「うおおおおおおおお!!!!!」
「鬱陶しい首だ…!見境なく喰らい尽くすその力、本当に鬱陶しい…!だが腕がなく鈍重なその体で…何が出来る!!」
マルクから奪った力により、体内の悪魔の力を武器へと錬成するシン。そして首を無視して一直線にマルクの本体へと向かう。その本体目掛けて……錬成した剣を突き刺す。
「知っているぞ!!その力は首で捕食した物しか取り込めないだろう!!少なくとも、本体にすら暴食の能力があるような無敵の能力では無い!!ならばそこを…つい…」
シンは咄嗟に距離を取っていた。気づいたのだ、目の前にいるマルクが、本人ではないと。そして同時に突き刺したのが暴食の力そのもの……つまりは、同じように暴食の力を錬成した存在だということに。瞬間、刺した物は黒い炎によって包まれる。
「……なるほどな、嫉妬か。確かに暴食龍のままなら、燃やされてただろうな」
「貴様、いつの間に……」
「迫ってくる直前だよ、脱皮みたいに飛び出したんだ。けど嫉妬を使ってくれて助かったよ……後俺に対抗するには、強欲で滅悪の力をコピーするしかないからな」
……そして、その黒い炎ごと暴食の力はマルクの中に取り込まれる。これで、2つ目。マルクは嫉妬の力を取り戻していた。
「ぐっ……」
「残りも…さっさと返して貰うぞ!!」
片手には盾を、片手には銃を。全てを受け止め喰らい尽くす暴食の盾と、当たれば全てを燃やし尽くす嫉妬の弾丸。今シンがこの2つを攻略するためには、マルクの言った通りグレイの滅悪の力をコピーしなければならないのだ。だがそれは、悪魔の体であるシンに取っては…諸刃の剣。
「くっ…!?なぜだ、なぜこうなって……!!」
「テメェが俺を取り込んだ時の技がよく分かんねぇけど……それに警戒だけしときゃあ、何とかなりそうだ」
「まだだ、まだ…!もう一度取り込めれば…!!」
「させるか、よっ!!」
マルクは弾丸を放つ。当たれば消えない黒い炎が着火する嫉妬の弾丸。当然防がずにシンは避ける。仮に何らかの力で防いだところで、マルクから出された力はシンには消せないからだ。
「ぐうっ…!!」
「避けてばかりじゃあ…!ふんっ!」
盾が長いチェーンへと変化する…それは暴食の鎖。その鎖はシンに向かって真っ直ぐ伸びていく。触れれば触れた箇所が食われ、消滅する。その事実を即座に認識したシンだったが、同時にある一つの賭けを思いついた。
かなり危険な賭けだが、このままでは消耗戦になり不利になることは明白。彼本人には耐え難い話だが、このままでは負けてしまう…その事実が彼にその賭けを行わせた。
「━━━利用させてもらう!!」
「なっ…!?」
シンは、敢えてその鎖を掴んだ。こればかりはマルクも予想外のものだった。何せ、マルクが悪魔の力を取り戻せたのは、僅かに残っていた魔龍の力を使ったからだ。
だが相手にあるのはマルクの越魔の力と、残った悪魔の力。あとは自前のものだけなのだ。つまり、このままではシンは掴んだ手が鎖に飲み込まれる。何を考えているのかまるで分からない行動だが、直後に気づいた。飲み込まれるはずのシンの腕が消えていないことに。
「ふ、ふふふ…ふははははは!!」
「てめぇ何を…!」
「こちらの暴食は、名とは裏腹に取り込むことを禁じる呪法…!貴様自身にかけても既に意味をなさないほどの耐性が着いているようだが、私の体に…腕に集中してかけたのだ!!それが膜となっているようでな…一部は取り込まれたが、鎖を巻き込んで再生している…!今、この鎖で…暴食の鎖で我らは繋がっている…!このまま再び我が肉体に取り込んでやる…!」
「ちっ…!」
「魔呪法!
