第2章 やはり俺の春休みは間違っている。   作:あらがき@北宇治高校

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やっはろーです!
あらがきと申します。前作、第3章④の続きになります。
急遽、第4章に入りました(-.-)
pixivでも『あらがき@材木座以下のss』というユーザー名で投稿しておりますが、こちらにも投稿させて頂きます<m(__)m>
ただ、pixivに投稿しているものに若干の修正を加える場合もありますので、ご了承ください。
こちらは、私が投稿した『第1章 案外俺の卒業式は間違っていない。』『第2章 やはり俺の春休みは間違っている。』『第3章 つまるところ、彼らは上手くやっている。』の続編になります。
何だかんだで一緒にいた時間の長い奉仕部3人組ですが、一つの別れを迎えることに…。
色々、事情がありまして…。
この話を書いてて、自分で泣いてました(;O;)
どうして、この世は全ての人が幸せになれないんだろう?
まぁ、私自身は現実では、性善説も楽観的な幸福論も信仰していないんですけどね。
てか、一級フラグ解体士のヒッキーが攻略難易度最低って、ありえへんやろ!(笑)

まだハーメルンでの勝手が分かっておりませんので、取るに足らない部分は多々あると思いますが、よろしくお願いします。
感想、ご指摘など頂けると嬉しいです!

<追記>このssは一話完結ではないので、その点はご了承ください<m(__)m>


第4章 ①言うまでもなく、雪ノ下雪乃は激昂する。

第4章 こうして、別れは唐突に訪れる。

 

①言うまでもなく、雪ノ下雪乃は激昂する。

 

由比ヶ浜の誕生日から10日ほど過ぎたある日のことだ。

梅雨入りしたせいでコートのコンディションが悪かったり、中間テストがあったりといった理由で、俺はここ数週間、サークルの活動から足が遠のいていた。

実際のところ、休日に外出するのは辛いのだが、久しぶりに戸塚とテニスの練習をするというのも悪くない。

戸塚も暇らしいので、いつものコートで少し汗を流すことにした。

 

それにしても、家から直接コートのある多摩キャンパスまでの道のりは長い。

ちなみに、戸塚はキャンパスの最寄り駅から一駅の距離にアパートを借りて一人暮らしをしている。

何度か家にお邪魔したことはあって、シンプルでいつも整頓されている戸塚らしい部屋だった。

それに戸塚は料理も上手い。

専業主夫志望の俺だが、戸塚に働いてくれと頼まれた暁にはバリバリのビジネスマンになること間違いなしだ。

その点で、由比ヶ浜さんは大丈夫なのだろうか。

まぁ、あいつなりに努力しているようで、2、3日前に料理の練習をした時はそれなりのチャーハンを作ってみせた。

塩辛かったことを除けば、及第点をあげられるレベル。

いつか俺に美味しいって言わせたいらしい。

クッキーの時にも言ったが、俺は作ってくれるだけで満足なんだけどな。

俺が乙女ゲーの攻略キャラなら難易度は最低ランクに違いない。

 

約1時間半かけて着いたテニスコートには既に戸塚がいて、一人で黙々とサーブの練習をしていた。

「おっす。

待ったか?」

戸塚は打つのを止めて、その天使のような(いや、まさに天使の)笑顔を俺に向けて答える。

「ううん。

待ってないよ。

八幡がウォーミングアップ終わったらラリーでもする?」

あぁ、いいぞ。

ラリーでも言葉のキャッチボールでも、戸塚となら永遠に出来る自信がある。

「そうだな。

ちょっと待っててくれ。」

そう言うと、またしても戸塚はてn…(ry

 

今日は休日だが、俺たちのサークルは比較的参加率が高く、女子に至っては殆どのメンバーがコートに来ているようだ。

そういえば、由比ヶ浜はいないな…。

サークル内でも派閥らしきものはあって、活動日以外の練習なんかはそのグループで集まっているのを見かける。

三浦はもちろんカーストのトップに君臨している。

しかし、高校の時と違うのは人数が多いことと、ほとんどの連中がリア充の素質を持っていることだ。

ゆえに、高校のクラスのように三浦の独占市場ではなく、それぞれの派閥が均衡することで成り立っている。

まさに社会の縮図だな。

だって、そうだろ?

