第2章 やはり俺の春休みは間違っている。 作:あらがき@北宇治高校
リアルタイムで読んで頂いていた方とは2ヶ月ぶりになります。
この2ヶ月間は思わぬ事態もあり、毎日忙しすぎて全くssに手を付けられませんでした。
きっと、この間にも私のssは忘れられているし、今となっては良作俺ガイルssをお書きになる作者の方もたくさんいらっしゃるので、もういいかなと思っていたのですが、今でも過去の作品を読んで感想を下さる方もいらっしゃいまして…。(とても嬉しいことに!)
投稿していない間もたくさんの方がフォローして下さり、やはり書きたいと思いました!
今の状態ではどこまで書き進められるか見当もつきませんが、今後ともよろしくお願いします(^^♪
また、③の後編について一言
第4章③は後々の伏線がたくさん詰まった回なのですが、展開的にも後に投稿した方が面白いかなと判断しまして、先に第4章を完結させてしまいました。
第4章③後編はそれこそss、もとい番外編という形で後日投稿する予定です。
それでは前置きが長くなりましたが、本文へどうぞ!!
④須らく、彼らの別れは斯くなりし。
8月8日。
俺の愛すべき千葉にも例外なく真夏の太陽光がギラギラと照り付ける。
成田空港の搭乗口には見知った顔も多く、薄っすらと涙を浮かべる者や、別れの一言を告げる者など様々だ。
というのも、今日は我らが奉仕部元部長の雪ノ下雪乃がイギリスへ留学するのである。
飛行機の出発時間はそれほど迫っていないが、別れが辛いのだろう。
号泣したまま雪ノ下雪乃に抱き付いて離れない女の子が一人。
おそらく雪ノ下雪乃を最も慕い、尊敬しており、雪ノ下もまた彼女を信頼している。
由比ヶ浜は5分ほど前からこの状態で、一向に雪ノ下から離れる気配がない。
まぁ、仲良きことは美しきことなりとか言うらしいから一般的には微笑ましい光景なのだろう。
しかし、周りから見れば少し異様な気もする。
端的に言えば、若干ゆりゆりしい。
その一方で、意外な面子もこの場に居合わせていた。
例えば、三浦優美子。
彼女は高校時代、その女王様気質が原因で雪ノ下と衝突することが幾度かあった。
わざわざ見送りに来たのは、意外にも三浦が見た目にそぐわず、律儀な人間だからなのだろうか。
もう一人、川…なんとかさん。
川越さんだったか?
とにかく怖い人。
彼女も俺が知る限りでは、弟以外には基本的に無関心なやつだった。
雪ノ下を特別嫌うことはなかっただろうが、この場に姿を現すほどの間柄でもなかった気がする。
それから数分間、各々が雪ノ下に何かしらのアクションを起こすのを遠目に見ていた。
雪ノ下本人は友達などいないと言っていたが、高校時代の彼女のクラスメイトもちらほら見送りに来ていた。
あの性格だから、反感を買うことも多かった反面、由比ヶ浜のようにその凛々しさに憧れる者も少なからずいたのだろう。
それはクラスメイトが雪ノ下に敬語で話していたからという理由だけでなく、態度にもはっきりと表れていた。
出発時刻まで残り30分を切った頃、雪ノ下はいつの間にか先ほどまで居た場所におらず、周りを見回していると陽乃さんがニヤニヤしながら俺の方へ歩いてくる。
どうしたんだい、雪ノ々下(ゆきののした)くん?
何かいいことでもあったのかい?
「やぁ、比企谷くん。
誰かお探しかなぁ?」
こちらの思惑を全て見透かしたような陽乃さんの笑顔はいつまでたっても脅威だ。
「いえ、別に。」
俺が不快感をあらわにして目線を逸らすと、陽乃さんは俺の正面まで回り込み覗き込んでくる。
その魅惑的な胸をよせながら上目遣いで男の子の目を覗き込むなんて…破廉恥な!
「ねぇ…比企谷くん。
雪乃ちゃんに別れの一言を言ってあげてよ。」
意外にも真面目な声色に驚き、思わず顔をあげると、陽乃さんは今まで見たことのない類の目線を俺に向けていた。
それはいつもの打算や計略を内に秘めたような、俺を窺う目ではなかった。
俺の知るところの陽乃さんに最も似合わない言葉かもしれないが、その目は確かに真っ直ぐで純粋だった。
決して胸の谷間に誘惑されて催眠状態に陥っているわけではないぞ!
「別れの一言と言われましても…。
それに雪ノ下はいませんよ。
もう飛行機に乗ったんじゃないんですか?」
「全く、比企谷くんは女心が分かってないなぁ。
まっ、いっか。
とにかく、私についてきなさいっ!」
「えっ、ちょ、ちょっと!」
陽乃さんは俺の手を強引に引っ張って一目散に走る。
それにしても女心ってなんだ。
女子の心中は複雑で、その度合いは男子をまさっているから、それを理解しないと恋愛という土俵にすら立てない説?
