しかし思うがままぶっこむと逆につまらないし…
難しい所です。
放課後、談話室はいつもならば多くの生徒達がゆっくりとした時間を過ごしているのだろうが、今日は荷物を取りに来た人がまばらに通るだけであり殆ど居ない。
では何処に行ったのかというとグラウンドに行ってしまったのだ、そうクィディッチオーディションを受ける為に。
とはいえ全員がそうではない、何人かはオーディションの見物目的である。
まあ、受ける気も箒も持っていない俺には関係なかったので、一人温かいコーヒーを飲みながらのんびりと過ごしていた…はずだった。
「たのむキュービィー! チームに入ってくれ!」
四年生のキャプテン、セドリック・ディゴリーは何度もそう頼んできた。
オーディション中だと言うのに、俺が居ないと知るやいなやそれをほったらかしてすっ飛んで来たらしい。
無論、答えは決まっている。
「お断りします」
「そこをなんとか!」
と、これをさっきから繰り返しているのである。
何度断ってもディゴリーは引き下がる様子がない、一体何故そこまでするのか。
「俺達ハッフルパフはいつも負けてる、もちろん勝つこともあるがここ数年優勝を掴めたことはない。
今年はさらに状況が悪い、ハリーの練度はこの一年で十分なものになった。
スリザリンはマルフォイがメンバー全員に最新型の箒、ニンバス2001を提供してしまった…」
ニンバス2001は、去年ハリーが使っていたニンバス2000の最新型だ、無論その値段も凄まじい事になっている。
それをメンバー全員分か、確かに状況は最悪だろう。
「だがキリコ、君が入ってくれればチャンスが生まれるかもしれない。
去年の授業の時、君が見せてくれた飛行はハリーに匹敵するものだった。
たのむキュービィー! 僕達はどうしても勝ちたいんだ!」
気持ちは十分通じた、しかし俺はそもそも勝つことに興味が無い、というより戦いはもう飽きている、必要の無い戦いなら極力避けたいのだ。
よって、最大の理由を言うことにする。
「ですが、俺は箒を持っていません。
学校の箒では戦力にならないでしょう。」
「…ある、僕の予備がある、それを貸す!」
そこまで言うのか、しかしまいった、これでは断る事が出来ない。
どうしたものかと考えていた時、談話室にまた一人やって来た。
「ハァ…、あ、キリコにディゴリー先輩」
「ん? リヴォービアか、オーディションはいいのかい?」
深いため息をつきながら入ってきたのは
キニスだった。
ヤツはオーディションを受けていたはずだ、もう終わったのだろうか、いや明らかに早すぎる。
一体どうしたのだろうか。
「ええ、今年は諦めます…」
「どうしてだい?」
「ビーターのポジションが空いてないので…」
「ああ、そういえばビーター希望だったね」
何というか…呆れのような、ある意味尊敬を覚えていると会話の対象は再び俺に戻った。
「そうだリヴォービア、君もキュービィーを説得してくれないかい?」
「キリコ…僕の代わりに戦ってくれ、そして…仇を!」
これは突っ込んだ方がいいのだろうか、結局その後、二人がかりの説得を浴び続けた結果、今年一年に限るという条件で俺が折れる事になった。
選抜試験は終わり、人気の無くなったグラウンド。
もう九月下旬だ、この時間には少し肌寒くなり鮮やかな夕焼けが校舎を照らしていた。
しかしディゴリーの顔は浮かばなかった、寮の倉庫にあると思っていた箒が無かったのだ。
調べてみると、どうやら卒業した生徒がこっそり持って帰ってしまったらしい、誰だか知らないが最低な野郎も居たものだ。
結果俺の乗る箒が無いので、やはり不参加…という訳にはいかず、現在キニスと二人がかりで倉庫の探索中である。
グラウンドに放置され、しばらく待っていると遠くから二人が戻ってきた。
しかしどうした事だろうか、箒を持っているのにディゴリーの顔は暗いままである。
「…キュービィー、箒はあった、先輩が残してしまったヤツだ」
「いやー良かった! あれだけ説得に苦労したのに箒が無かったら僕泣くところだったよ。
…ディゴリー先輩?」
「…いいかキュービィー、よく聞いてくれ。
もしもこれが気に入らなければ、僕の箒の交換してもいい」
ディゴリーが深刻な顔で差し出してきた箒、それは明らかに異様な物体だった。
キニスやロンから散々聞かされたが、本来理想の競技用箒というものは、尾の部分は鋭く美しく、柄もシャープなのが優れている。
しかし目の前の、暗い赤色のこれは違った、尾の部分は太いのと細いの、長いのと短いのが不均一に入り交じり、柄は先端だけ妙に太い、極めて不格好な箒だった。
「インファーミス1024、十年くらい前のモデルだ」
「あの…何でそんな顔してるんですか?」
「この箒の性能は恐ろしく高い、最高速度も凄まじいが、瞬間加速はファイヤボルトすら上回る」
「ファイヤボルト…ってあの!? 一般販売は来年だっていうあれより上!?」
キニスは信じられない、といった顔だ.
