第2章 やはり俺の春休みは間違っている。   作:あらがき@北宇治高校

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初めまして、あらがきと申します。
特に意味もなくペンネームを変えました。
pixivでも『あらがき@材木座以下のss』というユーザー名で投稿しておりますが、こちらにも投稿させて頂きます<m(__)m>
ただ、pixivに投稿しているものに若干の修正を加える場合もありますので、ご了承ください。
こちらは、私が投稿した『第1章 案外俺の卒業式は間違っていない。』の続編になります。
まだ勝手が分かっておりませんので、取るに足らない部分は多々あると思いますが、よろしくお願いします。
感想、ご指摘など頂けると嬉しいです!


⑤宣言通り、由比ヶ浜結衣は待たない。

伊丹空港からホテルまでの道のりはストレンジャーの俺たちにとって予想以上に難易度の高いものだった。

やほー路線を駆使して目的のホテルに向かうのだが、このメンツだと頼りになるのは俺の判断力と直感のみ。

雪ノ下の直感なんぞに任せてみろ。

環状線に乗らなくとも、大阪一周の旅が出来てしまうに違いない。

運が悪ければ一日中大阪駅一周の旅になる可能性まであるので注意が必要。

結局、やほー様曰く最短48分で着くところが1時間半ほどかかって梅田駅に到着した。

事前に出口の番号を調べていたおかげで、梅田駅からホテルはほとんど迷うことなく辿り着くことができた。

 

午後0時30分。

ザ・リッツ・カーなんとかという五つ星ホテルに到着した。

しかし、明らかにその雰囲気は高校を卒業したばかりの俺たちを歓迎していない。

「ゆ、ゆきのん…

本当にここなの?」

「ええ、間違いないわ。

何度も来ているもの。

電車で来たのは初めてなのだけれど。」

由比ヶ浜はホテルの入り口で既にビビっているようで、微妙な表情を浮かべていた。

このホテル、入り口は自動ドアではないらしく、常時ドアマンが開閉しているらしい。

彼らの紳士的な微笑みは俺と由比ヶ浜から笑顔を奪う。

高級ホテルに泊まれるなんてそうそう無いことだから、素直に喜びたいところだろうが、このレベルまでくるとそうもいかない。

雪ノ下は慣れきっているのか、表情を変えることなくその空間に足を踏み入れる。

俺たちも恐る恐る雪ノ下の後に続く。

すると、入った瞬間に空気の味が変わったかのような錯覚を覚えた。

その直後に目に入りこんできた内装は仰々しくも、それらはあくまでも上品でバランスの取れた一種の芸術作だった。

雪ノ下がロビーでチェックインや荷物の引き渡しなどを済ませると、いかにも支配人といった感じの老紳士が落ち着いた足取りで雪ノ下に向かい、彼女に向かって美しくお辞儀をした。

「ご無沙汰しております、雪乃お嬢様。

本日は遠路はるばるお越しくださいましてありがとうございます。」

どうも2人は顔見知りなようだが、雪ノ下の方が立場は上のようで、彼女は浅くお辞儀をする。

「こちらこそ、ご無沙汰しております。

この度は、突然の来訪をご受託頂きましてありがとうございました。

どうぞよろしくお願い致します。」

入り込む余地のない、言葉遣いやその振る舞いに圧倒されていた俺たちだったが、雪ノ下が戻って来たことで少しばかり平静を取り戻した。

「それじゃあ、荷物は預けたことだし、5階にあるレストランでランチにしましょう。」

その後、ホテル内にある『ラ・ベ』というフランス料理の一つ星レストランで昼食をとった。

当然のように個室に案内され、運ばれてくるコース料理を半端にしか知らないマナーでたいらげた。

 

昼食を終えてホテルから出た時には、俺も由比ヶ浜も疲れ切っていた。

「よ、よし!

