「こやつ……マカロフの血族か。」
「……情ねぇな。揃いも揃ってボロ雑巾みたいな格好しやがって。」
「だな。」
突如として現れたラクサス。ウェンディやマルクはその姿を始めてみたが、不思議と他の人から聞いていた印象とは微妙に異なっていた。正確に言うならば『丸くなった様に感じる』
「なぜお前がここに……」
「先代の墓参りだよ。これでも『元』
俺は
明らかな激昂。祖父であるマカロフをやられた怒りなのか、それとも妖精の尻尾に喧嘩を売られたという事での怒りなのか。理由は定かではないが、ラクサスは見事に『怒っていた』
「やれやれ……小僧にこんな思い上がった親族がいたとは。」
そして、二人は睨み合う。時間にして数秒だったが、先に動いたのは……ラクサスだった。
マスターハデスの顎を蹴り上げ、そしてすかさず殴り飛ばす。
雷の魔法によりラクサスは殴り飛ばしたマスターハデスにすぐに追いつき、殴って地面に叩きつけてから、トドメにもう一発殴りつける。
だが、マスターハデスはそれをジャンプしてかわす。
それを見逃す気はなかったラクサスは、口から雷を吐きながら、それを動かしてマスターハデスに向かって追撃を入れていく。
「は、早っ……!?」
今の一瞬の攻防だけで、そうなったのだ。マルクはその二人のとんでもないやりとりを眺めて、感嘆の声を出していた。
そしてラクサスの追撃は当たる直前に、マスターハデスが魔力の鎖を伸ばす。ラクサスはそれを紙一重でかわすが、マスターハデスの狙いはそれではなく、後ろにあった巨大な地球儀だった。
マスターハデスはそれを動かして物理的にラクサスを潰そうとする。咄嗟に狙いに気づいたラクサスはそれを回避。
勢い余った地球儀はルーシィの直上を通る。
「ひいいいっ!」
「フン…」
「くっ!!」
マスターハデスは、その場で掌底を繰り出す。それは魔力の伴った攻撃であり、それで魔力を飛ばしてラクサスを一瞬怯ませる。
ダメージを入れることではなく、怯ませることが目的の攻撃。
即座に指で陣を描き、ラクサスの周りに魔力の帯を出現させる。先程、ナツが受けた魔法である。マスターハデスはそれを爆発させるが、爆破の規模はナツが受けたものよりも巨大なものであり、爆風によって何人か吹き飛ばされていた。
モロに受けたと思われていた攻撃、しかしラクサスは自身の体を雷として、それを即座に回避していた。
雷は天井を走り、マスターハデスの後頭部にラクサスは膝蹴りを入れて吹き飛ばしたのであった。
「すげぇ……」
「ら、ラクサスさんは強いって話を聞いてましたけど……ここまでなんですか!?」
「あぁ……正直、私も驚いている。」
蹴り飛ばされたあと、すぐに起き上がるマスターハデス。ラクサスもマスターハデスを睨んでいたが、突然ラクサスは膝をついてしまう。
「ぐふっ……!」
「ラクサス!!」
「さっきの魔法をくらってたんだ……」
「しっかりしろよラクサス!!」
「世界ってのは本当に広い……こんなバケモンみてーな奴がいるとは……俺もまだまだ……」
苦笑するラクサス。しかし、その苦笑は諦めからくるものではないと皆が感じ取れていた。だから叱咤激励を飛ばす。
「やってくれたのう……ラクサスとやら。うぬはもう消えよ!!」
魔力を伴った攻撃。誰もがそれを受けたらマズいと認識できるほどに濃密な魔力。
「立て!!ラクサス!!」
「俺はよう……もう妖精の尻尾の人間じゃねぇけどよ……じじいをやられたら、怒ってもいいんだよな……」
「当たり前だァァァァ!!」
直前、ラクサスが魔力を何かに使ったようにマルクは見えたが、爆風によって吹き飛ばされた為に、確認が出来なかった。
だが、爆発が晴れたあとに出てきたラクサスは、マスターハデスの攻撃をモロに受けてしまっていた。
「俺の……奢りだ……ナツ。」
「え……?」
「ナツさん……?」
「━━━ご馳走、様……」
立ち上がったナツ。その体には電気が走りっていた。感電しているだとか、そういう類のものではなく……
「俺の全魔力だ……」
「自分の魔力をナツに!?」
「雷……食べちゃったの?」
ラクサスが全魔力をナツに与える。それはつまり、魔力がほとんどない状態でマスターハデスの攻撃を受けた、ということになる。
「何で、俺に……俺はラクサスより弱ぇ……」
「強えか弱えかじゃねぇだろ。傷つけられたのは誰だ?ギルドの紋章刻んだやつがやらねぇでどうする?
