やー、大分空いてしまった。
『エロエロンナ』シリーズが本命なので、次はいつになるのやら…。
一応、原稿は最後まで完成してるんですけどね(笑)。
〈5、決戦〉
地上の公安部隊は活動を開始した。
少佐の包囲網から抽出した部隊の一部は、既に廃校舎へ向かっている筈であった。
「これで、何とかなると思いたい物だが…さて」
神経質そうにトントンと指で机を突きながら、非常連絡局の専用指揮車両で少佐は呟いた。
子飼いの部隊を全て投入しての総力戦である。
前々から自分の尻尾を掴もうと嗅ぎ回るジャネット諸共、この事件に関わった一切の者を抹殺する予定であった。
後腐れが無い様に、南から借り受けた山城すらその対象である。
南ヘの言い訳は何とでもなろう。
少佐にしても南にせよ、山城は駒であり、所詮は使い捨ての偽学生に過ぎない。
「問題はジャネット・カーリンだ」
非常連絡局長に忠誠を誓い、しかも、任務に忠実な小娘。
古参の局員ある少佐にしてみれば、動乱も知らぬ新参者の上に出世街道を順風満帆に進んで来ているのが気に入らなかった。
事実を言えば、果林が優秀な人間で、出世したのも全ては結果に過ぎないのだが、それだけでは他人は納得せぬ事もある。
それは彼女の実力を、素直に認める事が出来ぬ種類の人間だ。
それを認めたならば、自分が無能であると同じと短絡思考に陥るタイプの人種である。
「自ら動いたのが運の尽きだったな。地上へは帰還させんぞ」
サディスティックに口を釣り上げて、少佐は低く笑い出していた。
少佐の見通しが甘かったと思い知らされるのは、それから僅か一時間後の事である。
★ ★ ★
さて、その果林である。
「ほほぅ、君は非常連絡局員か」
彼女は薄紫の瞳で、きっ、と加賀を睨み付けると唇を噛む。
「にしてもは、実に艶めかしい姿だ。
最近の公安委員は粋な趣向を凝らしているのだね」
「お褒め頂いて大変光栄だ。自分でもこのコスチュームは気に入っている衣装の一つだ」
レオタード姿の少女は皮肉っぽく礼を返した。
「残念だよ。美人薄命と言う格言を実行に移さねばならないのを…」
加賀は、オペラ俳優並みの大袈裟なゼスチャーを交えて述べ続ける。
「…何しろ、君は計画の員数外なのだよ。
今、我が望みを成就する為に必要な人材は、南君、おっと、君達流に言うならば君武君か、
彼女だけなのだ。ジャネット・カーリン大尉」
果林は左手で桜色の髪を掻き上げ、右手で超高張鋼製のリボンを取り出して正面へ突き付ける。
「君の価値は、君武君を引っかける為の餌。まぁ、囮役と言った所でしかないのだよ」
「言ってくれるな」
手首の動きに合わせて、蛍光ピンクの色鮮やかなリボンが舞い始める。
「…それはともかく、美人と言ってくれた事には感謝するぞ。
そんなおべんちゃらを言う奴は、今まで近付いて来なかったのでな」
「おやおや、お世辞だとでも思ったのかな。瞳がきつめなのが、少々難ありだがね」
舌打ちする果林。
心が読めると豪語した錬金術師の言葉は、はったりでは無かった様だ。
自分の一番コンプレックスだった所を突いて来る。
プロポーションも顔立ちも整った、いわゆる欧州系モデル系美少女ではあるのだが、この瞳の為に果林は近づき難い女性として、ずっと他人から敬遠されていたからだ。
冷たい薄紫色(アメジスト)の瞳。
色も相まって、他者を見下す様なきつい瞳が人に果林を誤解させる。ぞっとする様な冷たい視線と見做され、それは高慢にして冷酷な印象を他人へ与えてしまう。
余りにも完成され、整いすぎた顔の造形がそれを助長し、幼少時の人見知りする内向的な性格が、それに輪を掛けた。
親しい友人は出来ず、物心付いた時からいつも孤独だった。
果林は『この悪人みたいな瞳が無ければ、もっと明るい人生を歩めただろうに』と常々思っている。学園で一番の憎まれ役である非常連絡局へ属したのも『どうせ悪役にしかみられないなら、いっそ』と言う、半ば自暴自棄に近い行動の末だった。
あくまでIFだが、もし動乱前に入学していたら、あの生活指導委員会、しかも武装SSに所属していたのかも知れない。
