第2章 やはり俺の春休みは間違っている。   作:あらがき@北宇治高校

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初めまして、あらがきと申します。
特に意味もなくペンネームを変えました。
pixivでも『あらがき@材木座以下のss』というユーザー名で投稿しておりますが、こちらにも投稿させて頂きます<m(__)m>
ただ、pixivに投稿しているものに若干の修正を加える場合もありますので、ご了承ください。
こちらは、私が投稿した『第1章 案外俺の卒業式は間違っていない。』の続編になります。
まだ勝手が分かっておりませんので、取るに足らない部分は多々あると思いますが、よろしくお願いします。
感想、ご指摘など頂けると嬉しいです!


④ほんの少し彼らの距離は縮まって、奉仕部の卒業旅行は幕を開ける。

 

「卒業旅行…?」

なんだ?その俺に縁のなさそうなリア充ワードは。

由比ヶ浜は俺の呆けて呟く様子を華麗にスルーして続ける。

「そう!卒業旅行!

他の部活も春休みのうちに旅行に行くの!

だから、あたしたちも旅行に行く!」

ガハマちゃん、よそはよそ、うちはうちよ。

そんなにうちが気に入らないのなら、よその家の子になりなさい!

この母親論理は理不尽さを孕んでいようと、小さな子どもが太刀打ちできない母ちゃんのジョーカーだが、それを今ここで使わせてもらいたい。

ようやく、『社会から隔離された至福の時=ぼっち生活』を満喫できる日々が訪れようとしていたのに。

ところで、気になることが…。

「なあ、その提案、雪ノ下は賛成してるのか?」

由比ヶ浜は人差し指を口元にあて、考える仕草をする。

「うーん…。

分かんないけど、ゆきのんは多分行くって言ってくれるよ!」

そりゃ、お前がお願いすれば雪ノ下はほぼ確実に来てくれるだろうな。

「悪いが俺は…」

「あ!ゆきのん、まだ近くにいるかも!

電話しよーっと(^^♪」

…もう、俺に選択の余地はなさそうだ。

「もしもし~?

ゆきの~ん?

今どこ~?

うん。うん。

おっけおっけー

それじゃ、またさっきのカフェに戻って来てー

うん。分かったー。じゃあねー。」

由比ヶ浜は少し顔がほころんだまま俺に目を向ける。

「ゆきのん、まだ近くを見て回ってたらしいから、今から来るって。」

いや、雪ノ下は近くを見て回ってたというよりは、一人でこの近くから抜け出せず彷徨ってただけだと思うがな。

「俺、雪ノ下迎えに行ってくるわ。」

俺が立ち上がって歩き出そうとすると由比ヶ浜が焦り気味に引き止める。

「ひ、ヒッキーはいいよ…」

おいおい、俺は方向音痴じゃねえぞ。

「…あ、あたし、ゆきのんの携帯知ってるし、あたしが迎えに行くね。」

なるほど、確かに携帯を持ってたら連絡とりながら落ち合えるしな。

「なら、頼むわ。」

 

 

しばらくして、由比ヶ浜が雪ノ下を連れて戻ってきた。

2人は俺の向かい側の席に並んで座る。

「話はついたのね。」

雪ノ下は俺たちの『話』とやらが良い方向に向かったことを確信しているのか、柔らかい笑顔を浮かべている。

「さあな。まぁ良かったんじゃねえの?」

「そう。

由比ヶ浜さんも?」

一方の由比ヶ浜はというと…

「え?

