【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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第三十四話 「選手」

時が経つのは早い、特に実年齢がかなりの物になっている俺にとってはあっという間の二ヶ月であった。

だがまだ若いこいつらはそうでは無かったらしい、特に楽しみな事を待つ時はさらに長く感じるものだ。

そうして待ちに待ち、いよいよボーバトンとダームストラングが来校するハロウィン前日となったのである。

 

まあ、昨日の夜の内に空飛ぶ巨大馬車や巨大潜水船やらが見えたので既に到着しているのだろうが。

その為大広間に集まった生徒達は、見たことも無い人々の来訪をまだかまだかと、そわそわしながら待っている。

その光景を一通り眺め、満足したのかダンブルドアが話し始める、するとそれまでの喧騒が嘘の様に静まった。

 

「本日、我々は新たな友を迎える、彼等は今年一年間ホグワーツの留学生扱いとなる。

始めての事ばかりで諸君らも緊張しているじゃろうが、それは彼等とて同じこと。

諸君らホグワーツの生徒は、彼等が困っていたら率先して助ける様な、誇り高い精神を持っていると儂は信じておる」

 

珍しく冗談抜きの挨拶をするダンブルドアだが、皆それを真摯に聞いていた、普段ヤツを小馬鹿にしているスリザリンもだ。

それは対外的な問題を起こして欲しく無い、といった理由ではなく本心から言っている様に感じた。

 

三大魔法学校対抗試合(トライ・ウィザード・トーナメント)の為に訪れたとはいえ、他国の者達と交流を持てるのは貴重なこと。

この一年間、彼等と親睦を深め、試合以上に素晴らしい友情を築き上げてほしい。

これで儂の長ったらしい演説は終わりじゃ」

 

結局冗談で締め括り、あちこちから苦笑が漏れる。

それと同時に沈黙で押さえつけられていた興奮がいよいよ爆発した。

 

「では諸君、お待ちかねの時間じゃ」

 

それと同時に、大広間の扉がゆっくりと開かれた。

まず入ってきたのは薄い水色の、スーツの様にも見えるローブを着込んだ女性達であった。

バレエ音楽に似た優雅な曲と共に、それに合わせた躍りは彼女らの魅力を一層と引き立てている。

 

「まずはパフォーマンスを見せてくれる様じゃ。

芸術と美の国フランスの淑女、″ボーバトン魔法魔術アカデミー″の生徒達。

それとフランス魔法生物飼育学の権威、校長はマダム・マクシームじゃ」

 

生徒達に続いて大広間を横切るのは、ダンブルドアが小さく見える程の巨体を持つ壮年の女性であった。

しかしその動きの一つ一つが洗練されており、若い頃では出すことのできない美しさを輝かせている。

その横を歩く女性は、下手すれば他の女性が引き立て役に成りかねない程の、それこそ人間離れした美貌を見せつける。

 

「お久しぶりーです、ダブルドー、元気そうで何よーり」

「マダムも、相変わらず美しい」

 

マクシームの手の甲に口付けをするダンブルドアは、ほとんど姿勢を変えなかった。

ダンブルドアは比較的大きい筈だが、彼女はそれを遥かに上回っている。

ハグリッドに迫る巨体を見るに、彼女はおそらく巨人の血を引いているのだろう。

 

「あ、フラーさんだ」

「…知り合いか?」

「いや、前フランス旅行に行ったでしょ? その時折角だからボーバトンの行事を見学したんだ。

その時フラーさんと少し話したことがあるんだ」

 

改めてこいつの持つコミュニケーション能力の凄まじさを痛感している間に、ボーバトン生とマクシームがレイブンクローの席に着く。

それを見たダンブルドアは次の学校の紹介を始めた。

 

「北からもお越しくださった、厳しい雪に鍛えられた屈強な魂を持つ者達、ドイツの″ダームストラング専門学校″の生徒達。

校長は闇の魔術に対する防衛術の専門家、イゴール・カルカロフどのじゃ」

 

先程までの優雅な曲とは一転、重厚な音楽が腹に響いてくる。

そして軽い爆発と思い靴音を打ちならしながら、分厚いコートを着込んだ男性達が入場してきた。

彼等が持つ長大な杖は、地に打ち付ける度に重い音や花火を撃つ。

その洗練され、統一された光景は学生の演目と言うよりも、軍隊のパレードの様に見える。

 

不意に杖を消し去った瞬間、驚くべき身体能力でアクロバティックな躍りを披露する。

杖を口元に当て息を吹けば、炎で象られた鷹が飛んでいき、その先にいた人に膝まずいた。

その鷹を作り出した青年が入ってくると、生徒達は一斉にどよめきだす。

 

「ク、ク、ク、クラム!? 本物!?」

 

分厚いコートをたなびかせ堂々とした歩みを刻む青年は、あのクィディッチ会場で見たビクトール・クラムその人だった。

学生というのは知っていたが、よもやダームストラングの生徒だったとは。

 

その横を歩いていた男性は、まるで山羊の様な髭をしており、そしてダンブルドアと力強い抱擁を交わした。

恐らくヤツが、校長のイゴール・カルカロフだろう。

 

