「はぁ、はぁ…!おおおお!!」
マルクは大きく吠える。目の前の男に大して、怒りを感じているからである。マルクは大きく叫ぶ。大切な者と、既に会えない悲しさを感じているからである。
悲しみという感情と、怒りという感情が混ざりに混ざってどす黒くなる。
「もっとだ!もっと!!ふははははは!!」
グラトニーは大きく声を上げる。既に戦えないと思っていた少年が、力に目覚めて戦えている事に、嬉しさを感じているからである。グラトニーは大きく高笑いをする。強者だと思っていた者と既に戦えない虚しさを、紛らわせるためである。
「ふっ……だぁぁぁぁ!!」
「ハァッ!!」
マルクは、グラトニーの顔に向けて蹴りを放つが、全く同じ動きをグラトニーが行い、相殺される。
だが、既にグラトニーは本気を出していた。それ故に、周りの地面は激しくめくれ上がり、至る所にクレーターが出来上がっていた。
「ああああああ!!」
「まだ強くなるのか……!はは、ふはははは!!」
マルクは、真っ黒になっている自身の魔力をグラトニーに向けて放つ。本気を超えて、グラトニーもそれに合わせて打ち込んでいく。
だが、微量にグラトニーの呪力を魔力として回収し続けていたせいで、マルクの体には既にグラトニーの力を持った魔力が循環し始めていた。
「まだ、だァ!!」
「この、力は……!?まさか、まさか!!」
マルクの体や、顔にドラゴンの鱗のような模様が浮かび始める。そして、さらに倍加されたような魔力に、グラトニーは嬉しさを覚えながら、確信していた。
「ドラゴンフォース!ドラゴンフォースを使えるようになったか!!」
「AAAAAaaaaaaaaaa!」
最早言葉になんの意味も持たない。叫ぶ、獣のようにただ大きく雄々しくそれでいて狂気的に。
「ははは!!真の
力の目覚めに、嬉しさを覚えているグラトニー。お互いにギリギリの状況であるはずなのに、一切の焦りなどは感じさせない顔だった。
「がァっ!!」
「ぐっ……はっはァ!!」
「がっ……!」
グラトニーに打ち込まれる拳。その一撃は、ついにグラトニーの防御を打ち崩し、直撃させることが出来た。
だが、その一瞬の隙にグラトニーもマルクに攻撃を直撃させる……が、マルクにほとんどダメージはなかった。
「っ!?俺の、拳が……」
その理由は、言わなくてもグラトニーは一瞬で理解した。『自分の力』だと。
「ドラゴンフォースに加えて、俺の力までモノにしやがった!!どこまでだ、貴様はどこまで高みに登る気なんだ!!」
「お前を倒せるくらいに、だ!!」
「いいね!可能だ、お前ならそれが可能だとたった今証明された!!」
自分が死ぬかもしれないというのに、グラトニーには焦りも恐怖も存在していなかった。最早、頭のネジは吹っ飛んでいると言っても過言ではないだろう。
完全に死ぬことを恐怖しないのは、それはもう生きている者としては壊れすぎているからだ。
「だがまだ足りない!俺を完全に倒すには、まだ足りないぞマルク・スーリア!!」
「だっ、だらぁ!」
マルクは拳を打ち込む。だが、その打ち込んだ拳は直後に黒く染まる。そして、侵食していくかのように腕から胴体、そして足まで黒く染まっていく。
「おあぁぁぁぁぁああああ!!」
「これは……俺の魔力で俺を再現するか!!」
マルクの体が黒く染まり、人の姿を保てなくなっていく。腕は黒く染まり、爪は伸びてまるで異形の手のようになる。そして、足も黒く染まって爪が伸びて異形の足のようになる。
何より、染まった顔が既に人間ではなかった。真っ黒の顔に、まるでトカゲのような前に伸びた顔、そしてその口には牙が生えていた。
「GRRRRRR…!」
「ふははは!正真正銘人間を辞めたか!だが、だがいいぞ!俺は今まで俺と相対したことがなかった!!そうだ、これは俺の生きていた中で最強の力だ!!」
「Aa!!」
言葉にならない声で、マルクは爪を振るう。それを、グラトニーは後ろに回避しようとするが、
「ぐぉ……!?だが、傷は浅い!!」
そう、軽く引き裂いただけで傷は浅いものだった。
「……」
「……?動かなくなったな。まさか、諦めたわけでもあるまい。俺に明確な傷を与えたというのに━━━」
そこで、不意にグラトニーの傷口から黒い魔力が噴出する。まるで、氾濫した川のごとく、激しく大量に。
「なん、だこれは……!?」
「GUA、GUA……」
まるで笑い声のような声を上げながら、マルクは吹き出した魔力を飲み込んでいた。
まるで魔力がマルクに集まるかのように、誘導されながら。
「……爪で引き裂かれて時点で、終わっていたということか。」
目の前にいるのが、理性を保ったマルクなのかはたまた悪魔としての側面なのか。
体から溢れ出た魔力を食らって、恍惚そうな顔をしているのは最早マルクでは無い何か別のものだろう。
「熱い戦いだと思っていれば……終わりは一瞬か。」
「……」
既に、グラトニーの体からは魔力は出なくなっていた。だが、グラトニーは目の前の存在に喜びを感じながらも一種の恐怖を覚えていた。
グラトニーは、魔法を使わない。呪法を使う。呪法は、呪力をもって使われるが、魔力のようにそこにエーテルナノがある訳では無い。