あ、あぁ、うん…。

ちゃんと話せてよかった、かな…。」

由比ヶ浜はなぜか照れながら、含みのある口調で肯定の返答をする

「そう…。

ところで、由比ヶ浜さん。

どうして、また私をここに連れて来たのかそろそろ教えてくれないかしら。」

由比ヶ浜は「ふふーん…知りたい?」とおどけ顔で雪ノ下を煽る

「実はね、奉仕部で卒業旅行に行きたいなって思って。

だから、みんなで計画しようよ。

絶対、楽しいよ!」

「いや、だからなんで行く前提なんだよ。」

由比ヶ浜は「んっ!」と鋭い目線を俺に向けてくる。

と思えば、すぐさま犬が甘える時のように雪ノ下の腕にすがりながらねだる。

「ねぇ~ゆきの~ん、行こうよ~」

雪ノ下は「ちょ、ちょっと暑くr…」とか言いながらも頬は緩んでいる。

少しして、由比ヶ浜を優しくあしらった後、コホンと小さく咳払いをする。

「わ、分かったわ。

春休みは4月の初旬以外は忙しくないし、構わないわよ。」

「ゆっきの~ん♪」

ったく、雪ノ下がそっちについたら俺は不利――っていうか勝ち目がない。

しかし…所構わず抱き付くこの犬ガハマさんはどこのアメリカ人だよ。

「けれど、この男と旅行に行くなんて…

身の危険を感じるわ…」

雪ノ下は俺が初めて奉仕部の部室を訪れた時と同じように身を守るような仕草をする。

「おい、俺を犯罪者予備軍に仕立て上げるんのはやめろ」

雪ノ下は頭の上に?マークが出てきそうな顔をして首をかしげる。

「あら、犯罪者じゃなかったの?

てっきり、指名手配されていると思っていたわ。公然わいせつ罪で。」

雪ノ下は得意げな顔で俺を横目に見る。

こいつ、俺を罵る時どんだけ楽しいんだよ。

「い、いや!

そういうことでヒッキーと旅行に行きたいって言ってるわけじゃないよ!

そ、そりゃ…ちょっと嬉しいっていうか…

いろいろ考えちゃうというか…

でも、やっぱりそういうのは…」

由比ヶ浜の言っていることはどこか論点がずれている気がするのだが…。

しかも、最後の方は口ごもっていたから何言ってるか聞こえなかったし。

 

その後も、他愛のない(雪ノ下が俺を蔑むだけの)会話を続けていたが、結局、俺が参加することを強要されたことで話は終息する。

そして、ようやく本題に移った。

 

「それじゃあ、卒業旅行の計画を立てましょう。」

「おぉー!」

雪ノ下も案外乗り気なようで、由比ヶ浜が繰り出す怒涛の提案に一つ一つ的確な意見を返している。

由比ヶ浜、ブラジルってどこにあるか分かってんの?

往復の飛行機代で大学の入学金ほとんど払えるわ。

「ヒッキーは行きたいとこないの?」

「そうだな…

長崎の3つの武家屋敷とか…。京都の寺田屋にも行ってみたいとは思う。

宮崎県の藩校振徳堂も見てみたい…かな。」

俺が歴史的建造物をあげていくと、由比ヶ浜は「すごそうだね!」とか「名前かっこいいね!」とか必死に話を合わせようとしている。

そこで、由比ヶ浜が思い出したように手を叩く。

「そうだ!あたし、UFJ行きたい!」

「いやお前、それ銀行だから。

卒業旅行の定番は三菱東京じゃないから」

由比ヶ浜は何言ってんのみたいな顔して俺を見てくるが、間違ってんのお前だからな。

「私は大阪でも構わないわよ。

大阪にも一度見ておきたいと思っていた興味深い名所がたくさんあるもの」

雪ノ下はUSJに翻訳してあげているようだ。

雪ノ下の思考は俺と似通っているらしく、物見遊山をイメージしているようだ。

一方、由比ヶ浜はいわゆる旅行ってやつを想像しているのだろう。

…って、説明になってねえか。

「俺もいいぞ。

修学旅行の自由行動では大阪行けなかったしな。」

「それじゃあ、大阪で決まりー!」

 

それから、日にちや細かい行程をある程度相談して現地解散する運びとなった。

 

 

 

3月下旬に差し掛かるかという今日は旅行にはもってこいの快晴。

午前8時50分。

待ち合わせの10分前、成田空港の北ウイング4階中央部にあるガラスタワーに俺は一足早く到着した。

搭乗手続きや受託手荷物受付などは国内線2階で行われるのだが、あの2人が迷うのを極力避けたいので一番分かりやすいところにした。

雪ノ下と由比ヶ浜は地元で待ち合わせて、ここに向かうようだ。

べ、別にのけ者にされてるわけじゃないんだからね!