携帯電話会社のシェア率なんて、avとhardbankとdacamaの寡占状態だ。

f-mobileなんて入ってみろ。

三方向からギロッと睨まれてイチコロだ。

あー女子ってこわー(棒)

ま、俺には女子同然の戸塚がいるからそれでオールオッケー。

久々に体を動かすとしよう。

 

「ハァ、ハァ…、やべぇ。」

1ヶ月弱まともに運動してなかった俺には、炎天下でのテニスはかなり堪えた。

「八幡、運動不足でしょ?

今日は無理しないで、そろそろ終わりにする?」

「そうするわ。

すまんな。」

戸塚は首を横に振って「いいよ。」と可愛く一言。

あれだけ動いても余裕の表情を見せる戸塚だが、一方の俺はというと、喉はカラカラで体は水分が抜けて干乾びそうになっている。

「戸塚、俺スポドリ買ってくるけど、なんかいる?」

よし。

これで、戸塚の好感度アップイベントは成功のはず。

「いいの?

それじゃあ、僕も八幡と同じのがいいかな。」

「りょうかい。」

 

俺は女子更衣室の近くにある自動販売機に向かう。

いや、これはラッキースケベに遭遇できるかも!みたいな淡い期待を寄せてるわけじゃないからな。

コートから一番近いんだよ。

角を曲がって自動販売機が見える位置に来たのだが、俺はふと足を止めて角に隠れる。

自動販売機の前でたむろっているのは同じサークルの女子だ。

ああいうの止めて欲しいんだけど。

お互い、微妙に顔を知っているから余計に近付きづらい。

ここで俺があの自動販売機に行けば、間違いなく不穏な空気が流れる。

他のとこに行こうとして踵を返さんとしたその時。

俺に関係の深いワードが耳に入った。

気になって、建物の角に隠れながら聞き耳を立ててみると…。

 

信じられない言葉の数々が聞こえてきた。

いや、信じられないというのは嘘だ。

今までの俺なら当たり前だと思えたことなのに、ここ最近の平和や幸福の大きさにかまけて目を逸らしていたのだ。

俺は、戸塚を待たせていることも忘れて呆然とその場に立ち尽くした。

 

 

 

 

 

――――――――

「最近、結衣ノリ悪いんだよねぇ~」

「確かにー

あの目付きの悪い彼氏のせいだと思わない?」

「絶対そうだよねー

この前も、あたしの彼氏と結衣んとこのカップルでダブルデートしよって言ったんだけどさぁー

『ごめん、ヒッキーそういうの苦手だがら、厳しいかも…』とか言ってさー

別にあたしだってあんな目付き悪いやつと一緒にダブルデートなんてしたくないけどぉー

そこは結衣が『友達』だから誘ったわけじゃん?」

「てか、彼氏を優先するのはいいけどさー、友達のことも考えろって感じだよねー」

「結衣も何だかんだ性格悪いんじゃないの?

だから、あの陰気な彼氏と気が合うんだって。」

――――――――

 

またある時は…

 

――――――――

「サークルの練習中にあたしの打ったボールが結衣の彼氏に当たっちゃった時のことなんだけどさー

そん時、あたしはちゃんとごめんって謝ったのにとびっきり不愛想な顔しながら無言で返されてさ。

しかも、それを結衣に言ったら、『ヒッキーは目付きとか超悪いけど、本当は優しいんだ。』とか言って、反省の色も無しだったし。」

「うーわぁー、それはないよねー」

「このままだったら、今度の女コン誘わないまであるよね。」

――――――――

 

これは何の話かって?

サークル内の女子同士で話す愚痴を俺が直接聞いた内容だ。

これらを耳にしたのは、由比ヶ浜の誕生日から10日ほど経った頃だっただろうか。

幸か不幸か、ステルスヒッキーは愚痴を聞く機会が多い。

俺の存在感を消す技術がプロフェッショナルであるために、内緒の愚痴を直接の悪口に変えてしまうのだ。

まぁ、俺としてはその悪口の内容を考慮して最適な行動をとれるので幸と言っていいだろう。

しかし、今回はこれまでとは訳が違う。

 

