第二魔法源
「か、は……!がっ!ああ……!」
ナツの体に書き込まれた魔法陣。それがナツの体に恐ろしい激痛を与え、苦しませていた。
そして、ルーシィ達はその状況を見守るしかなかった。
「ぎぃいいいいいい!」
「服……脱がなきゃ、魔法陣描けねーのかなぁ……」
「あんたはそれ、心配しなくていいんじゃない……?」
「ぎゃああああ!!」
痛みで叫びながら、悶苦しみ続けるナツ。しかし、どうしてもそれはナツ達にとって必要なことであったからだ。
「頑張って。潜在能力を引き出すことは簡単じゃないのよ。」
誰にでもある潜在能力、
それを埋めるために、ナツ達は自分達を呼び出したウルティアの魔法、時のアークにより第二魔法源を無理矢理引き出そうと考えていたのだ。
「うがああぁああああ!!」
「ちょっと……あれ大丈夫なの?」
「どんだけの痛みなんだよ……」
「感覚
「ふざけんな!!」
ナツの絶叫で不安がる一同。これを行う前にウルティアが『想像を絶する激痛』と言っていたが、それが真実だということを改めて思い知らされていた。
「私達も……あれ、やるの?」
「泣きそうです……」
「「お、俺らには関係ねえし帰ろうかな……」」
そして、サラッとジェットとドロイはその場から去っていく。しかし、それを気にしてる余裕は一同にはすでになかった。
「そう言えばエルザは?」
「ジェラールと二人でどこか行ったよ。」
「いつの間に……」
「そーゆー事ならジュビア達も二人で!」
「どーゆー事だよ。」
二人のやりとりに苦笑しながらも、マルクは不安がるウェンディの肩を抱いて安心させていた。
一応マルク自身も、魔法陣を体に書いて痛みを共有するつもりなのだが、体質的な問題で無理なのでは、と不安もあった。
「……さて、そろそろ残りのメンバーにもこれ書いていきましょうか。」
「ひいぃ!」
「うぅ……不安だなぁ……」
『まずは女性陣から』とウルティアはナツ以外の男性陣に反対方向に向いて貰って、女性陣に体に魔方陣を描いていく。
その後から男性陣の体にも描いていく……のだが━━━
「……はぁ、やっぱり。」
「体質的な問題ね。貴方の体は魔力を送り込んだら無意識で吸い取ってしまうみたい。
そうなったらそれはもうただの落書きね。起動そのものができないんだから。」
「一応特訓はしたけれど……俺は第二魔法源無しでやらないと、かぁ……」
マルクがため息をついている中、流石に全員が苦しんでいると目立つ、ということで近くの人気のないコテージに移動してから、魔法陣を起動させたのだが、案の定全員が苦しみ悶えていた。
「……」
痛みも共有できないとなると、最早手を握るなどしてウェンディを安心させたいと思っていたマルクだったが、触れたら痛みが悪化するだけだとウルティアに言われて、見守るしかなくなった。
「……あ、エルザさん。おかえりなさい。」
「あ、あぁただいま。」
「戻ってきたわね。それじゃあエルザにも書くわよ。」
そう言って、ササッと魔法陣を描いてウルティアは起動させる……だが。
「……ふむ、お陰様でみんな動けそうにない。」
「……なんであんたは平気なの?」
エルザは、起動したあとにコテージの中を覗いてからウルティアに礼を言えるほどに余裕を保っていた。痩せ我慢すらも見えなかった。
それを見て、ウルティアも逆に不安になっていた。ちゃんと起動しているのか、と。
「……ギルドの性質上、1箇所に長居はできない。俺たちはもう行くよ。」
「大魔闘演武の謎の魔力の件、何かわかったらハトで報告して。」
「了解した。」
エルザが快く了承した事で、メルディやウルティアが本音を零す。
「競技の方も陰ながら応援してるから、頑張ってちょうだい。」
「本当は観に行きたいんだけどね。」
「変装していく?」
「やめておけ。」
ジェラール達はフードを被り直してエルザから離れていく。何故かメルディだけがフードをかぶり直さずにそのままだったが。
「それじゃあ、また会おうエルザ。」
「バイバーイ!」
「みんなに宜しくね。グレイのことも……お願いね。」
そう言って、三人の姿は離れていって段々と遠くなり、最終的に姿が見えなくなる。
見えなくなってから、エルザは苦笑しながら溜息をつく。マルクは何かあったのだろうかと思い声をかけようとしたが、どことなく嬉しそうなエルザの表情を見て声をかけない方がいいと判断してそのまま黙っておくことにした……のだが━━━
「見て見てエルザー」
どこにいたのか、ハッピーが枝で地面に落書きを描いていく。ハートマークがひび割れたかのような絵を描いて、ハッピーは笑いをこらえながらそれをエルザに見せていた。
当然、ハッピーはエルザに天高く蹴り挙げられてしまったのであった。
それから五日後。フィオーレ王国首都、花咲く
会場であるドムス・フラウは、この街の西の山に存在している。そして、この街の中でナツ達は、伸びていた。
「お、おい……まだ調子悪ぃぞ……本当に大丈夫だったのかあの魔法……」
「でも魔力は上がってる気がするし……まだ少し体の節々が痛むけど……」
「全く情けないぞお前達。」
「なんでエルザは平気なの〜……」
「きっと元から第二魔法源があったんだよ。」
「それは納得できる……」
第二魔法源を無理矢理開花させた、時のアーク。しかしその過程は想像を絶する激痛としばらくの間戦うことであったため、未だエルザとマルクを除く全員がその場で倒れていた。
「それにしてもこんなでけー街始めてきたな。」
「あい。」
「私もです。」
「マグノリアも相当大きいと思ってたんですけどね……この街はもっとでかいなんて…」
「エドラスの城下町よりも大きいわね。」
クロッカスの街の大きさ、そしてその人の多さに全員が舌を巻いていた。大魔闘演武の時であっても、下手をすれば会場までの道で迷いそうな程に大きな街であった。
「やっときたかお前達。」
「マスター」
「参加の手続きは済ませてきたぞ。かはははっ!
