第2章 やはり俺の春休みは間違っている。 作:あらがき@北宇治高校
pixivでも『あらがき@材木座以下のss』というユーザー名で投稿しておりますが、こちらにも投稿させて頂きます<m(__)m>
ただ、pixivに投稿しているものに若干の修正を加える場合もありますので、ご了承ください。
こちらは、私が投稿した『第1章 案外俺の卒業式は間違っていない。』『第2章 やはり俺の春休みは間違っている。』の続編になります。
奉仕部三人組に加えて戸塚や葉山、三浦と過ごす大学生活が始まります。
まだハーメルンでの勝手が分かっておりませんので、取るに足らない部分は多々あると思いますが、よろしくお願いします。
感想、ご指摘など頂けると嬉しいです!
<追記>このssは一話完結ではないので、その点はご了承ください<m(__)m>
「ひ、ひっきぃ…?」
まさかの事態にお互い身動きが取れないでいる。
どれだけ避難訓練をしても、実際にはマニュアル通りに動ける人が少ないのと同じように。
ましてや、一ヶ月前に生涯通じて初めての彼女が出来たばかりの俺だ。
避難方法どころか、災害そのものが如何なるものかさえ知らない。
由比ヶ浜にとっても俺が初めての恋人のようで、二人きりの時は未だぎこちなかったりもする。
しかしながらこの状況――傍から見れば、俺が由比ヶ浜を襲おうとしているように見えても仕方ないだろう。
「わ、わりぃ…」
俺は由比ヶ浜から目を逸らしたまま体を起こそうとする。
と、その時…。
ガチャッと玄関からドアノブの回転音が鳴り、聞き覚えのある声がした。
「ゆぅーいぃー♪
終電なくなったから泊まりにk…」
……ま、まずい。
本当にまずい。
これはもう、穴があったら入りたいとかのレベルじゃない。
穴が無かろうと、スコップでもドリルでも使って穴を掘って、その穴から永遠に出たくないレベル。
三浦は弄んでいた髪が指に巻きついた状態で、口が半開きのまま俺たちを凝視している。
続いて、これまた聞き覚えのある天使の声が…。
「おじゃましまーす。
由比ヶ浜さん、具合はd…」
戸塚だ。
戸塚もこの光景を目の当たりにして、口は言いかけた「お」の形のまま硬直している。
「ゆ、結衣…。
やっぱ、今日はあーしネットカフェにでも泊まるし、大丈夫だわ。
ほら、つかさも帰ろし!」
ちなみに、「つかさ」というのは戸塚がこのサークルに来てから付けられたあだ名だ。
「と『つかさ』いか」ということらしが、もはや面影もない。
あだ名なんてそんなものか。
戸塚をつかさと呼ぶのは総武高校出身者では三浦だけだ。
まぁ、高校時代に大して絡みも無かっただろうしな。
って!そんなことはどうでもいい!
この誤解を解かなければ!
もう解は出てるんだからどうしようもないなんて理屈は、ここでは適用されない。
なぜなら!
戸塚がいるから!
「ちょっと待て!
勘違いをしてるなら、断っておくが、これは由比ヶ浜が酔っていて俺の手を引っ張ったからこういう体勢になっただけであって…」
俺が早口で言い訳をするのを尻目に、三浦は悟ったような顔で口を挟んでくる。
「ヒキオ。
結衣、初めてだから優しくしてやんな。
どうせヒキオは童貞なんだろうし、無茶すんなよ。
そんじゃ。」
「おいおいおい!
だから違うんだって!
由比ヶ浜からも何とか言ってやってくれよ。」
顔を真っ赤にした由比ヶ浜は斜め下に目線を移して口籠る。
「ゆ、優美子!
あたしが、その…しょ、しょ、処女ってことは内緒だって言ったじゃん…。」
そこツッコむの!?
いや、もっと言うべきことあるでしょ!
それに、初めて奉仕部に来た時にお前が自分で言ってたから知ってるし。
「そうじゃなくてだな。
この状況を見られて、勘違いされたままじゃまずいだろ?」
俺がそう言うと、由比ヶ浜はようやく冷静になったようで、慌てて体を起こし、俺から少し離れてベッドに座りなおす。
固まっていた戸塚も我を取り戻し顔を赤らめながら、ボソッと一言。
「二人は付き合ってるんだし…、いいと思うよ。」
「待て、戸塚。
お前には真実を知っていて欲しい。
むしろ、お前だけでいい。」
横で由比ヶ浜が唸りながら、頬を膨らませているが今はそれどころではない。
「ついでに三浦も聞いてくれ、頼む。」
「ついでって何だし!