ギルドの受けた痛みは、ギルドが返せ……100倍でな。」
「あぁ━━━」
ナツの、雷と炎をまとったその様子に、ウェンディがボソリと呟く。恐怖に似た何かを感じる、圧倒的な力を今のナツからは感じ取っていた。
「炎と雷の融合……雷炎竜……!」
「━━━100倍返しだ……うぉぉおおおおお!!」
ナツは声を荒らげながら全魔力を解放する。その力の前に、マスターハデスも驚きを隠せていなかった。
だが、それ以上にその圧倒的な力が今のナツを後押ししていた。叫びながら、マスターハデスに飛び込むナツ。雷の魔力による影響か、ナツの速度は恐ろしい早さに達していた。
「があぁぁぁぁ!!」
マスターハデスは殴り飛ばされ、壁へと叩きつけられる。更にその直後に、マスターハデスの頭にナツのかかと落としが決まる。
炎による攻撃、それが当たったその次には、雷による追加攻撃が入る。
「俺たちのギルドを傷つけやがって!!」
ナツの怒りが膨れ上がる。壁に叩きつけられ、床を勢い良く転がりながら、マスターハデスは吹き飛ばされていく。
「お前は……消えろぉ!!」
炎と雷の融合攻撃。その破壊力たるや、戦艦の床がさらに凹んでいた。
「ねあっ!!はっはー!!両手を塞いだぞォ!!」
マスターハデスの攻撃。魔力で出来た鎖で両手を一纏めで拘束されるナツ。しかし、一纏めにしたのが悪かったのか、はたまたどちらにしても意味がなかったのか、ナツはすぐさま拘束具である鎖を破壊して、そのままトドメに移行する。
「な!?」
「雷炎竜の……咆哮!!」
「ぬ、があぁぁぁぁぁぁ!」
雷と炎が合わさったブレス。破壊力は見せた攻撃のどれよりも凄まじく、戦艦の壁を容易く破壊してそのまま天狼島の地面も軽く削っていきながら空へと消えていく。
「はぁ……はぁ……」
倒れているマスターハデス。完全に気絶しているのが、全員に伝わるのが、少しだけ遅れるほどにその勝利はいいものがあった。
「やった、ぞ……」
フラついて、床に空いた穴に落ちそうになるナツ。それをルーシィがギリギリで受け止めて事なきを得る。
「た、助かった……もう完全に魔力がねぇや……」
「これで、終わったな……」
「はい!」
皆が嬉しそうになる中、マルクも吊られて笑が浮かびかけるが、船の中に現れた……いや、今までマスターハデスの陰に隠れていて気づかなかったのか、マルクだけが船のどこかにある
「なんだ、この魔力……マスターハデスと全く同じ……!?」
だが、感じ取ったその魔力はすぐに消えてしまう。代わりに、近くにまたとてつもない魔力を感じ取る。
「━━━大した若造共だ。」
その突如として聞こえてくる言葉に、全員が耳を疑った。今この声が聞こえてくるはずがないのだから。
「マカロフめ……全く恐ろしいガキどもを育てたものだ。私がここまでやられたのは何十年ぶりかのう……このまま片付けてやるのは容易いことだが、楽しませてもらった礼をせねばな。」
「ウソだろ……!?」
「あの攻撃が効かなかっただと……!?」
「いや、あの攻撃は確実に入ってました!!あいつ自身も、さっきまで気絶していたはずなのに……なんで……」
マスターハデスは、今までつけていた眼帯を外す。それが、『楽しませてもらった礼』という奴なのだろう。
「悪魔の眼……開眼!うぬらには特別に見せてしんぜよう……魔道の深淵、ここからはうぬらの想像を遥かに超える領域……!終わりだ、妖精の尻尾。」
先程よりも、多くの魔力。圧倒的に増えた……否、増え続ける魔力に全員が萎縮してしまっていた。
