【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

37 / 91
早いものでアズカバンの囚人編も最終話になりました。
さてピーターは逃げ切れるのか、ルーピン先生は生きているのか。
最終話スタートです。


第三十一話 「囚われざる者(Bパート)」

医務室の空気は異様という他無かった。

ヒッポグリフの罰金と厳重注意の為ダンブルドアとコーネリウス・ファッジが話していた中医務室に呼び出され、その場でペティグリューを突き出したからだ。

現在ブラックとペティグリューは別々の部屋でダンブルドアが話を聞いている。

 

「そんな馬鹿な…一体どうすれば…」

 

医務室ではスネイプがいつも通り不機嫌な顔で外を眺め、吸魂鬼に襲われたハリー達はベッドに寝かされ、俺もまたマダム・ポンフリーの治療を受けていた。

ファッジは既に俺の証言を聞いているのだが、魔法省の権威の為どうしてもブラックを犯人にしておきたいらしい。

それに対し内心腸が煮えくり返っているのである。

 

「…スネイプ、君は彼の証言を信じるのかね」

「全面的に」

「うう………」

 

スネイプは何故か分からないがペティグリューに凄まじい憎しみを抱いている、なのでペティグリューのアズカバン行きを熱望しているようだ。

その時扉が勢いよく開かれ、マクゴナガルが血相を変えて飛び込んできた。

 

「マクゴナガル先生! ここは医務室ですよ!」

「それどころではありません! ペティグリューが逃走しました!」

「「「!?」」」

 

逃げた!? まさか鼠になってか!?

あまりに衝撃的な知らせに医務室が騒然とする。

 

「警備は何をしていた!? 確か魔法省の魔法戦士が警備をしていたのではなかったのか!?」

「トイレに行っていたようです! ふざけています!」

「ファッジ魔法大臣、その愚かな阿呆を是非清掃係りに任命を―――」

「ピーター・ペティグリューは死んだ! 最初からここには居なかったんだ!」

「「「!?!?」」」

「魔法大臣殿、君は何を言っているか分かっているのかね…?」

 

その時ダンブルドアも戻ってきたが、その顔にはいつもの穏やかさは欠片も無い。

この騒ぎでハリー達も跳ね起き、言葉をまくし立て始めた。

 

「大臣聞いて下さい! シリウスは無実でピーター・ペティグリューが真犯人です! ペティグリューは自分が死んだと見せかけて罪を被せたんです! あいつはキリコが捕まえています! だから―――」

「ハリー、落ち着きなさい、ピーターが何処に居るというのかね? ブラックは大量殺人鬼だ」

「何を言っているんですか!? シリウスは誰も殺していません、マグルを殺したのもペティグリューなんです!」

 

必死で訴えるハリーとハーマイオニー、しかし冤罪を認めようとしないファッジはどこ吹く風、怒りの目線の中宣言した。

 

「これより吸魂鬼のキスにより、シリウス・ブラックの処刑を行う!」

「そんな!!」

 

…何と言うことだ。

まさかの展開に、誰もが絶望に打ちひしがれる、だがハリー達はダンブルドアに必死で縋り付く。

…しかしダンブルドアに慌てた様子は無かった。

 

「ダンブルドア先生! シリウスは、シリウスは―――」

「勿論分かっておるともハリー、しかし証言には重さと言うものがある、13歳の子供達の証言では大人は動かせないのじゃ。

何より肝心のピーター・ペティグリューが逃げた以上、どうしようもない」

「う、嘘だ…」

 

床に崩れ落ちるハリーだが、ダンブルドアは何故か不敵に笑いながら、何かを回す仕草をした。

 

「…三回…いや一回で十分かの? 上手くいけば、罪なき命を救うことができるかもしれぬ。

…よいか、絶対に見られてはならぬぞ」

 

そしてダンブルドアもスネイプも医務室から出て行った。

誰しもが絶望していたが、その中でハーマイオニーだけが決意に満ちた目をしていた。

いつの間にか目を覚ましたロンが質問をする。

 

「…今のどういう事?」

「説明してる時間も惜しいわ」

 

質問を無視しハーマイオニーが慌てながら取り出したのは金色の鎖が特徴的な時計だった。

俺はそれに見覚えがあった…逆転時計(タイムターナー)だ。

それを見た俺はダンブルドアの意図を理解した。

 

「…全員で5人、…2人が限界ね…」

「…キリコ、あれ何?」

「逆転時計、ヤツらは過去へ行き、逃走したペティグリューを見つけるつもりだ」

 

キニスは『そんなのアリかよ』といった顔で驚いているが、そんなことはどうでもいい。

最終的にハーマイオニーと、強い要望でハリーが行く事になった。

…親の仇を逃がしたくないのは当然のことだ。

 

「…じゃあ行くわよ…!」

「ストーーープッ!」

 

突然ハリー達を静止したキニス、それに文句を言おうとしたハリーに向かってキニスは何かを手渡した。

 