まぁ、どうせ暇だしいいけど。」
それから俺と由比ヶ浜で必死に弁解した。
途中で何度も三浦に突っ込まれたが、スルースキルと雪ノ下には遠く及ばない詭弁を駆使して乗り切った。
「そんなに必死に言い訳しなくても良くない?
あんたら付き合ってんっしょ?」
「でも、、、
あたしたちまだそんな感じじゃないし…。」
「キスくらいはしたっしょ?」
「そ、そ、そんなわけないじゃん!
あたしたち、まだ付き合って一ヶ月だよ。」
こういう話は本当に居づらい。
奉仕部に入る前なんて、まさか俺がこの系統の話の渦中にいる時が来るなんて思いもしなかった。
「ヒキオ、あんたヒヨってんの?」
「ひ、ひよ?
なにそれ?」
頼むから日本語使ってくれよ。
現代人の用語集みたいな本が書店に並んでいるのを目にすることがあるが、あれを見つけて買おうと思う奴の気が知れん。
てか、基本ぼっちの俺に対して矢庭に振るの止めてくんない?
ぼっちは自分がその場の空気であると思い做すことで現実を生き抜いているというのに。
「だからぁ~、結衣ともっと近づくことに対して怯んでんのかって聞いてんの。」
「いや、別にそういう訳ではないんだが。
そんなに義務感に駆られてしなきゃならんことか?」
戸塚も同意してくれたのか、大袈裟に頷いて口を切る。
「そうだよ、三浦さん。
八幡と由比ヶ浜さんのペースでいいんじゃないかな?」
はい、きました、この世に舞い降りた妖精。いや、天使。いや、女神。
まじラブリーマイエンジェルさいかたん。
しかし、さいかたんの詔とも言えるお言葉を物ともせず三浦は平然と答える。
「女子は進展が遅いことを不安に思ったりする奴もいるって言ってんの。
結衣とか超考え込むタイプだし、少しは気にしろってこと。」
いやぁー、まじ、あーしさんお母さんキャラだわー。
まぁ、修学旅行の海老名の一件でも突っかかってきたのは、仲間を思ってのことだったみたいだしな。
「優美子、いいよ。
あたしは別に恋人っぽいことがしたいから、付き合ったわけじゃないしさ。」
「じゃあ、なんで付き合ってんの?」
おいおい、そういうのを彼氏本人の前で言わせるの止めてくんねえかな?
どんな言葉が返ってきても困るか傷付くかの二択って相場が決まってんだよ。
「そ、それは…。」
由比ヶ浜は言葉に詰まり、目線を落とす。
そして、数秒の言葉の空白が続いた後、何度も躊躇してようやく口を開いた。
「ちょっとでも一緒にいる時間が増えたらいいなって…。」
あの…。
こんな嬉しすぎるマジレスに対して俺はどんな風に返答すればいいんだ?
早く選択肢出してくれよ!
こんな状況に対応しなくても何の不自由もなく生きてこれた俺にとっては、まさに絶体絶命。
「あ、ありがとうございます…。」
スカイビルでもこんな感じだった気がする…。
そんな俺たちを見て、三浦は腕を組んで仕方がないなぁと言わんばかりの態度で応ずる。
「分かった。
あんたたちはそーゆーカップルってことか。
でも、一緒にいたいっていう割にはデートとかもしてないっしょ?」
由比ヶ浜は黙ったまま小さく頷く。
「そんじゃ、あーしがデートプラン立ててやるし、楽しんできな!」
はぁ!?
何言ってんのこいつ?
なんでデートの計画を第三者が立てるんだよ!
あの戸塚でさえ、(;^ω^)みたいな表情浮かべてるよ。
「いや、三浦、俺たちのことならべt…」
「いいって、ヒキオ。
大した貸しと思わなくていいから。
サークル終わりにスポドリ一本で勘弁してやるし。」
いやいや、迷惑な提案してくれた上にしっかり貸し換算されてるし。
「ほ、ほんと!?
優美子ありがとー♪」
なんだと!?
由比ヶ浜がそっちに付くとは予想外の展開だった。
由比ヶ浜は三浦に抱き付いて顔をすりすりしている。
「なぁ、戸塚、どう思う?」
戸塚は、とつかわいく首を捻って少し考える。
「でも、いいんじゃないかな?
