「ぐおおおおおおおおおおお!!!!」
「ぐうううううううううう!!!!?」
「ガアアアアアアアアアアア!!!?」
「ぐああああ…!!!!!」
フォーラーは最後の切り札である魔呪法を解禁した。その名を
『感情の発露』を標的とし、感情を動かした者を辺りに燃える炎が貫くというものである。当然貫かれれば痛みが発生し、同時に焼かれる痛みもその高温も味わうことになる。更に感情を動かせば動かす程貫く炎の数も温度も上がり、より一層苦しむ羽目になるのだ。しかしこれは実際には肉体的ダメージはなく、精神ダメージなのだ。つまりこれを受け続けてしまうと精神に受けたダメージでショック死か、良くて廃人なのだ。
それをフォーラーも受けている。つまるところどちらが先に倒れるかの勝負ということになる。
「ぐ、ぬううう…!!」
「ハ、ハハ…!貴様自身の、身を滅ぼす技とはな…!呆れる、ほど…愚かだ…!貴様の頭、同様…ツルツルという訳だな…!」
「これは…身を清める技…!感情の抑制を、促し…そして我が心を鍛える技…!強い感情は、身を滅ぼすと…!そう、自らに教え込む技なり…!」
「強がり、言ってんじゃねェぞ…!!」
「だが、どうにか…しなければ…!」
焼ける痛みがあるせいで分かりづらいが、このまわりに燃えている炎は、まともな炎ではない。それっぽく見えているだけの別の何かである。それに気づいていたレークは、どうにかして対策を講じれないかと頭を回す。
単なる水や氷ではこの炎は消せはしない。対策するのは確かに感情の抑制なのだ。しかしレークが今まで味わった経験や、彼の周りにいた人物達にはその対策ができる人物が、存在しない。
「ッ……!!『アレ』やっかァ…!?」
「ッ…!?ダーツ、まさかアレ、を…!?」
「何、だ…!?何か、あるのか…!?」
痛みに苦しみながらも、何かを覚悟するダーツ。その様子にレークは勘づいたようだが、スァーヴァクはなんのことか分からないでいた。
「『感情の奪取』だァ…!!」
「ッ!!」
その言葉に、スァーヴァクも驚いていた。奪竜の力は奪う力というのはりかいしていたが、そのような方法があるとは思わなかったのだ。しかし同時にその方法を即座に試さない事でデメリットがあることもスァーヴァクは同時に察していた。
「ハ、ハハハ!!感情の奪取、だと…!?そんなことをすれば、貴様がどうなるか、わかったものではない、ぞ…!!」
「ンな、ごどォ…!わかっ、てんだよォ…!!けど、よォ…!」
フォーラーは嘲笑う。そんなことができるはずない、と…やれるはずがない、と。事実、感情が無くなった人間というのを誰も知らない。フィクション作品ではこういう場合は効率だけを求めた行動を取る、と言う風に解釈がされる。
しかし奪竜の奪う能力というのは、何でもかんでも好きに奪えるという訳では無い。ある程度はダーツの認識が影響されるのだ。今まで奪ってきたのは大体魔力や魔法等の、ダーツの認識で問題ないものばかりであった。しかし感情となると、ダーツの無意識的な認識によっては…思考や行動に影響が出る可能性があるのだ。無意識は、余程のことがなければ変えることができない。下手をすれば不可逆になってしまいそうな『感情を奪う』という行動。その行動を、ダーツは━━━
「ッ━━━!!」
「ダーツ…!」
「貴様…!」
━━━躊躇なく、行った。奪われた感情らしきオーラの塊がダーツから弾き飛ばされるように打ち出され、同時にダーツを貫いていた炎もダーツの体から抜かれていく。精神的なダメージを与えるだけの炎は、ダーツの体に一切の傷を残すことなく離れていく。
「…………」
「どうだ…!?」
「どうなった…!」
立っては、いた。しかし腕をだらんとぶら下げ顔も俯かせているダーツは、どう見ても無事とは思えない様子であった。ほんの少し、しかしわずか数秒間のその間が、一同には果てしなく長く感じてしまっていた。
「━━━━━!」
言葉もなく、音もなく。ダーツは一瞬の間に動いた。そして
「ッ!?」
「貴様何を…!?」
「敵を倒す」
