「「うおおおおおおおおおおおおお!!!」」
ぶつかり合う2人の男。拳がぶつかり合い、魔力がせめぎ合い、呪力が足を引っ張り合う。互いが互いの体を削り、心を削り、そして体力を削る。
ぶつかり合う感情はヒートアップしていき、消耗する体とは裏腹にその技は研ぎ澄まされていき強く、鋭くなっていく。
「越魔龍の━━━」
「遅い!!」
「ぶっ…激、昂!!!」
マルクが放とうとした魔力は、シンの攻撃によって遮られる。『ならば』とマルクは溜め込んだ魔力を爆発する方向性で使用した。越魔龍の魔力は、それそのものが武器になるほどの濃密な魔力。弾けさせた時の破壊力は、ナツの炎竜王と名付ける技と比較できるほどには強力無慈悲なものである。
「ぐっ!!?」
攻撃された瞬間に、技を切り替える直感。シンはそれに巻き込まれて、勢いよく吹き飛ばされる。これで終わる程度ならば、とっくにマルクが勝っていただろうが…
「ぐおっ…!?」
「ぶっ飛べ!!!」
そうは言ったものの、シンは吹き飛ばされはしたもののその体は未だ仕留めきれていないため、五体満足とは言わないまでもその体は残ってしまっていた。
「ちぃっ…!!」
「ぐっ…!」
互いが、精神と肉体の消耗を続けていく。互いの命を狙わんとする集中力と、その技のキレこそ上がるものの…それらを支える精神力と体力が削られていく。
魔力も、呪力も、体力も……無限ではない。
シンの節制の魔法、それは周りのものを取り込めば取り込むほどに魔力と呪力が回復する代物である。つまりは…実質的な無限体力と精神力はどうにもならないものの、回復するという認識がある以上精神的な優位は変わりないのだ。
対してマルクの越魔龍は、擬似的な無限ではあるが…あくまで擬似的である。圧倒的な破壊力を持つ反面、戦えば戦う程に不利になっていく。
『実質』と『無限』の違いはあるものの、それでも2人して共通していることが一つだけある。それは━━━
「━━━咆哮!」
「━━━正義!!」
━━━回復よりも、消耗が上回った方が負けということ。そしてそれに考えが及びすぎて消耗を回避してしまった方が負けということ。
「ならば…!」
「全ツッパでぶっちぎる…!」
魔法でシンは魔力、呪力共に回復。マルクは魔力性質と暴食により魔力を回復。回復した分も上乗せし、残った呪力も乗せ…一撃をもってシンを打倒せんと攻撃を放つ。
それに合わせ、シンもまたマルクを潰さんと同時に動き始める。
「「『暴食』+『色欲』+『傲慢』+『嫉妬』!!!」」
「━━━喰らえ!!」
「━━━堕ちぶれろ!!」
互いに名が同じの技を使う。しかしその性質はまるで違うものである。
暴食によりマルクは、その攻撃に触れたものを消し飛ばす力を得た。暴食によりシンはマルクが何も取り込めないようにした。
色欲によりマルクは幻覚の攻撃と実在する攻撃を織り交ぜて撹乱させようとした。色欲によりシンは、マルクに自らを好意的に見せるように錯覚させる。
傲慢によりマルクは全ての魔法を弾く様になった。傲慢によりシンはマルクに魔法を発動させないようにした。
嫉妬によりマルクは、魔法で触れた箇所にマルク以外では消せない炎を灯せるようにした。嫉妬によりシンはマルクから敵意を一時的に消した。
故に……マルクは呪力だけを使い、全体的な攻撃を放つこととなった。越魔時のラクリマを介しただけで特に変化のない呪力の放出となった攻撃を、自分の周り全体に放つ。敵意がなくとも、好意があろうとも、この攻撃自体は止められない。
故に……シンは魔法こそ発動の阻止に成功したものの、呪法はいくらかその身に受けてしまうこととなってしまった。
「ぐっ…!?」
「かふぁっ…!?」
力が抜け、膝を着くマルク。黒い炎が灯され、仕方なく自損して燃えたところを切り落とすシン。一進一退といえば聞こえはいいが、実際は互いが互いに決め手が通用しない不毛な戦いとなっていた。