しかし、どんな状況であれやはり女の人と手を繋ぐというのは意識してしまう。
なんせ幼い頃、ケイドロで捕まった時に俺の両サイドの女子だけは服の裾をちんまりつまんでたからな。
俺の記憶では由比ヶ浜が初めてじゃないかと思う。
…なんて頭ではのんきに回想していたが、体は陽乃さんに振り回されて悲鳴をあげていた。
「んーここらへんでいいかな…っと!」
と、陽乃さんが今までの全力疾走から急ブレーキをかけて手を放したため、俺は前方に大きく投げ飛ばされる。
「はい。
お姉ちゃんがしてあげられるのはここまでだからね、比企谷くん。」
「いってっ…
って、ここは…。」
陽乃さんに連れられて、たどり着いたのは人気の少ない展望デッキだった。
「あの…」
「じゃーねー」
陽乃さんは俺を連れ回した挙句、俺を無視してそそくさと姿をくらませた。
あの人の考えることを理解できる人がもしこの世にいるなら、是非、翻訳家として俺のもとで働いて欲しい。
もちろん、誰であれ養う気はないから給料は出さないが。
しかし、空港の中にここまで閑散とした場所があることに若干の違和感を覚える。
それに空港の展望デッキと言えば、賑わいはしないまでも、それなりに人が集まってくるのではなかろうか。
もしかして、俺のぼっち力は他者の行動にまで影響を与えるほど強力になっていたのか。
俺ガイルところには人は集まらない特殊能力みたいな。
Lv5も夢じゃない!
…言っておくが、俺は既に中二病は卒業している。
今は『闇の炎に抱かれて消えろ!』なんて言ってないんだからね!
「一人でニヤニヤしているのは周りから見ると気味が悪いから止めるべきだと思うわ、比企谷くん。」
離陸の音をもろともせず、俺の耳元までその声は届く。
人を散々罵りつつも、あくまで口調は冷ややかな声の主はもちろん…。
声のする方に目を向けると、そこには雪ノ下雪乃が立っていた。
「こんなところで何してんだ?
もうすぐ出発だろ?」
「そうね。」
俺と目を合わせないのはいつものことだ。
だが、今は珍しく儚げな雰囲気を醸し出している。
奉仕部の部室から窓の外を眺めている時の雪ノ下のその顔をふと連想した。
「だけど、私はここに未練を残してイギリスに行くのは嫌なのよ。」
未練?
『未練』なんて言葉は、いかにも雪ノ下雪乃と相容れなさそうな言葉だ。
雪ノ下のことを知ったかするつもりはないが、少なくとも俺があいつに抱く印象とはそぐわない。
「なら、こんなところで油売ってる暇はないんじゃねえのか。」
「その通りね。
いつもならそうなのだけれど、今日はあなたに用があるの。
私自身、本当に気は進まないのだけど。」
おいおい、言ってることが矛盾しているんですけど。
それとも、俺に会うように誰かに強制されてるの?
そんなことを雪ノ下に強要出来るのは、どう考えても陽乃さんくらいしか思い当たらないが。
「あっ、その、今のは…。
ちがっ…違わないのだけれど…。」
何かを誤魔化そう、取り繕おうとする雪ノ下は明らかに不自然だった。
「いえ、本当のことを言うと、私自身、気は進まないのだけど、あなたと最後に話しておきたかったのよ。」
「言ってることがよく分からないんですけど…。」
気が進まないのに、話したいって…。
何か知らんが今日の雪ノ下は変だ。いつもと違う。
「えっと…、その…。
これを比企谷くんに渡そうと思って…。」
そう言って、雪ノ下はかばんから丁寧に包装された黄色の箱を取り出して俺に差し出してきた。
「これはどういうことだ?」
雪ノ下は俺と目を合わせようとせず、胸の前で手を合わせてモジモジしている。
「な、何をとぼけているのかしら。
今日が何の日か考えればすぐに分かることだと思うのだけれど。
けれど、仕方のないことよね。
あなたがこれまで生きてきて殆ど経験したことがないことでしょうし。」
「今日はお前がイギリスに旅立つ日だろ。」
雪ノ下は「はぁ~」っと肩を落とし、気怠そうな目で俺を睨む。
なんか、俺悪いことしましたか!?
してないよね?
「まったく…。」
心底憐れむような目を俺に向けるのはいつも通り。
だが、今はその中に照れや恥じらいが垣間見えてしまう。
これは俺の自意識過剰なのか?
「…今日はあなたが生まれてから19回目の誕生日でしょう?