ぼっちという生き物は自己管理能力に長けており、自己責任に関して自分自身で清算できるようになるものだ。

ただ、自分の評判が悪化するのには慣れていても、自分が原因で他人が風評被害に遭うことなど殆ど無いため、その点に関して耐性はない。

なぜなら、他人を巻き込むためには他人と関わらなければならないからだ。

ゆえに、人との関わりを避けてきた俺には縁のない話だった。

だが、俺は今まさにその状況に直面している。

これらの愚痴が俺だけに向けられたもので、俺に対しての評価や印象が悪くなる分には構わない。

今さら、悲しむべきことでもないしな。

しかし、由比ヶ浜にまで被害が広がっているというのなら、話は別だ。

俺個人で清算すればいい問題ではなくなる。

 

どうして、今の今まで気付かなかった。

いつも結果は同じだというのに。

期待したものに、それ同等以上の結末は訪れない。

努力したものに、それ相応の所産は生まれない。

この時が案外悪くないなんて思ったら最後。

そこがピークで、後はピラニアが口を大きく開けて待っている沼にずるずると引きずり込まれていくのが世の常である。

現実を知る度に、プラグマティズムやペシミズムを受け入れ、俺は何事も自己責任に帰結させる生き方にシフトしてきた…はずだった。

何を浮かれている、比企谷八幡。

俺は結局、入学式に心を弾ませ1時間早く家を出たあの頃と何も変わっていなかった。

このままではいけない。

自分で蒔いた種だ。

ここまで確実な情報を持っているのに、由比ヶ浜をこれ以上追い込む訳にはいかない。

この状況を打開する策は既に出来上がっている。

俺が今までの俺に戻るだけの、ただそれだけの簡単な方法だ。

 

 

 

 

 

ブーッ ブーッ ブーッ

「誰だ?こんな時間に。」

今の時系列はというと、由比ヶ浜の誕生日から約1ヶ月、俺がサークル内の暗雲に気付いてから約2週間、俺が問題解決のための対策を講じてから約10日が経ったある日の夜だ。

珍しい人物から電話が掛かってきた。

「もしもし。

久しぶりね、比企谷くん。」

電話越しでも伝わるひんやりとした声の主は雪ノ下雪乃だ。

「おう。

どうしたんだ?

お前が俺に電話してくるなんて初めてじゃねえか?」

「そうね。

だって、わざわざあなたと話すことなんて無いし、話したいとも思わないもの。」

自分から電話してきているやつの台詞とは思えない口ぶりだ。

まったく、相変わらずみたいだな。

「けれど、それでも話さなければならないことがあるのよ。

私は今、あなたに鞭打ち1000回をしたとしても足りないほどに怒り狂っているわ。」

雪ノ下の声色はいつものように冷徹さを感じさせるものではなく、無機質で淡々としたものへと変わった。

「何の話だ?」

俺は雪ノ下の言わんとすることを分かっていながら、敢えてこの言葉を選んだ。

「くだらない茶番はよしなさい。

電話越しじゃダメージを与えられないから、今すぐに私の家まで来なさい。」

おいおい、ダメージを与えるって何するつもりだよ。

「いや、今何時だと思っt…」

「あなたに拒否権はないわ。

まだ、終電まで時間はあるでしょう。

すぐに来なさい。

それj」

俺に喋らせないためか、雪ノ下自身の言葉も言い終えないうちにブチッと通話を切りやがった。

何をされるのか見当もつかないが、行かなかった場合、後が面倒そうだから俺は渋々雪ノ下の家に向かう。

 

 

 

 

 

―雪ノ下の家―

俺は雪ノ下の家に入るや否や、問答無用で正座させられている。

「さて、比企谷くん。

今から早速尋問をして、終わり次第罪を償ってもらうわ。

いいわね?」

「罪って…。

俺は法律に触れることをした覚えはないのだが。」

「えぇ。

そうかもしれないわね。

けれど、あなたは確かに私の荘園で私の大切な人に刀を突きつけたわ。

この意味、分かるでしょう?

