第2章 やはり俺の春休みは間違っている。 作:あらがき@北宇治高校
pixivでも『あらがき@材木座以下のss』というユーザー名で投稿しておりますが、こちらにも投稿させて頂きます<m(__)m>
ただ、pixivに投稿しているものに若干の修正を加える場合もありますので、ご了承ください。
こちらは、私が投稿した『第1章 案外俺の卒業式は間違っていない。』『第2章 やはり俺の春休みは間違っている。』の続編になります。
奉仕部三人組に加えて戸塚や葉山、三浦と過ごす大学生活が始まります。
小町が八幡とヒロインをくっつけるために、色々しているのって結構好きなんですよね~(^^♪
ゆきのんも結衣も八幡を前にすると素直になれないから、小町が動いて丁度いいですよね!
まだハーメルンでの勝手が分かっておりませんので、取るに足らない部分は多々あると思いますが、よろしくお願いします。
感想、ご指摘など頂けると嬉しいです!
<追記>このssは一話完結ではないので、その点はご了承ください<m(__)m>
「由比ヶ浜、いつまで食べるんだ?」
由比ヶ浜は俺の言葉に、「何を言ってるの?」とでも言わんばかりの表情で答える。
「え?
中華街って食べ歩き専門の観光スポットだよ。
まだまだこれからじゃん!」
まあ、随分と元気なこと。
一方の俺は食い過ぎて、歩くのも辛い段階にまで達している。
量は大袈裟に形容する程ではないのだが、味の濃さへの飽きと油分の蓄積による胸焼けで食欲が削がれていく。
このままでは飽食終日になってしまう。
「ねぇ、ヒッキー!
杏仁豆腐ソフトクリームだって!
なんか中華っぽいね。
あれ食べよーよー。
一緒に…ね。」
「ん?
杏仁豆腐ソフトクリームか…。
まあ、いいぞ。」
これなら、俺の胃も受け付けてくれるだろう。
ちなみに日本で販売されている殆どの杏仁豆腐関連の嗜好品に『杏仁』は含まれていないから中華っぽさは無いがな。
杏仁と似た香りを持つアーモンドエッセンスを用いて作ったものを杏仁豆腐やその味の○○とのたまい市場に流通させているのが現実だ。
というHikipedia参照マメ知識が浮かんだので、由比ヶ浜にティーチングしてやろうと思ったが、口を吐く寸前で小町先生のデートでのNGリストが頭をよぎる。
――――――
『お兄ちゃん、どうでもいいマメ知識とか長々と語っちゃう癖あるから気を付けてね。
そんな話ばっかりしてたら結衣さんに嫌われちゃうからね。』
『お前、俺がタメになるマメ知識を教授してる時はいつも、「へー、すごーい。」とか言ってなかったか?』
『だって、他の反応したら余計に話が長くなって面倒くさいんだもん♪テヘッ』
『それって…。
俺、めっちゃ可哀想な子じゃんかよ。
今まで毎度毎度、適当にあしらわれてたなんて、あまりの悲しさにお兄ちゃん泣いちゃうよ?』
『はいはい、分かったから。
と・に・か・く!
少なくとも付き合って間もないのに、結衣さんにマメ知識の話をするのはNGだからね!』
――――――
こんな感じで最愛の妹から手厳しいご忠告を頂戴したので、とりあえず従うことにしよう。
「ヒッキー、なに一人でブツブツ言ってるの?
気持ち悪いよ。」
おい、曲がりなりにも貴女の彼氏なんですけど…。
どうして、俺の周りにいる女子ってこうもずけずけと辛辣な言葉で攻撃してくるの?
千葉に住む妹好きのお兄ちゃんはデフォルトでこういうキャラ設定されてんの?
ところでガハマさん…、二人で食べるソフトクリームなのにスプーンが一つしかないんですけど。
「なぁ、すp」
「あ、あれぇー?
おっかしいなぁ~
スプーン2つって言ったはずなんだけど、一つしかないやー
困ったなー」
由比ヶ浜はしらじらしくも、文化祭の劇で台詞を読むような棒読みをしつつ、きまり悪そうにちらちら俺とソフトクリームを交互に見る。
なんだよ、自分から言ったくせに。
実際、ソフトクリームの量を目の当たりにしたら、思ったより少なくて俺にあげるのが惜しくなったのか?
「それなら、お前が一人で食っていいぞ。」
「え!?
なんでそうなるわけ?」
いや、なんでって、お前がそういう風に仄めかしたんじゃねえか。
「優美子は簡単だって言ったけど、全然上手くいかないよ…。
いや!まだ諦めちゃダメだ!