それじゃっ、大阪を満喫するぞぉ~」

由比ヶ浜は自分に言い聞かせるように、気合いを入れる。

 

一日目は市内観光で、これまた雪ノ下の父親が地下鉄の一日券を用意してくれているおかげで、思う存分行きたい名所を回れるわけだ。

まずは梅田駅から淀屋橋駅まで地下鉄で移動し、そこから徒歩5分のところにある適塾を訪れた。

適塾とはご存知の通り、かの緒方洪庵が蘭学を教えた私塾であり、ここから明治時代前後に活躍した人材を多く輩出した。(Hikipedia参照)

 

午後2時。

適塾に到着。

「ここが…」

雪ノ下は心底感動しているようで、多くを語らず、まじまじと外観を観察してから中に入っていく。

中は然るべき雰囲気こそ出しているが、展示がほとんどで昔の姿を留めているとは言い難いものだった。

とは言え、俺も文系の端くれだ。

得意な日本史で習ったことが展示品の情報と合致したりするのは楽しいもので、そこそこの満足感を与えてくれる。

「ふーん…なるほどねー

へぇー…」

関心のありそうな台詞を棒読みしているのは由比ヶ浜だ。

アホの子であるこいつにはさぞつまらなかろう。

まぁ、大学は俺と同じとこに合格したんだけどな。

一方、雪ノ下は俺たちには到底読めない古文書のようなものを小さく頷きながら読みまわっている。

「雪ノ下、俺コーヒー買って来るけど、何かいるか?」

「それじゃ、私は紅茶で。」

「はいよ」

「え!ヒッキー!

あたしは?」

「お前は一緒について来いよ。」

そのために決まってんだろ。

由比ヶ浜は興味なさげだし、雪ノ下は由比ヶ浜のその様子に気を遣ってるみたいだし。

「え?え?

い、一緒にか…

ヨシッ!」

由比ヶ浜は小さくガッツポーズをしている。

そんなに苦痛だったのか。

 

目の前にコンビニがあったが、流石にすぐに買って戻ったら雪ノ下が心置きなく展示品を見る時間を稼げないしな…。

「小腹空いたし、何か探しに行くか。」

さっき豪華なランチ食ったばっかりだけどな。

「う、うん!」

 

特に言葉を交わすことなく5分くらい散歩をしていると、こじんまりとしたたい焼き屋を見つけた。

「なあ、これでも食うか。」

「ぅん…」

由比ヶ浜は俯いたまま聞こえるか聞こえないかくらいの小さな返事をした。

 

―由比ヶ浜結衣―

 

今、あたしはヒッキーと二人で散歩(?)をしてるんだけど…。

もう気が気でないよ…。

心臓はバクバクだし、顔なんて見れない。

ららぽーとのカフェで話してからずっとヒッキーのことで頭がいっぱいでさ。

ずっとモヤモヤしてた心もすっかり晴れたし、友達なんだから遊びに行ったりしたいし…。

とか、ずっと考えてたんだけど、踏み出せなくて…。

気付いたら卒業旅行の日になってたんだよね。

でも、いつかあたしの気持ちを伝えようと思ってたんだ!

それで、卒業旅行で二人きりになれたら…って考えてたんだけど、いざとなると喋ることも出来ないよ…。

 

あたしはどうしようか考えながら、ヒッキーの足元だけ見てついていく。

 

そうだ。

待ってても仕方ない人は待たない。

自分で言ったんだ。

 

よし…。

 

 

 

 

「お前カスタードでいいk」

「ヒッキー!大好きだよ!」

 

 

 

 

 

 

言っちゃったよ…。

 

 

 

―比企谷八幡―

 

流石にびっくりしたわ。

そんなに叫ばなくてもいいだろ…。

「分かったよ。」

由比ヶ浜はパァっと表情を明るくする。

 

「どんだけ、カスタード好きなんだよ。

はいはい、お前はカスタードな。

すいません。カスタード一つとあんこ二つ。」

俺は味ごとに分けられた袋を二つもらって、カスタードの方を由比ヶ浜に渡す。

「はいよ」

由比ヶ浜は差し出した袋に目を向けることなく、呆然としている。

少ししてふと我にかえったようで、たい焼きが入った袋に目を向けた後、バシッと乱暴に袋を奪う。

「ヒッキーのばかっ!」

「は?」

由比ヶ浜はずかずかとかなりのスピードで歩き去っていく。

あいつ、カスタード好きだって言ったくせに何か文句あんのか?