如何なる事情があろうと、それは許されないことよ。

鎌倉時代と違って、問答無用で首を刎ねられないだけ有り難く思いなさい。

今から私はあなたの愚かな言い訳に耳を傾けるとするわ。」

由比ヶ浜と雪ノ下の深い友情からしたら、雪ノ下の行動は当然の対応と言えるだろう。

だが、今回の件に関して、俺が真意を語ったところで誰も得などしない。

「お前が由比ヶ浜から聞いている通りだよ。

由比ヶ浜の誕生日を過ぎたあたりから、リア充の嗜む恋愛なんてやっぱりくだらないと思っただけだ。

気持ちが冷めれば、態度にもそれが表れるのはごく自然なことだろ?」

雪ノ下は腕を組んだまま、表情を変えずに俺を睨み続ける。

「比企谷くん。

言いたいことはそれだけかしら?

それなら、早速、刑を執行するのだけれど。」

刑ってなんだよ。

まあ、雪ノ下の気が済むことでこの場が収まるなら、何でも受けてやろう。

「あぁ、そうだ。

好きにしろ。」

雪ノ下は横隔膜辺りからゆっくりと深い息を一定の強さで吐き続けながら、合気道らしき構えに入る。

と、その直後だった。

 

 

パッチーン!

 

 

「…」

「…」

閑散とした部屋にその音が2、3回反響するほどの強さで雪ノ下は俺の顔面をぶった。

あまりの衝撃に俺は思わず倒れ込む。

「あまり私を見縊らないでちょうだい。

私はあなたの三文芝居に付き合うために睡眠時間を削るつもりは毛頭無いわ!」

雪ノ下がここまで感情を剥き出しにして怒るのを見たのは初めてだ。

こういう切羽詰った時に、状況がやけに客観的に見えてしまうのは俺だけではないだろう。

どうしても雪ノ下の怒りの矛先が他人に向いているように思える。

「あなたはいつもそうやって逃げる!

真実からも、友情からも、感謝からも、そして愛情からも!」

雪ノ下は喧嘩でむきになっている小学生のような形相で俺を睨む。

「由比ヶ浜さんがどれだけ苦しそうに泣いていたかあなたは知っているの!?

人の涙を見てあんなに心が締め付けられたのは初めてだったわ。

私には何も出来ないかもしれないとも思ってしまったほどいたたまれない様子だった。

それを知っても、あなたはまだ何の価値もない嘘を吐き続けるの?」

 

 

「知るか…。」

 

恋人ってやつが、もし己が原因の不幸もともに背負わせていかなければならない関係なのだとしたら、俺にそんなパートナーは一生できない。

「俺から言えることは変わらない。

由比ヶ浜に対してもそろそろケジメをつけようと思っていたところだ。」

「もういいわ。

一番愚かだったのは私だったようね。」

雪ノ下は再び先ほどと同じように深く息をついて構える。

これで、雪ノ下の気が晴れるならいくらでも殴られてやるよ。

俺は雪ノ下が振りかぶるのに合わせて歯を食いしばった。

 

「ゆきのん!やめてっ!」

 

甲高い叫び声に雪ノ下の手は俺の頬すれすれのところで止まる。

廊下から姿を現したのは由比ヶ浜だった。

こいつがここにいるのは不思議なことではないのだが…、正直驚いた。

「ゆきのん…。

ダメだよ。

あたしの大好きな人をそれ以上引っ叩いちゃ。」

由比ヶ浜は優しい声で雪ノ下をなだめる。

雪ノ下にとってはまさかの事態だったのか、呆然としている。

「由比ヶ浜さん、私がいいって言うまで絶対に出てこないでって言ったじゃない。」

雪ノ下の手は小刻みに震えている。

「ありがとね。

ゆきのん。

ゆきのんの気持ちはすっごく嬉しいよ。

でも、ヒッキーが傷付くだけじゃ、何にも解決しないと思うの。」

「だけど、この男はまだ白々しくも…。

私だって分かっているわ!

比企谷くんが何の理由もなく、由比ヶ浜さんに対して冷たい態度を取らないことくらい。

けれど、どんな理由があっても、由比ヶ浜さんを傷付けていいことにはならないわ。」

「ゆきのんは本当に優しいね。

ねぇ、ひっきぃ?

もしヒッキーなりに色々考えてやったことなら、それを教えてくれないかな?