ファイアボルト、現役プロチームでも今だ一部しか保有できていない現状最強の箒である。
それに十年前のモデルが匹敵、いや一部では優っているとは驚くほか無い。
だが、そんな古い箒でここまでの性能を叩き出すという事は…俺の嫌な予感は見事に的中した。
「だがその代償として、旋回性能とブレーキが全く機能していない。
具体的に言うと…いや一回だけ乗ってみてくれ、その方が分かる」
…絶対に乗りたくなかったが、一回参加すると言った以上断ることは出来ない、俺は箒にまたがり空へ浮かんだ。
そして少し動いてみ―――
「―――ッ!?」
空中へ投げ出されそうになるのを、渾身の力で握る事で何とか阻止する。
全身にATでも感じた事の無いようなGが押しかかっていた、気が付けばグラウンドの外へ飛び出かけている。
信じられない加速だ、一旦落ち着くためにブレーキを掛ける。
………
全く止まらない、いや減速する気配すら無い。
このままではまず―――
次の瞬間、それまでの加速が嘘のように止まった、一瞬で完全停止、完璧なブレーキだ、三秒遅れていなければ。
俺は夕日に向かって投げ飛ばされ、墜落地点にあった暴れ柳に一方的な暴力を振るわれた、そしてその結果、翌日は一日医務室で過ごすことになるのである。
「…い、今のは…!?」
「アレを作った会社だが、「ピーキーな物こそ需要が安定する!」とか言ってあの欠陥商品を作り上げ、その揚句倒産したらしい。」
「何でそんな物が僕達の寮に!?」
「さっき言っただろう、卒業した先輩が買ったんだ。
もっともすぐ、倉庫に叩き込んだみたいだけどね…当時は「殺したいヤツがいたら箒をコレにすり替えておけ」と言われてたらしい…」
「キ、キリコー!!」
全身打撲から早一週間、なんとかあのバケモノを乗りこなせるようになった頃、図書館には異様な光景が広がって、いや俺が広げていた、その原因は机三つ分を陣取って広げられている巨大な羊皮紙のせいである。
何人かこっちを睨んでいるが、そんなに混んでる訳でもないので無視しておく。
羊皮紙に黙々と書き込んでいく、既に一部は完成しているが何せだいぶ昔の事である、何とか記憶を辿りながらやっているので時間が掛かるのだ。
去年、トロールと戦ってから考えていた『対大型魔法生物用魔法』、その理論がついに完成し、その下準備をしているのである。
この魔法はゴーレムを作り出す呪文を基にしている、ただし俺が目指しているのはもっと複雑な構造のゴーレムであり、それを創り出す為にはその構造を完璧に叩き込んでおく必要がある。
その為にこうして記憶を辿りながら設計図を書き出しているのだ。
…駄目だ、これ以上思い出せない。
行き詰った所で羊皮紙を纏める、とにかく複雑な呪文だ、じっくり時間を掛けて完成させるべきだろう。
図書館を出て、廊下を歩いているとハリーとロンが歩いて来た。
ハリーの方はユニフォームを着ている、練習帰りのようだ、しかしロンの方はいつもの服である、…という事は選手になれなかったという事か。
その為か少し落ち込んだ様子である。
「あ、キリコ…選手になったんだってね、しかもシーカー」
ロンは若干未練がましく話掛けて来た、どうやら見た目以上に落ち込んでいるらしい。
「ああ、…残念だったな」
「うん…でも諦めた訳じゃない、来年こそ受かってみせる!」
そう言ってロンは自分自身を励ましているようだ、意外とこいつはタフらしい、なら心配は無用だろう。
するとロンは思い出したように、質問をしてきた。
「あ! そうだあの本知らない?」
本とは、以前キニスが拾ったあの高そうな本だろうか、あれは確かロンが兄に渡すと言っていたはずだが。
「いや、あの本がどうした?」
「…無くなった」
「え!? あの本無くしちゃったの!?」
「違うよ! どっちかって言うと消えちゃったんだよ!」
あの本が消えた? 一体どういう事だろうか。