『嫌な事実を思い出させてくれる』
「ふふふ…」
その心を読んだのだろう、加賀が含み笑いを漏らした。
「貴様は何故、マリーンとやらを甦らせるのだ?」
「何?」
突然、違う話題を振られて、錬金術師は困惑の表情を作る。
「せめて、その理由を聞かせて欲しいと思ってな」
勝ち目が無いなら機会を窺え。
どんな方法を使用しても、隙を突いて逆転をはかれ。
自分で編み出した自己流の戦術であるが、現在、果林が質問しているのも、そんな手法に沿った時間稼ぎである。
「マリーン…だと?」
加賀はその名前を噛み締める様に呟いた。
「先刻、貴様はそう叫んだではないか」
果林はその語尾が疑問形になっているのに気が付き、訝る様に問いを続ける。
「そう言えば、そんな事が目的だったか」
加賀の言葉は素っ気ない。
「な…に?」
新体操部員は絶句した。
「貴様の恋人なのだろう!」
少なくとも、彼女の調べた資料ではそうなっていた筈だ。
「そうだったかな?」
目の前の男は、まるで他人事みたいに答える。
「マリーン・吉野は…貴様の恋人だった。違うのか!」
「それは事実だろうな。確かに…」
加賀大膳は言葉を切ると、鼠をいたぶる猫の目付きで果林を凝視した。
自分の言葉の反応を、楽しんでいるかの様に。
「…そう言う記憶はある」
錬金術師は悪魔に似た笑いを浮かべた。
「貴様、応石に…」
非常連絡局大尉は一つの事実に思い当たった。
先月のとある事件、無論、応石絡みの事件ファイルを調べている時に分かった事だ。
「心を支配されているのか?!」
封印後の応石は人間に使役される便利な道具では無く、独立した存在でもある。
故に応石の力が強ければ、共生している宿主の精神を逆に乗っ取る可能性があるらしい。
資料の中には、応石に宿主が支配されるケースが記述されていたのだ。
「お喋りが過ぎた。お仲間と合流されても困る」
鈍い音を伴って洞窟が揺れ、頭上からパラパラと岩や土が落下した。
明らかに爆発物による振動だった。誰かが上で戦闘でもしているのか?
「そろそろ行くぞ」
言うが早いが、黒い外套をばさりと鳴らして加賀が飛びかかって来た。
コウモリにも似た俊敏な空中機動である。
「くっ!」
果林の方も戦闘隊形を解いていた訳ではない。
八の字を描いて回していたリボンを一直線に錬金術師へと放つ。熟練者が使えば、鉄骨をも切断すると言う恐るべき武器である。
「やったか!」
快哉の声を上げる彼女の後ろに、加賀が立っていた。
「甘いな」
果林の捉えたそれは残像に過ぎなかったのである。
錬金術師は彼女の首筋に触れると、弾ける様な音と共に小さな閃光を発した。
「お前には価値がある。まだ、囮としてのな」
桜色の長い髪を広げながら倒れて行く少女を見詰めながら、加賀大膳は感情の無い声をその背中へ投げかけた。
「その前に、雑魚共を片付けておく必要があるか」
加賀は果林を抱き抱えると、瞬時に転移してその場を去った。
★ ★ ★
地上の公安部隊は騒然とし始めた。
「どう言う事だ」
指揮車両内の少佐が問い返す。
「既に第一班の連絡が途絶えました。現在、我々も交戦中!」
軍用の有線電話を通じて、現場で発生している各種の音が響く。
すなわち、銃声や爆発音。それに部下がやられて行く断末魔の絶叫だ。
「後退を。撤退命令を!」
その要請で、少佐ははっとして我に返る。
「いかん、いかんぞ。ここでジャネットを仕留めるのだ。それでも貴様らは私の部下か!」
受話器を抱え込む様にして、彼らの上司は吼えた。
「わぁぁぁぁぁ!」
答えは無く、ただ悲鳴が聞こえただけだった。
その後は、ガリガリ鳴る雑音の他はただの静寂。
「突入部隊が全滅だと…?」
少佐は受話器を取ったままの姿勢で顔面蒼白となる。
彼の持つ手勢の半分近くが消滅したのだ。
「馬鹿な。そんな馬鹿な。あそこは旧図書館や幽霊塔ではないのだぞ」
重装備で固めた特殊部隊で、対抗出来るとの認識が少佐にはあった。
相手が魔導を使用するとしても、無名の一錬金術師。
学園中央部で起こった例の不手際も、油断した結果だと判断したのだが、これは何だ?
