に領域が広がる。三者三様、それぞれがその領域に反応していた。炎が燃え広がり、しかし自分たちの体を燃やすわけではないその炎に疑問を抱きながらも…異様な姿へと変質したフォーラーへと目を向ける。
「ほう…炎の馬…ペガサスか?随分とまぁ調子に乗っているものだな?」
「異様な光景だなァ、オイ」
「霊術と錬金術も使った、結界術か…一体どんな効果だ…?」
「━━━それは、今から貴様らの身をもって知る事だッ━━━!!!」
炎のペガサスとなったフォーラー。大きさは優に3Mは超えると思われる巨体だった。しかしその巨体に対して、周りに燃え広がる炎がまるで意思を持ったかのように
「「「なっ!!!?」」」
「ぐ、がぁぁぁぁぁ!!?」
「なんだ、お前何をしッぐうううううっ!?」
「レー、グッ!!!?」
「くっ…!?どうなっ……ッ!?が、は……!!」
そして、それに続くように3人にも炎が突き刺さっていく。当然炎なのだから熱く、そして突き刺された箇所と…そこから燃え広がる炎によって体が焼ける痛みを味わい始める。
「ぐおおおおおお!?!!!!?」
「ぐ、があぁ…!?」
「ン゙だ、ごれ゙ぇ゙…!?」
「馬鹿、な゙ァ゙…!!!!」
━━━魔呪法、怒犠信。それは怒りだけに限らずありとあらゆる感情の揺れを察知し、周りに広がる炎がその者に突き刺さるというものだった。フォーラーも例外ではなく、幾重にも炎に突き刺されて体も心も焼けるような思いを味わっている。
この魔呪法、見た目だけならば体自体が焼けているように見えている。しかし、肉体的なダメージはほとんどないのだ。焼いているのは、心。そして脳には、体が突き刺された痛みと焼ける痛みがあると錯覚させているのだ。
感情を揺らせば揺らすほど、その痛みは強くなる。フォーラーがこれを初手から使わなかったのは、相打ち以上に持っていくのが厳しいからだ。しかし、この手札を今切った…それは単にスァーヴァクが気に入らないというのが1番だが…滅悪を持っている裁竜の力を、ここで潰そうと考えたからだ。
悪魔は竜程不死身ではない、滅悪が無くとも倒せる。あればかなり楽ではあるし、簡単なエンチャントだけならナツ達の中で滅悪を持っていない者達は皆しているのだ。しかしエンチャントはいずれ切れる。自前で持つもの…または少し特殊なタイプの者。スァーヴァクは前者で、残り2人は後者である。その二者は、潰さなければならない…マスターの未来のために。
「ぬおおおおおおお…!マスター・シンよ!!!!貴方様の悲願のため!!!!!今、ここで…こやつらを抹消しましょうぞ…!!!!」
フォーラーは焼かれる。焼かれることに怒りを覚え、さらに強く焼かれる。他三者は痛みによって感情が定まらなくなる…それにより、さらに強く焼かれる。
段々と痛みが強くなっていくこの空間によって、スァーヴァク達は今…文字通り燃え尽き始めたのであった。