アスカを肩車しながら、ご機嫌に笑うマカロフ。しかし、妖精の尻尾の名前を聞いて、周りの一部が反応をする。
「おい!妖精の尻尾だって。」
「あいつらが?」
「万年最下位の弱小ギルド。」
「ぷくく……!」
「誰だ今笑ったの!!」
「よせ…」
『弱小ギルド妖精の尻尾』というのが既に浸透してしまっているこの状況、一部の者達は妖精の尻尾の名前を聞いて過去の最強の名よりもそちらを思い出す人がやはり多かったようだ。
「どーせ今年も最下位だろー?」
「優勝は
「ぬうう……!」
嘲笑される声に憤りを覚えるナツ。しかし、他のメンバーはその煽りに乗るようなことはしなかった。
「笑いたいやつには笑わせておけ。」
「じゃ遠慮なく。」
「ぷくく。」
「俺らを見て笑うなよ!!」
「最下位って何?」
「アスカちゃん、今の言葉忘れなさい。」
「?うん!」
ハッピーはジェットとドロイを笑い、マルクは最下位という言葉に対して疑問を抱いたアスカに飴玉を与えて大人しく忘れさせている中で、マカロフは片腕をあげ、天を指さす。
「よいか?三千万円ジュ……コホン、フィオーレ一のギルドを目指すため全力を出すんじゃ。このままではワシらの命を救ってくれた初代に顔向けできん!」
マカロフの言葉で、やる気を出す一同。合宿から戻った後、妖精の尻尾はナツ、グレイ、エルザ、ルーシィとウェンディの5人を大魔闘演武に出場させることに決めた。
ラクサスやガジルの方がいいとルーシィたちは言ったが、未だ帰ってきていないものを当てにするわけには行かないということであった。
それでも、ウェンディやルーシィよりはマルクの方が本人の戦闘能力的には高めなので、マカロフは選びたかった節もあったのだが、その時マルクは姿を消していた。
「さて……競技は明日からだが、いかんせん内容がわからんのう。」
「競技は毎年変わるんだよ。」
「私達が出なかった年に射的があったりとかね。」
「俺の出なかった年に競走だぜ?」
「いくつかの競技の総得点で優勝が決まるんだけどよ。」
「私も一応過去の記録を読んだんだけど、競技に一貫性がないのよね。」
レビィや、残された組から言われた事。競技の一貫性のなさや、ジェラール達に言われていた謎の魔力。
それらがどこか繋がりそうで繋がらない、そんな奇妙な感覚を覚えていた。
「エルザ、明日までに公式ルールブックを読んでおけい。」
「こ、これを読めと?」
マカロフから渡された分厚いルールブック。どう考えても夜通ししても時間が足りなくなりそうなその分厚さに、エルザは圧倒されていた。
「任せて!風詠みの眼鏡持ってるから!」
だが、エルザの手助けとしてレビィが風詠みの眼鏡を取り出す。要約すればこの眼鏡は、流し読みでも本の内容を把握することが出来るという優れものである。読み終わったあとに、レビィはルールを掻い摘んで説明していく。
「大事なことは3つかな?まずは各ギルドのマスターは参加出来ないこと。」
「ま、そうじゃろうな。」
「マスターが参加できたら、それだけでいいですもんね。」
「ギルドの紋章を付けてないものを客人として参加させないこと。」
「ま、それも当然だな。」
「ギルドの意味無くなりますもんね。」
「各競技は競技開始直前まで秘匿とし、各競技のルールもそこで説明される。」
「要するに運が悪かったら、選手と競技の相性が悪かった場合不利になって……逆の場合は有利になると。」
レビィの説明で各々が納得していく……が、見落としがあったのか最後の方にあったものを見てレビィが声を上げる。
「あ!最後に注意書きがある。『参加者は指定された宿に12時までに帰ること』」
「12時?いつの?」
「今日の夜中ってことでしょ?」
「ガラスの靴を履いたお姫様みてーだな。」
「まだたっぷり時間があるじゃねぇか!!折角こんなにでけー街に来たんだ!探検するぞー!!」
「あいさー!!」
まだ時間があるとわかったナツ、ルーシィ、ハッピーは街の様子を見るために街の中を走り出す。
「おい!やどのばしょはわかってるのか!?」
「ハニーボーンでしょ!」
「必ず12時まで帰ってこい、いいな!」
「あい!」
ナツ達の姿が見えなくなってから、マルク達もそれぞれグループにわかれるなり一人になるなりして行動を取り始める。
ウェンディ、マルク、シャルルの3人もまた、クロッカスの街を観光しようと歩き始めていた。
「見て!二人とも!」
「凄い!」
「華灯宮メルクリアスって言うんだって!」
「王様が住んでるだけあってやっぱりでかいな……」
「王様ってどんな人なのかしらね。」
「おヒゲじゃないかなぁ……」
「おヒゲかもね。」
「ヒゲ何だろうなぁ……」
メルクリアスまで観光に来たマルク、ウェンディ、シャルル。その大きさに圧倒され、そして住んでいる王がどんな人物なのかを想像しながらメルクリアスを後にしようとする。
しかし、そんな三人を見ている謎の小さな影がひとつ……
「キヒヒ……」
手のひらほどのサイズしかなさそうなそれは、ウェンディに奇異の目を向ける。その瞳の内側に隠されたものは一体なんなのか、誰も知る由はなかった。