「これは…忍びの地図!?」

「ドサクサに紛れて拾っといた」

 

意地悪そうな笑顔を浮かべるキニスにハリーは笑いながら頷き、そして次の瞬間…消え去った。

 

 

*

 

 

「…一体…どうすれば…」

 

医務室で頭を抱えるファッジの顔は、大空の青よりも青ざめていた。

あの後シリウス・ブラックの元に向かっているファッジの所に鼠を掴んだハリー達が乱入した結果である、ハリー達はペティグリュー捕獲に成功したのだ。

つまりこの瞬間、保身の為証拠を隠滅しようとした事実が確立されたのである。

 

「さて…どうしようかの」

 

ファッジの周りを回りながら呑気な言い方で語るダンブルドア、態度には出していないがどう見ても激怒している。

対してファッジはすっかり縮こまっていた。

 

「い、嫌…我々は決してペティグリューの脱走を隠蔽しようとは…」

「隠蔽? はて何のことかの?」

 

飄々と語るダンブルドア、スネイプと俺は目を合わせた。

…お互いあいつの意図に気づいたらしい。

 

「いやあ最近物覚えが悪くての…あー、何じゃペティグリューの隠蔽がナントカ…じゃったか?」

「ダンブルドア先生! 何を―――ムグッ」

 

失言をしかけたハリーの口を抑えるスネイプの顔は軽く笑っている様に見えた。

…最も殆ど変っていないが。

 

「むうやはり思い出せんの、もしシリウス・ブラックが無罪になったら、その喜びでこんな事忘れてしまうかもしれんのぉ」

「………!」

 

ヤツが言いたいのは、要するにシリウス・ブラックを無実にするならこの失態を黙っていても良い、という脅しに他ならなかった。

…とんだ狸だな。

 

「ううう…ん? 梟?」

「ファッジ、お主当てのようじゃが」

 

ダンブルドアから手紙を震える手で受け取るファッジの顔色は、手紙を読むごとにどんどん青…いや黒くなっている。

 

「…どうしたのかの?」

「…マ、マスコミが押しかけてきてるらしい」

 

その言葉を聞き外を見ると、確かにホグワーツ駅に人だかりができているのが確認できた。

つまりこのままチンタラしてたら全てがばれるということである。

追い詰められ椅子にがっくりと倒れこむファッジは沈黙し、そしてしばらく経ってようやく重々しい口を開いた。

 

「…シ、シリウス・ブラックを…無罪…放免とする」

 

『やっ…たあああああ!!!』

 

魔法大臣や校長の目の前にも関わらず抱き合い喜ぶハリー達、その目には大粒の涙が浮かんでいた。

喜ぶハリー達と裏腹に頭を垂れながら医務室から出ていくファッジに、ダンブルドアが冷え切った声を掛ける。

 

「コーネリウス、過ぎた保身は身を滅ぼすぞ」

「…肝に銘じておくよ」

 

 

*

 

 

翌日の朝刊は一面にシリウス・ブラックの無罪をこぞって報道していた。

そしてピーター・ペティグリューはめでたく有罪が決まり、近々アズカバンに護送されるらしい。

…あ、あと叫びの館が謎の大爆発を起こしたことも一面の端に載っていた。

ただそれ以降もファッジが証拠を隠滅しようとしていたことが載ることは無かった、これについてハリーあたりが不満を言っていたが、それよりもブラックが無罪になったことの方が嬉しいようでそこまで気にしていないようだ。

 

ただ良くない知らせもある、リーマス・ルーピンが人狼であることをセブルス・スネイプがうっかり漏らしてしまい、ルーピンはその日の内に辞職届を出してしまった。

…が、その前に何故か全身傷、火傷、催涙性の毒、鼠とりの罠まみれだった為速攻で聖マンゴ送りになったそうな、今度会ったら謝らなければならない。

ちなみに屋敷に仕掛けていた罠だが、屋敷ごと吹っ飛んだことでそれがばれることは無かった。

 

「今年も一年が終わった」

 

いつもの挨拶と共に始まった学年末パーティ、今年の寮杯はクィディッチの結果が直で反映された結果スリザリンのものとなった。

いつもならハリー達に大幅加点…といきたい所だが、今回は事情がかなり込み入っている為厳しかったらしい。

優勝の立役者であるスリザリン・クィディッチチームはパーティの主役のような歓声を受け、グリフィンドール・クィディッチチームはそれを親の仇のように睨み付けている。

これもいつもの光景だが。

 

「マルフォイめ…来年こそはあの尖った顎をバラバラにしてやる」

 

例の如く物騒なことを言っているキニスだが、こいつもそんな事より無罪が確定したことの方が嬉しいらしい。

一通り呪詛を言い終えてスッキリしたのか、いつもの爽やかな笑顔に戻っていた。

 

「ふう、いやあ今年も大変だった」

 