「仮に応石使いにしても強すぎる。じ、冗談では無いぞ」
応石の情報をリークしていたにしては、少佐の応石に対する認識は甘かった。
八仙級の人間や学園太守から見たら、いや、神道・術法研究会の代表級の応石絡み事件関係者の目から見たって、甘過ぎると言っても良かった。
あくまで委員会センターで陰謀を巡らすデスクワーク向きの人材で、状況を正しく掴んで動く現場の人間では無かったのだ。
果林の様に、加賀と言う人物が如何なる男で、どんな才能を持っているかと言う相手に対する研究や分析も、恐らくしてはおるまい。
『このままでは山城を捕らえたジャネットは、私と若様との関係を白状させた後に、私を失脚させるだろう。ええぃ、どうする?』
「少佐。指示を」
「うるさいっ」
少佐は部下を怒鳴りつけると憤然と席を立った。
『あの錬金術師に両者がやられる幸運は、確実性が期待出来ぬ分、リスクが大きすぎる。
かと言って、くそっ、私が動くしか無いのか!』
暫く考えた後、「これ以上の損害は出せん」と少佐は待機命令を出す。
優柔不断かも知れぬが、まずは妥当な線だろう
★ ★ ★
遠雷にも似た音を耳にして、ジャネット・果林は目を覚ました。
のろのろと周囲を見回す。
『教会かな』
相変わらず暗い部屋だった。
黒板や大量の机、椅子が放置されている所を見ると教室だと思われるが、それらの様式が古臭いながらも優雅なアールヌーヴォーである為、果林の感覚では教室と言うよりも、故郷の教会にあった集会場にも思えた。
かなり広い。だが、どことなく見覚えがあった。
『あの特別教室?』
頭を左右に振ると、立ち上がろうと足に力を込める。
そろそろと中腰まで立ち上がったが、まだ麻痺の影響が抜けていなかったのだろう。ぐらりと揺れて、後ろへ倒れかかった。
壁に背中からぶつかる。
経年劣化により脆くなっていたのか、石積みなのにも関わらず、それは果林の身体を支え切れずにがらがらと崩れた。
彼女は再び床に倒れ伏す事になる。
背中の痛みを我慢しながら、仰向けの目に飛び込んだ光景をぼんやりと眺める。
『非現実的な光景だ…』
と果林が思うのも無理は無い。
地下の暗闇にほんのり発光する巨木。
石壁に囲まれてそそり立ち、時折、ひらひらと花びらを散らして行く。
そんな幻想的な部屋に彼女は居たからだ。
偶然、果林が壁を突き崩した隣の部屋。
そこは君武が最初に目を覚ました部屋であるが、無論、彼女が知る訳も無い。
『夢だな。夢』
手足が拘束されていない事を確認して、彼女はますますそう確信した。
幾ら加賀が素人でも、果林を拘束せずに放っておく訳は無いからだ。
この部屋から出られない様に出入り口が閉鎖されているにせよ、公安委員、しかも非常連絡局員を自由にさせておいて、加賀に何か得になる事があるとも思えない。
『もっとも、相手は応石使いか。
私に逃げられない絶対的な自信でもあるかも知れんな』
ぎこちなく身を起こして、そっと座り直す。
幸い、壁と一緒に倒れ込んだので怪我は無い。背中が壁を崩さなかったら、瓦礫が上から落下して来て、頭に傷でも出来ていた所だ。
「!」
爪先に何か感じた。
「あ…」
果林は慌てて左右を確認した。
未知の感覚が彼女に接触したからである。
心の琴線に触れる想い。繊細な、それでいて強い意志。
悲しいかな、果林は神秘学や宗教学には疎く、それに基づく各種術法を扱える訳でもない普通の人間であった。
無論、応石を所有している訳でもない。
