第2章 やはり俺の春休みは間違っている。 作:あらがき@北宇治高校
あらがきと申します。前作、第4章①の続きになります。
pixivでも『あらがき@材木座以下のss』というユーザー名で投稿しておりますが、こちらにも投稿させて頂きます<m(__)m>
ただ、pixivに投稿しているものに若干の修正を加える場合もありますので、ご了承ください。
こちらは、私が投稿した『第1章 案外俺の卒業式は間違っていない。』『第2章 やはり俺の春休みは間違っている。』『第3章 つまるところ、彼らは上手くやっている。』の続編になります。
まだハーメルンでの勝手が分かっておりませんので、取るに足らない部分は多々あると思いますが、よろしくお願いします。
感想、ご指摘など頂けると嬉しいです!
<追記>前作でストックが切れてしまい、これからはリアルタイムでの投稿となりますので、1週間に1話くらいのペースになってしまいます。
お待ち下さっている方が、もしいらっしゃれば、本当に申し訳ありません。
これからもどうぞお付き合いください<m(__)m>
「ゆきの~んっ!
りゅう、がく?おめ…でと?」
乾杯の音頭だというのに由比ヶ浜が自信無さげな口調なので、一同、グラスを中途半端に掲げたまま固まってしまった。
「いや、なんで疑問形なんだよ。」
「だってさー、留学おめでとうってなんか変な感じじゃない?」
葉山は顎に手をあて、考える仕草をしてみせる。
「確かにね…。
じゃあ、雪乃が向こうでも元気でいられることを願って乾杯というのはどうかな?」
「いーねー!
んじゃ、そういうことで…
かんぱーい!」
由比ヶ浜のハイテンションな音頭に続いて、俺たちはグラスを合わせる。
雪ノ下の家での一件から今日のパーティーまでの間、特に大きな出来事はなかった。
由比ヶ浜はというと、サークル内で他の連中との諍いが起きることも無かったので、三浦派閥で伸び伸びと過ごしている。
その理由の一つとして、葉山が女子たちにあることを言ってくれたおかげというのもあるだろう。
そう。
俺が必ず葉山に伝えてもらうように頼んだことは、俺と由比ヶ浜が別れたという事実だ。
もちろん、葉山には『そういえば、別れたらしいよ。』的なニュアンスで伝えるように頼んだ。
葉山が嫌味なやつに仕立て上げられてしまうのは、絶対に避けなければならないパターンだからな。
しかし、あれから由比ヶ浜が普通に過ごせているのは、それだけが理由ではないと思う。
そもそも、そこまで神経質になる問題ではなかった可能性があるということだ。
前にも言ったように、俺たちの所属するサークルではいくつかの派閥が均衡しているため、派閥同士のバランスを大きく乱すようなことが起きない限り、サークル内の雰囲気が険悪なムードになる程の事はないのである。
俺は、自分のせいで由比ヶ浜を巻き込んでしまったことばかりに気を取られて、由比ヶ浜を助けると言いながらも、自分が逃げることしか考えていなかったために、冷静な判断力を欠いていた。
つまり、放っておけば早々に時間が水に流してくれていた可能性が高かった問題なのだ。
まったくもって、身勝手だったと言える。
雪ノ下が激怒するのも当然だ。
彼女は俺が傷付く方法を選ぼうとしたから怒ったらしいが、実のところどうなのだろうか。
虚言は吐かないと言う雪ノ下だが…。
とにかく、今回は俺の独りよがりが事態を余計に深刻化させてしまったのだ。
その報いとして、俺が由比ヶ浜のような可愛い恋人を失ってしまったとなればいいのだが…。
仮に、由比ヶ浜がこんな俺のことをまだ好きでいてくれいたのなら、畳み掛けるようにあいつを傷付けてしまったことになる。
だが、そうであっても俺と早い段階で別れることができたのは由比ヶ浜にとって良かったはずだ。
きっと、あいつは俺と一緒にいても幸せになれない。
そもそも、お前と同じくらい好きな人がもう一人いると宣言して付き合うなんて、自分でもどうかしていたと思う。
これでよかったんだ…。
しかし、由比ヶ浜が別れるのを認めた理由というのが、また一つ俺にわだかまりを残した。
由比ヶ浜は言った。
雪ノ下が俺を想うそのあり方に及ばないことを知り、俺に見合わないから別れるべきだと思ったと。
そうするとだな…。
雪ノ下が俺のことを…。
いや、これ以上考えないでおこう。
いくら考えようと雪ノ下はもうすぐイギリスに旅立つ。
それに、この前の一件で流石に雪ノ下も愛想を尽かしたに違いない。
「ヒッキー?
