【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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皆さんこんにちは、鹿狼です。
アズカバンの囚人編ですが、
上の(Aパート)を見れば分かる通り、
全5話 前後編構成の実質10話でお届けいたします。
それではよろしくお願いします。


「アズカバンの囚人」篇
第二十七話 「回帰(Aパート)」


煉瓦の抜けた先に広がるこの景色も変わっていない、子供たちは元気に走り回り行き交う人々は重そうな荷物を抱えているがその足取りは軽やかだ。

だがここは違う、暗く湿った路地に子供の気配は無くすれ違う人も居ない、たまに居るのは浮浪者、乞食、そして漆黒のローブを深く被った連中、そこに明るさや楽しさは無く陰鬱な空気が霧の様に立ち込めていた。

 

俺は今ノクターン横丁を一人静かに歩いている、だが去年の様にあても無く彷徨っている訳では無い、明確な目的を持ってここを訪れたのだ。

ボージン・アンド・バークスの脇にある先の見えない路地の先、街頭も店の照明も無い場所にその店はあった。

″非合法マグル用品専門店 プランバンドール″

釘一本で杜撰に打ち付けられた木片には、霞んだ文字でそう書かれている。

 

少し埃を被ったその扉を開くと立てつけが悪いのか扉が軋む音がする、そして現れた店内はマグル界の道具が所狭しと並べられており、それを最低限の赤い照明が不気味に照らしている。

置いてある商品は質の悪そうなガソリンに壊れかけのガスコンロ、この自転車に至ってはどう見ても中世頃の品物なのに『最新鋭!』と大嘘が書かれている。

 

つまる所ここに置いてある品物はそのほとんどが粗悪品なのだ、つまり本当に役立つ品物は何一つ無い。

だがそれが俺にとって問題になる訳では無い、俺の目的は最初からこの粗悪品達ではなく、この店の″本当の商品″なのだから。

最初それに気付いたのは去年の時だ、あの時ここを通りかかった俺は″ある臭い″を嗅ぎ取っていた、だがその時は商品を買っても置き場が無いので断念していたが―――

去年、絶好の隠し場所を見つける事ができた、だからこそ今俺はここにいるのだ。

 

「…ククク、随分若いお客さんだねぇ、迷子かぃ? 早くママの所へ帰った方が良いぞぉ、人攫いに連れてかれちまうよぉ?」

 

奥の暗闇からボロボロのマグルの服を着た店主が現れた、その表情は読み取れなかったが話し方でどんなヤツかは予想できる。

 

「…銃を売っているか?」

 

俺の一言にヤツの眉が少しだけ動いた、だが暫くの沈黙の後ヤツは不気味に笑いながら否定を返してきた。

 

「ヒヒヒッ生憎ですがぁ、うちではそんな物騒な物は扱ってなぁいんですよぉ…」

「ならば何故火薬の臭いがする」

「!」

 

眉が先ほどよりも大きく動き、細い目を見開く。

そうだ、臭い、俺は以前嗅ぎ慣れた火薬の臭いをここで嗅ぎ取っていたのだ。

ヤツは近づくと、俺の周りを回りながらまるで品定めをするかの様に凝視して回り、最後に俺の顔を覗き込んできた。

 

「………」

「………」

「…合格ですよぉ、ではこちらへどうぞぉ」

 

何だかよく分からないが合格したらしい、ヤツは不気味に笑うと俺を店の暗闇の底、奈落まで続くような螺旋階段へ案内した。

ヤツの持つライト以外まともな光源も無く、一歩一歩慎重に足を進める、その度に階段が今にも壊れそうな軋みを上げていた。

 

「いやぁ…すみませんねぇ、私の店では銃だけは簡単に売らない様にぃ、してるんですよぉ」

「………」

「なにせぇマグルの象徴みたいな物ですからねぇ、マグル友好派も純血主義者も、積極的にぃ摘発してぇ来るんですよ。

ですから、こぉうして簡単にお客さんを通ぉさない様にしてるぅんですよ…」

 

奈落へ下りながらヤツはどこか楽しげにそう語っている、歩きなれているのか、それとも少し興奮してるのか不安定な足場を難なく移動しており、俺はそれについて行くので精いっぱいだった。

 

「なら何故俺を通したんだ?」

「それですかぁ、まず貴方は火薬の臭いをしっていました、そして目ですよぉ」

「…目?」

「えぇ、これだけ長く生きてればぁ分かります、貴方の目は子供の目では無い、戦い…もぉしくは人生に疲れてぃらっしゃる。

そこから、貴方はきっと銃を使い慣れている…なら銃をちゃぁんと買ってくれると考えたのですよぉ」

 

自慢げに語るヤツに対し俺は正直驚いた、目を見ただけでそこまで分かるとは。

ようやく階段を降り切る、そしてヤツが壁にランプを置くと、暗闇の中を光が走り、部屋全体を白くハッキリと照らす。

そしてその部屋が明らかになる、そこには壁一面に色とりどりの銃火器、そして親切な事に演習場まで配備されていた。

 

