第2章 やはり俺の春休みは間違っている。   作:あらがき@北宇治高校

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初めまして、あらがきと申します。
特に意味もなくペンネームを変えました。
pixivでも『あらがき@材木座以下のss』というユーザー名で投稿しておりますが、こちらにも投稿させて頂きます<m(__)m>
ただ、pixivに投稿しているものに若干の修正を加える場合もありますので、ご了承ください。
こちらは、私が投稿した『第1章 案外俺の卒業式は間違っていない。』の続編になります。
まだ勝手が分かっておりませんので、取るに足らない部分は多々あると思いますが、よろしくお願いします。
感想、ご指摘など頂けると嬉しいです!


⑨では、雪ノ下雪乃は。

 

私と葉山君は、少し歩いたところにあったアイリッシュパブのカウンター席で隣同士に座っている。

パブだからといって、お酒は注文していないわよ。

お酒には少し苦い記憶があるもの…。

 

「時間もそんなに無いことだし、単刀直入に聞くよ。」

葉山君はコーヒーを口に含んで喉を潤してから、体ごと私に向き直る。

「雪乃、比企谷と付き合ってないだろ?」

まあ、聞かれることは分かっていたのだけれど…。

そういえば、葉山君に雪乃と呼ばれたのは随分久しぶりだわ。

彼なりに学校では気を遣ってくれていたのかしら。

「ええ。

葉山君、あなたは分かっていたのではないの?

比企谷くんがあの嘘を吐いた時点で既に。」

葉山君は少し痛いところを突かれたのか黙り込む。

「もしそうなら、相当質が悪いと思うのだけれど。

あなたは比企谷くんの意図を理解していて彼の顔を殴ったことになるのだから。」

精一杯冷静な口調を装っているけれど、私は相当苛立っている。

「あぁ、俺は確かに比企谷の意図を理解していながら殴った。」

「なんですって…?」

私は感情が溢れ出すのを制御できずに、間髪入れず畳み掛ける。

「それじゃあ、どうして殴る必要があったの?

彼と少なからず時間をともにしていたあなたなら分かったでしょう?

比企谷くんは自分が傷付いてでも人を助けようとする。

それをあなたの前でも幾度もしているはずよ。」

「あぁ、分かっていたさ!

それが尚更頭に来たんだ…。」

葉山君にしては珍しく声を張り上げた。

「きっと、比企谷は分かっていたんだろう?

雪乃が俺と付き合う気がないってことを。

でも、どうして比企谷は分かったんだ?

今回は姫菜の時とはわけが違う。

比企谷があんな大胆な行動に移せる明確な情報がない。

雪乃の性格からして、自ら異性に対する好意を周りに言いふらしたりしない。

比企谷の性格からして、曖昧な憶測であんな行動に出たりしない。

俺の予想では、雪乃が比企谷に俺の告白を受け入れる気がないことを仄めかす発言をしたんじゃないか?」

 

…。

 

正直、図星だった。

悔しいけれど、葉山君の言うことは全て真実で、それは私にとって最も痛いところだった。

私が教室を出る時に残した言葉…。

私は無意識のうちに比企谷くんにどうにかして欲しいと『何か』を要請していたということなのかしら。

そして、とんでもないことに気付いてしまった。

「もしかして、比企谷くんを傷つけていたのは私だったの…?」

葉山君は私から目を逸らして、前を向き、コーヒーを少しだけ啜る。

「俺が雪乃を責める理由にはならないけどね…。

結局、俺は比企谷の置かれた状況を分かっていながら、あいつを殴ったことに変わりはない。

でも、そういうことだよ。

だから、そういうのも含めて俺は比企谷が憎らしくて、羨ましかった。

幼いころから大人びていて、何でも出来て、他人に頼るなんてことはほとんどしなかった雪乃から頼られているあいつが羨ましかった。

まったく情けない話だけど、俺は比企谷に嫉妬して八つ当たりしてたんだ。」

私は葉山君の話どころではなくなっていた。

葉山君を攻め立てていた私だけど、結局のところ、あの件で比企谷くんを傷つけた全ての元凶は他ならぬ私だったからだ。

「でも、俺は雪乃に自分を責めて欲しくない。

今の俺が言っても説得力が無いかもしれないけど、比企谷はああいうやつなんだよ。

あいつの周りの俺たちも確かに悪い。

だけど、あいつもあのまんまじゃダメなんだ。

そして、雪乃はそうやって他人に頼ってもいいんだ。

比企谷と出会う前の雪乃は見ていて辛いくらい他人に助けを求めなかった。

だから、雪乃はそれでいいんだ。

雪乃が比企谷を傷つけたんじゃないんだ。

雪乃が比企谷を頼ったら、比企谷は自分が傷付いて雪乃を助ける方法を選んだんだ。

だから、変わらなくちゃいけないのは比企谷だと思う。」

「でも…、でも…。」

「もし、これからも比企谷と付き合っていくなら、雪乃はそのことを分かっていなくちゃいけないんじゃないか?

それで、雪乃が誰にも頼らなくなったら、また振り出しに戻るだけだからだ。

だから、今度は雪乃が比企谷を助ける番なんだよ。」

「私が…?」

「あぁ。

結衣と一緒にな。」

葉山君の言うことは確かに筋が通っている。

だけど、どうしても私にとって都合の良い解釈のような気がしてしまう。

「雪乃。

だから、話を続けてもいいかな?