なにぼーっとしてるの?」
由比ヶ浜は俺の視界いっぱいにブンブンと手を振ってみせる。
「い、いや、別に…」
「由比ヶ浜さん、仕方のないことよ。
比企谷くんが現実から目を逸らそうとして白昼夢へ旅立つのはいつものことじゃない。」
「そ、そうだね…。あはは…。」
いや、雪ノ下さん。
その満足げな顔はなんなんですか?
どんだけ俺を罵るの好きなんだよ。
あの由比ヶ浜でさえ、リアクションに困ってるよ?
それにしても、俺が物思いに耽っていただけで、この言われ様って…。
「由比ヶ浜さん、これから何をするのかしら?」
「ふふーん♪
それはね…、ご飯を食べ終わってからのお楽しみっ!」
由比ヶ浜は雪ノ下の不思議がる顔を見て、イシシと歯を出して笑う。
広いテーブルは俺と葉山と戸塚(と由比ヶ浜?)が作った料理で埋め尽くされている。
いや、由比ヶ浜も色々手伝ってくれてたぞ!
使い終わった調理器具を洗ってくれたり、出来上がった料理を運んでくれたり…TARI…TARI…。
まぁ、つまりは大方男3人で作った訳だが…。
専業主夫を夢見る俺。
女子力の高い戸塚。(つーか、もはや女子を超越している。)
何でも起用にこなす葉山。
出来上がった料理は男の料理なんて、言い訳がましい言葉を用いる必要のないクオリティーだった。
「それにしても、この唐揚げおいしーね!
誰が作ったの?」
「ぼく…だよ。」
恥じらいながら、遠慮がちに手をあげる戸塚。
嗚呼戸塚
嗚呼とつかわいい
嗚呼戸塚
八幡、心の一句。
「さいちゃん、すごーい!
お嫁さんにしたいくらいだよー」
「大したことないよ…。」
おいおい、戸塚が嫁いでくるのは俺のはずなんですけど。
なんて冗談は流石に今の俺と由比ヶ浜でやるとまずいので自粛する。
「それにしても、葉山さんも戸塚さんも料理お上手ですねー」
小町も普段は料理を作る側ではあるのだが、そんな俺の妹からも高評価をもらえるとは…、やっぱり将来は専業主夫になろう、そうしよう。
「うちの兄も、料理も出来て、社交的なお二人を見習って欲しいですよー
お兄ちゃんも料理だけは出来るんだけどなー」
そう言いながら、最愛の妹は俺を横目に睨む
「ま、まぁ、ヒッキーも初めて会った頃と比べたら、マシになった方だってー」
由比ヶ浜は眉根を寄せながらも作り笑いを浮かべている。
その顔で言われても、あんまりフォローになってないよ?
「俺は社交的ではないが、非常に社会的な人間だぞ。
社会に迷惑をかけないように、ぼっちとして生きてたんだからな。」
「はは…。」
部屋には由比ヶ浜が顔を引きつらせながら零した苦笑の声だけが響いて、その後に沈黙が続く。
その雰囲気を見兼ねたのか、小町と由比ヶ浜が目を合わせて、二人して立ち上がる。
「よ、よし!
ご飯も食べたことだし、企画に移るよー!」
由比ヶ浜は威勢よく握った手を掲げる。
「おっ、おぉー!」
小町もそれに続く。
「企画…。
それがさっき由比ヶ浜さんが言っていた『お楽しみ』かしら?」
「そーだよー!
今日のメインイベントー!
それは…。」
由比ヶ浜は含みを持たせて、小町に目を向ける。
すると、小町は「なになにー?」とわざとらしい盛り上げ役を買って出る。
「ゆきのんにプレゼント!
海外生活に役立つ便利グッズ、プレゼン大会ー!」
「なんか、語呂わりーな。」
あまりのセンスのない題名に、つい本音が口を吐く。
「はい、お兄ちゃんマイナス5ポイントー!」
小町は俺に広げた手を向けて、5ポイントを失ったことをアピールしてくる。
てか、マイナスって何から引かれるの?
Tポイントカード?
「今のは、これから始める企画のポイントからも小町ポイントからも引かれますー」
いや、まず、小町ポイントの価値も残高も知らないから、反応に困るんですけど…。
なに?肩たたき券にでも交換できるシステムなの?