「………!」

「まぁ、説明は要らないでしょうから、どうぞご自由に」

 

壁に立てかけられた銃を片っ端から手に取ってみる。

AK-47、M1911A1、RPG-7…

至れり尽くせりとは正にこのことか、だがよくよく見るとどれも細部が異なっている事に気づく。

 

「…これはカスタム品か?」

「あぁ、はい、魔法界でも使えるよぉうに調整してぇあるのです、例えばホグワーツなどでは複雑なマグルの道具は使えなくなってしまいます。

なので、一部のぉ機構を魔力で作動させたり…認識阻害の呪文を掛けておいたのです」

 

ヤツは当然の様に言っているがそれは並大抵の事では無い。

ホグワーツに掛けられている呪文は何れも強力なものばかり、中にはダンブルドアでさえ知らないような古代呪文もある。

それを平然と出し抜いているこいつは一体…

だがまあ、それを気にしていても仕方ないだろう、今はどれを買うかを決めるべきだ。

 

棚を物色していると一丁の銃が目に入った、それは何てこと無い大型の回転銃であったが何故か手に取らずにはいられなかった。

それを手に取ると、拳銃とは思えない重量が俺の体全体に圧し掛かってくる、だがそれは自分でも信じられない程しっくりきた。

それを両手でホールドし姿勢を安定させる、そして撃鉄を上げトリッガーを一気に引く。

 

「………ッ!」

 

異常な反動、鼓膜を震わす轟音、瞼を貫くマズルフラッシュ、その衝撃は13歳の俺の肉体にはあまりに大きい。

だが肉体とは裏腹に俺の心は懐かしい記憶を脳裏に映し出す、そして銃口から漏れ出す火薬の臭いが鼻を刺激するが悪くなく、むしろ安心を与えてくれる。

この銃を使うには少し取り回しが悪いだろう、だがそれで良い、この重さが俺を守ってくれる、俺はそう確信していたのだ。

 

「…お決まりですか?」

「ああ、こいつを貰うぞ」

「ケケケ…それはどうも、…でも大丈夫ですかぁ? よりによって″ブラックホーク″なんて…」

 

確かに13歳、いや子供が使うには無謀な代物だが俺にとっては問題ない、前世ではこれ以上の化け物を振り回していたのだ、この程度の銃なら容易いだろう。

俺は代金の金貨をローブから取り出し、代わりにそのリボルバーを胸に収めた。

 

「キヒヒヒ…お買い上げありがとうございますぅ、いやぁ久しぶりぃの上客で嬉しくなりますねぇ。

…そうだ、特別ぅサービスで良いぃ事を教えて上げます」

「良い事?」

「えぇ、ホグワーツの8階廊下の突当りの壁で、″物を隠す場所″と考えながら三往復してくだぁさい。

武器を隠すのにぃ良いぃ所がありますよ…」

 

武器を隠す場所か、既に良い所を見つけてしまったのだが…

まあどちらに隠すかは試してから決めればいいだろう。

 

「…所でぇ、何故それをお買い上げにぃ? やはり護身用ですかぁ?」

「…そんなところだ」

 

そう、この銃を買った理由は単に護身用に過ぎない、他の重火器は後々AT用に使うとしても流石にハンドガンでは有効打になりえない。

つまりこれは最終手段だ、魔力も切れ杖を無くした場合に備えての、まさに最後の隠し弾という訳だ。

 

「やっぱりそぉうですか…最近物騒ですからねぇ

「物騒? 何かあったのか?」

「知らないんですかぁぁ! ヒヒヒ…あの凶悪犯″シリウス・ブラック″がアズカバンから脱獄したんですよぉ!」

「シリウス・ブラック…」

 

シリウス・ブラック、ヴォルデモートに最も忠実な僕であり、そしてマグルを12人虐殺し魔法使い一人を殺害した男。

それがアズカバンから脱獄した、あの難攻不落と呼ばれたアズカバンから…

いやおかしくは無いだろう、不可能な事などあり得ない、それが世の常なのだから。

もしあるとすれば、それはきっと俺を―――殺す事かもしれない。

 

 

*

 

 

「あっはい、これフランス旅行のお土産」

「…これは?」

「ボーバトン名物″ボンバートン団子″爆発に気を付け―――」

 

ドグオオオオン

 

「………」

「…ば、爆発する団子…!」

 

誰が買って来たんだ、誰が。

どうやら俺は何処へ行っても爆発から逃れることは出来ないらしい。

誰かみたいなアフロヘアーを披露したキニスを眺めながら、俺はさっきの団子を慎重に食べていた。

味は悪くないが…

扉から煙を出すコンパートメントを見て何人か来たが、俺を見た途端納得した様子で帰って行った、どうも以前の″図書館爆発事件″以来あらぬ噂が広まっているらしい。

 

換気の為に窓を少し開ける、空は分厚い雲が稲光を放ちながら雪崩のような雨を大地に叩きつけている、新学期というには余りに暗い天候。

特急の車体が呻くような軋みを上げ、時折跳ねるような激しい揺れを起こしていた。

 