その一言だけを、ダーツは発していた。2人から奪った力を手に入れたまま、一気にフォーラーの前まで迫る。今のフォーラーは異形…まるでペガサスとなったその姿に、ダーツが迫る。それに合わせるかのようにフォーラーは前足を2本上げて、勢いよく振り下ろす。
見た目だけではない、この姿もきちんと凄まじい脚力が備わっているのだ。それにより繰り出される鋭い蹴りは、並大抵のものを寄せ付けず場合によっては貫いてしまうだろう。
しかしダーツはそれを避けない。彼は目の前に迫る蹴りを認識しながらも迫り……甲高い音が鳴った。
「…は……?がッ!?」
そしてその直後に、裁竜の力で作られた2本の聖剣がフォーラーを切り裂く。フォーラーの蹴りは綺麗にダーツの頭を狙えていた。しかし、狙えていたからこそ……それが油断となった。
「…鎧竜…!マッドモールの、防御能力を…!史竜の力で、再現したんだ…!」
「馬鹿、なッ…!?ぐ、ぬっ……!ぐおおおおおおおおおお!!!!」
フォーラーは叫ぶ。そしてその感情の大きな揺らぎによって、彼の体にさらに多くの炎が突き刺さっていく。その痛みは計り知れないものだろう。だがその痛みが、痛みによって引き起こされた怒りが彼をさらに強くしていく。強く、大きく、そして━━━
「ぐぬ、おおおおおおお!いで、よ!!
「………」
その叫びより、周りの炎がフォーラーへとまとわりつく。怒りで我を忘れる、という言葉を体現しているかのように彼は周りの炎によってその姿が隠されていく。ペガサスだったその姿に炎がまとわりつき、巨大化を果たしていく。
「なんだ、今奴は…何をした…?」
「…恐らく、魔呪法を取り込んだんだ。その上でそれを魔法へと…さっき召喚した化け物を自分を核に召喚したんだ…お陰で、こっちは炎に貫かれなくなって助かったけどね」
自らの傷一つない体を見て安堵するレーク。そして同時に大柄の…下手をすれば歩くだけで街を崩壊させるような、そんな大きさの炎の馬と化したフォーラーを見上げていた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
「…自我を失っているか」
「激情で脳を焼かれたんだろう、まぁ既に頭皮は焼かれているようだが……ダーツ!こちらに力を戻せ!!3人でやるぞ!!!」
「………」
ダーツはスァーヴァクの言葉に反応はしない。ただじっとフォーラーを見上げているだけであった。今のダーツは感情を考慮に入れず、敵を倒すために行動する。
本来彼の力自体は、直接戦闘に向くようなものではない。相手の力を奪う事で、その戦闘力を奪う事と自らの戦闘能力の補助を行うものだ。しかし今の彼はその戦闘力を裁竜で補っている。まとめて結論を話すと、彼は敵を倒すまでその力を返す理由はない。無論━━━
「よいしょっ!」
「がふっ!?」
━━━それを許すレークではないが。
彼は先程ダーツが自身から抜き取った感情…それそのものを、再度入れるために叩きつけていた。
「お前…いつの間に……」
「向こうの馬野郎に興味津々だったからね、隙だらけだったよ」
「というか…それ入れられたんだな…?」
「何かに偶然入ることはないが、奪竜で取り出したものは誰にでも入れられるからね。その前にこっちで入れたりするからあんまり意味は無いが……それよりもほら、来るよ」
3人目掛けて、炎の巨大な馬は駆けてくる。スァーヴァクがそれを認識したと同時に…2人に元の魔法が戻った感覚を得た。ダーツに言葉をかけるよりも先に、スァーヴァクが空を駆ける。
「裁竜の…聖剣!!」
「オオオオオオオオオオオオ!!」
通り過ぎる一瞬で炎の首を跳ねるが、切り飛ばされた方は霧散し根元からは新たな首が生えていた。当たり前の話だが、炎そのものに物理攻撃は通用しない。
「レーク!どうするか考えろ!」
「…仕方ない、『アレ』を使うか。通用するかは分からないが…2人共!中の本体…馬の部分を1部でも引きずり出して欲しい!!あの馬の体なら、技が通用する可能性がある!!」
「だったら切ればいいだろうそのまま!!」
「いいや!先程までの空間…あれは彼にも襲いかかっていた!今それを彼は身に一身に受けてまともな思考が出来ない状態のはずだ!のにも関わらず、こちらに対してだけ攻撃を行っている!」