いや、本当に電車で話すのあんまり好きじゃないんだよ。

自分が一人の時に周りのやつが話してること聞くと、全てがくだらなく思えるからさ。

それを自分が聞かれてると思うとな…。

とにかく、あいつらが時間通りに到着できるのを願うばかりだ。

 

午前9時10分。

そろそろヤバいんじゃねえかと思い始めた頃。

「ごめーん!ヒッキー!」

由比ヶ浜が周囲の人が振り向くほどの大声で俺に謝りながら駆け寄って来る。

しかも、ヒッキーて言うな。

めちゃくちゃ恥ずかしいわ。

「ごめんなさい。空港には8時30分には着いていたのだけれど…。

その…私が迷ってしまって…。」

雪ノ下は本当に恥ずかしそうにしている。

お前が方向音痴なのを考慮した待ち合わせ時間にしてあるから大丈夫だぞ。

とは、口が裂けても言えない。

「大丈夫だ。

まだ時間には余裕あるし。

揃ったことだし行こうぜ。」

「よーし!出発だぁー!」

由比ヶ浜は雪ノ下の手を握ってスキップで駆け出す。

雪ノ下は一瞬、足をもたつかせたが由比ヶ浜にやれやれといった様子でついていく。

俺たちの卒業旅行はまずまず順調な滑り出しのようだ。

 

飛行機に搭乗するまでの面倒な諸々を終えて、ようやく席に着くことが出来た。

今、俺たちは普通席より約1万円高いプレミアムクラスの席に座っている。

国内線のプレミアムクラスは便数もそんなに多くはない。

なぜ、俺たちはこんなVIP待遇の旅行を満喫できているのか。

言うまでもなく、雪ノ下の父親のおかげだ。

雪ノ下の父親は建設会社の社長で県議会議員だ。

このプレミアムクラスの席はもちろん、大阪に泊まる2泊分のホテルとUF…じゃなくて、USJの3人分のチケットまで用意してくれたらしい。

しかも、そのチケットはというと、1日200人限定で通常の3倍の値段もするロイヤル・スタジオ・パスと言って、待ち時間を短くしてほぼ全てのアトラクションを楽しめたり、ショーなどのイベントを優先的に見れたりするものなのだ。

雪ノ下家のコネと財力によって、俺と由比ヶ浜はただ同然で快適、且つ豪勢な大阪2泊3日の旅をプレゼントされた。

それにしても、なぜ雪ノ下の父親が俺たちに、いや雪ノ下のためにここまでしたのか。

あまりにも良すぎる話だったから少し怖かったというのもあって、陽乃さんに電話で聞いてみたのだが…

―――――――

「あたしたちのお父さんはねー、基本的に雪乃ちゃんに甘いのよ。

でも、幼いころから雪乃ちゃんがあまり何かを頼んだりねだったりしない子だったから、甘やかしてあげる機会も無かったのね。

そしたら今回、『高校で出来た大切な友達と一緒に卒業旅行に行くから少し手助けをして欲しい』って頼まれたもんだからさー、お父さん張り切っちゃって!

それで何から何まで用意してくれちゃったってわけ。

それに『大切な友達』ってとこがおっきかったんじゃないかなー。

雪乃ちゃん、小学生の頃から今まで家族の誰にも友達について話したこと無かったから…。」

―――――――

ということらしい。

とにかく、思わぬ形で俺たちの卒業旅行はゴージャスなトリップになった。

 

俺たちが乗るボーイング767型機のプレミアムクラスシートは2人席と1人席の2種類がある。

だから、由比ヶ浜と雪ノ下をペアにして、当然、18年間ぼっちだった俺は中央にある1人席に座る。

おいおい、これうちのソファーよりよっぽど快適だぞ。

金持ちの家にはこれを上回るソファーがあるのだろうか。

 

やがて、飛行機は離陸し、やがて千葉を見渡せるくらいの高度まで上昇する。

その間ずっと由比ヶ浜は窓から見える景色を雪ノ下に実況していた。

大阪に着くまでは、富士山が見えたとか海がきれいとか日本地図を見てるみたいとか、由比ヶ浜がプレミアムクラスという場所の雰囲気に相容れない騒ぎ方をしていたためか、雪ノ下は少し恥ずかしそうにしていた。

俺はというと、いつも通りラノベ片手に一人、読書に耽っていた。

 

そうこうしていると、あっという間に飛行機は伊丹空港に着陸した。

あまりにも快適だったので、少しプレミアムシートに名残惜しさを抱きながら、機内を後にする。

荷物の受け取りを済ませ、空港の出口の自動ドアを出る。

すると、その途端に感じたものがあった。

下りたのは気候も風景も千葉と大きくは変わらない大阪の空港なのだが、何とも言えぬ空気の違いや新鮮味を覚える。

きっと、これが旅の醍醐味なんだろうな。

「大阪だぁ~~!」

由比ヶ浜がいつもの通りの高らかな声をあげたせいか、俺も旅行を満喫するスイッチが入った気がする。

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