これは誕生日プレゼント。
自分の誕生日を忘れるなんて、どうすればそんな頭になるのか不思議ね。」
「誕生日プレゼント…。」
小町が生まれてから親にもまともに祝われていない俺が、家族以外から誕生日プレゼントをもらうのは勿論、初めてだ。
友達がいない上に、夏休みのど真ん中に誕生日があるから、祝ってもらったことなど一度もない。
素直に嬉しいという感情がなかなか出てこないのは、驚嘆という衝撃がいつまでも胸の中に居座っているからだろう。
「あ、ありがとうございます…。」
「どういたしまして。
中身は帰ってから見て頂戴。
今は、誕生日プレゼントの感想をもらっている暇はないの。」
「分かった。
もう行くのか?」
「いいえ。
今からあなたに言わなければならない事があるの。」
「なんだ?」
「えっと、言わなければならないことは内容的に分類すると8個あって…。
まずは…」
俺に8個も言いたいことがあるってなに?
怖すぎるから!
イギリスに行く前に罵倒しまくって、すっきりしておきたいってことか。
俺の繊細なメンタル面についても考慮して欲しいね。
「おかしいわね。
あなたに言おうと思っていたことがたくさんあったから、昨日、纏めておいたのに…。
忘れてしまったわ。
どうしたらいいのかしらね。」
なんだよそれ。
8個あったんじゃないのか。
「さあな。
まぁ、言葉で伝えられることなんて、たかが知れてるだろ。
別に無理に伝えなくてもいいんじゃねえか?」
そう。
思っていても言わない方がいいこともある。
雪ノ下さんの言葉は酷く辛辣であることを自覚して欲しい。
「そうね。
曖昧さを孕んでる言葉では、本当の気持ちは伝えられないのかもしれないわ。
なら、行動で示すしかないと思うのだけれど…。
ね、比企谷くん?」
そう言う雪ノ下はそれまでとは打って変わって、なんとも言えない表情を俺に向ける。
どう表現すればいいのか…。
適切な言葉は見つからない。
だが言えるのは、その可愛すぎる悪戯めいた笑顔で上目遣いをするのは反則だということだ。
俺のようにわきまえていて、且つ経験値が高い男じゃなかったら、マジで惚れちゃうから気を付けた方がいいと思う。
「そ、そうだな。」
「ねぇ、比企谷くん。」
間髪入れず迫ってくる雪ノ下は怖かった。
迫ってくるのは物理的な距離はもちろん、なんかこう…雪ノ下の迫力みたいなものも一緒に。
「不本意ながら…本当に不本意なのだけど…。」
「私は比企谷八幡のことを好きになってしまったのよ。」
「え…?
いや、どういう…」
と、呆けていたのも束の間。
雪ノ下は何も言わずゆっくりと俺に顔を近づけてくる。
俺は少しずつ仰け反る。
雪ノ下から自分の顔を遠ざける。
すると、離れようとする俺の顔を雪ノ下のてのひらが包む。
もう、これ以上離れられない。
「ゆ、雪ノ下…?」
近い!近いって!
そして、俺の視界は雪ノ下の可憐な顔でいっぱいになる。
そして、至近距離で目が合う。
そして、彼女は目を瞑る。
そして…
俺の唇と雪ノ下の唇が重なった。
「好きです。
比企谷くん。」
雪ノ下は薄っすら頬を染めながら、これまでのあいつからは想像できないような屈託のない笑顔を浮かべる。
雪ノ下のこんな笑顔を見たのは初めてだ。
「い…、いや…
な、な…」
「私はきちんと行動で示したわ。
今度はあなたの番よ、比企谷くん。」
『ばん』ってなんだ!?
晩?盤?板?
未だに、状況が飲み込めてないのに、雪ノ下は前に進もうとするから訳が分からなくなってきた。
「と言いたいところなのだけれど、流石にそれは酷かしら。
どちらにせよ、私はあなたと1年間会うことはないのだから、ゆっくり考えて頂戴。」
「あの…雪ノ下さん?」
「それと、その誕生日プレゼントの中に手紙が入っているのだけれど、そこにホームページのアドレスを書いてあるわ。
あなたは、あの企画で1位ではなかったけれど、特別に閲覧の権利を授けるわ。」
「それはどうも…。」
「それじゃあ
また――――――――ね。」
雪ノ下はそっと歩き出す。
その足音は小さくて聞こえなかった。
離着陸の騒音にかき消されたわけでもないのに。
雪ノ下は音を立てず、けれど踏みしめるように一歩ずつ俺から遠ざかっていく。
何かを待っているかのように。
その背中に伝えるべき言葉は何かしらあったはずなのに、俺は口を開かなかった。
雪ノ下の姿は曲がり角に消える。
だが、曲がり角から覗く彼女の影は一旦止まった。
そして、また動き出した影は今度こそ見えなくなる。
あまりにもあっけない別れ――――。
惜別の情が湧いたのは、それから随分後のことだった。
第4章 こうして、別れは唐突に訪れる。(完)