今日はほんの少しでいいからヒッキーに近づくって決めたんだもん。」
由比ヶ浜はソフトクリームを凝視しながら、一人でぼそぼそと何か言っている。
「よし!
もー分かった。
じゃあ、目つぶって口開けて。」
「なんでだよ。
まさか!
お前、ソフトクリームの中に何か入れただろ?」
「何にも入れてないし!
そんなことする訳ないじゃん!」
中学生の頃に珍しくクラスメイトに声を掛けられたことがあって、微かな希望を抱いて耳を傾けると、
「シュークリーム買ったんだけど、24個入りで流石に多すぎるからヒキタニくんにもあげるよ」
とのことなので、「名前間違ってるぞ」という言葉を胸にしまって有り難くそれを頂くとワサビ含有率100%だったという苦い過去を持っているからな。
二度同じ手にのる俺ではない。
「いいから、あーんして!」
そう言うと、由比ヶ浜は殆ど開いてない俺の口に無理やり劇物を捻じ込んできた。
こうなったら大袈裟なリアクションでも何でもしてやろうと思って備えていると、俺の口の中に広がったのはふんわりと杏仁が香る程良い甘さだった。
「う、うまい?」
「なんで、疑問形だし。
おいしいでしょー。
ふふーん♪」
由比ヶ浜も同じスプーンで幸せそうに食べ進める。
「はい、もう一口あげるっ!」
「自分でたべr…んんっ…m…」
またしても、強引に口に突っ込まれた。
もしかしてこれは、俺がカップルに出くわした時に見たくないイチャつき方ランキングBEST3に入る「あーん」なのか!?
ヤバいぞ…。
今の俺たちを客観的に俺が見たら、どのように映るのだろうか。
心中で『爆ぜろ、リア充が!』とでも非難の声をあげるのかもしれない。
そうか。
俺は今までの俺が忌み嫌っていたリア充の立場にいるのか…。
リア充とは恋人がいるという条件を満たすことで得られる称号なのだろうか?
今更ながら、これまで疎んでいた連中を表す言葉の定義について考え直したくなる。
「ヒッキー?」
「なんだ?」
「ヒッキーもさ、あたしに食べさせてよ…ね?」
由比ヶ浜は大人びた容姿とは裏腹に、可憐な瞳で俺を見上げる。
この上目遣いは反則だ。
これ何のギャルゲー?
もう少し難易度が低ければ、買うまである。
俺もその場にいるじゃねえかって?
いや、選択肢が無いのとセーブが出来ないという理由から三次元(リアル)は却下。
「いやだ。」
「えー!
ヒッキーのいじわるっ!」
由比ヶ浜はフンッとそっぽを向いてしまった。
そして、心底残念そうな表情を浮かべるから困ったものだ。
「それ、ちょっと貸せ。」
「えっ?」
仕方なくだ。
あくまで仕方なく、俺は由比ヶ浜の持っているカップを奪って、半開きの口にスプーン山盛りのソフトクリームを突っ込んでやった。
「満足か?」
「うーん、突然だったから味分かんなかったかなぁ。
もう一回!」
「はいはい。
ほらよ。」
こいつ恋人らしいことがしたいから付き合ってるわけじゃないとか言ってなかったか?とか思いつつも、由比ヶ浜の口にソフトクリームを運ぶ。
「うん!
おいしい!」
満面の笑みを浮かべながらそう言われるとな。
案外悪い気もしないもので…。
結局、最後の一口まで俺が由比ヶ浜に食べさせてやっていた。
「ぷはぁ~、美味しかったなぁ♪
ヒッキーが食べさせてくれたからかな?」
そんなに顔を覗き込まれても、俺には気の利いた返事の一つも出来やしないぞ。
「そりゃ良かったな。」
由比ヶ浜は俺の素っ気ない返事に気を落とすでもなく、ご機嫌な足取りで次の目的地に向かう。
きっと、その辺りは分かってくれているのだろう。
事故の件ですっかり愛想を尽かしてもおかしくないような態度をとっていた俺を。
いつも他人を排斥し、非難し、自分を正当化して、時には自虐することで逃げていた俺を。
好意を伝えられても、一度はそれをはぐらかそうとした俺を。
それでも好きだと、少しでも一緒にいたいと言ってくれるのだ。
俺のような人間がこんなにも健気で一途な恋人に何をしてやれるのだろうか。
まぁそうだな…。
いつか気が向いたら、伝えてみるとするか。
ありがとうな…由比ヶ浜。
みたいな感じで。
「ヒッキー、急にどうしたの!?
