「今試合どうなってます!?」
大急ぎで観客席に到着するマルク。だが、その答えを聞く前に観客席にいる
困惑していたのだ、誰も彼もが。
「マルク、こっちこっち。」
「カナさん……一体誰が……」
「ラクサスと、レイヴンの仮面の男……確か、アレクセイ。」
そう言ってカナはフィールドに目を向ける。マルクも釣られて見ると、そこではラクサスがアレクセイに、一方的に殴られ続けている光景だった。
「なんで、こんな……」
「わかんない……レイヴンの方になにか動きがあったとしか思えないけど、そんな動きしてないって答えが返ってきてる。」
「そんなことって……ん?」
「どうしたんだいマルク。」
何かに気づいたかのような声を上げるマルク。カナは問うが、マルクは答えづらそうに複雑な表情をしていた。
「いえ……なんか、魔力がおかしい気がして……二人とも魔力が全然動いてない、というか……」
「……えっと?」
「すいません、俺にも今一言葉が見つからなくて……でも、なら少しだけあれを試してみますか……」
「ほう……あのガキ、マホーグを打ち破ったか。」
「なんだ?ウェンディ達のように、誰かをまた試合外で狙ってたってのか?」
3回戦バトルパート。ラクサス対アレクセイの対決だが、
当たり前だ、今戦っているのは幻なのだから。
「……マルクか。どうしてまた、アイツを狙う。」
「『魔力を食らう魔導士』ってだけでハクが付いている。つまりは金だ。あいつを売れば相当な資金が手に入る。」
「……腐りきってんな。オマケに意味がわからねぇ、お前らがこの幻とやらで勝って、何になるってんだ?」
「その通り、我々の目的は勝利ではない。この幻影は周囲への目くらまし。」
「……ア?」
「幻影は幻影、結果は如何様にも変更できる。我々との交渉次第では、お前を勝たせてやることも出来る。」
「……話にならねぇな。」
ラクサスは来ていた上着を脱ぎ捨て、雷を纏う。アレクセイのいう交渉が、既にラクサスにとってはクソ喰らえと言わんばかりであった。
「幻なんか関係ねえんだよ。今ここで、現実のお前を片付けて終わりだ。」
「━━━それは無理。」
「現実は厳しいでサー」
「……いかにお前といえど、
「ククッ……」
突如現れるレイヴンのメンバー達。幻によって偽りのラクサス対アレクセイを観客は見せられているため、五人が出ていることなんて誰も気づいていなかった。
「そしてもうひとつ……俺の強さは知ってんだろ
「そんなことだろうと思ったぜ……
アレクセイが仮面を外す。その中身は、レイヴンのマスター、イワンであった。
「マカロフは死んでも口を割らん。だが、お前は違う……教えてもらおうか、ルーメン・イストワールの在処を。」
「何の話だ……」
「とぼけなくていい、マカロフはお前に教えているはずだ。」
「本当に知らねぇんだけどな……」
呆れるラクサス。最早、手がつけられないほどにイワンはラクサスの知る頃より強欲となっていた。
「いいや、お前は知っているはずだ。」
「まぁ、例え知っててもあんたには教えねーよ。」
「オイオイ……この絶望的な状況で、価値を譲るって言ってんだぜ?条件が呑めねぇってんならお前……幻で負けるだけじゃ済まねぇぞ。」
「一々めんどくせぇことしやがって……ジジイが見切りをつけたのもよくわかる。
……それとな、一つだけ言っておいてやる。マルクがここにきた時点でお前らは負けてんだよ。」
「……何だと?」
瞬間、アレクセイ……否、イワンとラクサスの幻は消える。まるで何かにかき消されたかのように。
「やっぱり……!」
「ど、どういうことだ!?」
「おーっと!?これはどういうことだ!?突然今まで戦っていたアレクセイとラクサスが消え、中からマスターイワン……い、いやレイヴンのメンバー全員とラクサスが出てきたぞー!?」