あの日、言えなかったことを今、伝えたいんだ。」

卒業式、葉山君が私に伝えようとしてたこと…。

「ええ。」

葉山君は目を瞑って、鼻から長く息を吸う。

そして、再び私に向き直る。

「俺、ずっと雪乃のことが好きだった。

物心が付いた時からずっと…。

だから、俺の恋人になってくれないか?」

 

 

正直、驚いたわ…。

確かに、あの時の比企谷くんの行動からして、葉山くんに告白されることは予想できた。

とは言っても、いざ直接告白されると吃驚するものよ。

私は男の人に言い寄られた経験は一般的な女子高校生よりは多いと思う。

けれど、私に言い寄って来る男の人はほとんど面識がなかったり、一言二言交わした程度なんて人ばかりなのだけれど。

葉山君は、それこそ幼馴染みだった。

私のことを一番よく知っている家族以外の男の人だと思う。

まさか、彼がずっと私に思いを寄せてくれていたなんて…。

もしかすると、男の人に告白されて初めて、素直に嬉しいと思えた瞬間かもしれない…。

それなら、私もきちんと彼の誠意に答えるべきね。

「ありがとう、葉山君。

本当に嬉しい。

だから、私の気持ちも包み隠さずきちんと伝えるわ。

私、昔のことを引きずっていて、高校二年生まではあなたのことが好きではなかった。

というより、むしろ嫌いだったわ。

あなたは私と他の人のどちらも捨てきれずにいつも何も出来なかったものね。」

「そうだね。」

葉山くんは自嘲的な笑みを浮かべる。

「それに、あなたが関わると女の子に妬まれるから、状況は悪化する一方だったし…。

その時は、あなたの無意味なお節介をする理由が分からなくて本当にあなたが憎らしかった。

私は虐められても、除け者にされても、なんとかやっていけたから放っておいて欲しかった。

けれど、奉仕部に比企谷くんと由比ヶ浜さんが来て、友達が出来て、たくさんの人と関わっていくうちに、自分以外の人のことも守りたいと思うようになった。

そして、ようやく分かったの。

葉山君が捨てられなかったもののことが。

それでも、葉山君のやり方が全て正しいとは思わないけれど、そういう考え方もあると思うことが出来るようになった。

そして、あなたなりのやり方で助けてもらったりもした。

文化祭実行委員会や生徒会はそうだったわね。」

 

私は彼にきちんと伝えなければならない。

 

 

「だから…ありがとう。」

 

「そして…ごめんなさい。」

 

葉山君は目の色も表情も変えずに私の言葉の続きを待っている。

 

「葉山君と話していくうちに、今、はっきりと分かったの。

私には好きな人がいる…。

これが好きという気持ち…。

訳があって、その人に気持ちを伝えることは出来ないけれど、ようやく曖昧だった感情を理解することができたわ。

そして、その好きな人は葉山君ではないの。

本当にごめんなさい。」

私は彼に向かって頭を下げた。

「顔上げてよ、雪乃。

こっちこそありがとう。

ちゃんと言ってくれて。

これで俺も前に進めるよ。」

葉山君が一番辛いはずなのに、彼はいつにも増して明るく微笑みかけてくれる。

「分かった。

とりあえず、雪乃のことは諦めるよ。

でも、納得いかないな。

雪乃が比企谷に気持ちを伝えられないなんて。」

「ど、ど、どうして比企谷くんと決めつけているのかしらっ。

確かに彼には何度も助けてもらっているし、顔も救いようがないほど悪いとまでは思わないけれど…」

顔が熱い。

私は今、どんな顔をしているのだろう。

「雪乃が他の男子の話でそんな顔をしないからだよ。」

「そ、それは…」

私は葉山君から目を逸らす。

本当に恥ずかしいわ…。

「本題に戻すよ。

どうして、比企谷に好きだって伝えられないんだ?」

「それは、あなたには関係のないことよ。」

「確かに、そうだ。

でも、振られた哀れな男の最後の頼みだと思って教えてくれよ。」

「…誰にも言わないと約束してくれるかしら?」

「あぁ、約束するよ。」

葉山君ならこういう約束は守ってくれるはず。

これは、私が彼と長い間一緒にいて、経験的に思っただけなのだけれどね。

「分かったわ。」

 

「――」

 

「――」

 

「だから、今は少なくとも比企谷くんに想いを伝えることは出来ない。

それに、伝えたくない。」

葉山君は真剣に考える仕草をして、数秒唸ってから口を開く。

「そうか…。

一つ目の理由に関しては何とも言えないけど…。

二つ目の理由は俺は気にしなくてもいいと思うな…。」

「これでいいでしょう?

まさか、葉山君にこんなことを話すなんて思いもしなかったわ。

はぁ…。

迂闊だったかしら。」

「ありがと。

でも、ちゃんと聞けてよかった。

また悩んだら、俺に相談して。

俺しか雪乃が今言ったことは知らないわけだしさ!」

「気が向いたらね。」

「あぁ。」

「そろそろ戻りましょう。

たくさんの友達を待たせているのだし。」

「そうだね。」

 

こうして、10年以上の時間を経て、ようやく葉山君と少しだけ分かり合うことが出来た。

幸か不幸か、私の本当の気持ちにも気付くことになった。

きっと…よかったのよね…。

 

「雪乃!

早く行こう!」

「ええ。」

 

私たちは、大切な『友達』のもとへ駆け足で向かっていく。

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