「兄貴に渡そうと思ったんだよ! で、行こうと思ったら急にお腹が痛くなったからトイレに駆け込んだんだ、それで戻って来たら、談話室のテーブルに置いといた本が無くなってたんだよ!」
要するに急用が出来たから一旦テーブルに置いておき、その間に本が無くなっていたという事か。
誰かが盗んでいったのか? いやあの本は恐らくグリフィンドール生の物のはずだ、という事は…
「一体誰が盗んだんだろう? でもあんな本盗むやつなんて…ロンがトイレに落っことしたんじゃないの?」
「ハリー!」
「…持ち主が持って行っただけじゃないのか?」
「「あ」」
二人は今気が付いたらしい、抜けた声でそう返してきた。
その答えに納得したのか寮へ戻って行った、まああんな何も書かれていない本を盗んでいく物好きはそうそう居ないだろう、である以上理由はそれしか考えられない。
それにしてもあの本は結局何だったのだろうか、閲覧禁止の棚の本では無い、そんな危険物が寮の近くに置いてあるとは思えない。
教科書はあり得ない、ノートにしては古すぎるし高価すぎる。
一体何だったのだろう、その答えはそこの曲がり角から現れた。
「!!」
角から現れた赤毛の少女を避ける、しかし俺に驚いてしまったのかヤツは転んでしまい持っていた本を落としてしまっている。
「すまない」
「す、すみません…あ」
俺は目の前の少女を知っていた、この燃えるような赤毛、ダイアゴン横丁に買い物に行ったときに会ったロンの妹、ジニー・ウィーズリーだ。
驚くヤツをよそに、散らばった本を拾い集めていく、図書館から借りてきたものだろうか、本の内容はというと主に恋愛や美女になる魔法など、女性らしい本が主だった。
彼女はまだ十一歳のはずだが、もうそういった事に興味を持つのだろうか、それとも既に好きな人でも居るのだろうか。
そんな失敬な事を詮索していると、散らばった本の中に先ほど考えていたヤツがあるのを見つけた。
何故これを彼女が? 思わずその中身を覗いてみる。
『私は好きな人が居る、けれどどうすればいいのだろう』
「………」
「………あの」
「…すまない」
本を閉じ、目を合わせないように本を差し出すとひったくるような手つきで取って行った。
女性の秘密を覗いてしまい、極めて申し訳ない気分になりつつも何故彼女が持っているのか聞くことにした。
「…その本は、どこで拾った?」
こちらを睨みつけ黙り込んでいる、当然の反応に罪悪感が深まっていく。
暫く、いや数秒も経っていないのだろうが、彼女は答えた。
「…これは私の、…な、失くしたと思ってたら、机の上に…」
「…そうか、…本当にすまなかった」
彼女はそれに反応する事なく逃げるように去って行った。
だがまあ、持ち主が見つかって良かったとしておこう、書かれていた文章から推測するとあの本は日記だったようだ。
ならば何も書かれていなかったのも当たり前である、それにウィーズリー家は聖二十八族の一員でもある、高級な本も一冊くらいあるだろうしお下がりと考えれば古いのも納得できる。
後でロンに言って安心させなくてはならないな、そして俺もまた、自分の寮へと戻っていったのであった。
「うう…何てことを、誰も見つけてほしく無かったのに。
このままではハリー・ポッター様が死んでしまう…何とか、何とかしなければ…」
ソレを見たのが幻想なのか。
心の恐怖が幻想を生むのか。
噂の果てに真実を見るのが幻想に過ぎないことは、
子供の誰もが知っている。
だが、あの瞳の光が、体の震えが幻だとしたら。
そんなはずはない。
ならば、この世の全ては蜚語に過ぎぬ。
では、目の前にいるのは何だ。
次回「再来」
秘密なるものが牙をむく。
ディゴリー先輩、本当はまだキャプテンじゃないんですけど、どう調べてもハッフルパフのクィディッチメンバーが分からなかった為、こういった仕様にしました。
夕日に飛んでくキリコは、孤影再びの一シーンを参考にどうぞ。