この魔呪法には、他とは違う点がある。魔呪法は基本的には魔力と呪力を広げた空間を、錬金術で錬成して空間内に『ルール』を生み出すものだ。無論、範囲を操作して自分の周りだけ…ということもできないことは無い。
しかし、この魔呪法は空間を作り出さない。代わりにたった一つだけ効果がある。『触れている相手と自分の境界線を無くす』という効果である。これが、マルクを吸収できた理由だ。それ以外にも悪魔因子を持ってない相手に使えば、時間も成功率も下がるというデメリットもある技術だが…そもそもそれ以外の相手に使うことがない為、シンには関係の無いデメリットである。だが…シンは、ここで賭けに出すぎてしまっていた。
「━━━━が…!?」
「……へっ…1度受けた技を、そう何度も分かりやすく受けてたまるかよ」
シンの背中から、氷が生えていた。それは滅悪の氷…そして同時に、その氷からは炎が燃え盛っていた。その炎は、竜を滅する炎。
「てめぇと俺が…今繋がっているのなら、逆にテメェの中にある俺の力も…一気に奪えるじゃねぇか」
「1度、受けただけで…!?」
「感覚は、覚えてるからな。無様に負けちまったが…もう負けねぇ、絶対にだ。だから…残り全部返してもらう…!強欲に、一気に全部だ!!」
そう言いながら、マルクはチェーンを引き抜いた。それと同時にマルクの周りには七つの黒い玉が現れる。それは罪の証。全てを奪い取って、取り返した証。
「はぁ…はぁ……強欲の呪法で、ナツ・ドラグニルと…グレイ・フルバスターの呪法をコピー……そして、その隙をついて…全てを取り返した、というわけか…!忌々しい…!」
「分かってんじゃねぇか……だったら、あとはもうぶん殴って終わらせるだけだ!!」
「だが、私には、まだ……!!」
「もう油断はしねぇ、力も渡さねぇ…ここで倒し切る…!」
力は奪い取り返した。これで戦い始める前に戻ったのだ。つまるところ、厄介なのはシンの再生能力。マルクはそれによって攻めあぐねていた。
「……全力、じゃねぇ…!確実に殺す気で、殺る!!」
マルクの体中から、ラクリマが生える。同時にそのままシンに向かって突撃していく。シンは三度取り込もうとその手を前に差し出し、懲りずに魔呪法によってマルクを取り込もうと動く。
「もう、通じねぇよ…!越魔龍の、轟砲!!!」
「ぐぉ…!!」
手が触れる直前、マルクの口からブレスが放たれる。それによりシンは腕ごと半身が消滅。当然再生に移らなければならないが、悠長にそれを待つマルクではなかった。
「ぬっ…!!!」
「うおおおらっ!!!」
「ガッ…!」
髪をつかみ、シンを地面へと叩きつけるマルク。再生は許すにしても、あくまでそれは欠損や負傷の回復だけであり…ダメージを無かったことにする訳では無いのだ。痛みは当然残っているので…マルクが狙っているのは、痛みによる戦闘不能である。
「抵抗させねぇよ!このまま、倒しきってやるからな!!」
「ぐっ!がっ!!ご゙ッ、の゙ッッッ!!!」
シンは自らの髪をちぎり、マルクの腕から脱出をした。それと同時に体の再生を終わらせて、戻るかのごとくマルクに飛びかかっていく。その間、1秒にも満たない極わずかな時間。『獲った』……シンはそう考えた。余裕がなくなり、攻め立てられ、そして得た後ろからの攻撃。いくら力を取り戻そうが、瞬時に後ろを向けるほど人間は上手くできていない。このまま、取り込めれば……ここまで考えていたシンはあることに気がついた。
越魔時のマルクには、ラクリマで出来た翼と尾が生える。しかし
「━━━━━━あ゙ッ………!?」
そして、それを認識した瞬間にはシンの体は巨大な剣によって突き刺されその行動を停止していた。動くこと自体はできるが、手足をジタバタさせるだけの事。
宙に浮いているが為に、それ以外の一切の行動ができなかった。そこで気がついた、貫いた剣は傲慢の力でできた剣なのだと。
「傲慢の剣で、魔法封じ…か」
「取り込むことはできねぇぞ…越魔の力も混ぜこぜにして出来た特殊な奴だからな。魔呪法…つったか?それと似たような感じで、魔力と呪力をごちゃまぜにしたのさ」
「だから、翼と尾が……」
「……終わりだ…!滅竜奥義!!」
両腕を掲げるマルク。その両腕の間に凄まじいまでの魔力が溜め込まれて球となっていく。最初は小さな塊だったそれを、マルクは両の手で潰すかのように挟み込む…途端に、それが大きく膨らんでいた。
「滅魔!!!轟亡撃!!!!」
そして大きく膨らんだそれを、身動きの取れないシンに向かって投げるマルク。当然身動きの取れないシンはそれを避けることはできず…直撃を受けてしまう。
「ぐああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
再生能力により消し飛ぶことは無いものの、シンは多大なるダメージによりその意識は消し飛んでいく。そうしてマルクの攻撃を受け、見た目では無傷ではあるものの……その意識は、凄まじい痛みとともに消えているために、ピクリとも動かなくなっていた。
「━━━マルク!!」
「ウェンディ━━━」
じっとシンを見つめていたマルク。その背に飛びつく姿あり。その声、匂いでわかった。ウェンディが抱きついていたのだ。それが安心感を産んだせいか……
「あ、れ……?」
「きゃっ!?」
マルクはウェンディと共に床へと倒れてしまう。マルクが得た安心感によって、腰が抜けてしまったのだ。短い間に色々なことが起きた。決戦とも言うべき戦いが終わり、それによって一気に疲れが来たようであった。
けれど、これだけ…この一言だけは…と、マルクはウェンディに視線を合わせる。
「……勝ったよ、ウェンディ…ただいま」
「うん…!おかえり…!」
笑みを浮かべ合いながら、2人は視線を合わせる。他の仲間達がニヤニヤと見ていることに気がつくのは、この数秒後であった。
しかし何にせよ、皆安心していた。1つの短くも激しい戦いが今……幕を閉じたのだから。