第2章 やはり俺の春休みは間違っている。   作:あらがき@北宇治高校

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やっはろーです!
あらがきと申します。前作、第4章①の続きになります。
pixivでも『あらがき@材木座以下のss』というユーザー名で投稿しておりますが、こちらにも投稿させて頂きます<m(__)m>
ただ、pixivに投稿しているものに若干の修正を加える場合もありますので、ご了承ください。
こちらは、私が投稿した『第1章 案外俺の卒業式は間違っていない。』『第2章 やはり俺の春休みは間違っている。』『第3章 つまるところ、彼らは上手くやっている。』の続編になります。

まだハーメルンでの勝手が分かっておりませんので、取るに足らない部分は多々あると思いますが、よろしくお願いします。
感想、ご指摘など頂けると嬉しいです!

<追記>このssは一話完結ではないので、その点はご了承ください<m(__)m>


第4章 ②出し抜けに雪ノ下雪乃は激白する。

 

あれから、数分ほど由比ヶ浜は俺に寄りかかりながら泣き続けていた。

おそらく俺に気を遣わせまいと気を張っていた分、溢れ出す感情も大きかったのだろう。

由比ヶ浜が落ち着いたのを見計らって、俺は雪ノ下に電話をする。

あいつらは、確か屋上に行くと言っていた。

「もしもし。

雪ノ下、戻って来ていいぞ。」

電話の送話口に吹き付ける風が強いためか、こちらの受話口から出る雑音は音割れしている。

やはり屋上に居るのだろう。

「話は終わった?」

雪ノ下の声色はいつものそれに戻っていた。

「あぁ。

終わったよ。」

色々とな…。

「分かった。

それじゃあ、今から戻るわ。」

「りょーかい。」

 

雪ノ下と葉山は少し緊張した面持ちで部屋に現れた。

「どんな話をしたの…?」

雪ノ下は俺の顔色を窺うように質問をするが、らしくない言動だ。

「お前に引っ叩かれた頬が痛いって話をしてた。」

「そっ、そうだったの…。

ごめんなさい。

ちょっとやり過ぎたわ。」

真に受けられるとは思ってなかったぞ!

「いや、冗談だから。

確かに痛かったけど、そんな話はしてねえよ。

ちゃんと話はついた。

そこで、葉山に頼みたいことがある。」

「なんだ?」

葉山は突然振られて一瞬体を硬直させるような素振りを見せたが、すぐにいつもの表情を取り繕う。

「由比ヶ浜がサークルのことで悩んでいたら、相談に乗ってやってくれ。

この件に関しては、俺はお前らが望まない方法でしか、由比ヶ浜を救ってやることはできない。

その方法を雪ノ下と由比ヶ浜が最も避けたいってことは、よく分かった。

だから頼む。

これは貸しってことでいい。」

葉山はいつも通りの爽やかな笑顔を俺に向ける。

「あぁ!

任せてくれ。

それに、悪口を言っていた子たちも、きっと結衣が心底嫌いで悪口を言ってたわけじゃないと思うんだ。」

しかし、葉山は相変わらず性善説的な立場を崩さない。

まぁ、今回はその葉山に頼っているわけだから何とも言えないんだがな。

俺の決まりの悪そうな表情に気を遣ったのか、由比ヶ浜はすかさずフォローを入れる。

「ヒッキー、心配しなくても大丈夫だから!

あたし、こういうの初めてってわけじゃないしさ。

ヒッキーのこと悪く言われたのは悲しかったけど、あたしに対しての悪口はそんなに気にしてないよ。」

最近、しばしば思うのだが、初めて会った頃に比べて由比ヶ浜は本当に強くなったと思う。

雪ノ下と出会ってから、芯の通った人間になったように見える。

いつの間にか、俺の憧れている人間に憧れている人間は、その人間に少しずつ近づいていた。

一方、俺はどうなのだろうか…。

雪ノ下雪乃という人間に憧れながらも、進むことを恐れ、拒まれることを恐れ、何より変わることを恐れている。

自分が『変わる』。

周りが『変わる』。

それは当たり前のことで、知らず知らずの間に変化を受け入れていたともとれる行動を起こしていた時期もあった。

だが、何度片足を前に出しても、もう片方の足はずっと同じ場所にあって、気付けば踏み出した足も元の場所に戻している。

かといって、『変わらないこと』の正当性を哲学的に、論理的に説いたところで俺は納得できないのだろう。

雪ノ下が自分を変えようとしても尚美しいことを、理論だったものだけでは説明できないからだ。

いったい俺は雪ノ下の何を見ているのか…。

こんな堂々巡りの思考の後、俺は間の空きすぎた適当な返事をする。

「そうか…。」

俺の小さな返事を最後に静まりかえった部屋で最初に口を開いたのも由比ヶ浜だった。

「この話はこれで終わり!