恥ずかしいじゃんっ!」
そう言いながらも嬉しそうに俺の腕にきついツッコミを入れてくる由比ヶ浜。
まさかとは思うが、、、
「もしかして、俺…、口に出してたか?」
「思いっ切り、言ってたよ。
ありがとな、由比ヶ浜。って。
もー、ヒッキーたらさぁ~♪」
マジかよ!
これは自他ともに認める俺の悪い癖だ。
USJの時も心中の暴言のはずが、見ず知らずのカップルに憎まれ口を叩いてしまうという失態を犯してしまったしな。
「てか、ヒッキー、そろそろ由比ヶ浜って呼ぶの止めて欲しいなぁ。
付き合ってるのに名字で呼ぶなんて、なんかよそよそしくない?」
「別にいいんじゃねえの?
それこそ、俺たちのペースってやつで。」
「そっかぁ。
でも、やっぱり結衣って呼んで欲しいよー。」
そこまで、呼び方に拘る理由は俺にはよく分からん。
実際、リア充グループが男女問わず、友達同士ならば下の名前で呼び合うという風習には異を唱えていたしな。(勿論、心の中で。)
「ま、気が向いたらな。」
「うんっ!
待ってるよ!」
それからも俺たちは空が赤みを帯び始める頃まで食べ歩きを延々と続けた。
中華街を堪能した後、横浜の夜景を見に行くというのが三浦の立てたプランだったのだが…。
その頃には、双方、疲労困憊といった状態で、その計画を遂行するだけの体力は残っていなかった。
「せっかく、優美子に計画してもらったけど、今日は帰ろっか。」
おー、分かってらっしゃる!
お前からそう言ってくれると助かるわ。
なんせ小町に、『結衣さんが行きたい、したいって言ったことを当たり前のように断るのもダメだからね!』って釘を刺されていたからな。
由比ヶ浜なら無理にでも行くと言い兼ねない気もしていたが、流石にお疲れみたいだな。
「そうだな。
今日のところは帰るとするか。」
「うん。
それじゃあ、約束!
いつかまた横浜に来て、その時は二人で一緒に夜景見ようね!」
由比ヶ浜は小指を差し出す。
「おう。
きっとな。」
俺も小指を差し出そうと由比ヶ浜に手を伸ばした時だった。
由比ヶ浜は俺の手を握って、俺が前のめりにこけそうになる程強く引っ張る。
「よーし、このまま駅までレッツゴー♪」
「おい、手つないだまま走ったら危ないだろ。」
「ふっふふーん♪」
「だから、俺の話をだな…」
「分かってるよ!
ヒッキーの考えてることはなーんでも分かるから大丈夫だよ。」
どうだか。
まぁ、案外そうかもしれないと思う場面も時折あるのは確かだ。
「そうかい。
じゃあ、安心か。」
「そうだよっ♪」
俺たちは駅までの道のりをバカップル丸出しで駆けていった。
―帰りの電車―
「んっ…ひっきぃ~…ムニャムニャ」
寝言を呟く由比ヶ浜はというと、俺の肩にもたれかかって眠っている。
邪心の欠片も感じさせないその寝顔には思わず見惚れてしまいそうになるが、その引力をなんとか振り切って目を逸らす。
寝てる女子の顔を見つめていたら、不審がられるだろうしな。
俺みたいな男がこんなに可愛い子の彼氏ではないという周囲の人間が決めつける前提の下に。
まぁ、そもそも周りのことばかり気にしていたら由比ヶ浜と俺が付き合っていくのは厳しいからな。
そこら辺は由比ヶ浜も分かっているのだろう。
彼氏というのは女子のステータスである以上、俺にも責任は付き纏うわけだ。
それは、花火大会で相模らと出くわした時にも感じていた。
あの時は恋人関係ではなかったとはいえ、連れていたのが異性であることは他人からすれば然して差はない。
由比ヶ浜は空気を読める部類の人間だが、どう思っているのだろうか…。
なんて、どうしようもないことを思い巡らせるのは付き合ってから一ヶ月間ずっとだ。
夕日もビルの奥に沈みきるかという頃、くすんだ紫色の空がより一層俺を物思いに耽らせているような気がする。
「まぁ、俺が危惧してどうにかなる事でもないしな。」
そう自分に言い聞かせるように呟き、俺の肩からずり落ちてしまいそうな由比ヶ浜をそっと手で支えて俺も瞼を閉じた。
この日以降もまた、三浦の後押しもあって、何度か二人で出かけることが出来た。
世に言われる進展は特にしていないようだが、俺たちの距離は縮まっているのではないかと思う。
それは…なんとなくだが。
そして、俺たちにとって一つの節目となる日が刻々と迫ってきていた。