そして不毛な戦いということは…より一掃、長期戦に向いている方が、この戦いを制することとなる。
「ちっ…!ここ入った時から遠慮なくバカスカ使ってたせいで…!」
「ふ……ふはは…!呪力が尽きてきたか!?当然だな!ここに入る前に貴様は強欲の力をフル活用した!魔力こそ越魔龍の力で回復するが、呪力はまた別!この空間とぶつけられた呪法から多少の回復は可能なようだが、それでも消費の方が多い筈だ!!」
「ぐっ…!」
「だが貴様の魔法は、こちらで封殺ができる!!なれば有利なのはこちらだ!!」
「ちぃっ…!」
呪力の回復は心許なく、魔法はそもそもの発動を禁じられる。ジリ貧なのは間違いがなく、それに対してシンはジリ貧になりようがない回復能力を有していた。
「いくら悪魔の力を有していても、所詮は若造!ならばこのまま押させてもらおう!!」
「くそっ…!やるしかないか…!」
『どうすればいいか』という自問自答。答えはない。なぜなら回復できる相手と回復できない相手では、天と地ほどの差があるからだ。よりにもよって超火力を誇る越魔龍は魔法の枠、なれば必然的に使えるのは…今は少ない呪力による━━━
「━━━モード悪魔龍!!!
完全なる、悪魔の力の顕現。暴食の力が強力なのはそうだが、しかし相手がそれを素直に受け取らないのは当たり前の話である。素直に暴食の力を受けてさえくれれば、マルクはどのような相手であろうが一撃で封殺が行える。受けてくれないからこそ、先程から負傷と再生の繰り返しが行われているのだが。
「………
「ッ…!?」
不気味な程に、シンはその顔を笑みで歪ませていた。まるでマルクが悪魔龍を使うのを望んでいたかのようなその態度は、ほんの少しではあるが…マルクに恐怖を与えていた。その恐怖の引き攣りが、マルクの全力に影を差す。
「貴様がそれを使うのを待っていた…!あぁ、そうだ!」
「…何を言ってる!!てめぇにはこっちに直接ダメージを与える術がねぇだろうが!!」
「そうだな、その通りだ…しかしてそれは
今この時まで、肉弾戦がメインであったシン。幾つもの搦手を使っているとはいえ、マルクの越魔と戦えるほどには確かに身体能力は高い。しかしそれだけで仕留められないからこそ泥沼化しているというにと関わらず、シンはその笑みを一切崩さないでいた。
「てめぇは何を…!」
マルクは気がついていなかった。与えられたほんの少しの恐怖が、自分の攻めに隙を生み出していたこと。いつものマルクであれば、このまま攻め立てていただろう。なにか考えがあるならば会話を引き伸ばしていただろうが……よりにもよって、散々マルクはシンに好意的感情と敵意の削除を受け続けていた。呪法を喰らい、何度も敵意を取り戻し、好意的感情を削ぎ落としていたとしても…無意識の内にその心には、シンを攻撃することへの躊躇が生まれていたのだ。
「下地は出来た…死を何度も覚悟したが、しかしそれでも運は私を見放さなかった…!」
「━━━いや、いい!!てめぇはここで殺す!!悪魔龍の
隙があり、油断があり…そんな中で放たれた一撃必殺のブレスをシンは華麗にさけていた。悪魔龍である巨体のマルクから放たれるブレスは、それだけでも強力な代物である。しかしそれを避けて、シンはマルクへと忍び寄る。
「ッ!!来るな!!来るんじゃねぇ!!」
「貴様は…負けたのだ…!その体は存分に使わせてもらおう…!」
腕を振るい、足を振るい、尾を振るい……マルクはシンを遠ざける。否定する。だがそれでもマルクはシンにまともな攻撃を与えられないままに、どんどん近づかれていく。
「くそっ…!!?なんで…!」
「終わりだ、マルク・スーリア…!」
そうして、シンがマルクの体にその手をつける。ほんの一瞬のはずにも関わらず、その瞬間は永遠に感じれるほどに長いように思えた。しかし、やはり現実は一瞬であり━━━━
「魔呪法、解放━━━」