キニスの言うことも最もだ、だが全てが無事に終わった今それを気にしたりする理由も無い。

過ぎてみればいい思い出、そういう事なのだろう。

 

「シリウスはこの後どうするんだろうね…」

「………さあな」

 

あの後裁判すら待たずにシリウス・ブラックの無実は決まった、だからまだ校内の何処かに居るだろうが…それに答えるように俺の席に梟がやってきた。

 

「どうしたのソレ?」

「…ブラックからだ」

 

手紙を開いてみると、簡潔に『明日の7時天文台に来てくれ』と書かれていた。

一体何の用だろうか。

 

 

*

 

 

「ペティグリューめ…今度こそぶち殺してやる…」

 

何故ブラックがそんな事を言うのか、何と今朝の新聞で護送中のピーター・ペティグリューを死喰い人残党が連れ去ったというのだ。

この度重なる大失態をマスコミはこぞって非難している。

 

「………」

「…あ、来てくれたのか」

 

今までは汚く痩せこけていたブラックだが、ホグワーツの美味い食事を食べた事で大分体調を取り戻した様に見える。

憎しみが燃えていた目は憑き物が落ちたように黒く光っていた。

 

「ハリーは良いのか?」

「ああ、昨日話したから大丈夫だ。

それにもう、いつでも会えるからな」

 

ブラックはとりあえず実家に戻るらしい、その後夏休みの幾分かをハリーと一緒に過ごす予定だそうだ。

今後の予定を楽しく話した後、息を吸い直しこちらを向き直す。

 

「…今回私が助かったのは、間違いなく君のおかげだ。

本当にありがとう、感謝してもしきれない」

「………」

「それで聞きたいのだが…何故君は私を助けてくれたんだ?」

「…冤罪が嫌いだからだ」

「そ、それだけなのか? それだけの理由で―――」

「………特急が来るから、ここらで」

 

嘘は言っていない、というか正直に答えた所でややこしくなるだけだ。

質問を簡潔に答えホグワーツ駅に向かう中、背中に声が聞こえた。

 

「ありがとう! 本当に…ありがとう!」

 

手を上げそれに返す。

 

今年も何とか無事に終わった、しかし俺には一抹の不安…いや、疑問が残っていた。

キニスは掛け替えの無い友人だ、それは疑いようもない。

それにハリー達も間違いなく大切な奴らだ、だからこそ俺は今ここに居る。

…だが、果たして俺の過去を話せる日は来るのだろうか?

どれ程俺の心が光りで照らされようと、その中に炎が灯る事だけは決してない。

この炎の代わりは無いのだから。

…それを話せる日が来るのか、炎が灯る時…俺が死ぬ時は来るのか、この孤独を苦しみを話すことが俺にはできるのだろうか。

その答えはきっと―――

 

 ―――風だけが知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、はあ…何とか逃げれたが…」

「いいや、逃げれていないよ」

「!? お、お前は…クィリナス・クィレル!? 何故生きて―――」

「知っているのか? ああお前はロンのペットだったか、なら私も見た事があるか」

「どうか見逃してくれ! 私は違う、悪いのは―――」

「いいぞ、無駄だと思うが」

「そ、それはどういう事だ!?」

「ピーター・ペティグリュー、お前が鼠の動物もどきだということは、魔法省にも闇の陣営にも既に伝わっている…お前に逃げ場はない」

「そんな…どうか…どうか命だけは…」

「勿論だ、むしろその為にお前の脱走の手引きをしたのだから」

「え、え?」

「私は今、ある人物につかえている、…とはいっても大体使い走りだが。

そして我が主は、お前の恐れる例のあの人の復活を目論んでいる」

「!? そ、それが一体何の関係が…?」

「…私の主はお前を助けようとしてくれているのだ、例のあの人の復活をお前に託すことで。

もし成功すれば、お前は裏切り者から英雄になる」

「だ、誰だ!? お前の主は一体!?」

「それは―――」

「そこからは私が話そう」

「!? お、お前は…!?」




俺たちは待った。
この100年を焦燥とともに。
瞼の裏に揺らめく赤い影、青い髪。
もはや追憶は銀河もろともに因果の彼方か
だが炎は突然に甦る。
杖の軋みと闇の呻き。
ローラーダッシュに乗せて魔法界を駆ける
遺伝確率250億分の1の衝撃
 ハリー・ポッターとラストレッドショルダー 第三十二話「国際試合」
不死の呪文は存在するか?



アズカバンの囚人編完結ーーー!
ペティグリューには何としても脱出してもらわないと困りますからね、
それにしてもトイレに行ってた警備員、きっと以前はシャドーモセスで働いていたんでしょう。
…多分ね、ククク・・・
…ファッジが少しクズ過ぎましたかね…? 個人的にはあんな感じだと思っていますが…やや悩みどころです。
しばらく経ったら、いよいよお辞儀復活編を始めたいと思います。
ではまた!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。