相手が増え、こちらはほぼ空だということが、さらに拍車をかける。しかし、マルクだけが別のことを気にしていた。
「こんな、魔力……なんで初めから……」
「くそっ……動く力……さえ、残ってねえ……!」
「魔の道を進むとは……深き闇のそこへと沈むこと。その先に見つけたるや、深淵に輝く一なる魔法。
あと少し……あとすこしで一なる魔法に辿り着く。だが、その『あと少し』が深い。その深さを埋めるものこそ大魔法世界、ゼレフのいる世界……今宵、ぜレフの覚醒とともに世界は変わる。
そして私はいよいよ手に入れるのだ、一なる魔法を。」
「一なる魔法……」
腕を上げ、独特のポーズを取り出すマスターハデス。しかしそのポーズがろくなものでないくらいは、誰もが即座に理解した。
「うぬらはいけぬ……大魔法世界には。うぬらは足りぬ、深淵へと進む覚悟が。」
「なんだあの構えは……! 」
「ゼレフ書、第4章12節より……裏魔法『
マスターハデスのその宣言とともに、周りの瓦礫に変化が起こる。手のひらに収まるような小さな瓦礫から、黒ずんだ膿のようなものが出てきたかと思えば、それは明らかな瓦礫のサイズを超えて何かの形を成していく。
手が生え、足が生え……マスターハデスの身長を超えるような大きな黒い生物のような何かに、瓦礫は変化していく。
「が、瓦礫から……化け物を作ってるのか……」
「こんな、生き物を作り出す魔法なんて……そんな魔力、どこから……」
「深淵の魔力をもってすれば、土塊から悪魔をも生成することが出来る。悪魔の踊り子にして天の裁判官、それが裏魔法。」
一体一体が強力で絶望的なまでの魔力の塊。それが複数体ではきかない数を、マスターハデスは量産していた。
その光景に、生み出された化物達に皆が怯み、怯えていた。ただ一人を除いては。
「……なんだ、こんな近くに仲間がいるじゃねーか。『恐怖は悪ではない。それは己の弱さを知るという事だ』
弱さを知れば……人は強くも優しくもなれる。俺達は自分の弱さを知ったんだ……だったら次はどうする?強くなれ!!立ち向かうんだ!!
一人じゃ怖くてどうしようもないかもしれねーけど……俺たちはこんなに近くにいる。すぐ近くに仲間がいるんだ!!
今は恐れることはねぇ!!俺たちは一人じゃねぇんだ!!」
ナツの激励に、仲間達が励まされる。先程まで怯えていたのが馬鹿らしく感じるほどに、背中を押されていた。
仲間といれば、恐怖はない。魔力が無かろうと絶対に諦めない。そんな思いを持って、全員が立ち上がった。
「見上げた虚栄心だ……だが、それもここまで。」
「行くぞぉ!!」
ナツの言葉と共に全員が走り出す。ただ一つ、マスターハデスを倒すという目的のためだけに。
「残らぬ魔力で何が出来るものか……踊れ、土塊の悪魔。」
その声とともにマスターハデスの激しい攻撃が始まる。しかし、無理やり体を動かして、かわしていく。
力を一番消費していたナツは、途中でよろける。その腕をウェンディとルーシィが掴み、ナツを前に投げる。
勢いで二人はこけてしまうが、ナツを前に押し出すことは出来た。しかし、まだ足りない。
足りないなら補え、と言わんばかりにグレイとエルザが、ナツの足と自分の足を合わせて、まっすぐ蹴り飛ばす。
そして、トドメと言わんばかりにマルクがナツの腰を下から持って、全力で投げる。さらに速度が増す。
「全てを闇の底へ……日が沈む時だ、妖精の尻尾。」
ナツの攻撃と、マスターハデスの魔力がぶつかり合い、戦艦が大きく爆発する。それを、その光景を見て…戦いの終りが近いのを誰もが心のどこかで確信していたのであった。