よく分からんわ。

 

途中、信号待ちで由比ヶ浜を見失ってしまったが、多分適塾に向かっただろうし、俺も紅茶とMAXコーヒーだけ買って戻ろう。

コンビニで買い物を済ませて適塾に戻ると、入り口の前に不機嫌そうな由比ヶ浜と満足げな雪ノ下がいた。

「もう見なくていいのか?」

「ええ。結構よ。」

由比ヶ浜に目を向けると『プイッ』と効果音が付きそうなくらいハッキリと拒絶された。

「次、行くか。」

 

俺たちは再び地下鉄に乗り、動物園前駅で降りる。

『動物園前』駅ということからも分かるように、今から向かうのは天王寺動物園だ。

 

午後3時15分。

天王寺動物園に到着。

入り口を抜けて少し歩くとチンパンジーが見える。

「あら、比企谷くん、あなたと同じ種の動物がいるわよ。」

「おい、俺はチンパンジーじゃねえ。」

「そうだったわね。

彼らは仲間を作ることができるものね。

比企谷くんと同種扱いするのはあまりにも失礼よね。」

雪ノ下は勝ち誇った表情を薄っすらと浮かべる。

ったくよ…。

こいつは一度でいいから、どんな分野でもいいから、ボロボロになるまで打ちのめしてやりてえ。

「いや、よく考えてみろ。

仲間とか社会を形成する動物はその社会から独立して生きるのは困難だし、普通そんなことはしない。

だが、俺のようなぼっちはその社会に依存しなくともこうやって社会の中で生きている。

ゆえに、俺はチンパンジーはもちろん常人よりもよっぽど優れていると言っていい。

はい、証明終了。」

雪ノ下は額に手を当て、憐れむ目で俺を一瞥する。

「また屁理屈を…

救いようのない重症患者ね。」

「ゆきのーん♪

見て見てー!かわいいよー」

由比ヶ浜が指さす先にはアシカがいた。

「アザラシってビーチボールをくるくる回したりするっけ?」

「いや、あれはアシカだ。

アザラシショーってのもあることにはあるが、アシカショーほどメジャーじゃねえよ。」

ドヤ。ヒキペディアの情報量はなかなかのもんだぞ。

「へえー。ヒッキーはなんでアシカって分かったの?」

「アザラシがああいうのするの珍しいし、そこにアシカって書いてあるし。」

俺は動物の概要などを説明してあるボードを指差した。

「なんだー。

別にすごくないじゃん。

ねえ、ゆきのん?」

「全くその通りだわ。

アシカとアザラシを外見で見分ける最も簡単な方法は耳たぶの有無よ。

アシカには耳たぶがあるけれど、アザラシにはないわ。」(Yukipedia参照)

「うわぁー!本当だ!

ゆきのん、すごいね!」

たまたま知ってただけよ、とか言いながらも相当照れてる雪ノ下。

てか、これ別にヒキペディアがしょぼいわけじゃないだろ。

ユキペディアの情報量が人間離れしてるだけだって!

 

続いて向かったのはライオンのコーナー。

この年になっても男子たるもの、百獣の王を見ると興奮を覚えるものだ。

ゆっくりこちらに向かって来るのをわくわくしながら見ていると、少し服が重くなるのを感じた。

振り返ってみると、雪ノ下が俺を盾にするようにライオンから隠れて、服の背中辺りの部分をつまんでいた。

ライオンが小さく吠えると雪ノ下は服を強く握って俺の真後ろに隠れる。

「雪ノ下…」

「あまり得意ではないだけよ。

特に苦手なわけではないわ。」

いや、それってほとんど同じ意味じゃ…ってツッコミはNGだろうな。

それに、犬の時にも同じことを言ってた気がする。

「ん~~っ」

唸っているのは由比ヶ浜だ。ライオンではない。

そんな目で見られましても…これは不可抗力だろ?

誰もお前の大好きな雪ノ下を奪ったりしねえよ。

「ゆきのん、コアラ見に行こ!」

由比ヶ浜は雪ノ下の手を引いて小走りでコアラゾーンに向かって行った。

 

それから一時間ほど動物を見て回り、天王寺動物園を後にした。

 

午後4時30分。

次に向かうのは天王寺動物園から徒歩5分のところにある通天閣だ。

1日目は地下鉄を使っての観光だったわけだが、雪ノ下が効率よく回れるように計画してくれているおかげで無駄なく大阪市内の名所を見物できている。

動物園を出たところから既に通天閣は見えているのだが…

はっきり言って、特に感動はない。

東京タワーの方が高いし、きれいだし。

「へえー、これが通天閣かぁ~。

なんか、しょぼいね。」

いや、通天閣は由比ヶ浜が提案したとこだろ。

てか、そういうのは胸の内にしまっておいてくれ。

「行きましょう。」

 

おそらく、3人とも期待は薄めの状態で展望台に登ったのだが、実際、そこからの風景はなかなかのものだった。

ちょうど夕焼けが差し込む時間帯で、大阪の街並みは空とともに刻々とその色を変えていく。

「すごいねー!

