【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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後編はクィディッチ回でお届けいたします。
…特に言うことがねぇ。


第二十八話 「ディメンター(Bパート)」

今年こそは、と俺は意気込んでいた。

今までは散々なことばかりだった、終わり良ければ総て良し、逆に言うと終わりが駄目なら全て台無しとも言える。

トロール、バジリスクと事件ばかりが続き呪われているのではと疑い始めたころのハロウィン。

腹をすかせ、例の館でAT作成の練習をし疲労をピークに、その上シャワーを浴びて身も心も綺麗にし、いざ今年こそ楽しもうと思った矢先のことである。

 

「シリウス・ブラックが校内に侵入した、生徒達は大広間から動かない様に」

 

ダンブルドアの一言、その結果ハロウィンパーティは一瞬でお開き、安全を重視し今夜は大広間で眠ることに、その為美味そうな食事はあっと言う今に片付けられた。

 

 

 

 

「………」

「機嫌直しなよキリコ…」

 

翌日になり、学校を覆っていた不安の空気はだいぶ和らいだかに見える。

だが人生の楽しみを奪われたことへの怒りが簡単に収まる筈も無く、俺はブラックに対する怒りの念を燃やしていた。

シリウス・ブラック…必ず復讐してやる…

シリウス・ブラックは恐るべきことに、吸魂鬼の警備網を掻い潜りホグワーツ内に侵入、太った婦人をズタズタに引き裂いたのだ。

尚太った婦人とはグリフィンドール寮の談話室を守る絵画のことであり、現在ストライキ中である。

 

「ハリー大丈夫かな、ブラックの狙いってハリーなんでしょ?」

 

ハリーはブラックを警戒しているのか、あの日以降常に誰かと行動するようにしている。

さらにハリー自身は気付いていないようだが常に教員が影で護衛をしている、それを見るにブラックの標的がハリーである事には間違いないだろう。

例の武器商人の言っていたことが当たってしまったことに苦虫を噛み潰す。

 

その時チャイムが鳴り響き、教員室の扉が開いた、が…

予想外の人物に教室が騒めきだした、闇の魔術に対する防衛術だというのに入ってきたのはスネイプだったからだ。

 

「ちょちょちょ何でスネイプ先生が? 教室間違えたっけ?」

 

机に教材を置きながら混乱する生徒達をじろりと見渡し、そしていつものように重い口を開いた。

 

「静粛に」

 

一言ではあったがそれは重く、騒めいでいた教室はたちまち静まり返った。

その様子を確認してから再度口を開く。

 

「今日は吾輩が臨時で闇の魔術に対する防衛術を教える事になった、では…」

 

授業を始めようとした矢先に、キニスが手を上げているのを見つけてしまったスネイプは少し面倒そうな表情で「…何かね?」と尋ねた。

 

「あのー、ルーピン先生はどうしたんですか?」

「ルーピン先生は体調が優れず、本日は休みを取っておられる。

では39ページ、教科書のだ」

 

キニスの疑問に簡潔な回答をした後素早く授業を再開する、ヤツの贔屓や嫌悪はあくまでスリザリンとグリフィンドールに限定されており、先ほどのほうに礼節を守っていればあいつはそれなりの対応をしてくれる。

これがグリフィンドール生だったらどうなっていたかは分からない。

 

肝心の授業内容はと言うと″人狼″についてだった。

人狼とは普段はただの人間だが、満月が近づくにつれ凶暴性が膨らんでいき、そして満月になるとその凶暴性を抑えきれず人狼へと変身してしまうらしい。

一応満月の時でなければ精神力で抑え込むことができるが、その場合身体に影響が出る、さらに人狼への変身は多大な苦痛を伴うのである。

 

人狼の特性としては大方こんなところだ、教科書に書かれたその内容をノートに記載していき、″人狼の見分け方、及び人狼の殺し方″という課題が出て授業は終わった。

 

「ルーピン先生大丈夫かな?」

 

キニスはそう心配していたがこの学校にはマダム・ポンフリーもいる、心配はいらないだろう。

俺にとって気がかりだったのはシリウス・ブラックのことであった。

無論ハロウィンの恨みも無いわけでは無いが別の話である。

一体ヤツはどうやって侵入したのだろうか、確かにこの学校へ侵入する方法が無いわけでは無い。

 

まず浮かぶのは隠し通路の存在だ、俺が練習場、兼武器庫(予定)として入り浸っている″叫びの館″など最たるものだろう。

他にも方法は幾らでもある、屋敷しもべ妖精の″姿くらまし″だ、通常この学校内で姿くらましはできないが、それは人間に限った話。

理論や構造が根本的に違う屋敷しもべ妖精の姿くらましなら使えるのだ、ちょうど去年ドビーがやったように。

あと他には″姿をくらますキャビネット棚″とかがあったな…そういえば必要の部屋に置いてあったアレがそうではないだろうか?