楽しい夏休みの予定でも立てようよ!

ゆきのん、夏休みはいっぱい遊びに行こうね!」

 

なぜか、雪ノ下からリアクションは無く、この空間において時間が止まったような錯覚を覚える。

 

 

「えっと…、その…。

それは無理なの。」

雪ノ下は誰とも目を合わせない。

由比ヶ浜は状況を呑み込めず、おろおろしている。

しかし、大学生は長期休暇が最も自由であるにもかかわらず、由比ヶ浜大好きの雪ノ下が前もって断るとは…。

「ど、どういうこと…?」

今にも泣き出しそうな表情で雪ノ下の顔を窺う由比ヶ浜。

「由比ヶ浜さんとだけ遊べないというわけではなくて…。」

「じゃあ、どうして?」

雪ノ下は決まりが悪そうで、答えるのを何度か躊躇する。

由比ヶ浜のその目線に耐えきれなかったのか、雪ノ下はためらいながら重い口を開く。

 

 

 

 

 

 

「私…

 

夏休みに入ってすぐにイギリスへ留学するの。」

 

 

 

 

 

「りゅ、留学…。」

由比ヶ浜は「留学」というワードを理解しきれてないようで、口を開けたまま呆然としている。

葉山は然して驚いてはいない。

既に知っていたのだろうか。

「へ、へぇ~

留学かぁー

どのくらい行ってるの?」

由比ヶ浜の棒読みには明らかに動揺がにじみ出ていた。

「帰ってくるのは1年後かしらね。」

雪ノ下は平然と答える。

「1年後って…。

そんなの聞いてないよ。」

由比ヶ浜の僅かに憤りを含んだ口調に怯んだ雪ノ下は、申し訳なさそうに頭を下げる。

「ごめんなさい。

なかなか言い出せなくて…。

卒業旅行の時には分かっていたのだけれど。」

「あ、あっ、いや…

そこまで怒ってないよ。

だから顔上げて。」

由比ヶ浜は雪ノ下の両肩を包み込むように掴んで、優しく彼女の体を起こさせる。

「でも、言って欲しかったな。

最近だって何回か遊んだこともあったしさ。

あたし、寂しいよ。

1年もゆきのんと会えないなんて…。」

「私も寂しいわ、すごく…。

だけど、あなたには比企谷くんがいるじゃない。」

そういえば、さっきの結末を雪ノ下に言ってなかったな。

「あ、それはね…。

さっき、あたし、ヒッキーとは別れたの。」

「「え…。」」

雪ノ下と葉山は予想外の展開に口をあんぐりとさせている。

「もしかして、私が言い過ぎたせいで…。

由比ヶ浜さん、先ほどの言葉は比企谷くん個人のやり方に対してのものであって、二人が上手くいっていないと言いたかった訳ではないの。

その、だから…」

「あたし達が別れたこととゆきのんの言動とは関係ないよ。」

由比ヶ浜は雪ノ下の言葉に被せて言い放つ。

「今日、こんな風にならなくたって、いつか違う形であたしとヒッキーは話し合うことになってた。

そこで、きっとあたし達は同じ答えを出したと思う。

それに別れることについては、あたしもヒッキーも思っていたことだったし。

お互い、理由は違うけど、納得して出した結論だから後悔はないよ。」

「そうだったのね…。」

「だから、ゆきのんは気にしないで!

そんなことより、ゆきのんの留学応援パーティーやろうよ!

ね?」

由比ヶ浜は俺と葉山それぞれに同意を求める。

「いいね!

俺も何かしたいと思ってたんだ。」

由比ヶ浜は葉山の返答に満足したようで、次に俺が答えるのを笑顔で待っている。

「あぁ、いいんじゃないか。

なんでも。」

俺の返答には不満なようで、ぷくーっと頬を膨らませる。

「よーし、決まりだね!