「つまりなんだァ!?」
「奴はあの炎を一身に受けて尚!頭で行動ができるほどにはその思考が独立している!恐らく想像も絶する痛みを受けているにも関わらず、だ!」
3人が受けた炎。体を貫く痛みと貫いた場所から与えられる焼ける痛みは、思考を鈍らせ感情を荒ぶらせる。それを味わった3人からすれば、今のフォーラーの状態は想像すらできないほどだろう。
「だが奴は暴れ回ることはせずにこちらだけを狙っている!つまり奴は敵を判別して攻撃する程度には思考できているということだ!」
「なるほど…獣程度の思考力はある…ということだ、なっ!!」
フォーラーからの攻撃を避けながら、話を聞きつつ攻撃をしていくスァーヴァクとダーツ。2人が囮になっている間にレークは分析をしっかりとこなしていく。
「そして奴の体はまだ炎の体のままの可能性がある!そうなればこちらの攻撃用の魔法は通じない可能性がある!」
「…つまり、どうするんだァ?」
「滅竜奥義を使う…!本体を露出させてくれるだけでいい!」
「…因みに、初めからそれを使わなかった理由は?」
「対ドラゴンの技ではあるが、単なる攻撃の魔法じゃないんだよこれは!ただでさえ感情がトリガーの奴相手にこの魔法を使うのはリスキーと判断していた!」
「…まぁそういうことにしておこう…滅竜奥義!聖天霹靂!!」
「奪竜の
ダーツから煙が溢れる。この煙は単なる煙ではない、例え滅竜魔導士の五感であっても完全遮断し、100%逃げおおせる技である。つまりこの技では相手からこちらの気配を察することは不可能になるのだ。
そしてそれとほぼ同時に大量の光が、炎の体を貫いていく。フォーラーにダメージはなく、ただ炎の体が貫かれ削られていくだけである。削られ、削られ……頭が吹き飛ぶ。次に前足、後ろ足が吹き飛ぶ。未だ体は見えないが胴体部分も徐々に削られていく。
「………」
その様子を、レークは眺めていた。煙の中では本来は目も耳も鼻も通じなくなるが、奪竜だけは違う。史竜の力でコピーした奪竜の力が耐性となり、煙の中でもしっかりとフォーラーを捉えていた。
「滅竜奥義━━━」
まるで子供がやるように、手で銃の形を取るレーク。その目は本体がでた瞬間を即座に狙い打つ為にしっかりと見やっていた。そうして長く感じる数秒間の後に……その瞬間はやってくる。
「━━━無限始原演算室」
まるで弾丸のように飛ばされたその魔法は、フォーラーの本体へと直撃。その直後……彼の炎の体は霧散していき、同時に現れた本体は馬の体ではなく…元の人の体のフォーラーが現れていた。
「……な、に…したん、だァ…?」
「気絶させたのか?」
「…いいや?気絶なんてさせていない。発動させた滅竜奥義は…そうだな、簡単に言えば『ずっと思考させる』というものだ」
「思考だと?」
「あぁ、お題目は僕の自由…ただ下手なことをお題にすると彼の感情が荒ぶりそうだったんでね。簡単な計算問題をさせている…『ずっと1をたし続ける』というお題だ」
━━━無限始原演算室。詳しく説明すると、この魔法はレークがあるお題を決める。そして打ち出されたお題を、相手はずっと考えるというものだ。そしてこの魔法、レークが解除するかお題をクリアするかで解除される。
しかし今回与えられたお題は正確には『nには自然数が入ると仮定した場合、n+1で得られる回答を全て答えよ』である。つまり回答は無限に存在しており、フォーラーはレークが解除するまで無限に頭の中で回答をし続けなければならなくなってしまった。
そして長く思考すればするほどその思考は深みにハマり、感情を出す暇さえなくなる。仮に哲学的な問題を出していた場合、直ぐに感情が荒ぶり先程と同じような暴走が始まっていた可能性がある。レークはそれを回避したのだ。
「えっぐ…」
「……これで終わり、ということか?」
「一応はね…けど部屋から離れておこう。元の道は知らぬ間に無くなっているが…新たな道が空いている。疲れてるだろうが…」
「行くしかねぇ…ってかァ…」
消耗した体を引きずりながら、3人はフォーラーから逃げるようにして新たに現れた道を突き進んでいき始めるのであった。