とはいえ一目見て壊れていると分かるので使用はできないだろうが。

 

候補は幾らでもある、だが現状最も怪しいのは叫びの館だろう、禁じられた森、それも不吉な噂ばかり立つ場所に近寄るものは居ない、しかもホグワーツに繋がっている。

…絶好の隠れ家だな、むしろ今まで誰も居なかったのが不思議なくらいだ。

今度訪れた時に、侵入者検知呪文あたりを張って置くべきかもしれない。

 

しかしそれでも疑問が一つ残る、アズカバンの時もそうだが、何故ヤツは吸魂鬼の群れの中を突っ切って平気だったのだろうか。

そういえば新聞で、ブラックはアズカバンに居ながらも正気を保っていたと書いてあった。

…もしかしたらそこにシリウス・ブラックの秘密が隠れているのかもしれない。

俺は静かにシリウス・ブラックへの敵意を研ぎ澄ます。

だがそれは正義感などでは無く、これ以上キニスやハリー達に傷ついてもらいたくないという、むしろ罪悪感や使命感に近い物だったのかもしれない。

いとも容易く破られた今年の平穏、しかしそれにも慣れた物だ。

ローブの中、諦めと覚悟を入り混じらせながら握る杖とブラックホークの重みと冷たさが、確かな力強さを伝えているのを掌に感じているのだった。

 

 

 

*

 

 

空に轟く万雷の喝采にも似た轟音、ならば吹き付ける雨風は祝福の紙吹雪か。

渦巻く雲、掻き消えるホイッスル、視界を遮る雨、風、雷鳴。

グリフィンドール対ハッフルパフ、いつもなら寒さも吹き飛ばす熱気も今日ばかりは嵐に呑まれ誰の耳にも届かなかった。

視界は見えず、音も聞こえず、ついでに雨の冷たさが触感を奪っていくこの天候は最悪以外の何物でもない。

 

そんな状況であっても闘志だけは失われず、戦いは激しさを増していく。

そして嵐を悲鳴と狂声が貫いた。

 

「うわああああ!」

「ジョージーーー!」

「ヒャーハッハッハー! 次は誰の顎だぁ!?」

 

今年度めでたくビーターにつく事のできたキニスは、そのクィディッチ狂いっぷりを遺憾なく発揮していた。

憐れ、グリフィンドールのビーター、ジョージは顎を砕かれ退場になってしまった。

尚これで既に二人目、雨の中からは「やめて! もうジョージのライフは0よ!」という声まで聞こえてくる。

しかも頼りのハリーは眼鏡が濡れまともにプレーできていない。

 

そんなスリザリンも青ざめる暴力的プレーに晒された結果現在40対20でハッフルパフが優勢である。

だが相手も黙って顎を砕かれている訳では無い、彼らは人数が減ったことでオリバーはタイムアウトを要求、戦術の練り直しにかかった。

 

「皆聞こえるか!?」

 

嵐の中ディゴリーが張り裂けんばかりの声で叫ぶ、俺達はそれを必死に聞き取ろうと耳に意識を集中させる。

 

「グリフィンドールは一発逆転! スニッチ獲得を狙うはずだ! だから俺達はそれに対抗して、全員で攻め立て逆転できないようにする!

キリコはハリーを徹底的にマーク! スニッチを取らせない様にするんだ!」

 

「了解した」

 

その声が聞こえたかどうかは分からなかったが、ディゴリーは俺達に向かって信頼の笑顔を向けていた。

…元々一年で辞める予定だったのだが、キニスに「どうせなんだからあと一年くらい一緒にやろうよ」と一ヶ月間毎日付きまとわれ、俺が折れた結果クィディッチを続けることになった。

まあ俺としても、去年のように勝敗があやふやなまま終わるのもどうかと思っていたのでいいのだが。

 

それと同時にタイムアウトも終わり、俺達は再び嵐の中へと舞い戻っていく。

予想通りグリフィンドールは守りに入った、確かにこの大雨の中、加えて人数の減った状態ならこれが最良の方法だろう。

だがハリーの動きが変わった、防水魔法を掛けたのかその動きは嵐の中でも迷いが無い。

 

対して俺は有利とは言えなかった、この轟音の中では以前使ったような戦法は使えず、このよく言えばメリハリが、悪く言えば1と0しか無いこの箒はスニッチ探しに全く向いていない。

だが最高速度はニンバス2000より上だ、だからこそこうやってハリーを追い回すことに専念している。

 

その一方ハリーもまた苦境に立たされていた、この雷雲の中でスニッチを見つけるのは困難、よしんば見つけたとしても初動が遅れればキリコに追い抜かれてしまう。

しかもキリコがいつもの危険運転でまとわりついているため、探すこともままならない。

 

一進一退にもなっていない、決定打に欠けるドッグファイトを繰り広げる二人。

だが幸運はハリーの元へ落ちた!

二人の間を雷鳴が切り裂く、その時ハリーは見た!

雷光に照らされるスニッチの影を!