ゆきのんの家でいい?」

「ええ、構わないわよ。

ありがとう、由比ヶ浜さん、葉山君。」

「おい、なんで俺を抜いた?」

「あら、もう帰ったのかと思っていたわ。

ごめんなさいね。

1年間会えないけど、きっとあなたのことは忘れないわ。

ヒトリガヤくん。」

「いや、既に名前間違ってるから。

それで忘れないとか全く説得力ないから。

しかも、俺が振られたことも揶揄するとか、皮肉の達人かよ。」

雪ノ下は勝ち誇った笑顔を浮かべている。

こいつのこんな顔を見るのは久しぶりだ。

由比ヶ浜も葉山も苦笑いではあるが、俺たちを微笑ましく見ているような気がする。

しかし、このやり取りを心地良いと思ってしまう俺って変態なの?

久しぶりに雪ノ下と交わした言葉はこの頃味わうことのなかった満足感で確かに心を充たしているのだ。

ところで、由比ヶ浜は何やら葉山と計画を立てているようだ。勿論、俺抜きで。

さっきの適当な返事に対して怒ってんのか?

まぁ、由比ヶ浜は切り替え早いし、怒気も早々に忘れそうだけどな。

「ゆきのん、何日に日本を出発するの?」

「8月8日よ。」

「そっか…。

あと、20日くらいだね。

直前は忙しいだろうし、8月1日なんかどう?」

「ええ。

特に用事もないわ。」

「よし、じゃあそれで決まりだね!

さいちゃん達も誘って、盛大にゆきのんを送り出すぞぉー!」

雪ノ下も満更でもないようで、照れくさいのか、仄かに頬を染めている。

 

すると突然、空気になりかけていた葉山が口を開く。

「ところで、雪乃、お前も比企谷に話さなくちゃならないことがあるんじゃないか?」

さらに、間髪入れずに由比ヶ浜も畳み掛ける。

「そうだよ。

あたしはヒッキーときちんと話したけど、ゆきのんは違うでしょ?」

雪ノ下は曖昧な表情を浮かべたまま何かを話そうと口をパクパクさせているが、一向に彼女から言葉は出てこない。

てか、俺と雪ノ下が話す必要のあることってなんだよ。

こいつと話しても誹謗中傷の数々を拝聴するだけだと思うのだが。

「結衣のことなら俺の家の車で送って行くから、心配しなくていいぞ。」

いやまぁ、俺が懸念してるのはそこじゃなかったんだけどな。

「隼人くん、ありがと。

今日は甘えさせてもらおうかな。」

由比ヶ浜が珍しく遠慮しないのは俺と雪ノ下が話すという展開にどうしても持っていきたいからだろう。

それにしても、こんな時間に迎えに来てくれるなんて、流石、弁護士と医師の息子だな。

由比ヶ浜と葉山は雪ノ下の目を真っ直ぐ見つめる。

一方、俺は…、話を振られないようにステルスヒッキーを発動させて自分の存在を空気に近似させていた。

「わ、私は別に…、」

「逃げちゃダメだよ、ゆきのん!

そのままイギリス行っちゃったら、絶対に後悔するよ。」

それから雪ノ下は視線を落としたまま黙り込んでいたが、突然顔を上げて俺の目を凝視し始めた。

「分かったわ。

比企谷くん、あなた、もう少しここに残りなさい。」

「嫌だ。」

「ヒッキー!」

由比ヶ浜は全力で俺を睨みつけてくる。

だって、この状況で雪ノ下と二人きりにされたら、俺の生存が脅かされるじゃねぇか。

あいつの張り手はマジで痛かったからな。

「わ、分かったよ。

どうせ、終電の時間はとっくに過ぎてるしな。」

まぁ、ここでは俺が折れるまで話が進まなさそうだったから、渋々了承する。

「それじゃあ、あたし達は帰ろっか。

ゆきのん、今日はありがとね。」

「私こそ、ありがとう。

葉山君も。」

「俺は大したことはしてないよ。

じゃ、またパーティーで。」

「えぇ。」

雪ノ下は葉山にもぎこちない笑顔を浮かべながら、手を振っていた。

この様子から察するに、こいつらが抱えていた問題は卒業旅行で解決したのかもしれんな。

 

 

