第2章 やはり俺の春休みは間違っている。 作:あらがき@北宇治高校
特に意味もなくペンネームを変えました。
pixivでも『あらがき@材木座以下のss』というユーザー名で投稿しておりますが、こちらにも投稿させて頂きます<m(__)m>
ただ、pixivに投稿しているものに若干の修正を加える場合もありますので、ご了承ください。
こちらは、私が投稿した『第1章 案外俺の卒業式は間違っていない。』の続編になります。
まだ勝手が分かっておりませんので、取るに足らない部分は多々あると思いますが、よろしくお願いします。
感想、ご指摘など頂けると嬉しいです!
テラスの席から立ち上がった由比ヶ浜は、少しぎこちない足取りでこちらに歩いてくる。
「由比ヶ浜…
ずっとそこにいたのか?」
「う、うん…」
珍しく由比ヶ浜は多くを語らない。
てっきり今からこうなるに至った事情などをあたふたと説明したりするものだと思った。
「それじゃ由比ヶ浜さん、私は行くわね。」
「うん…じゃあね」
雪ノ下は俺たちに特に言葉を残すこともなく、俺たちに何かを言わせる余地も与えず、颯爽とこの場を後にした。
「…」
「…」
言葉の空白は俺たちに『空気』の重さを改めて実感させる。
由比ヶ浜とこんな感じになったのは、それこそ誕生日プレゼントを渡す時以来だ。
「なぁ、由比ヶ浜。」
「なっ!なに?」
喋っただけで驚きすぎだろ。
俺は妹の親友のラブリーマイエンジェルですか?
焼き手錠とかジャイロキックとかしないよ?
「いや、なんだ、その…
雪ノ下から聞いてるのか?
今から話すこと…。」
「ううん。
ゆきのんには、『今のうちに解決できることは解決しておくべきだと思う。』って言われただけ。
まぁ、でも、分かるよ…。
私たちが話さないといけないこと。」
「それだけ言われて来たのか?」
「いや、ゆきのんに言われたってのもあるけど…
あたしからもっていうか…
その…
たまにはさ…」
由比ヶ浜の顔はみるみる赤くなっていく。
「べ、別にいいじゃん!
とにかくっ、ヒッキーはあたしに言いたいこと言って!」
「何を言えばいいんだ…。」
だいたい雪ノ下も無茶振りなんだよ…。
俺はこういう時にどういう風に喋ればいいか分かんねえし。
「…」
「…」
空気の悪さに耐え兼ねたのか由比ヶ浜が口を開いた。
「ヒッキーはさぁ…
あたしのことどう思ってるの?」
「アホの子。ビッチ。」
「ち、違うよ!
てか、ビッチ言うなし!
もう!
そういう意味じゃなくて!」
由比ヶ浜は頬をぷくーっと膨らませてから、はぁ~とため息を吐く。
んじゃ、何だ?
ま、まさか、胸のことを聞いてるのか?
いや、確かにいいと思うぞ…。
大きいに越したことはないからな。
「だからぁ、その…
と、友達なのかなって…
あたしとヒッキーは。」
その声は後半どんどん力を失っていく。
ここが落ち着いた雰囲気のカフェじゃなかったら聞こえなかったであろうと思えるほどに。
由比ヶ浜は自信無さげに肩をすくめ、徐々に視線を下に落としていく。
こんな時、どう答えればいいのだろうか。
俺は由比ヶ浜に悪い印象は抱いていない。
1年半しか一緒にいなかったとは言え、ここまで他人想いなこいつを見てきて嫌いになれるはずもない。
だが、由比ヶ浜の優しさは俺だけ、または俺を含む少数の人間だけに向けられるものではないのだ。
由比ヶ浜はほとんどの人間に対して人当たりが良く、公平にその笑顔を振りまいている。
それが悪いとは思わないが、俺はそれを受け入れられるほど真っ直ぐに育っていないものでな。
由比ヶ浜は俺をちらちら視界に入れては目を逸らしながら、言葉を継ぐ。
「確かにあたしとヒッキーは変な出会い方だったけどさ…。
それでもあたしはヒッキーに会えてよかったって思ってる!
始まりが間違ってたって…、だからって…、その後まで間違ってるなんて思わないよ!」
由比ヶ浜の口調は徐々に強さを増し、その声は少しずつカフェ内に響き渡り始める。
「確かにあたしはヒッキーにサブレを助けてもらって本当に感謝してる。
でも、今はそんなこと考えてヒッキーといるわけじゃない!」
由比ヶ浜の目には溢れんばかりの涙が溜まっていた。
ぐずった子どものように一度鼻をすする。
その反動で零れ落ちた涙を気に留めることなく、由比ヶ浜は目をつぶり、鼻声で続ける。
「初めて奉仕部に行って、クッキーを作るの手伝ってもらって…
ヒッキーが誕生日プレゼントくれて…
ヒッキーと行った花火大会は楽しかったし…
文化祭も修学旅行も…
いっつもヒッキーは他の人のために傷付いて…
ゆきのんが生徒会長になってからは2人で奉仕部として相談を解決したり…」
目をつぶったまま一つ一つゆっくりと話しながら、微笑み、照れ、沈み…。
紡ぎ出す思い出と共に由比ヶ浜はその表情を変えていく。
語りながらその情景が瞼に浮かんでいるのだろうか。
目を開けて俺を見るなり、テーブルに視線を落とす。
「簡単なことだったんだ。
ずっと言えなかったんだ。
なんて言ったらいいか分かんなくて。」
由比ヶ浜はポツリ、ポツリと零すように言葉を吐き出す。
「あたしはそんな1年半が…」
「ヒッキーと一緒の1年半が…」
「楽しかったんだ。」
「ただそれだけなの。」
「『それだけ』なんて言ったけど、あたしにとっては、たぁーいせつな思い出。」
両手を広げてその言葉を強調する。
「だからね。」
「言わせてね。」
そう言って顔を上げた由比ヶ浜は普段見せない毅然たる表情で俺を正視する。
「ヒッキー…。」
由比ヶ浜は俺から目を逸らそうとはしない。
「ありがとね。」
「でね。」
「これからもあたしの友達でいてくれないかな?」
まったく…やめて頂きたい。
こうやってさ…
また期待させるんだろ?
これだから優しい女の子は嫌いなんだ。
でも…
「由比ヶ浜。」
「なに?」
優しい女の子は嫌いだが…
優しい由比ヶ浜は嫌いじゃない。
矛盾しているか?
まぁ、そうだな。
「友達だ…俺たちは。」
「あ…りが、とな。」
由比ヶ浜は声が出なかったのか、大げさに首を縦に振ってみせた。
しかし、流石にここまで言われると…な?
期待するだろ?
男なら誰でも。
「なぁ、由比ヶ浜。
もしかしておm…」
「はぁーい!
もう暗い話はお・わ・り☆」
由比ヶ浜はさっと涙を拭って、ニヤッと笑ってみせる。
まぁ、そんなわけないか。
「ゆきのんも呼んで、3人で相談しよう!」
「相談ってなんだよ?
だいたい、もう暗い話は終わったんじゃないのか?」
こいつはいつも言ってることが支離滅裂だな。
「違うよ。
もっと楽しいことを計画するんだ!」
なんだよ…
由比ヶ浜が言い出すことってだけで、なんとなく嫌な予感がしてしまう。
「奉仕部で卒業旅行にいこーう!」