第2章 やはり俺の春休みは間違っている。 作:あらがき@北宇治高校
特に意味もなくペンネームを変えました。
pixivでも『あらがき@材木座以下のss』というユーザー名で投稿しておりますが、こちらにも投稿させて頂きます<m(__)m>
ただ、pixivに投稿しているものに若干の修正を加える場合もありますので、ご了承ください。
こちらは、私が投稿した『第1章 案外俺の卒業式は間違っていない。』の続編になります。
まだ勝手が分かっておりませんので、取るに足らない部分は多々あると思いますが、よろしくお願いします。
感想、ご指摘など頂けると嬉しいです!
―雪ノ下雪乃―
由比ヶ浜さんの言う『相談』
普段の由比ヶ浜さんがこんな面持ちで私に話し掛けることは滅多にない。
今回の相談って、そんなに深刻なことなのかしら。
「実はね…
あたし、好きな人がいるの。」
好きな人?
由比ヶ浜さんが初めて奉仕部を訪れた時にクッキーを渡したいと言っていた人かしら?
「そう…」
由比ヶ浜さんはどうも決まりが悪そうな様子。
「その人はね…。
捻くれてるし、目つきも口も悪いし、鈍感だし…」
由比ヶ浜さんが並べる特徴ははっきりと一人の男を私に連想させる。
「でもね、実はすっごく優しくて、あったかい心を持ってる人なの。」
私は本当に知らなかった。
まさか由比ヶ浜さんが彼に好意を抱いているだなんて思いもしなかった。
私の胸のあたりにこれまでに感じたことのない感情がぐるぐると渦巻く。
「その人にあたしの気持ちを伝えたいんだけど、ゆきのんはどう思う?」
そんなことを私に聞かれても…。
だいたい、恋愛経験のない私にどんなアドバイスができるというのかしら。
「ごめんなさい、由比ヶ浜さん。
正直に言うと、私には分からないわ。
私に恋愛相談をするというのはあまり適切ではないと思うのだけれど。」
「あたしは、ゆきのんに恋愛相談をしてるわけじゃないんだよ。
ゆきのんの気持ちが知りたいの。
あたしのライバルだからね。」
「ライバルってどういうことかしら。」
「あたしの好きな人がゆきのんのことを好きだと思うの。
だから、ゆきのんはライバル。」
由比ヶ浜さんは真っ直ぐ私を見つめる。
彼が私に好意を寄せているとは到底思えない。
だけど、仮にそうだとすれば、私はどうするのだろう。
私にとって彼の存在がどのようなものなのか…
自分のことなのだけれど、全く分からない。
今はとりあえず会話を続ける。
「由比ヶ浜さんの推測に根拠はあるの?」
「なんとなく、かな。」
なんとなくって…。
まあ、恋愛なんてそんなものなのかしらね。
「でも、あたしはヒッキーに告白しようと思うんだ。
ゆきのんはいい?」
「どうして、私に許可を求める必要があるのかしら。
由比ヶ浜さんがしたいようにすればいいと思うわ。」
「だって、ゆきのんがヒッキーのことが好きだったら、あたしはすんなり告白しようなんて思えないもん。」
「こういうことは他人を気にする必要なんて無いと思うわ。
あなた、また人の顔色を窺って…。
そういう愚かな言動は不快だから止めてと言ったのを覚えていないの?」
気付けば口調は強くなっていた。
何をイライラしているのかしら。
「違うよ…」
由比ヶ浜さんは薄っすらと目に涙を溜めて私に向き直る。
「ゆきのんだからだもん!
あたしの大切な友達だからだよ!
ヒッキーのことは大好きだし、付き合えたらいいなって思うけど…」
言葉は徐々に力を失って、由比ヶ浜さんは布団に顔をうずめる。
「それで、ゆきのんと友達でいられなくなっちゃうなんて絶対いや…」
「由比ヶ浜さん…」
だから、由比ヶ浜さんはあんなに辛そうな表情を浮かべていたのかしら。
愚か者は私だった。
私は結局、由比ヶ浜さんさえ信用していなかったのね…。
その深層心理に気付くことが出来なかったのは無理のないことなのかもしれない。
でも、それは私にとってあまりにも残酷な事実だった。
「ごめんなさい、由比ヶ浜さん。
そんな風に思ってくれているなんて…嬉しいわ。」
そう言うと、由比ヶ浜さんは顔を上げて微笑む。
目元は少し赤みを帯びている。
私が他の人に対しての気持ちとは異なる特別なそれを比企谷くんに対して抱いているのは本当よ。
けれど、自分でもはっきりと分からない曖昧な感情より、優先するべき友達が目の前にいる。
ここまで私のことを想ってくれていて、真っ直ぐに向き合ってくれる由比ヶ浜さん。
何も間違っていないわ。
それに由比ヶ浜さんが比企谷くんと恋人関係になったとしても、私が彼と交友関係を絶たなければいけないわけでもない。
答えは最初から決まっている。
「由比ヶ浜さん、安心して比企谷くんに想いを伝えればいいと思うわ。
私は彼と恋人関係になりたいという願望を抱いてはいないもの。」
「そ、そうなんだぁ…」
由比ヶ浜さんは胸に手を当て、息を静かに長く吐き出して、心底ホッとした表情を浮かべる。
「だから…その……
頑張ってね。」
「うん!
ありがとね!ゆきのん!
