盗賊達のアジトに潜入したマルク。シャルルには、ウェンディ達を呼んでもらうという仕事があるので、それを任せて自分は先に侵入して場を乱すのが目的だった。
「もう逃げられないぞ!!」
「けっ!!餓鬼がいきがってんじゃねぇよ!!」
「ただの餓鬼かどうかは、自分の目で判断したらどうだ?!」
マルクは魔法を使い、盗賊達を一網打尽にしていく。しかしそれは、十把一絡げの雑兵達であり、リーダー格が出てこないことには話にならないのだ。
「さっさとリーダーを呼びな!!いきがってる餓鬼1人に勝てないようなヤツらが、いくら束になってもかないっこないよ!!」
「畜生!」
「━━━お前、見たことあるぞ。そうだ、大魔闘演武に出ていた餓鬼だな?」
声がしたのでそちらの方向に視線を向けるマルク。そこには、一風変わった男が立っていた。
どうやら、リーダー格のようだった。
「……それが、どうしたってんだ?」
「そりゃあな……あの時のお前は、
「それが……どうしたって言ってんだ!!」
殴り掛かるマルク。しかし、男は余裕ぶった表情でその攻撃を避ける。まるで、予め見えていたかのようにいとも容易く。
「すると、だ。巷で噂になっていることは本当なのかもしれない。」
「……噂?」
「『妖精の尻尾は解散した、三大闇ギルドの一つである
「なっ……」
そのような噂を、聞いたことがなかった。だが、話しているのは盗賊達であり、もしかすればまったくの冗談を言っているだけかもしれなかった。
「おっと……言っておくが、噂自体が流れているのは本当だよ。ただし、俺達の様な世間からのはみ出しモノ達の噂で……だがな。」
「……要するに、妖精の尻尾に潰された闇ギルドの残党や1度討伐された盗賊とかが噂してるってことか。」
「まぁ概ねそんなところさ。だが、その紋章を見る限り噂は真実だったようだ?」
「違う!!」
大きく声を出して、反論しようとするマルク。確かに、好き放題やられたことは事実だが、その上で冥府の門を返り討ちにして倒せたのだ。
だが、その噂を否定しようとも好き放題やられたことはマルクも事実だと認めてしまっている。
「何がだ?そりゃあ、細かいとこはちげーかもしれないがな……だが、概ねはあっているだろ?
自分たちの街も守れず、ギルドも守れず、その上で解散……何が違う?どこがちがう?」
「ぐっ……」
そこが突くべき弱点だと言わんばかりに、リーダーはマルクをひたすらに煽っていく。マルクは、その挑発にまんまと乗って段々と怒りを溜め込んでいた。
「そういやぁ、妖精の尻尾の最後のマスターはジジイだったらしいなぁ?大方、最強だと思っていた自分のギルドが負けて、拗ねて解散した……と言ったところか?」
「っ!!」
ブチッ、と何かが切れた音がした。人を小馬鹿にした態度が、マルクの神経を逆なでし続けた結果、完全にブチ切れさせていた。
「ふっ……とまぁ、ガキの挑発なんて簡単なもんよ。」
「さすがお頭!!」
「黙れぇ!!」
リーダー格に殴り掛かるマルク。右、左、その勢いを利用して回し蹴り。ブレスにその他滅竜魔法を組み合わせながら、初見ではまず避けられないようなコンボを行っていく。
しかし、男はそれを避け続けた。なんだったら、途中で目を瞑り始めたほどだ。
「眠い眠い、そんな攻撃で大魔闘演武を戦ってきたんだったら、マカロフの爺さんもそんなに強くなさそうだな。」
「ぐぅっ……!」
反論したいが、攻撃を避けられ続けている以上言ったところでただの言い訳である。
ならば、何故避けられているのかを考えるべきなのだ。
「1番考えられるのは……!」
『魔法による未来予知』
魔法としては、未来予知は存在している。だが、とんでもなくピーキーな魔法のため、あまり使い手が少ない魔法でもある。
それに、脳への負担がとんでもなく重いため、それも相まって余計に使い手を減らしているとも言える魔法でもある。
「ふんっ!!」
マルクは、簡易的ではあるが自身の魔力で形成された壁を広げていく。自身が対象の魔法であっても、これならばマルクの魔力で無効化することも可能である。
それに、アジトという閉鎖空間であれば避けることは不可能だろう。
「お前の戦い方はよく知っている。普通の魔導士からしてみれば、恐ろしい魔法だ。
魔力の性質も、とてもじゃないがまともな魔導士からしてみれば弱点だ。
「っ!?」
マルクとの間合いを一瞬で詰めるリーダー。何かの魔力でブーストをかけたのならともかく、その予兆も全くなかった上に全く姿を追うことができなかった。
不意打ちの状態で、マルクの顔面に膝が叩き込まれる。
「お……1回でも意識をそらさせれば解除出来るのかこれ。なるほどなるほど」
「お前……今、どうやって……」
「見ろよこの靴、高かったんだぜ?ま、奪ったもんだがよ。」
そう言いながら、リーダーは自身の履いている靴を見せびらかす。ただの靴にしては、やたら装飾が多くそして
「この靴はな、風乗りの靴ってアイテムさ。履いているだけで、まるで風のように瞬時に移動ができる。
風のように移動じゃなくて、まぁ所謂ショートワープみたいな感じで移動するんだけどな。」
「ぐっ……!?」
「まぁ、確かにお前の魔力の中に入ったら、魔法もなんも使えねーや。けどあくまで入るまでの話だ。」
リーダーは指を左右に振りながら、マルクにまるで教えるかのように優しく語りかける。
「『入ったらアウト』なだけだ。魔法は消えるが、『魔法による影響』は消えない。
転送は1度きりなら可能だし、自分の速度をあげる魔法なら上がったまま、相手に突っ込むことだってできる。」
「よく、お分かりで……」
「まぁなんだ、『魔力を食らう』ってインパクトは強いけどその程度だな。
よくそんなんで妖精の尻尾にいられたな?あ、でももう潰れちまったんだっけか!!」
「ぐっ……!」
ぐつぐつと、腸が煮えくり返る様な感じだった。何度も妖精の尻尾を馬鹿にする目の前の男に、マルクは腹が立っていた。
「実際、妖精の尻尾は1部を取り上げて最強の気分に浸っていただけだろう?
