第2章 やはり俺の春休みは間違っている。 作:あらがき@北宇治高校
特に意味もなくペンネームを変えました。
pixivでも『あらがき@材木座以下のss』というユーザー名で投稿しておりますが、こちらにも投稿させて頂きます<m(__)m>
ただ、pixivに投稿しているものに若干の修正を加える場合もありますので、ご了承ください。
こちらは、私が投稿した『第1章 案外俺の卒業式は間違っていない。』の続編になります。
まだ勝手が分かっておりませんので、取るに足らない部分は多々あると思いますが、よろしくお願いします。
感想、ご指摘など頂けると嬉しいです!
「ついに来たぞぉー!
ゆー・えす・じぇーー(^O^)/」
「今日はゆー・えふ・じぇーじゃないんだな。」
俺はおそらく相当憎たらしい顔をしていることだろうな。
「もぉー!
ゆきのんの家で散々からかったんだからもういいじゃんっ!」
由比ヶ浜は頬をぷくーっと膨らませる。
奉仕部卒業旅行二日目は今回の旅行のメインイベント、USJだ。
USJに行きたいという由比ヶ浜の熱望で大阪を選んだようなものだからな。
「じゃあー、まずは…スパイダーマン!」
人込みの中をもろともせず、由比ヶ浜は雪ノ下の手を引いて人と人との間を早足で駆けていく。
俺はあいつらを見失わない程度に早歩きで後に続く。
開園から一時間も経っていないのにも関わらず、お目当てのスパイダーマンには既に人が溢れかえっていた。
しかし、俺たちのようにロイヤル・スタジオ・パスを持っている人はそもそも並ぶところが違うらしく、10分程度で順番が回ってきた。
由比ヶ浜は上機嫌なようだが、その横で雪ノ下は若干不安そうな表情を浮かべている。
「ワクワクするねーゆきのんっ♪」
「え、えぇ、そうね…」
「雪ノ下、お前ビビってんのか?」
雪ノ下が弱みを見せた時にはここぞとばかりにからかってやらねえとな。
俺のことを日常的に罵り、蔑んでいる量を考えれば、割に合わねえから。
「何を言っているのかしら、ヒキガエルくん。
そもそもアトラクション施設なのだから、安全性は保障されているのだし、恐れることなんて何一つ無いと思うのだけれど。
だいたい…」
「ゆきのーん!
あたしたちの番だよー」
言葉を遮られた雪ノ下は由比ヶ浜に連れられ、重い足取りで座席に向かう。
と、座席を前にして気付いたことがある。
このスパイダーマン・ザ・ライド、四人席なのだが…。
まぁ、あとは察してくれ。
「ごめんね、ヒッキー…。」
由比ヶ浜は申し訳なさそうに哀れみの目を向ける。
「あなたが独り身オーラを出していたのだからスタッフの女性に非があるとは言えないわね…。」
雪ノ下は楽しそうに俺を皮肉っている。
結局、俺は四人席の端に一人で座り、横にリア充カップルを迎えることとなった。
「怖いよぉ~」
「大丈夫だって、俺がついてるからさ。」
そう言って男は女の頭に手をのせ、優しく撫でている。
「砕け散れ…」
「えっ!?」
女の方が俺を見て、ドン引きしている。
それに気付いた男が「どうしたの?」と心配そうに尋ねると、女は「なんか横の人が怖い」とかなんとか…。
くそっ、声に出てたか…。
こいつらの言動があまりにも露骨に俺の存在を否定するようだったもんで、つい…。
そうしているうちに機体は動き出し、暗闇や吹き替えの台詞による状況説明が俺たちを映画のワンシーンにいざなう。
3Dで繰り出される敵の攻撃を受けると機体は荒れ狂うように動き回り、その二次災害による水しぶきや炎による熱風はそれがアトラクションであることを忘却の彼方に押しやる。
ふと斜め前に目をやると「やばぁーいー」とか「きゃぁーーー」とか叫んでる由比ヶ浜に雪ノ下は体を小さくして触れるか触れないかくらいの距離で寄り添っていた。
「いやぁ~楽しかったね!
ねぇ、ゆきのん?」
「えぇ…
臨場感はなかなかのものだったわね。」
「いや、お前ほとんど目つぶってただろ?」
「比企谷くん、私が可愛いから見ていたいという気持ちは分からなくもないのだけれど、こんな時まで見ているなんて流石に気持ち悪いわ。」
どうして、こいつを相手にすると俺はこうも悪者に仕立て上げられてしまうのだろうか。
しかも、さらっと否定できない自慢を入れてくるあたりは質が悪いとしか言いようがない。
「よーし、次行くよぉー!」
しかし、約2年間、多くの時間をともにしてきたが、ここまで楽しそうな由比ヶ浜を見たのは初めてかもしれない。
目はキラキラ輝いていて、その笑顔を見ているだけでこっちまで幸せになれそうな感覚さえ覚える。
一応、断っておくが、深い意味はない。
こういうタイプの人間を積極的に拒絶してきたこともあって、ある意味新鮮で心地良いだけだと思う。
とはいえ、俺はこいつらと過ごす時間に依存するようになったのかもしれない。
いつの間にか信じ切っているのかもしれない。
それが愚かだとしても。
また同じことだとしても。
今だけは浸っていたい。
この場所に。
この感覚に。
そう思っている自分をこの三日間だけ甘やかすことにした。
スパイダーマンを満喫した後、王道のターミネーター、ジュラシックパーク、バック・トゥ・ザ・フューチャー、ジョーズなどを休むことなく回る。
3時を過ぎているというのに、昼飯さえ食べずに。
「そういえば、お昼ごはん食べるの忘れてたね。」
「私はずっとそろそろランチにしようと言っていたのだけれど…。」
「え、そうだったの?