やっぱり、ちゃんと話してよかったよ。」
由比ヶ浜さんはふんわりと抱き付いてくる。
私は思わず由比ヶ浜さんの頭をそっと撫でた。
―比企谷八幡―
一日中歩き回って疲れた体にジャグジーバスは最高の癒しをもたらす。
高い天井を見上げていると、ふと先日の電話での会話が頭をよぎった。
そう、俺が卒業旅行の件について陽乃さんに尋ねるためにしたあの電話だ。
あの電話には続きがあった。
―――――――
「あとね!
比企谷くんに聞いて欲しいことがあるんだ!
これ聞いたら比企谷くん絶対喜ぶよ~」
「いや、もう要件は済んだので結構です。」
「そんなこと言わないでさ~
聞いて損することは絶対にないからさ!
ね?」
「…手短にお願いします。」
「うん!
さっき、あたし達のお父さんが雪乃ちゃんに甘いって話したよね?」
「はい。」
「お父さんは雪乃ちゃんを溺愛してるのよ。
あんまり言動には出さないけどね。
そんなお父さんが男の子も同伴する宿泊込みの旅行を易々と了承するわけないよね?
それに今回は千葉村の時みたいに先生が同伴で学校の活動ってわけでもないし。
はい、ここで問題!
どうしてお父さんは雪乃ちゃんが男子同伴の宿泊をオッケーしたでしょう?」
「そりゃあ、口の立つ雪ノ下のことですから、詭弁でまるめ込んだんじゃないんですか?」
「ぶぶーっ!違いまーす。
雪乃ちゃんは嘘もついてないし、お父さんを論破してもいませーん。」
「じゃあ、分かりません。」
「そーかそーかぁー
それじゃあ仕方ないなぁ。
答えを教えてあげよう。」
「実はね…
雪乃ちゃんがお父さんに比企谷くんのありのままを伝えたからよ。」
「ありのまま?」
「うん!
お父さんに『因みに旅行は何人でどんな子と行くんだ?』って聞かれたの。
それで、雪乃ちゃんは『明るい性格の由比ヶ浜さんという女の子と比企谷くんという男の子。』って答えたのね。」
「なんで、俺に関しては説明が無いんだよ。」
「まぁまぁ~。
それでね。
お父さんは『正直に言ったのはいいが、成人さえしていない娘が異性とともに宿泊を兼ねた旅行をすることを私が容認して手助けすると思うか?その男はどんな奴なんだ?雪乃の恋人なのか?』って喰いかかってきたわけ。
そしたら雪乃ちゃん何て言ったと思う?」
「さあ?」
「実はね…、面白そうだったから録音しておいたんだけど、聞く?」
「いや、何してるんですか!?
それはまずいでしょ。」
この人は時に、ともすれば残忍ともとられ兼ねないようなことを平気でするからな…。
「いいのよ、雪乃ちゃんは比企谷くんの前では素直になれないんだから。
このくらい姉として当然の尽力よ♪」
「はぁ…。」
「それじゃあ、流すね。
再生っと。
『いいえ、彼は私の恋人ではないわ。
ただ、私は彼のことを特別な存在として見ている。
それがどういう感情なのかは私にはまだ分からないのだけれど。
私、男の人をきちんと好きになったことがないから。
あと、彼がどんな人か説明すればいいのよね。
彼の名前は比企谷八幡。
クラスでは孤立していて、性格は捻くれていて、死んだ魚のような目をしていて…、出会って間もない頃はどうしようもない男だと思ったわ。
けれど、実は彼の中には温かくて寛容な心があって、それを垣間見る度に私は彼の人間性に惹かれていった。
二年弱、彼と奉仕部で時間をともにしていくなかで、確かに分かったことがあったわ。
それは、私が彼のことを信用しているということ。
もちろん、父さんが危惧しているような交際の仕方にならないという意味でもあるのだけれど…。
彼は私が本当に嫌がることはしないと思うの。
これは、私の勝手な思い込みかもしれないけれど、18年間生きてきてそう思えた2人目の友達よ。』
よし、これで終わりっと。
聞いた!?
こんなこと言ったのよ、雪乃ちゃん!
そしたら、今までの雪乃ちゃんからは考えられないような物言いだったもんだから、流石のお父さんも圧倒されちゃって。
それで今回の旅行をサポートしてくれることになったの。
どう?
雪乃ちゃんの比企谷くんへの気持ち、伝わった?」
「さあ、どうでしょう。
あんまり分かりませんね。」
「またまたぁ~
照れちゃって~♪
まぁ、と・に・か・く!
そういうことだから、雪乃ちゃんのこと大切にしてあげてね。
これだけ比企谷くんのこと想ってるわけだし。」
「そうですね。適当に。」
「ん。よし。
じゃあねー!
いつでもお姉ちゃんに頼っていいからねー♪」
―――――――
電話の内容はこんな感じだったわけで…
男子たるもの期待しちゃうだろ?
流石の比企谷八幡も、少し思い上がってしまった。
だが、あくまで陽乃さんから聞いた話であることと、雪ノ下の言葉の曖昧さなどを考慮して冷静に判断した結果、何もないという結論に至った。
陽乃さんのすることだ。
録音した音源に何か小細工をしている可能性さえ無きにしも非ずと言える。
やっぱり流石だわ俺。
危うく勘違いしちゃうところだったぜ。
そんなことを回想しながら、一人で入るには大きすぎるジャグジーバスでめいっぱい足を伸ばす。
明日は丸一日USJだしな。
ゆっくり疲れを取るとしよう。
俺は顔にタオルをのせて、バスタブに体を預ける。
そのあまりの心地よさに、俺は少しの間、そのまま微睡んでいたようだ。
お読み頂きましてありがとうございます!
幸成さんの的確なアドバイスを参考にさせて頂きまして、修正いたしました。
これからもよろしくお願いします(^^♪