あたしバカだからさ。

分かんないの。

本当に冷めちゃったなら、それでもいい。

別に、あたしは自分が嫌われるわけないって思ってるわけじゃないんだ。

そういうのもあると思うし。

でもね。

もし、何かあるなら本当のことを教えて欲しいな。」

由比ヶ浜の真っ直ぐで優しい目は俺の胸をちぎれそうなくらい強く締め付ける。

「…。」

だが、今さら俺の行動の真意を語ったところで何になる?

俺が生み出した問題を誰も傷付けない方法で解決することもできずに、結局はこのざまだ。

動機など然して重要なことではない。

人間、大事なことは勝手に判断し、判断材料は結果に尽きる。

いっそのこと、何もかも無くなってしまえばいいと本気で思った。

 

―ピンポーンー

 

もうじき日も変わろうかという時間帯に来客とは…。

だが、俺にはこの来客が誰なのかも大体想像はついていた。

「こんな時間に誰かしら?」

雪ノ下はインターホンの画面を覗く。

「雪乃!

原因突き止めたぞ!」

「葉山君!

本当?

すぐに上がってきて頂戴!」

声の主はおそらく葉山だ。

声質は勿論だが、雪ノ下のことを雪乃と呼ぶのはあいつくらいだろう。

 

それから1、2分くらいで葉山は部屋に到着した。

「それじゃあ、葉山君。

私たちに真実を教えて頂戴。」

「うん。

まず、一番の原因は俺たちが所属しているサークルの女子の愚痴だ。

さっき電話したら、丁度コンパをやっていて、みんな酔っていたから全部話してくれたよ。

比企谷が彼氏だから結衣のノリが悪いとか色々言われてるらしいんだ。」

「そうなんだ…。」

由比ヶ浜は少し俯く。

「そして、比企谷はそれを言っている場に居合わせてしまったんだろ?

それを聞いて、お前は自分のせいで結衣がサークルで居場所をなくしてしまうことを恐れた。

だから、サークルで噂になるほど大袈裟に結衣を拒絶したんじゃないのか?

そうすれば、これまで非難の対象だった結衣は比企谷に酷い扱いを受けた被害者になる。

それが君の一番の狙いだったんだろ?」

「…。」

「ひっきぃ…。

本当なの?」

「…ふんっ。」

俺は思わず微笑を洩らした。

「何がおかしいんだよ!

お前はいつもそうy…」

俺は葉山の言葉を遮るために言葉を重ねる。

「お前ら、俺を買い被り過ぎるにも程がある。

俺がそんなに美しい人間に見えるか?

澄んだ心を持つ人間に見えるか?

もしそうなら、それは違うな。

真実ってやつを教えてやる。

だが、これは由比ヶ浜にしか言わない。

悪いが、雪ノ下と葉山は少しの間、席を外していてくれないか?」

雪ノ下と葉山はお互いをの目を見て、確かめるように頷く。

「分かったわ。

話が終わったら呼んで頂戴。」

「あぁ。」

 

 

 

 

広いリビングには俺と由比ヶ浜がテーブルを挟んで向かいに座っている。

「由比ヶ浜、悪かったな。」

由比ヶ浜は大袈裟に首を横に振る。

「ヒッキーは何も悪くないでしょ?

いつだってそうだったじゃん。

周りから見たら、ヒッキーが悪者でも、あたしやゆきのんは本当のことを知ってた。

ヒッキーが自分を犠牲にたくさんの人を救ってたこと。

だから、今回もゆきのんはヒッキーが悪者じゃないって分かってたんだよ。

でも、それじゃあ、何でゆきのんがヒッキーに怒ってたか分かる?」

「雪ノ下にとってお前が大切な友達だからだろ?」

俺の言葉が予想通りだったのか、由比ヶ浜は納得した顔で話を続ける。

「そう言うと思った。

半分は正解だよ。

でもね、残り半分をヒッキーは絶対に知らないし、信じてくれないと思う。」

俺が知らない?

確かに、俺は雪ノ下のことなんて1%も理解してやれてないだろうな。

「ゆきのんはね…。

ヒッキーを助けようとしてるんだ。」

「なんだよそれ。」

助ける?

俺を全力で引っ叩いて、何か救われるのか?