 

思考は無い、反発的に飛び出し風となるニンバス2000。

対してキリコは不幸なことに雷で視界を塞がれていた!

既に距離は離れ、勝負は決したかに見える―――だが!

 

「スニッチが!?」

「…まずいな」

 

何を考えているのか、スニッチは遥か上空地獄の雷雲へ飛び込んでしまった!

つまりスニッチを取るには雷が縦横無尽に走る積乱雲の中へ特攻しなければならない!

危険! 無謀! 自殺!

 

だとすれば先頭を走るのはあいつ!

キリコ・キュービィー!

怯んでいたハリーも負けじと飛び込む!

 

 

 

 

ハリーに先手を取られたが、雷に怯んだことで遅れを取り戻すことはできた、だが…

 

「………!」

 

肩を閃光が切り裂く、そう、この箒は小回りに欠ける…と言うより無いも同然。

そんな最低箒では次々と襲いかかる雷を回避するのも命懸けだ。

しかし小回りの利くニンバス2000は軸をずらし、時に一瞬の弧を描き、時に止まることで刹那の危機を確実に回避する。

 

徐々に、じりじりと距離を詰めるハリー。

焦りと迫り来る危機によるものか、体温が急速に下がっている気もする。

…ならば戦法を変えよう。

 

 

 

 

何とかキリコに追い付いた…と少し安心できたのは1秒と持っただろうか。

キリコは全速力で加速した!

まるで雷の洗礼など知ったことではないと言わんばかりの急加速に再び距離を開けられる!

 

ハリーも負けじと加速しようとする…が駄目!

目の前を過る閃光を反射的に回避してしまう。

 

これが箒以上の、ハリーに無くキリコにある最大のアドバンテージ!

それは度胸!

方や所詮学生、命の危機に晒されたことは二回しかない!

方や元軍人、命の危機に晒されたことは数百回以上!

今怯んだ時点でハリーの勝利する可能性は消え失せていたのだ!

…その筈であった。

 

暗雲の中から、漆黒のローブを纏う幽鬼が現れるまでは。

 

 

 

 

「「!?」」

 

突如として現れた存在、それはズタズタのローブを纏い、身の毛もよだつ悲鳴を上げる、この地上で最もおぞましい存在。

吸魂鬼の大群の中に俺達は居た。

 

それを視界に入れた瞬間全身に寒気が走り出す、いやそれだけではない。

指先から凍りだす体、全身からは力が抜けていき、意識は朦朧としていく。

そして記憶の底から呼び起こされる炎の映像。

 

…! 何をしている! 意識を保て!

顔を強く叩き、悪夢の中に沈みかけた精神を叩き起こす。

一体どうなっている、吸魂鬼は校内に立ち入れないのでは無かったのか!?

 

だが今更嘆いてる場合ではない、吸魂鬼を追い払うためには″守護霊″の呪文がいる。

しかしそれを覚えていない以上今は逃げるしかない…!

 

もはやスニッチどころでは無い。

激痛が走る心臓を押さえながら吸魂鬼の群れの中を突っ切る。

ハリーも俺に続くように飛び出す。

 

だが、この状態で逃げ切ることは不可能だった。

激しくなる耳鳴り、意識を穿つ頭痛、まともに呼吸すらできず、もはや何処をどう飛んでいるかすら分からない。

 

そして箒すらまともに掴めなくなった時、ローブに隠された吸魂鬼の顔、その空白の眼球が目の前に現れた。

 

「…また、なのか…」

 

吸魂鬼の顔は見えなくなり、ローブの中から再び炎が現れ全てを包み込む。

気づけば俺は炎に焼かれ、サンサの大地が赤く染まっていく光景を見ていた。

 

どうやらあのコンパートメントの時のも吸魂鬼の仕業だったということを俺は理解した。

冷気と熱が混じり合った空気を感じながら、炎の中に落ちていく。

だが既に俺の意識は遠く、何も感じないまま暗闇の中へと沈んでいくのであった。

 

だが最後の一瞬、俺が見たのは幻影の中に揺らめく黒い犬の姿だった。

それがただの幻か、それとも地獄へ迎えに来た番犬だったのかは分からなかった。

しかしその瞳は、かつての俺のように復讐の炎が燃え上がっている様に見えたのだった…




廻る、廻る、全てが廻る
巡る、巡る、誰もが巡る
温なる物を知らず、かたるすべも知らず
数千年の虚妄のままに、幾千万の飢渇たる虚が群れをなす
我も行く、運命のままに
軋む廃墟に虚像を置いて
ハリー・ポッターとラストレッドショルダー、第二十九話『襲来』
我が求める者はただ一人



没ネタ
ハロウィンパーティのキニス

「何だあいつら!?」
「リヴォービアとウィーズリー(双子)か!?」
ジョージ&フレッドのスネイプコス(ロックハート式スマイル仕様)
三人「ドヤァ」
スネイプ「減点」

やや蛇足気味だったのでカットでしました。
それにしてもキリコ、今年は厄年ですね。
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