マルクの意識は、シンのその言葉と共に意識を沈めていく……何かが起ころうとしている中で、マルクはただ…沈みながらも自らがやれる一つのことを、やっておくのであった。
,
「着いた!!マルク!!」
「ちょっと待ちなさいウェンディ!!」
マルクを除いた一同は、開いた扉を通って一直線に走っていた。その内一人、また一人と合流が成功していき…最終的にはマルクを除いた全員が揃っていた。
それ故に、ウェンディは唯一揃っていないマルクに少しの不安を感じていた。揃えば揃うほど…進めば進むほどその不安は大きくなっていく。
そうして不安が募り、先んじていき…開けた空間が見えた矢先にその不安は良くも悪くも、解消されることになる。
「……マル、ク…?」
そこにマルクの姿はなく
「おい、レーク…ンだあれ…」
「……過程は、把握した。だが何故ああなったのかは不明だ…!」
シンの姿もない。
「ありゃ、なんだ…?」
「なにっ、て…敵のマスター…?」
「だが、あの姿は……いや、『アレ』は……」
ただ1つ、そこには巨体が鎮座していた。
「……マルクだ」
「……罪があるとは言ったが、ここまでくると最早驚くしかないな」
「ギヒッ……さすがに、どうなってんだかわかんねぇなこりゃあ…」
「だが……あぁ、確かにマルクだ」
そして同時に、滅竜魔導士達はその鼻で知覚していた。目の前にいるのは…目の前に鎮座している巨体の化け物は、マルクであると。しかしその場も誰も、その事実が信用ならないでいた。
「
「ッ…!?なんだ…!?」
「頭の中に、声が…!!」
「うわーん!気持ち悪いよこれー!!」
「頭が痛くなるわね……」
発された『音』は言葉とも叫び声とも咆哮とも取れず。しかし頭の中でその意味は理解させられる。凄まじい違和感に、頭が混乱しそうな一同だったが……マルクであると同時に、目の前にいる存在はマルクではない誰かだと理解させられた。
「
「…中にいるのは、敵のマスターだ。何らかの方法を使い、マルク・スーリアの肉体を奪おうとしたのだろう」
「だが、そんな罪なことをしようとして罰がくだされた……という訳では無いな」
「あぁ……マルク・スーリアは恐らく自らの滅竜因子を無理やり覚醒させたんだ。彼の持つ越魔は、覚醒直後は安定がしていなかった。超がつくほどの高濃度の魔力そのものを滅竜因子と結合させてるんだから当たり前だが……」
「……つまり、ありゃあドラゴンなのか?」
全員が動かず鎮座している巨体に改めて目を向ける。下半身はまるで芋虫の全身ような、足がないと思えるほどに図太いモノ。そしてその先から生える上半身は腕の一人形が安定しておらず、まるで粘土のように刻一刻とその形と数を変えていた。
「…………いや、悪魔の力も強いな」
「わかるの?グレイ」
「滅悪の力がある俺だからこそわかるんだろうな、多分あれはマルクが乗っ取られる直前に…越魔と悪魔龍の力をリスク度外視で同時発動させたんだ」
「
聞こえる声……シンの言葉に、各々が悔しげな表情を浮かべていた。たった1人…ウェンディを除いては。
「━━━つまり、マルクはまだ…生きているんですね?」
「…!そうか、ウェンディなら…!」
「はい……今から、分離エンチャントをします!」
分離エンチャント……1つの物体から要素を抜き出して隔離する魔法。高難易度の技だが、既に経験済みの上成功させているウェンディにはしない手はないほどの技である。
「
「救います、絶対に……!」
その目は、覚悟の目。そして同時に仲間たち全員が戦闘態勢を取る。分離エンチャントが成功した場合、動きを止めているマルクの本能が無くなる……つまり、シンが自由に動けるようになるのだ。
そして…その戦闘態勢は信頼の証。マルクを必ずウェンディが救うという証。
「
シンの言葉は、恐怖の一欠片にもなりはしない。ウェンディは、中にいるマルクを感じ取りながら……分離エンチャントを始めるのであった。