「ぐあっ!!」
吹き飛ばされるマルク。呪法と越魔の両方はシンに取られており、その力はナツ達と出会った頃よりと比較するに値するほどに弱くなっていた。
対するシンはマルクと対峙した時よりも強くなっており、その能力は本来今のマルク1人に任せるべきものではなかった。だが、ナツ達はマルクが勝てると信じて傍観に徹していた。
「……ふむ」
「んだよ」
「全てを手に入れたと思っていたが…なるほど、貴様が得た物もあったか」
「…何の話だ」
「こちらで元々所有していた呪法や魔法、その内貴様に干渉する類の耐性が上がっているな?一時的にとはいえ、肉体を共有したからこそ起こった事態か」
「知らねぇよ、んな事」
…と口では言うが、マルクも違和感はあった。先程から殴り合いをしているが、シンは直接的な攻撃手段が少なかった。どちらかと言えば搦手寄りの術の使い手なのだが、今はそれらの術を一切使ってきていなかった。
「だが…地力はこちらは上がり貴様は下がった。貴様の力が手に入った以上、後は殺しさえすれば肉体はどうにでもなる。他の奴らもきっちり研究材料にしてくれようではないか」
「やらせるかよ」
「勝てない勝負に挑むのは━━━」
目が追いつかないほどの速度。気づいた時には目の前には拳が迫っており、マルクの顔面にそれは直撃していた。受け身も回避も、何も取ることなく…ただ直撃するだけであった。
「━━━無謀だ。無謀は無能のする事だぞ?」
「マルク…!」
「っつつ……」
殴り飛ばされ壁に激突し、倒れ込むマルク。反撃さえ許されないほどの測度で、マルクはただ殴られ続けるしか無かった。だがそれでも尚立ち上がる。このまま時間を浪費し、ひたすら殴り続け撲殺するのも手ではあったが…シンはそれをあまり良しとしていない。
「ふむ……」
今彼の頭の中には3つの戦法があった。1つはこのまま殴り殺すこと。マルクの仲間が手出しをしてくる可能性があるが、そうなると殴り殺すのは難しいだろう。しかし1番安定している方法である。
2つ目は呪法や魔法を駆使して、マルクの仲間に手出しをさせること。しかしこれはあまりいい方法とは言えない。グレイは滅悪魔導士であり、操れない可能性が高いのだ。そして操れたとしても、流れ弾が飛んでくる可能性がある。なにより、ナツにどう作用するかがまるで読めないのもやりづらいポイントである。
3つ目は取り込んだマルクの力を使い戦うこと。肉体の耐性は上がっているためか、呪法も魔法も効き目が薄いのは明白。しかしあくまでも呪法や魔法に対する耐性である。つまるところ、物理耐性は変わっていないはずなのだ。故に取るべきは……
「物理だな」
「ッ…!てめぇそれは…!」
「貴様の力の一端だ…なんだったかな……そうそう、
シンはマルクの奪い取った力を使い、槍を錬成する。錬成された槍の力がどれなのかは定かではないが、どれであっても面倒なことには代わりがない。それが分かっているためか、マルクは軽く舌打ちをしていた。
「ところで…奪ったのが貴様の力のせいか、こちらで錬成すると質が変わるようでな」
「……?」
「ふ……要は、貴様の力そのものが相手になるということだ」
「……」
返事はしない、が。冷や汗が一筋流れ出る。マルクの力そのものということは、暴食は文字通りマルクを喰らい尽くすのだ。そして相手はマルクが死んでようが生きてようがあまり関係がない。
肉体は残すつもりのようだが、それであっても心臓のある部分を暴食で攻撃されでもすれば…終わりである。
「考えたか?想像したか?自らの力に喰われる己の身を」
「…その上で勝つってだけだ」
「力を奪われ、弱体化し…そして復活したばかりで回復しきっていないその体で…戦えるとでも!!」
槍を持ち、シンは真っ直ぐ飛び込む。いくら呪力や呪法に耐性があるとしても、それはあくまで精神干渉等の話。シンの呪法はそういった搦手が多かったので耐性はきちんと働くだろう。
しかしマルクの力は一部は物理的な干渉を施す物。そして他人に直接干渉する訳では無い自分が行使する力なのだ。
「魔龍の咆哮!!」
「甘いな…!」
吐かれたブレスとシン自身の間に、盾が形成される。それはマルクのブレスを完全に弾きその魔力を散らせて無力化する。マルクも散々お世話になった傲慢の力である。散らされた魔力がマルクとシンの視界を塞ぎ、互いが一瞬だけ動けなくなってしまう。
「飛べ、傲慢の力よ…!」
「うおっ!?」
しかしそのままシンは呪力の力の形を変え、ブーメランにして飛ばしていた。当然マルクは避けるが、ブーメランということは返って
くるものである。つまりは、挟み撃ちになるのだ。
「けど傲慢を飛ばしたのは間違いだったな…!!もう魔法は弾けないだろうが…!」
「問題ないな、何も問題はない!!」
そのまま飛び込んでくるシンに警戒心を高めるマルク。先程は消し飛ばす勢いでブレスを吐いたが、自信に満ち溢れた様子にマルクは疑問を抱いた。その疑問に従うかのように、マルクは2度目のブレスを辞めて別の迎撃手段を取ることにしていた。