きれいだぁ~」

由比ヶ浜はさっきの言葉とは打って変わって感嘆の声を漏らしている。

俺自身もいい意味で期待を裏切られた形になった。

雪ノ下はというと、ちゃっかり有料の望遠鏡に100円を払って、興味津々といった様子で大阪の夕暮れを見まわしていた。

「ゆきのん!

あたしにも見せてー」

「ええ、どうぞ。」

「おぉ~

遠くまで見えるよ~」

しかし、あれだな。

由比ヶ浜を見てたら、この世には平和しかないんじゃないかと錯覚してしまう。

花火大会に行った時も、あいつの隣にいるのは満更でもなかった。

隣できゃぴきゃぴしている由比ヶ浜を微笑ましく見ている自分がいることにも気付いていた。

ただ、すぐに俺はいつの間にか期待して、それが空を切ることになるから…。

「ヒッキー!あれなに?」

「ん?

あれって言われても俺の目は望遠鏡じゃねえし、見えねえよ。」

「じゃあ、片目だけね。」

お、お前。めっちゃ近いんだけど。

てか、望遠鏡って両目で見るもんだろ?

見にくいわ。

「ほら、あれ!」

由比ヶ浜が指しているのは多分あのひときわ高くてエスカレーターが交差しているビルのことだろうな。

「あぁ、あれはスカイビルだ。

建物の間を交差してるのはエスカレーターらしい。」

「へえー

行ってみたいね!」

「スカイビルはホテルから割と近いし行ってみるか。」

「うん!」

 

その後、もう一つ上の階に内装が黄金色の展望台があり、そこでも少し外を眺めたりして、通天閣を後にした。

「楽しかったね!」

「そうね。

大阪に観光をしに来たのは初めてだったから、どれも新鮮だったわ。」

こうして、一日目の大阪観光は幕を閉じた。

 

かなり歩いたのもあって、雪ノ下と由比ヶ浜は帰りの電車で寝ていた。

俺まで寝たら乗り過ごしそうだし、一人で必死に睡魔と闘っていた。

 

ホテルに戻ると、雪ノ下が鍵を受け取り部屋に向かう。

エレベーターに乗り込むと、雪ノ下は最上階の37階を押す。

「おい、こういうホテルの最上階ってスイートルームじゃねえのか?」

「ええ。

それに、今回泊まるのは『ザ・リッツ・カールトン・スイート』と言って、最高級にして最大の部屋よ。」

雪ノ下は何を今更と言わんばかりの口調で答えた。

「なんか…、すごいね。」

由比ヶ浜は相変わらず雰囲気負けしているようだ。

 

雪ノ下に続いて部屋に入っていくと…

「すごーい!」

そこはもはや一泊や二泊のために用意された空間ではなかった。

まず、目に入ったのはピアノ。

絶対、必要ないだろ。

ソファーは裕福な大家族がミーティングを始めそうなほどの数を備えている。

さらに驚くべきことに部屋は一つではなかった。

他にも大きすぎるベッドとジャグジーバス、高級そうな調度品の数々…。

世界が違った。

俺と由比ヶ浜はただただ部屋をうろうろしていた。

「ディナーがあるから行きましょう。」

「お、おう」

「そ、そうだね」

 

ホテル内にあるイタリアンレストランでディナーを済ませた後、雪ノ下と由比ヶ浜が先に風呂に入って、ようやく俺の番が回ってきた。

「おさき~」

「おう」

由比ヶ浜と入れ替わりで俺はバスルームに向かう。

 

―雪ノ下雪乃―

 

私は由比ヶ浜さんがお風呂に入っている間、ベッドに足だけ入れて座ったまま本を読んでいた。

それから少しして、由比ヶ浜さんがお風呂から戻ってくると、比企谷くんが入れ替わりでバスルームに向かう。

すると、由比ヶ浜さんが私と同じようにベッドに入ってきた。

それにしても、由比ヶ浜さんが私に寄ってくる時に何も言わないなんて珍しい…。

それから数秒の沈黙が続き、ようやく由比ヶ浜さんが口を開く。

 

 

 

「ねぇ、ゆきのん…

相談に乗って欲しいんだ…」

 

 

 

この時、私は考えもしなかった。

 

 

この『相談』がこの後の四年間の私たちを大きく変える告白になることを…。

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