それが何かを踏んでいるのだと気が付く。
サイズ的にはそんなに大きな物では無いが、平たい硬質の何かだった。
レオタードに併せて布と薄い革で出来た新体操用のシューズに履き替えた為、踏んだ物体がそんな感じの物だと把握出来る。
足をどけて、それの正体を見極める。
「珊瑚?」
思わず口に出してしまう。
そうとも見える。偏平で表面は白い碁石にも似てすべすべしているが、色は果林の髪の色を連想させる、淡い桜色であった。
いつの間にか、遠雷は鳴り止んでいた。
★ ★ ★
「終わったか…」
加賀の使い魔や応石獣が作り出した惨劇の舞台に立った加賀は、素直な感想を述べていた。
ノクトビジョンやら、対戦車火器やらで武装した者の成れの果てがあちこちに転がっている。
「最精鋭だった様だな…」
装備の一部を手にとって感想を述べる加賀。
パンツァーファウスト3。後に名付けられる名だが、後方にカウンターマスを飛ばし、閉所でも運用可能なこのドイツ製の対戦車火器はまだ実験段階だった筈だ。
6・4内戦の頃に、覚えたくなかったのに覚えてしまった無駄知識であるのを思い出し、錬金術師は苦笑する。
「錆び臭いな」
錆の匂いでは無く、それは血液に含まれる鉄分の匂いだ。公安委員会の特殊武装治安部隊メンバーが流した血の臭いであった。
「君武君かな?」
気配を感じて彼は振り向いた。
「ああ」
よれよれの礼服を着た予算委員がそこに居た。
「私に従う気は決まったのかね。いや…」
加賀は楽しそうに指を突き付ける。
「その顔は、反抗する気だね。読心せずとも判るよ」
言いつつも、半身になって攻撃に備える。
「加賀先輩。マリーンの…」
ばさりと外套を鳴らす。
「動揺させても無駄だ。もう動じたりはせんよ」
君武の言葉を、錬金術師は最後まで言わせなかった。
最初に知った頃とは違う。
かと言って、横町で再び会ったあの時とも、地下で三度目に彼を逃がしてくれた、あの加賀でもない。
何かに取り憑かれ、その欲望のみに全てを捧げている何かだ。
「場所を変えよう。君とて果林君の安否が気になろうからね」
低い詠唱が紡ぎ出される。
「そいつはどうも」
一瞬の後、二人の姿はその場から転移していた。
★ ★ ★
果林は呆然としながら、中央にある桜の樹にもたれかかっていた。
『そうなのか…』
ファイルでは決して判らぬ背景事情が、全て氷解していた。
『山城がそれを私に託して、マリーンの事を教えたかったのか』
彼女の瞳には半透明な少女がはっきりと映っていた。
見上げれば、この夜桜と重なる様にして眠る様に浮かんでいる。
『解った。出来るだけの努力はする』
金髪の少女は寝顔のまま、僅かに顔をほころばせる。
その時だった。大音響と共に果林の空けた穴から爆風が吹き込んできたのは。
「君武か!」
新体操部員は叫ぶと、戦場となっているであろう部屋へと身を翻した。
★ ★ ★
「勝てると思うのかね!」
錬金術師は勝ち誇った顔で言い放つと、電撃を放って来た。
加賀の選んだ決戦場。
それは床の半分は陥没し、冷たい風が吹き上げて来るアールヌーヴォー風の部屋であった。
加賀が初めて訪れ、先程まで果林が監禁されていた部屋。
果林の推察通り、此処は一度彼らが訪れ、そして地底へ落とされたあの特別教室である。
「ウェルダンステーキにはなりたくないんでね」
ひらりと躱した紫電が机を破壊する。
避けなければ、多分、黒焦げの消し炭になりかねない圧倒的な電圧だ。
「成る程、だが…」