「魔龍の翼撃!!」
両手に魔力を溜め込み、そしてそれを伸ばして攻撃する。鞭のようにしなる一撃は、2つともシンに向かって飛んでいく……が、シンはそれを軽く跳ぶ事で回避していた。無論、今のが当たるとは思っていなかったマルクはそのままシンに駆け寄って近づいていく。
それと同時に、風切り音が後ろから来ていた。先程投げていたブーメランが返ってきていることに気づいたマルクは、それを攻撃と同時にしゃがんで避ける選択を取ろうとしていた。
「魔龍の━━━!!」
「むっ…!?」
マルクはしゃがみ、一瞬だがシンから目を離す。しかし溜め込まれ始めた魔力が、隙を見せているわけでは無いことをシンに察しさせていた。だからこそ、シンは手に握っていた槍を振るう。だがその振るうよりも早く、マルクが動いた。
「劍角!!」
「がふっ!!!」
溜め込まれた魔力はマルクの全身を覆い、そしてマルクのつけた勢いを更に加速させて放っていた。その一撃…頭突きはシンの顎を狙い撃ちにしていた。
そしてブーメランは、飛び上がったマルクの足元を通過して通り過ぎていく。しかしいつの間にかシンの槍を持っていない方の手には針のような物体が収められていた。そしてそれをそのままの勢いでマルクの足に突き刺していく。
「うぐっ!!!?」
「ぐ、が…はっ…!ははっ…!わざわざ近づいてくるとはな…!」
「今、何を…!ッ…!?」
突き刺された痛みは確かにあった。だが痛みよりも先に、マルクは違和感を抱いた。魔力が錬れなくなっていたのだ。
「ぐうっ…!!?な、なんで…」
「ふははは…!騙されたな!あの時、投げたのは傲慢じゃない…怠惰だ!貴様が馬鹿みたいにブレスを放ってくれたおかげで、視界が塞がれたというわけだ!!その隙に傲慢と怠惰を入れ替えたのだよ!」
マルクの傲慢は魔法の阻害、体に突き刺されば魔法を使用することすら不可能になるまでになるとは思わなかったのだ。
「では…正真正銘、これでケリをつけよう……暴食の槍。これを貴様の心臓に突き刺して…終わりだ」
足を負傷し満足に動けなくなり、魔法どころか魔力を使用することさえままならない。この状態になっても尚、ナツ達は動かない。その様子を見てほくそ笑んだシンだが…しかしさっさとケリをつけてしまおうとその槍を振り上げ……そして振り下ろした。その槍はマルクの心臓へと向かい━━━
「マルク!!」
,
「━━━━貴様…!まだそんな…!」
「ふー…!ふー…!」
「マルク…!!」
━━━マルクはまだ生きていた。心臓に向かっていた槍に顔を敢えて移動させて、その歯で槍を受け止めていたのだ。本来であれば暴食の力で受け止めている歯は削られてしまうところだが……全魔力を集中させて、魔龍の食らう力とギリギリのところで相殺させていたのだ。
「往生際が悪……!?抜けない…!!」
「ふー…!ふー…!……お……」
噛んだは言いものの、マルクはこの後のことを何も考えていなかった。足も動かしづらい状況で、無理やり顔を移動させたのも考えなしであったのだ。だがふと、妙策を思いつく。
「ぐ、ぎぎ…!!グギギギッ!!!ンギーッ!!」
「ぐうっ!?なんだ…貴様なんのつもりだ…!?」
思い切り槍を噛み締めながら、マルクはシンを殴り飛ばす。突然の事でシンは驚き、そして殴られた為に槍を手放してしまう。槍を手放させたところで、今の所有権はシンにある。離れても石一つで元の呪力に戻るのにも関わらずこの行動…まるで理解がシンには出来なかった。しかし、そのあとの行動でマルクの考えが嫌でも理解できた。
「あー……ぐっ!んぐっ!ムグッ!!」
「んぐっ…むぐ……ゴクンッ………」
「まさか、貴様……」
「へへっ……食ったら力が…湧いてきた!」
マルクの体から呪力が溢れ出る。それは元の持ち主に力が戻った証拠。マルクは今、呪力の一端を取り戻したのだ。
「馬鹿な…!貴様、そこまでして力を求めるか…!?」
「なんでも食う育ち盛りなもんでな…目の前に美味そうな飯があったらなんでも食っちまう暴食盛りなんだわ……さーて、返してもらうぞ残りの力も…!」
「……うっし…!やれ!マルク!」
「はい!!」
ナツからの激励。焦るシン。取り戻したのは暴食の一端とはいえ、それは全てを食らう暴食の力。マルクの魔龍の力の源の1つであり、一度は飲み込まれた力。それが今、取り返された。
「また、また暴食か…!グラトニー…貴様は…!」
「……あんたが無理矢理なのかそうじゃないのかは分からないが…人の命を弄んだことは確かだ。だがそれここで終わり…!あんたを倒して、仲間も取り戻す!ついでにあんたの計画を潰す!」
「いいや、終わらんさ!たかが暴食1つ取り返したくらいで何をいい気になっている!ここで貴様ら全員潰せば貴様の足掻きは詮無きこと!!」
「モード悪魔龍!
マルクの姿が、腕のない三ツ首のドラゴンに近い姿となる。その姿になったマルク目掛けて、シンは飛びかかる。奪われた力を奪い返す為に。
それに対してマルクも動く……この戦いの終幕は、刻一刻と近づいているのであった。