雪ノ下が二人を見送って戻って来ると、これまでの空間とは別物であるかのような静けさがあった。

必要最低限のものしか置いていないこの部屋の広さは実際よりも遥かにそれを感じさせる。

「比企谷くん…。」

「なんだ?」

俺は雪ノ下を見ていない。

おそらく、雪ノ下も。

「話なのだけど…。

さっきはごめんなさい。

あそこまでやる必要はなかったわ。」

雪ノ下の声は少し震えていた。

「お前らしくないな。

俺はそれ相応の罰を由比ヶ浜の代役であるお前から受けただけだ。

謝る理由がないだろ。

謝るとしても、その相手は由比ヶ浜だ。

この方法が流れてしまって、これからサークルに居辛くなる可能性が残っている。」

「勿論、それはそうなのだけれど…。

私も自分から目を逸らしていたのよ。

冷静になってから気付いたのだけれど、比企谷くんに怒鳴っていたことは私にも当てはまっていたわ。

あなたが由比ヶ浜さんを傷付けたことに憤っていたはずなのに、私は根本的にそれを解決させていなかった。

由比ヶ浜さんが望んだとはいえ、結局、比企谷くんが傷付かない方法を優先させた。

私が辛いから。

比企谷くんが私の思う幸せに近付けるように。

自分勝手だっt」

「それ以上言うな。」

俺は少し声を張って、雪ノ下の言葉を遮る。

「お前が俺に幸せを押し付けたいように、俺も清々しいほど正直なお前の生き方に憧れて、それを押し付けようとしていた。

だから言わせてもらう。

雪ノ下が正しいと判断してやったことだ。

俺はそれでいいと思う。

お前がそんなに揺らいでてどうすんだ?

虚言だけは吐かないんだろ?

お前は世界を考えるんだろ?

自分を追い詰めすぎる必要はないが、少なくともそうありたいと思ってるなら、突き進むべきだ。

最初は鼻で笑っていた俺だが、今となっては雪ノ下雪乃ならやり遂げるんじゃないかって思ってる。」

雪ノ下は俺の言葉を聞いて少しの間立ち尽くしていた。

「そう…。

あなたがそう言ってくれるのなら、私も…」

そう言ったきり、雪ノ下は口をつぐむ。

「あと、まぁ、なんだ…、俺のことは気にしなくていい。」

「そういうわけにはいかないわ。

だって、あなた、私のこと好きなんでしょ?」

「は?

急になんだよ!」

「比企谷くんは私のことも好きだったけど、由比ヶ浜さんと付き合っていたのでしょう?」

由比ヶ浜…、そこまで話したのかよ。

まったく面倒なことしてくれやがって。

「あぁ、そうだ。

悪いか?」

ここまでばれてるなら、開き直るしかない。

しかし、なんだよこの状況。

「べ、別に悪いとは言っていないわ。

でも、もし比企谷くんが、その…、私のこt…」

「だが、由比ヶ浜と付き合って分かった。

俺のいるべき世界じゃないってことがな。

だから、もう考えないようにする。

悪かったな、変なこと聞かせたみたいで。

忘れてくれ。」

俺は雪ノ下の言葉を意図的に遮った。

「そ、そうね。

そうするわ。」

 

 

「今日は泊まっていく?」

口を開いた雪ノ下はそっぽを向いている。

「いいのか?

まぁ、ホテルに泊まったり、タクシーで帰るだけの金も無いから、そうしてもらえると助かる。」

「えぇ。

構わないわ。」

「悪いな。」

 

 

重い沈黙が充満するこの部屋には俺と雪ノ下だけ。

雪ノ下も由比ヶ浜も俺を信用し過ぎだと思う。

そして葉山も含めて俺に期待を寄せすぎている。

今回、上手くいかなかったことを嘆いているわけではないが、これまでの俺が解決してきたことも決して成功とは言えないものだった。

俺が悪役になること以外でも、様々なほころびは所々に生じていた。

それが解決した方の印象を悪印象として上回らなかったのは偶然としか言いようがない。

それを美化されて、俺のキャパシティを超える立ち回りを望まれても困るのだ。

だが、当の俺も雪ノ下に同じことをしているのかもしれない。

これから、雪ノ下と1年間会わないことでそれも薄れていき、元の俺に戻れるのならそれはそれでいいのかもしれん。

お互いにとってな。

一方で雪ノ下と由比ヶ浜に依存していた己を否定できない自分もいるわけで…。

そろそろ、ケリをつける時なのかもしれないな。

いい機会だ。

 

「お、おやすみなさい。」

その挨拶はどこかぎこちない。

 

「おう。」

明日も豪勢な朝食が用意されていることを期待して、真夏の熱帯夜にもかかわらず、俺は掛け布団を頭まで被って眠りに就いた。

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