男はただただ嫉妬深かった。自らが成長するよりも、相手を蹴落とす方に動くからである。しかしそれが皮肉にも彼の成長を促すことになった。知性を持ち、確実に勝てる作戦を行使し、自らに確実な勝利をもたらす。
しかし彼はそれで満足することはない。何故なら彼は嫉妬深いからである。自分よりも上のものに嫉妬するのは当然のこと、しかし彼は自分よりも下のものにさえ嫉妬する。相手の知性は猿以下の為、自分よりも物事を深く考えない『楽観的』なところに勝手に嫉妬する。無論、それは彼の妄想だ。彼自身は認めていないが、彼はネガティブなのである。
『俺はまとも、あいつは異常』という異常な思考回路によって勝手に相手に嫉妬し、勝手に見下す。それが彼なのである。誰であっても向けるその嫉妬深さは、彼に仲間という概念も友という概念も恋人という概念も存在していない。
何故なら彼は、自分以外の異常な者達を許せる程の心を持っていないのだ。故に彼は孤独であり、孤高であり、一匹狼なのである。
ではなぜ今のギルドに属し従っているのか?彼にとって正規ギルドは頭のおかしい存在であり、闇ギルドはバカの集まりである。しかしそれでも尚バカの集まりに参加している理由は、ただ1つ……
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『死ねっ!死ねっ!死ねええええ!!』
「暴れるんじゃないわよー!!」
「狭…くはないが、鬱陶しいんじゃ!!」
「同意…図体が大きいばかりに、ただひたすら脅威…!」
突如として始まった、嫉妬担当テリブレイショーとの戦い。彼は初っ端から魔呪法『
この魔呪法の効果は、ざっくり言えば『うっかりしやすくなる』ものである。こう聞くと弱い効果に思えるが、時間が経てば経つほど目の前のことに集中しすぎてしまい、ほかが疎かになってしまうのだ。
例えば、魔法の発動のミス。この場にルーシィがいるが、
例えば、自らの攻撃方法のド忘れ。この場にキリアがいるが、彼女は素手から斬撃を放つことができる。しかし攻撃する際、今は拳を握りしめて殴っているのだ。
例えば、違和感の消失。上記のことに最初は前者がツッコミを入れられていたが、後者は少し時間が後に起こった出来事のせいか誰も違和感を感じなくなっていたのだ。
「困難…!この図体…!ただでかいだけではない…!」
『ただ姿形が変わっただけかと思ってんのかぁ!?当然それに合わせて体も強力になるに決まってんだろうがよぉ!!』
「本当に面倒じゃのぉ!!!」
「タウロスフォームのパワーでもダメだなんて…!ごめんスコーピオン!サジタリウス!」
「ウィーアー!今回ばかりは他のやつに任せた方が良さそうだな!」
「であるからしてぇ━━━」
2人を閉門し、どうするかを考え始めるルーシィ。しかしどうにも頭の中で思考がまとまらない。しかし彼女はそれに気づかない。気づかないうちにとっちらかっている思考が、彼女の脳内で嵐のように荒れ狂う。
「あぁもう…!なんか頭ごちゃごちゃするー!!」
「やかましいのう!!」
「即断…とりあえず斬ればよし!!」
「あんたそんなキャラだった!?」
『………ちっ』
ルーシィの思考をしようとするこの行動に、テリブレイショーは小さく舌打ちをする。彼の魔呪法は気づかれにくくなることが最大の特徴ではあるが、弱点が存在している。
それはひたすらに考える事。影響自体は確実に受けるために、思考能力自体が落ちるのは事実だが…普段から考える人物はそれでも尚考えるのだ。それにより影響が少し落ちやすくなるのと…あくまで思考力の低下であり、記憶や知識の喪失では無いのである。つまり考えれば考えるほど、『思いつきやすい』という状況になるのだ。対策を思いつかれると、この魔呪法は途端に弱くなる……他人の足を引っ張るという思考が現実になったかのようなこの効果は、足を引っ張ってもなお、上に立つようなものには…通じずらいのである。術者本人は、その事がいたく気に入らないのだが。
『ぼーっと突っ立ってんじゃねぇぞ!!死ねやぁぁぁあ!!!!』
「ッ!!あんた、ほんと…!」
「にしてもこの巨体…どうするんじゃあ!!?」
「鱗は硬く、肉も硬い……!!」
普段のスザクであれば、すぐにでも両断できていただろう。しかし彼はただ刀を振り回し切り裂くだけであった。それでも鱗は多少砕けているので、流石と言わざるを得ないが。
「どうしたら…!!」
「ああもうかったるいのう!!