「あのガキ!何しやがった!!」
「知らなかったようだな、あいつは自分の魔力を周りに広げて魔法を発動させないエリアを作れるんだよ。
ま、無理やりな方法で魔力と体力を相当消耗するらしいからよ……本人はあまりやりたがらねぇがな。」
「っ……!」
「だが……今回はこのまま戦ってやるよ。バカ親父にお灸を据えねぇといけねぇみてぇだからな。」
指で、こちらに来いと挑発するラクサス。その挑発にイワンは青筋を立てていた。つまり、ブチ切れていた。
「どうやら教えてやる必要があるみてぇだな……対妖精の尻尾特化型ギルドの力をよォ……!」
「対妖精の尻尾特化型ギルドだァ?」
「その通り……」
「我々は妖精の尻尾のメンバーそれぞれの苦手とする魔法の使い手のみで構成されている。」
「ボク達はその中の精鋭4人だ。」
「その俺達と……戦争するつもりか?弱点は知り尽くしている。我がギルドの7年間貯めた力を解放しちゃうぜ?」
イワンの言葉で、ラクサスは更に呆れる。ここまで固執するのは、最早異常なレベルだからだ。
「……ジジイはあんたの事なんぞとっくに調査済みだ。
構成人数、ギルドの場所、活動資金……この七年間の動向……すべて掴んでいる。
ジジイはそこまで掴んでいながら動かなかった。多分ジジイは心のどこかであんたのことを信じてたんだろうな……親子だから。」
「……黙れえ!!」
イワンがラクサスに向かって魔法を放つ。ラクサスはそれを片腕でガードするが、勢いで少し押されていた。
「俺は、この日のために日陰で暮らしてきたんだよォ!!全てはルーメン・イストワールを手に入れるため!
7年間危害を加えなかっただァ!?当たり前だろ!残ったカス共がルーメン・イストワールの情報を持ってるハズねぇからな!!」
イワンの猛攻が続く。しかし、激昂しているためにイワンは気づいていなかった。自分の魔法を防いでいるラクサスは、未だ自身の魔力を解放していないことに。
「ギルドの中も!
ルーメン・イストワールはどこだ!どこにある!!言ええぇぇっ!!ラクサスゥゥ!!俺の息子だろぉがァァァァァ!!」
激しくなってくる攻撃、イワンはオーブラに視線を移し合図をする。
「オーブラ!やれ!!魔力を消せ!!今こそ対妖精の尻尾特化型ギルドの力を解放せよ!!」
合図でオーブラは仕掛けようとする。だが、それを見逃すラクサスではなかった。
「こいつぁウェンディ達をやった奴か……!」
ここでラクサスは自身の魔力を解放し、稲妻のごとき速攻でオーブラに迫り殴り飛ばす。
この一撃でオーブラは終わっていた。
「赤髪!」
「ニードルブラスト!!」
そして一日目の試合でルーシィを倒したフレアと、グレイを倒したナルプディングがラクサスに迫る。
地面から襲いかかるフレアの髪を避け、その合間合間に攻撃を仕掛けてくるナルプディングの攻撃も避ける。
「こいつはグレイの分だ……!」
そして、また一撃。だが、ナルプディングを沈めたその瞬間にラクサスの腕にフレアの髪が巻き付く。
「捕まえたぞっ!!」
「こいつはルーシィの分!」
だが、即座にブレスを放ち、フレアもまた一撃で沈められる。
「バカな……」
「お前は……よくわからん。」
擬態魔法ミミックを使って、後ろから不意打ちを仕掛けようとしたクロヘビ。だが、すぐにバレてまたも一撃で終わらせられた。
「わ、我が精鋭部隊が……!」
「あんたの目的がなんだか知らねぇが……やられた仲間のケジメは取らせてもらうぜ。」
「ま、まて!俺はお前の父親だぞ!!家族だ!父を殴るというのか!!」
「俺の家族は妖精の尻尾だ……!家族の敵は俺が潰す!!」