「それじゃあ、結衣さん!
ルール説明、よろしくお願いします!」
「はーい!
まず、ゆきのん以外の5人は今日の企画のためにそれぞれプレゼントを買ってきています。
そのプレゼントはゆきのんの留学先で役立ちそうな便利グッズであることが条件。
そして、各自、自分の買ってきたものを2分以内でアピールして、最後にゆきのんに順位を付けてもらいます!
1位の人にはなんと…
ゆきのんのブログのURLを教えちゃいまーす!!」
「ちょ、ちょっと由比ヶ浜さん。
それは秘密って言ってなかったかしら?」
雪ノ下は少し顔を赤らめて、由比ヶ浜にしかめっ面を向ける。
「いーじゃーん
せっかくだから、見てもらう人がいた方がいいと思うし!」
雪ノ下は続けて何かを言おうとするが、言い淀んで少し俯く。
「雪ノ下、お前、ブログなんかやってたのか?」
あまりにも、雪ノ下に似合わなそうなことだったから、思わず質問してしまった。
「いいえ。
由比ヶ浜さんに、留学先で私がどのように過ごしているか気になるからブログを書いて欲しいと言われたのよ。
これから作るわ。」
なるほどな。
そんな面倒くさそうなことまで請け負うとか、本当に由比ヶ浜のこと好きなのな。
ほんと、ゆるゆりくらいで留めておいてください。
「それじゃあ、まず、私がお手本を見せまーす!
小町ちゃん、開始の合図よろしくっ!」
「りょーかいです!
それでは、よーい…スタート!」
そう言って小町は高く掲げたストップウォッチを大袈裟に振り下ろす。
「あたしがゆきのんにプレゼントするのは…これでーす!」
由比ヶ浜は背中に隠していた20cm四方の箱を俺たちに見せつける。
「そう、炊飯器です!
きっと、ゆきのんも向こうで1年も暮らしていたら、日本の味が恋しくなるはず…。
日本と言えば、米。
おいしい炊き立てのご飯が食べたい…。
そんなとき!
自前の炊飯器があれば、万事解決!
しかも、最新式なので早炊きだと20分で炊けちゃいます!
さらに、日本の美味しく炊ける炊飯器でホームパーティーを開けば、盛り上がること間違いなしだよ!
我ながら、ナイスアイデアだと思うんだけどなぁ。
ゆきのん、どうかな?」
由比ヶ浜は渾身のドヤ顔で雪ノ下を正視する。
「一つだけ質問してもいいかしら?」
「いいよ♪」
「その炊飯器の電源周波数は、イギリスで使えるものかしら?」
「え…。」
由比ヶ浜の顔は見る見るうちに青ざめていく。
「っていうか、電源周波数ってなに?」
いや、分からずに顔が青ざめるってどういうこと?
まぁ、おそらく、雪ノ下に何かを指摘されたという事実がショックだったんでしょうけど。
「電源周波数というのは、…」
それから約5分間、ユキペディアに掲載されている電源周波数についての解説から、その関係語句までの詳らかな説明を受けた。
「あの…、あたし分かんなかったかも…。」
由比ヶ浜は知恵熱を出して唸っている。
ここは、俺がフォローしとくか。
「要するに、お前の買った炊飯器はイギリスの家電と仕様が違うから、向こうでは使えないってことだよ。」
ポンッと効果音が出そうな素振りで由比ヶ浜は納得の表情を浮かべる。
「なんだーそれならそうと最初からそう言ってくれればよかったのにー
…。
…。
って、えーー!
これ、使えないの!?」
「あぁ。」
由比ヶ浜は頭を抱えて、ひざまずく。
「そんなぁ~」
雪ノ下はそんな由比ヶ浜を見兼ねて、なんとかフォローを入れようとあたふたしている。
「ゆ、由比ヶ浜さん。
変換器を買えば使えるから、ありがたく頂くわ。
ありがとう。」
由比ヶ浜は一転して快晴のように晴れた笑顔を見せる。
「そうなの?
ありがとーゆきのーん!」
由比ヶ浜は勢いよく雪ノ下に飛びつく。
「波乱の幕開けとなったプレゼン大会…、果たして勝つのは誰なのか…?
勝負の行方は後編で!」
「小町…、お前、誰に喋ってんの?」
お兄ちゃん、ちょっと心配になってきたよ…。