愛刀〝夜叉女〟を片手に対峙する予算委員を睨んで、加賀は嬉しそうに呟いた。
「どれだけ逃げ回れるかな?」
「吠ざくな!」
再度の攻撃。火の玉が君武を襲う。
黒檀の木刀がバットみたいにそれを薙ぎ払うが、その火球は木刀に触れた途端に爆発した。
たまらず、吹き飛ばされる君武。
「わはははは、火球を自ら叩くとはな!」
魔導に詳しければ、それが比較的ポピュラーな攻撃魔法であるのが判っただろうが、君武は生憎素人である。
弾着と共に爆発するタイプの広範囲攻撃を自分から叩いてしまった。
「くそぉ…」
滅茶苦茶に調度品を壊しながら、叩き付けられてしまった君武だったが、罵りの言葉を呟きながら、残骸の中より幽鬼の如く立ち上がる。
服装は焼け焦げ、腕や足には夥しい出血があった。
木刀も焼け、中の鉄心が剥き出しになっている。
「む?」
圧倒的な優位で、彼を追い詰めている筈の加賀の表情が少し険しくなる。
「君武君。何の真似だね」
「真似とは、何だって?」
問いに対して、予算委員は不敵な笑いを見せる。
「君武か!」
女性の問いが重なった。
見ると、崩れた壁に出来た穴からレオタードを着込んだ少女が身を乗り出している。
「役者が揃ったな。
さぁ、加賀大膳である誰か、勝負を続けようぜ」
加賀は挑発する君武から、間合いを取る為に僅かに後退する。
原因は相手の持つ木刀だった。
最初に加賀の使い魔を倒した時も、二度目に自分へ斬り掛かった時も、君武の持つ木刀は応石を変化させた物であった。
応石刀であれば、物理的な力で刀身が焼け焦げる筈はないのだ。
『何を考えている』
錬金術師は訝った。
応石を使用せずに勝負に出た理由が分からない。
『応石を使わずに勝てるとでも思っているのか?』
読心を試みるが、前と違って上手く読み取れない。
どうやら君武の所持する応石が、ジャミング(妨害)をしているらしい。
応石との関係が強まると、宿主の危険を防護する為に応石が自主的に発動する事例が多々あるが、これもその一つなのだろうと推測する。
「先輩。いや、先輩に取り憑いた〈蛇牙〉」
君武がずいっと一歩前へ出る。
「マリーンの復活を餌に、先輩を乗っ取った貴様らを先輩から追い出してやる」
「ほほぅ、方法でもあるのかな?」
加賀はせせら笑った。
「応石が私を乗っ取ったと言う訳ではないぞ。
応石は我が心の奥底にある願望を、引き出してやったに過ぎぬ」
「俺の知る先輩は貴様じゃ無い」
「だろうな」
錬金術師は頷いた。
「だが、今の私も私の側面なのだよ」
「側面だと?」
加賀は目を閉じて笑う。
「そう、君にも君の側面がある様にだ。
違うとは言わせんぞ。君武南豪(きみたけ・なんごう)。いやさ南 君子(みなみ・くんし)!」
加賀は、黒いマントをばっと両手で広げる。
「そうとも、君が常に抱いている願望だ。
君はこう思っ事がある筈だ。弟と祖父さえ居なかったならと。
この手で排除しておけば、そうしたらこんな境遇になる筈は無かったと!」
「貴様ぁ!」
彼の叫びを理解する為に、時間をやや戻さねばなるまい。
〈続く〉
グロックの時もそうでしたが、物語の年代は1992年な為、今ではポピュラーな装備が最新鋭扱いになってます。
92年当時、グロックはごく一部のマニアが注目してただけですし、パンツァーファウスト3はドイツ軍採用前(この年に制式採用されてますが)ですからね。自衛隊はまだ、マットバズーカ…じゃなくてM20を抱えていた頃です。