ごめーん、ゆきのーん。
じゃあ、今からここのレストランに行こっか!」
由比ヶ浜はマップの一点を指差して、また慌ただしく駆け出す。
と、その時だった。
「あれ~?
結衣じゃなーい?」
聞き覚えのある口調に俺たち3人は一斉に振り向く。
そこには三浦、葉山、海老名、戸部、大和、大岡がいた。
「ゆ~い~、なんで、こんなとこにいんの?」
三浦の声色はいつも由比ヶ浜に話しかける時のそれとは明らかに異なる。
何か弱みを握っているような怖さはこの状況での三浦の立場の優勢を示している。
「い、いや…
なんていうか、その…」
由比ヶ浜の作り笑顔はひきつっていて、今にも泣き出しそうな様子だ。
見兼ねた雪ノ下が間に入る。
「由比ヶ浜さんがここにいてはいけないことがあるのかしら?」
雪ノ下がそう言うと、三浦以外の5人が決まり悪そうに俯く。
その中で最初に口を開いたのは葉山だった。
「実は、俺たちの仲良しグループで卒業旅行を計画していて、それに結衣も誘ったんだけど、用事があるから来れないって断られちゃってさ…。」
なるほど。
そういうことか。
これは由比ヶ浜の分が悪すぎる。
この状況で、由比ヶ浜に俺か雪ノ下がフォローを入れるのは不可能に近い。
ここで三浦が由比ヶ浜に対して憤慨することは理にかなっている。
「でも、仕方ないよね。
たまたま、日がかぶっちゃったんだし。」
葉山は苦し紛れにフォローをいれるが、それはむしろ三浦の怒りを助長させただけだったようで…。
「でもさぁー
結衣はあーしらじゃなくてそいつらを選んだってことっしょ?
それ、ひどくない?
あーしら、二年からずっと仲良くしてきたのにさー。」
三浦はこれでもかと声色に皮肉をこめる。
他の5人もショックを隠し切れないようで、誰も口を開こうとはしない。
しかしながら、俺はつくづく自分勝手な人間だと思う。
俺は自分のことは嫌いじゃなかったが、友達ってやつが出来てから此の方自分が嫌いで仕方がない。
結局、なんだかんだと自分に言い訳しつつも、俺は『友達』という曖昧な言葉に明確な意味や見返りを求めていたのだ。
俺にとって由比ヶ浜は数少ない大切な友達の一人だ。
だが、由比ヶ浜にとって俺は多くの大切な友達のうちの一人にすぎない。
いつの間にか、そこに同じだけの見返りを求めている自分がいるのだ。
全くもって、愚かである。
こんな愚かな人間があれだけ優しい人間にしてやれることなんて高が知れている。
だが、クラス一、いや学校一の嫌われ役の俺にだからこそ出来ることがある。
せめてもの償いなんて都合の良い考えを持っているのかもしれない。
しかし、何であれ俺がするべきことに変わりはない。
この場において、由比ヶ浜を悪者でないようにするのは無理だ。
だったら…、大悪人を作ってやればいい。
「三浦、ちょっと話を聞け。
今回の卒業旅行なんだがな、俺が由比ヶ浜を…」
「ヒッキーッ!!」
由比ヶ浜の声とは思えないような鋭い言葉は俺の喉を詰まらせる。
その迫力には流石の三浦も驚いているようだ。
「もうやめてよ…。
修学旅行の時にも言ったじゃん、こういうのはこれで最後ねって。
また…
また、ヒッキーはそうやってさ…。
そうやって、あたしを助けようとするんだ。
ヒッキーがどうやって人を助けるかなんて決まってるじゃん…。
また、自分を傷つけるんでしょ?
ヒッキーのしようとすることなんてお見通しだよ。」
由比ヶ浜は泣きそうな顔で優しい目を俺に向ける。
そして、覚悟を決めたようにきりっとした顔付きで三浦に向き直る。
「優美子…。
ちゃんと話しておきたいことがあるんだ…。
今じゃないとだめなの。
そんなに時間とらないから、ちょっとだけいい?」
三浦は無言で頷く。
「ゆきのん、ヒッキー。
ちょっとだけ待っててもらっていいかな?」
「ええ」
「おう」
由比ヶ浜と三浦は二人して人込みの中に消えていった。
俺らは待っている間どうすればいいものかと考えていると、葉山が歩み寄ってきた。
「ちょうどいい機会だ。
俺もヒキタニくんと雪ノ下さんに話があるんだ。
時間は取らないからさ。
いいかな?」
「俺を殴りたいだけなら雪ノ下が同席する必要はないと思うが。」
「雪ノ下さんにいてもらわないと、また君にまるめ込まれてしまうからね。」
雪ノ下の方を見ると、彼女は小さく頷き、
「ええ。
私も葉山君に言っておかないといけないことがあるから、出来ればあなたと一対一で話をしたいのだけれど。
そうしないと、また比企谷くんにまるめ込まれてしまうもの。」
雪ノ下は悪戯めいた表情で俺に笑いかける。
「葉山君、いいかしら?」
「うん。いいよ。」
葉山はこの事態の急転を予想外とは思っていないようだ。
「悪いけど、比企谷くんは下がっていてちょうだい。」
「お、おう。」
「では、行きましょう、葉山君。」
そうして、また二人、俺たちの前から姿を消した。
これはいわゆる修羅場ってやつなのだろうか…?