「あ、聞いた? シリウス・ブラックの事」

「それか…」

 

先ほどから列車の中を歩くと、聞こえてくる話の三回に一回はシリウス・ブラックの話題だった、隣のコンパートメントに居るハリー達もその話をしているらしい。

だがほとんどはその事を恐れていない、まあ今から行く場所は魔法界で最も安全と言われている場所だ、そう考えるのも無理は無い。

 

「でも何で脱獄したんだろうね…例のあの人もう居ないのに」

「…どうやら、ヤツはヴォルデモートが生きてると考えているらしい」

「へー、…でも何でそんな事知ってんの?」

「…知り合いからだ」

 

嘘では無い、付き合いが短いだけの知り合いだ。

例のマグル商品…もとい武器商人からの情報である、何でも魔法省関係に知り合いが居るらしい…本当に何者なんだろうか。

 

「じゃあ目的は例のあの人探しってことかな?」

「…恐らくな」

 

今のは嘘である、俺はヤツの目的を知っている。

それは…ハリーの命だ。

ヤツはヴォルデモートを打倒したハリーを殺すことで、最高の名誉を貰おうとしているらしい。

―あいつはホグワーツに居る―

…やはり俺には理解できなかった、名誉、栄光、地位、それを求めること、救済の様にすがる事、興味を見出すことはやろうと思ってもできない、だがそれは達観では無く、ただの諦めなのではないだろうか?

ふとそんな事を考える、いやどちらでも良い事だ、そのいずれも、そうでないささやかな夢も手に入れることが出来ない俺にとっては関係ない話だ。

 

だが今持っているのが一つだけある、ブラックの目的を言えばまたこいつは首を突っ込みたがるだろう、俺の身勝手な願望かもしれないが…こいつが命の危機に晒されるのは極力避けたい。

その親友を手からこぼさないために、今俺は一つの嘘をついたのだ。

 

しかし、分からない事はもう一つだけあった。

何故ブラックは『あいつはホグワーツに居る』と言ったのだろうか―――

その時。

 

「!」

「ありゃ? 故障かなあ」

 

照明が消えたと思った瞬間列車が急停止した、ここだけかと思ったが他の何処にも光は見当たらない。

どうやら列車全体が停電しているようだ、心なしか空気まで冷たくなった様に感じる。

 

「!? キリコ! これ!」

 

キニスが跳ねるように窓から離れる、その窓は豪雨で濡れていた―――筈だった。

打ち付ける雨は瞬きしている間に雹へと変わり、窓を流れる雨粒と共に全体が凍り付いて行く。

気のせいでは無い、明らかに気温が急速に下がっている。

これはただの異常気象では無い、俺は窓に打ち付ける雹の悲鳴と身に纏わりつく冷たい悪寒から今起こっていることの恐ろしさを実感していた。

 

「ど、どうなってんの!?」

「落ち着け…状況を確認してみる」

 

まず状況確認が先決だ、そう考えた俺はコンパートメントの扉を開いた。

…だが、この扉は地獄への門だったのだ。

 

「!?」

 

扉を開いた瞬間、そこから川の様な炎が溢れだしてきた。

その衝撃に思わず瞼を閉じる、だがその時俺の耳にある音が聞こえた。

重く、画一的に。

均一に、統率された鉄の軋む音。

俺はこの音を知っていた、焼かれているにも関わらず感じる冷たさの異常さも忘れ瞳を凝らす。

 

焼かれる人々、蹂躙される村々。

空を飛び交う鉄の爆弾、無数に続く鉄の背中。

そしてその右肩には、忌まわしい鮮血がこびりついていた。

そう、炎の先にあったもの、それは―――

 

「レッド・ショルダー…!」

 

周りは既にコンパートメントでは無かった、緑の大地が、青い空が赤く染まっていく。

無数の吸血鬼たちが群れを成し、サンサを地獄へ変えていく。

一体何が起こったのか、だがそれを考える時間すらない。

 

「ぐわあああああ!」

 

吸血鬼の炎が俺を焼く、あの日、俺の過去がズタズタにされた時の様に。

だが絶叫を上げながらも俺はそれを見続けた、あの時のように。

過去は俺を捕えて離さないのか?

あの時振りほどいたとばかり思っていた悪夢の中に俺は居た。

それでも見続けたのはきっと、心を壊さないためだったのだろう。

地獄の炎が俺の憎しみの残り火を再び燃やす、それが俺の精神を支えていたのだ。

 

遠くから聞こえるキニスの悲鳴、そして聞こえて来た声は何故か誰かに似ている様だった。

炎に焙られながら感じる冷たさ、意識を失っていく俺は知った。

ホグワーツ、そこは地獄、いや幽獄になっていたことを。

そして今年もまた、平穏など訪れない事を―――

 




開幕不幸のキリコ、
流石不幸の御曹司と言った所か。
あ、あと作中の時間が大きく空く時ように*を導入してみました。
では後編に続く。
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