そして、イワンにも一撃入れるラクサス。そのまま吹き飛ばされたイワンはフィールドの壁にぶつかり、めり込んでいた。
「……し、試合終了ー!!立っているのはラクサス!」
「……幻で隠し、見えないところで五人がかりの攻撃を行おうとしたこと、更にマスターの大会参戦……これはどう見ても反則じゃの。」
実況のこえにより、会場は盛り上がっていく。ルール違反をおかしたレイヴンとの対決だったとはいえ、全員を倒したということでBチームに10pが入る。
試合は、妖精の尻尾の勝利で幕を閉じたのであった。
「……」
「大丈夫かい?」
「……ここまで膨大に広げたのは初めてでしたよほんと。」
「ま、あんたのおかげで不正も暴けたんだから良かったじゃないか。」
「……ラクサスさんなら、俺の力借りなくてもよかったと思いますけどね。」
観客席で倒れながら喋っているマルク。ラクサスが説明した通り、マルクは魔法を無効化するエリアを一瞬だけ広げていた。
しかし、魔力よりもやはり体力と集中力を酷使しすぎたせいで、観客席で倒れていていた。
「一瞬でもいいさ。ラクサスなら普通に勝ってたかもしんないけどさ……あれ倒してラクサスが幻を潰していたかは微妙だし。」
「……俺、役に立ちましたかね。」
「少なくとも、役に立ってないなんて口が滑っても言えないさ。」
倒れているマルクの背中を叩きながら、カナは笑いかける。フィールドに視線を戻してみると、レイヴンのメンバーが全員国の兵士に連れていかれていた。
「……仕掛けてきますかね、レイヴンは。」
「あくまでも、大会のルールを破っただけだからね……よほどのことがない限り仕掛けてくると思うよ。」
「……ま、不意打ちで仕掛けてこようものなら、反撃するだけです。」
「かっこいいこと言ってる時に悪いけど、その倒れた姿で言うのはかなりかっこ悪いよ。」
「言わないでくださいよその事は……」
ラクサスもフィールドから離れる。マルクも一旦頭からレイヴンの事を切り離して次の試合について思考を切り替える。
「次の試合は……あ、Aチームが残ってましたね。」
「あぁ、んで他に残ってるのは
そう言って新たな酒樽を担ぎ上げて、中の酒を飲んでいくカナ。既に本日だけで何本飲んでいるのかわからないが、ギルドメンバーの殆どが苦笑を浮かべていた。
「……って、何か次の試合のコール遅くないですか?」
「言われてみればそうだねぇ……どうしたんだ?」
「えー、ただいま大鴉の尻尾のことについて運営委員会が協議を重ねております。もうしばらくお待ちください。」
と、実況席から声が聞こえてくる。それで一部のメンバーは納得していたが、マカロフは観客席の先の方で何やら激昂していた。
「次の試合……ウェンディはそろそろですかね。」
「だね、出すとしたらそろそろのはずだ。対戦相手がジュラとかじゃ無かったら、勝機はあると思うよ。」
「バトルパートは、どのギルドの誰とぶつかるかがわからないですもんね。」
「だから……ジュラがウェンディとぶつかる可能性もある。私は初代に三大魔法借りたから、数値上でなんとか勝てたけど……」
「ただのぶつかり合いで、ジュラさんに勝てる魔導士は……居るんでしょうか。少なくとも、この会場内で。」
その質問に明確な答えを返す者はいない。大前提として、ジュラとぶつかると立てていた戦略や、得意の戦法が全て無駄になるのだ。
その上で、あのジュラに勝てるのか……最早この大魔闘演武において、ジュラとぶつかることは、完全に終わりを意味する。
「ウェンディ……」
次の試合。余っている組み合わせで妖精の尻尾Aチーム対蛇姫の鱗となってしまうが、マルクはウェンディが怪我をしないことだけを祈っているのであった。