天狼島がなくなってからの7年間、最強ギルドが最弱ギルドになると誰が予想出来た?」
「……」
「ナツ・ドラグニル、グレイ・フルバスター、エルザ・スカーレット、ミラジェーン・ストラウス、ラクサス・ドレアー、ガジル・レッドフォックス……まぁこんな所か?」
「……何が言いたい。」
「こいつらがいなきゃ、妖精の尻尾はそこら辺のギルドよりも弱いって話をしてんだよ!!
お前や、ウェンディ・マーベルだってそうだろう?
その瞬間、リーダーの腹を貫く腕があった。マルクの腕である。しかし、マルクは
「なん……腕、伸びて……!?」
「俺のこと馬鹿にするのはいいよ、実際弱いし……滅竜魔導士なんて名乗ってるけど俺は『もどき』だしな。」
黒く染まった腕が、リーダーの腹を貫いていた。そして、そのまま元の長さに戻るように、縮んでいった。
「けどな、妖精の尻尾を馬鹿にするのは許さねぇよ。みんな我慢してたんだ……7年間、我慢してくれてたんだ。」
「が……!?」
「それを馬鹿にするってんなら、許さない。」
マルクは、歩きながら距離を詰める。周りにいた盗賊達も、先程までリーダーが優勢だった故に騒いでいたにも関わらず、今は静まり返っていた。
「ぐ……!だが、てめぇは幾多の魔法を使いこなす俺には━━━」
「今の俺を怒らせない方がいい。意識してしまってる分、人間じゃない方の俺が、出てきちまうからな。」
「に、人間じゃないって━━━」
「もう言い、だまれ。」
そう言って、マルクの腕が巨大化してリーダーに振り下ろされる。地面は、マルクの拳の形に抉れていた。
そこに、リーダーの姿は残っていなかった。
「お、お頭…?どこに行ったんで……?」
「お、お前お頭をどこにやりやがった!!」
「……さぁ?どこだろうな。あの世かもしんねぇし……
「ひ、ひいいい!?」
「いいぞ、どんどん逃げろ……初めから、貴様らを逃がす気もないがな。」
マルクとはどこか違った口調、そして段々と黒く染まっていく顔。表情もそれと同じくマルクのものではなくなっていく。
その様子を見て盗賊達は、こう感じた。『あいつは悪魔かなにかだった』と。しかしそれを誰かに伝えることは叶わない。今この時を持って、盗賊達は全滅するのだから。
「マルク!だいじょう……ぶ?」
「……」
「え、なにこれ……やけに静かだと思ったけど……盗賊達は?」
後から、ウェンディ達がやってくる。しかし、その時には既にアジトにはマルク1人しかおらず、周りには謎の破壊の後と散乱している武器だけが落ちていた。
「……いや、ここに来た時には既にいなかった。
けど……多分何かしらの理由で同士討ちしたんじゃないか……?」
そう言いながら、マルクは武器を一つだけ手に取った。しかし、その顔はとても青ざめていて、少なくともマルクに関しては絶対に無事ではないと言いきれた。
「っていうか顔色悪いよ!?と、とりあえず一旦村に戻って休もう!!」
シェリアに連れられて、マルク達は一旦アジトを後にする。しかし、それ以降村に盗賊達が現れることは無くなったのであった。
「……本当に、全滅したのですか?」
「はい……アジトから逃げた形跡もありませんでしたし。どこか別の場所から逃げた、というのも線が薄そうです。」
村の者達は、疑心暗鬼だった。あまりにも簡単に全滅してしまったのだ。怪しんでも当然だろう。
しかし、代表のものが確認に行ったが…帰ってくる答えはウェンディ達と同じ事だった。
「では、報酬は蛇姫の鱗の方に送っておきます……ありがとうございました。」
「いえいえ、気にしないでください。」
「私達は…何も出来ませんでしたし。」
「……」
マルクは黙って明後日の方を向いていた。それは、どんな感情からなのか。一体自分達が見ていない間に何が起こったのか。
だが、ウェンディには聞けなかった。聞いてもマルクが話さないこと、そして聞くと決まって辛そうな顔をしてしまうのが、ウェンディの心に小さな痛みを生み出してしまうからだ。
聞きたかった、聞きたかったのだ。自分達は何年も付き添った仲であるのが、1番大きいから。1番長く付き合っている自分にすら話さない、という事実が、聞きたいけど聞けないというウェンディの矛盾した心に痛みを残す。
「……さ、帰ろう3人とも。」
「えぇ、そうね……ウェンディ、帰るわよー」
「う、うん!」
しかし、ウェンディはこの時聞かなかったことを……ただひたすら後悔し続けるのであった。