だったら、俺は物心ついた時から自分の顔面を殴りまくってるわ。

「実は今日、テニスコートで隼人くんに会って、帰りに相談してたらゆきのんとUSJで話したことを教えてくれたんだ。

それで、隼人くんに勧められてゆきのんの家に来て、ゆきのんの本音も聞いた。」

USJって…、卒業旅行で雪ノ下と葉山で抜けた時のことか。

「ゆきのんはヒッキーのことを本当に大切に思ってて、すっごく感謝してるんだって。

だから、ゆきのんはヒッキー自身も幸せに生きていけるようにするって言ってた。

すごいよね…ゆきのん。」

「なぁ、由比ヶ浜。」

「なに?」

「葉山の言うことも聞いて改めて分かったと思うが、俺は最低な人間だろ?

結局、自分の近くにいる人を傷付けてでも、失敗に気付けば自分の殻に閉じこもる。

俺はそういう人間だ。

雪ノ下には悪いが無駄だと思う。

昔と違って、今は自分が嫌いで仕方ない。

それは大切な人ができたからだ。

自分で自分を認めるだけじゃダメなんだろう。

それが分かっていても、まだ俺には打開できるだけのキャパシティが無かった。」

俺は今日初めて由比ヶ浜と視線を合わせる。

「だから恋人関係は一旦止めよう。

俺には荷が重すぎたんだ。」

この言葉を聞いてなお、由比ヶ浜も俺から目を逸らそうとしない。

「それはね。

あたしも思ってた。」

「そうか。」

「ヒッキーがどうこうってわけじゃないよ。

ゆきのんの話聞いて思ったんだ。

あたしにヒッキーの彼女でいる資格なんかないって。

ゆきのんはヒッキーのことを思って本気で問題を解決しようとしてた。

思いっ切りぶつかっても、嫌われるかもしれなくてもなんとかしようって。

それ見て思ったんだ。

好きだって言うのは誰だってできるけど、誰かを愛して幸せにしようって思うのはなかなか出来ない。

あたしはヒッキーに甘えてるだけだったんだって気付いた。

だから、今はヒッキーのこと諦める。

だって、ヒッキーにもっと相応しい人がいるもん!

でも、あたしだって今のまんまじゃないからね。

いつか、ヒッキーに見合う女になったら、また告白するから!」

「そうか。

分かった。」

だが、一つ清算し忘れていることがあることに由比ヶ浜は気付いていないようだった。

それについては、俺が言うべきか…。

「だけどな、由比ヶ浜。

約束を破るのは俺の主義に反するんだよ。

まぁ、約束をする相手がいなかったから、反することも勿論無かったけどな。

だからだな…。」

 

 

「つまり、なんつーか、その…。」

 

 

「いつか…。

初デートで約束した横浜の夜景は、絶対に見に行こうな。」

 

 

「ひっきぃ…グスッ」

由比ヶ浜は緊張の糸が切れたのか、今までの毅然とした表情は一気に崩れ、大粒の涙を流し始めた。

「由比ヶ浜、一つだけ言わせて欲しい。

お前といた時間は本当に楽しかった。

リア充も案外悪くないって思えたしな。

残念ながら、俺のいるべき場所じゃなかったみたいだが。

それでも、由比ヶ浜との4か月間の思い出は忘れない。」

「やめてよー。

もう会わないみたいじゃん!」

涙を拭いながら、由比ヶ浜は俺に笑いかける。

「これからも、友達だから!

ヒッキー、ただでさえ友達少ないんだから、あたしはずっとヒッキーの友達でいてあげる。」

由比ヶ浜の作り笑いは全く笑えてなくて、それがあまりにも切なかった。

「そりゃどうも。」

俺は溢れ出しそうな気持ちを誤魔化すように素っ気なく答える。

「あと、あたしも…。

ヒッキー、短い間だったけどありがとね。

今までで、一番楽しかった4か月だったよ。」

由比ヶ浜は胸元のネックレスを見つめ、それからゆっくりと目を閉じる。

「それなら…よかった。」

 

俺の初リア充記録。

4か月弱。

 




第4章①をお読み頂きましてありがとうございます!
急展開、鬱展開と読者の皆様からすれば、フラストレーションの溜まる作品で申し訳ありません。
事態が錯綜し過ぎていて、まとまっていないのですが、最終的には全てを回収して、整合性がとれた完結に繋げていくよう構想を練っておりますので、これからも私の長編ssにお付き合い下さいませ<m(__)m>
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