Fate/Zero Lost Colors 狂乱のライ 作:祭祀者
海浜公園東の倉庫街、そこはすでに異様な気配に満ち満ちた魔窟となっていた。
その中心、今5騎のサーヴァントが睨みを効かせ膠着状態となっている。
「ブリテン…それにリオネスだと!?」
「…ブリタニア…帝国?」
セイバーとウェイバーが疑問の声を上げる。
それもそうだろうリオネスはともかく神聖ブリタニア帝国など聞いた覚えがない。
“この世界”の歴史に“そんな名前の国”は登場しないのだ。
だが彼らは知らない。彼の王がいかなる世界、“どのような理由”で呼び出されたのかを。
獲物を吟味するかのような眼差しを向けるアーチャーを除いて、その場にいる全員が怪訝な目を向けている。
「…おいなぁバーサーカー。ワシの記憶が正しければブリタニア帝国なんぞという国は聞いたこともないんだが」
痺れを切らしたのか、見かねてライダーが声をかける。
だが、バーサーカーは然もありなんと涼しげな表情で言い返す。
「それはそうであろうな。私が治めた国は“この世界”の如何な歴史書・神話を紐解こうとも出てくることはない。何故ならば私はこの世界の英霊ではないのだからな。」
「!!!」
その場にいる全員が、あのアーチャーでさえも驚愕で目を細める。
「私はこの世界とは異なる歴史、異なる時間の流れをたどった世界より呼び出された所謂
“イレギュラー”だ。私の世界ではブリテンに端を発する皇族は新大陸に渡り、世界の覇をその手につかむため神聖ブリタニア帝国を建国した。そしてその力を持って覇を成し遂げたる上王こそが“私”だ。よもやCの混濁より汲み取られ斯様な戯言に付き合わされるとは“私”も思ってもいなかったが、先駆者に拝顔が叶ったとあればまた感慨も深い」
微笑、と言うには余りに酷薄な冷笑をその美貌に浮かべながら自らを狂っていると宣ったサーヴァントはそう綴った。
そのあまりの内容に皆が皆凍ったようにその場に立ち尽くす。
あの傲慢なる黄金と、豪放たる大男を除いて。
「なんと!別世の英霊であったか!そして何より貴様、詰り一度は世界を獲ったと?」
「たかが雑種の身で成したとは、其の言ただの世迷言ではあるまいな、狂犬よ」
反応こそ違えど、二人の王は自らその真贋を確かめようと問を打つ。
それに対してバーサーカーはその貌に冷笑を張り付かせたまま背にかけた戦斧に手をかけつつ
「それは何れ各々方がその身と目を持って見定めれば良いだけのこと。まぁこの5竦みの状況下で“どのような札”を持っているかも判らないサーヴァントを相手取る剛毅なマスターがいれば今すぐにでも始められるが」
言いながら周囲に視線を送るバーサーカー。
(…さて何匹釣れるか)
思案しながらもその目は一人ひとりを射抜いていく。この場にいないマスターでさえも。
そう、彼の“目”には見えているのだ。共犯者の使い魔たる“蟲”を媒介として。
「ふむ。どいつもこいつも腰抜けばかりか。なれば此処は余が直々に相手を仕ろう。」
そう言うやいなやライダーが戦車の手綱を引く。
「戯言を…」
腰抜け、という言葉にアーチャーが一瞬目を顰めるが、2騎の決闘をもって真贋を見極めるつもりなのか腕を組んでその様子を俯瞰している。
「なっ!?この馬鹿今がどういう状況かわかってんのか!今戦うってことは挟撃のゲピッ!?」
「んなこたぁ言われんでも判っとるわい。それにここに来る前にも言ったであろう?故あれば“諸共”に叩き潰せばいいだけのことよ」
機先を制するライダーのデコピンにもんどり打つウェイバー。ライダーは不敵な笑みを携えながら、それでもその視線はバーサーカーより動かない。
「まて征服王、バーサーカーには私も…」
キチリ、と槍の鳴る音がセイバーの言葉を遮る。
「セイバーよ、貴様の相手はこの俺だ。それに我がマスターはあの2騎の激突こそ所望だ。」
ランサーのマスターは漁夫の利を狙ったのか、彼に静観と邪魔者の妨害を命じている。
「まぁ、そこで見ておれよ騎士王。…では、行くぞ狂王よ!!!」
そう叫ぶと同時にライダーの『神威の車輪』が雷鳴を轟かせ進撃を開始する、彼の征服王が誇る蹂躙走法を前にバーサーカーは一瞬身を沈めると背より戦斧を抜き放ち、“ライダーへと疾走した”。
「なっ!?」
『何を』とセイバーが言い切る前に2騎のサーヴァントは既に激突寸前にまで肉薄している。次の瞬間には誰の目にもバーサーカーが弾き飛ばされる瞬間が飛び込んでくる。そう思考した瞬間、バーサーカーはその腰だめに持った戦斧の先を『神威の車輪』の目の前の地面へと抜き放ち、まるで棒高跳びをするように、ライダーの頭上へと舞う。
「なん、とぉ!?」
ライダーが叫ぶがバーサーカーの舞は止まらない。
「!!」
声にならない叫びを上げながら宙で体を捻り、左手をその右腰に伸ばすとひと振りの『剣』をライダーの後ろ首目掛け抜き放つ。
(間に合うかっ!?)
思考と同時にライダーは右手を手綱から腰の短刀に持ち替え、振り向きざまに狙いも侭ならぬまま剣線を放つ。
しかして、その判断が彼の命を奇跡的にも手繰り寄せた。
(浅いかっ!?)
バーサーカーの一撃はライダーの剣線により、首の皮を一枚裂くだけに留まった。
弾かれる様にチャリオットより離れ、独楽のように回転しながらその勢いを殺すと予断なくライダーを見据え剣を構えるバーサーカー。
ライダーは手綱を握り直し制動を執ると、弧を描くように空中で方向を転換し向き直る。
「我が蹂躙を躱しただけではなく、首まで狙うとは。やるではないか狂王よ。流石の余も一瞬肝を冷やしたぞ。」
その言葉を肯定するかのようにライダーの頬を冷たい汗が一筋流れる。
「…貴様もな征服王。その未来をたぐり寄せる手腕、帝国最強の騎士と名高い男の剣を思い出させる。が、貴様のマスターは先の激突に耐えられなかったか」
みればウェイバーは座席で目を回している。
「だが、余と共に戦場に立つことを是とする気概のあるマスターだ。…侮辱することは許さんぞ?」
琴線に触れたのか静かに威圧を放つライダー。
「馬鹿になど、せぬさ。大多数のマスターが姿さえ見せぬ中で貴様に連れられる形とは云え“この場”に立っていたのだ。
敬服さえすれ、馬鹿にする道理は持ち合わせていないよ」
肩を竦めながら答えるバーサーカー。だがその言を聞きながらセイバーは得体の知れない何かを目の当たりにしているような錯覚を受けていた。
このサーヴァントは本当に自身が語ったように『狂った』王なのか…と。
先ほどの死地に飛び込み一瞬の好を臨む様は確かに捉える者からすれば狂っていると言えなくもないが、自身を含めた英霊は多かれ少なかれそういった『者』の集まりだ。それに、他者をたてる彼の言動から『狂』の気は感じられない。だからこそ薄ら寒い『何か』を潜ませているような…。
そう思案しかかった刻だった。バーサーカーの貌にうっすらと酷薄な嗤いが浮かんだのは。
TO BE CONTINUED…