『させっかぁ!!!』
「ぬぁっ!!」
「……え…?」
テリブレイショーの素早い一撃がキリアを穿つ。幸い致命傷という程でもないのだが、攻撃したという事自体が…ルーシィに疑問を抱かせた。
相手は先程まで、スザクの攻撃ですら…なんならキリア本人の攻撃ですらなんら意に介さずそのまま攻撃をしかけてきていた。だが今は、キリアが攻撃しようと動いたところを防ぐように攻撃をしていたのだ。
「ぐう…図体が大きいから、ただの体当たりでも堪える…!」
「……なんか、おかしくない…?」
「質問…なんか、とは?」
「なんで今キリアの攻撃だけ防ごうとしたんだろ…?」
「む……」
スザクも、ルーシィから聞いてようやくその疑問にたどり着く。確かに、不自然ではあるのだ。同じ様な斬撃の使い手であるキリアとスザク。しかし単なる実力だけで言えば、スザクに軍杯が上がる。スザク自身ですら、自分の方が強いと客観的に感じている。無論、細かく言えば能力の方向性の差があるために単なる実力の上下では測れない何かがある、とも感じているのだ。
「そりゃあワシが強いからじゃ!!」
「……もしや、本当に…?」
「キリア!アタシ達が囮になるから……何でもかんでも、ぶった切ってみて!!」
「む………?しょうがないのう!!」
『ッ……!!ンなこと、させるわけねぇだろうがよぉ!!!!』
テリブレイショーのスイッチが入る。高く飛び上がり、キリアに向かって一直線に落ちていく。だが落下しながら体をグネグネと強く動かしながら、まるで暴れるかのように激しく動きながら落下していく。そしてそのまま地面へと落下し━━━━
「
ただ落下するよりも激しい衝撃を、辺りに与える。落下時の衝撃と風圧で周りの者のバランスを崩し、そのままその場で無作為に暴れ回る事でその隙をついて相手を吹き飛ばすか押し潰すかでダメージを与えるのである。
「きゃっ!!」
「ぬおっ!!」
「ぐっ…!」
「……開け!白羊宮の扉!アリエス!」
「すみませぇん!!」
しかしその暴れる技は…ルーシィには通じない。すかさずアリエスを呼び出すことでモコモコのウールによって相手を包み込む。攻撃能力は低いアリエスだが、防御能力と拘束力に関しては星霊の中でもピカイチなのである。
『な゙ッ!!?ん、だよこれはァ〜!!!?』
「キリア!なんでも切っちゃって!あいつの体とか!この部屋とか!!」
「おう!!!」
『ぐううううう!!』
テリブレイショーは、内心でひたすらに焦っていた。何故これほどまでに焦っているのか?それは、彼女の能力がテリブレイショーの…引いては、魔呪法の天敵だからである。
キリアの能力と、スザクの能力。どちらも斬撃に由来している力ではあるが、明確に違いが存在している。スザクは物理的な斬撃…抜刀術が主ではあるが、キリアは概念的な『斬る』の力なのである。これにより、『強さ』や『思い』を切ることが可能である。つまりは『概念的存在の切除』を行えるのがキリアなのだ。
「切るべきは…なんじゃあ…?」
『何も切らせ━━━!』
「させない!!ジェミニ!ロキ!」
「「ピーリピーリ!」」
「スザクのコピーをするよ」
「するよ!」
「任せてルーシィ!!」
即座に判断したルーシィが、ジェミニとロキを召喚する。ジェミニはスザクをコピーし、ロキは光によって目くらまししつつも相手の頭を殴り飛ばす。
「こんなに大きい蛇が相手とはね!」
「む…目の前に自分がいるのはなんとも不思議な」
「催促…さっさと攻撃するべしぴーり」
「……なんとも形容しがたい感情が……しかして正論…!」
そして2人となったスザクが抜刀術により翻弄していく。鱗や肉は未だ硬く、3人揃っての攻撃でさえ突破口となれていなかった。しかし騒がしくなっている戦闘とは反対に…キリア個人は周りの音すら入らないほどに静かになっていた。
「蛇…違う。空間…そう…上…?いや…」
斬るべき焦点をさぐる。思考が普段よりも曇ってはいるが、そもそもキリアは直感型…思いつきさえすれば、こんな結界というものは一切意味がないのである。
「核…蛇…?いや…中身…」
テリブレイショーに視点を当てる。正確には、テリブレイショーの中に感じる空間の核である。魔呪法の主な力は魔力と呪力。制御に霊力を使い、錬金術によって空間にルールを与える。つまり大元を断てばこの空間は安全に消滅させることができる。
「━━━━ここじゃあ!!!」
『しまっ!!』
悪しき呪いを1太刀によって切り落とす。キリアが直感的に感じ取ったのは呪力…テリブレイショーの嫉妬の呪力を、キリアは切り落とした。だがそれだけでは終わらない。
「ここと!ここと!!ここも!!!これもかぁ!!!!?」
霊力、錬金術によって付与されたルール。そして魔力。魔呪法を内包した空間そのもの。めったやたらにキリアは切り裂いていく。はっきり言えば、区別なんてものは付いていない。なので全てを切り裂けばオールオッケーという思考にすぐに至り、めったやたらに切り裂いたのである。
それにより━━━
『ぐ、ぐおおおおおおおおお!!!!!!お、おおおお…!?が、ぐっ…!?こ、このバケモンが…!」
「人間に…」
「戻った!!」
蛇の姿から、テリブレイショーは人の姿へと戻る。色々なものを切り裂かれたために、魔呪法を制御しきれなくなり戻ったのだ。それのせいか、青ざめつつも真っ赤になり血管を浮き出させたその顔はあまりにも嫉妬深そうな気味の悪い顔になっていた。
「てめぇ、ら…!ぶっ殺す!ゼッテェぶっころす!!!殺す殺す殺すここここころろろこらころころころ!!!!!あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!!!!」
「ひっ…?!」
「壊れたか……」
「頭ん中スッキリしたし……やるとするかのう!!!」
「ゼッテェ…ゼッテェ許さねぇぞ……てめぇが原因だ!!ルーシィ・ハートフィリア!!てめぇは楽には殺さねぇ!!!!」
「む…!殺されないわよ!!アタシは、アタシ達はあんたを倒して先に進んで…仲間を助けるんだから!!」
こうして嫉妬担当戦は…終盤を迎えつつあるのであった。