「……エーテルナノがないものに、エーテルナノを付与させて無理やり食らっていた、という事か。
まったく……俺以上に暴食が似合う悪魔が出てくるとはな。」
体をふらつかせながら、グラトニーは倒れる。呪力を完全に抜き取られ、その体も既に限界となったしまったのだろう。
マルクは、しばらくそれを観察したあとにゆっくりとグラトニーに歩み寄って━━━
「AG…AG……」
「あ、ぐぁ……!あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」
マルクは、元に戻ってから体を抑えていた。それは、彼の体にとんでもない激痛が走っていたからだ。
今まで受けたどんなダメージよりも痛く、しかし彼の体の内も外も傷は見受けられなかった。
「……っ!」
体が引き裂かれるような痛み、という訳でもない。なんだったら、それ以上の痛みである。
切られるような、拗られるような、潰されるような。色々な痛みが一挙に襲いかかってきていた。
「が、ぁ……!」
焼けるような感じもあるが、それでいて体が冷たくなっていくかのような感覚。
ありとあらゆる痛みを、一瞬で受けてると言っても過言ではなかった。
「う、が……!」
だが、拳を握りしめてマルクは立ち上がる。痛みをひた隠しにして、誰にも心配をかけないように。
そして、1歩を踏み出す。
「っ……!?」
足が折れた、神経も筋肉も血管も骨もまとめてみんな一緒に、ちぎれて折れたような痛みが来た。
だが、その痛みはすぐに慣れた。感覚が麻痺して、もはや何が痛いのかすらも理解できないほどに。
「……ウェン、ディ…!」
仲間のところに、大切な彼女のところに向かわなければならなかった。
それだけの思いで、痛みを無視して体力の限界もとうに突破させて、歩みを早めていく。
その内、走っても痛みは気にならなくなっていた。
「はぁ、はぁ……」
イービラーの死体は消えた。自分が食べたのは、魔力だけだったので、つまりイービラーの体自体が、まともな肉体ではなかったということになってしまう。
つまり、それは他のドラゴンも同じことである。イグニールも、メタリカーナも、バイスロギアも、スキアドラムも。
そして、グランディーネも。
「……」
ウェンディは強い、恐らくグランディーネがいなくなってもただ悲しみに暮れている訳では無いだろう。
ガジルも、ナツも寂しくはなってるだろうが……そこまでである。情がないというわけじゃない。だが、皆悲しむだけではいけないということはわかっているのだ。
「……だから、俺も…」
『悲しむだけではいけない』というのを、痛みとともに胸に刻み込む。孤独になっても、人を止めても……誰かを守れるならば、自分はそれでいい。これ以上大切な人の悲しみを増やさないように、とマルクは意思を決めたのであった。
「この、悪魔の力を……使いこなしてみせ、る…!」
片腕だけ変質させるマルク。決着は、ついた。意外な程にあっさりと、終わる時に終わった……という印象しか抱けなかった。
だが、とりあえず片腕。今はまだそれが限界である。だが、これから先自分でこの力を制御できるようにならなければいけないのである。
「だから……今は……」
歩を進める。みんなのいる場所に、せめてウェンディのところには、絶対帰らなければならないと考えたからである。
痛みは既に感じなくなっていた……というわけじゃなく、無視できるようになるほど、高速で慣れたというのが正しかった。
だが、どちらにせよ今のマルクにとっては些事だった。ウェンディのところに迎えるなら……何も変わらないのだから。
荒廃したマグノリア。
街の象徴である大聖堂も、完全に倒壊していたし……なにより。
「……本当に、無くなったのか。」
新しく立て直された
地下はまだ生きていたらしいが、少なくとも見えていた部分であった上部は最早欠片も残っていなかった。
「マルクー!!」
「……ウェンディ?」
ギルドがあったところに立っていたマルク。そこに、声をかけてくる人物が1人。ウェンディであった。
ウェンディは、1度髪を切ったはずだが何故かはわからないが元々のロングに戻っていた。
「その髪、どうしたんだ?」
「ルーシィさんのキャンサーさんに治してもらったの。」
「髪も伸ばせるのか……」
ハサミを持っているのは知っているので、てっきり散髪が得意だと思っていた。いや、髪を伸ばせる理由はわからないが。
「それで、その今日はどうするの……?」
「……寮が無事だったら、そこで寝よう。俺達には……今は休む時間は必要だと思う。
まずは何より……な。」
「そう、だね……久しぶりに3人っきり?」
「かもしれないな……」
それっきり、2人とも黙ってしまう。だが、一人でいるよりも、段違いの安心感があった。
「妖精の尻尾は……また復活するさ。」
「え?」
「話から聞いてる分だけどさ……今までもこういうことあったみたいだし。
でもその度に立ち上がって……何度だって諦めずに来てたんだ。だから、今回もまた復活するさ……時間がかかっても、絶対に。」
「……そう、だね。」
完全に何も無くなった土地を見渡してから、2人はヒルズへと向かう。ウェンディ、シャルル、マルクの3人で久しぶりにいたい……そんな気分だったからであった。