三浦さん、そういうの得意そうだし。」
だな。
それじゃあ、三浦に任せよう。
「で、どんなデートなんだ?」
「ふっふーん…。
今からあーしがしっかり伝授してやるから、よく聞いておきなって。」
―5月2日 横浜中華街―
「まさか、ここに来ることになるとは…。」
俺は完全に三浦などのリア充どもが嗜むチャラチャラしたデートを押し付けられて振り回される展開だと思っていたわ。
――――――
『こういうのは楽しめないと意味ないわけ。
結衣、食べ歩きとか好きっしょ?』
――――――
三浦の口から発せられた言葉とは思えないほど、正論すぎて驚いている。
由比ヶ浜の嗜好を加味して、真面目にデートプランを立てている三浦は俺にとっては意外だった。
「ごめーん!ヒッキー!」
由比ヶ浜は毎度、待ち合わせ場所に走ってくるな。
てかあいつ、なんかいつもと違うぞ。
「お待たせー。」
「お、おう。」
今日の由比ヶ浜はキャミソールの上に薄い黄色の網目が粗いニット素材の上着を羽織り、膝下まである白のスカートを穿いている。
程良い華やかさを演出しているのは胸元に光る金属製のアクセサリーだ。
靴はハイヒールを履いているおかげでいつもより背が高く、スタイルも良く見えるし、まるでモデルのようだ。
いつもお団子にしている髪は下ろしていてふんわりとウェーブがかかっており、髪色はワントーン落としていて落ち着きのある雰囲気を醸し出している。
「ヒッキー、どうしたの?」
「いや、なんというか…。」
俺としたことが我を忘れて凝視してしまっていた。
そういえば、昨日、小町にかなり気合い入れて指導されたんだったな…。
――――――
『お兄ちゃん!
女の子はデートの時は細かいところまで気を配ってオシャレしてくるんだから、ちゃんと褒めてあげないとだめだよ!
特に今回は、お兄ちゃんと結衣さんの初デートなんだからねっ!』
――――――
なんか、こういうの面倒だよな…。
でも、確かに今日の由比ヶ浜は全体的に大人っぽさがあって、いつもとのギャップもあるせいか、一際映えて見える。
「今日のお前、いい感じだな。」
由比ヶ浜は照れる訳でもなく無垢な笑顔を俺に向ける。
「ありがとっ!嬉しいよ!
どう?
大人っぽいかな?」
「あぁ。
よく似合ってるよ。
モデルみたいだ。」
「良かったぁー!
さすがに、モデルなんて言われると照れるなぁ~♪」
由比ヶ浜は頭をかいて、少しだけはにかんでみせる。
「さすが、優美子だね。」
ん?
なぜ、三浦が出てくるんだ?
「どういうことだ?」
「実はね、このコーディネートも全部優美子がやってくれたんだぁ♪
優美子が『どうせヒキオは結衣がいつも通りの年相応の格好で来ると思ってるから、そこをギャップ萌えでグイッと引き寄せるって作戦!』って言ってた。」
おい、まんまとその策略にやられてた俺ってめっちゃ恥ずかしいじゃん。
しかもそれを三浦に謀られていたというのが気に食わん。
「でも、ほんと良かったよー。
だって今日のために昨日、一日中優美子に付き合ってもらったんだ!
二日酔いと戦いながらだよ!
服揃えてー、髪の毛変えてー、デートのひっs…、っていや何でもない!」
由比ヶ浜は慌てて手を振り、わなわなしている。
しかし、デートってそんなに気合い入れるものなのか?
俺、ほとんど何にもしてねえぞ。
ん?髪の毛も寝癖のまま?
これはアホ毛だ!
そこは察してくれ。
しかしながら、周りの連中も次々と容姿端麗な由比ヶ浜に目を奪われているようだ。
なに?
もしかして目を奪う能力でも持ってんの?
確かにMOMOちゃんと似てるような気はしていたが…胸とか。
そいつらは由比ヶ浜に見惚れた後、十中八九俺に冷ややかな視線を浴びせてくれる。
隣にいるのが俺で悪かったな!
まぁ、こういうのには慣れてるから然して気にするほどでもない。
「じゃあ、行くか。」
「うんっ!」
こうして、俺たちの初デート、俺の人生初デートの幕が切って落とされた。