「久しいなアルバス!」

「イゴールも元気そうじゃな」

 

ダームストラングの生徒達とカルカロフがスリザリンの席に着いた所で、再びダンブルドアの演説が始まった。

 

「紳士淑女にゴーストの諸君、ホグワーツへようこそ。

今回の来校が諸君らにとって、貴重で有意義なものになる事を願っておる。

さて、色々説明しなければならんが、まずは親睦を深めてもらおうかの」

 

そこで杖を一振りすると、次々と料理が表れた。

外国のヤツらが来ているからか、いつもと違い異国の料理が多いように見える。

…素晴らしい、これだけでも三大魔法学校対抗試合が開催された価値は十分ある。

 

さっそく手をつけたのはジャーマンポテトだ、ボリュームたっぷりのそれにフォークを突き刺すと、意外と固めに茹でている事が分かる。

分厚い切り口のポテトを口に含めば、胡椒の辛味が食欲を暴走させる。

その赴くままに噛み締めると、その度に染み付いたベーコンとソースの旨味が、満足感のある歯応えから染み出してゆく。

同じ味付けの玉ねぎは甘く、素材の味を限界まで引き出している。

 

流石ドイツ料理、素材の味を引き出す事で有名なだけはある。

…実のところジャーマンポテトはドイツ料理では無いのだが…まあ旨いならそれでいい。

続けてドイツ料理の鉄板、ヴルスト…つまりソーセージを頂く事にした。

 

皿に乗っているヴルストに同じ物は一本として無い、どれを取るか…と考える間も無く、俺はブラートヴルストにかぶりついていた。

ソーセージと言えば軽快な歯応えに溢れだす肉汁であり、これも例外ではない。

しかしこれの旨さは、その比ではなかった、こんがりとした風味に、皮を喰い破る快感は目眩がするほど。

それにナツメグや胡椒等が組合わさった羊肉や豚肉の旨さは、もはや暴力的ですらある。

 

さらにヴァイスヴルストやシュヴァルツヴルストにかじりつき、その芳醇な味わいを楽しんだ後、ザワークラウトの爽やかな酸味で一息ついている時であった。

 

「ヴぁの、キリコ・キューヴィーですか?」

 

誰だ、俺の安息を邪魔するヤツは。

食事を邪魔された事に少し苛立ちながら振り替えると、そこには何故かビクトール・クラムがいた。

 

「…そうだ」

「やヴぁり、一度ヴぁなしてみたかったんです」

 

超一流のクィディッチプロが何故俺と? それに何故俺の事を知っているのだろうか。

 

「…何か用か?」

「ヴぁ、えー…」

 

ドイツ訛りの強い英語で話すクラムだが、母国語で無いからか少し話しにくそうにしている。

すると隣で目を丸くしていたキニスが口を開く、次の瞬間俺もクラムも衝撃を受ける事になった。

 

『よかったら通訳しましょうか?』

「「!?」」

 

凄まじく流暢なドイツ語が飛び出してきたのである。

クラムも少し目を丸くしていたが、すぐそれに頼る事にしたようだ。

クラムはキニスに向かって話始め、キニスはその後俺に向き直った。

 

「あの″自殺用箒インファーミス1024″を自由自在に操る変態がいると聞いて、話してみたかったんだって」

「………」

 

クラムの方を見れば、憧れの様な珍しい物を見るような…何とも言えない表情でこちらを眺めている。

 

『何か聞きたい事はありますか?』

『そんな危険な箒で、どうやって勝ってきたんですか?』

 

その後ろを見れば、クラムが俺に会いに来たことがそんなに気にくわないのか、大量のスリザリン生が…いや、クィディッチ狂い達がこちらを睨んでいる。

まずい、このままでは至福の時が過ごせなくなってしまう。

危機感を抱いた俺は、ヤツが満足しそうな答えで手を打つことにした。

 

「箒の性能は絶対ではない、肝心なのは乗り手の技量だ」

 

その答えに満足してくれたのか、クラムはニヤリと笑い群衆の中に去っていった。

それを見届けていると、今度はキニスが騒ぎだした。

 

「…あ!? サイン貰い損ねた!」

「…ドイツ語話せたのか」

「え? まあ昔ドイツに住んでたし」

 

そういうことか、なら話せてもおかしくないだろう。

と思っていた直後、二度目の衝撃を受ける事になった。

 

「あと日本とフランスとイタリアに住んでたから、五つは話せるよ」

「…何?」

「いやだから、日本生まれでその後ドイツに引っ越したんだけど、パパの都合であちこちに移り住んでたんだ。

ちなみにイギリスに来たのは入学の数ヵ月前」

「………」

 

こいつもしかして、凄まじい才能を持っているのでは…

そんなやり取りをしてる内にいつの間にかパーティが終わり、いよいよ試合の説明をする時間となった。

 

最初に大会開催においての協力者達の紹介、その内バーテミウス・クラウチとルード・パグマンという奴らと、学校の校長を含めた5人によって審査委員会が構成されるということ。

そして大会の概要やら、それによる措置等を説明した後、ようやく生徒達が最も気にしている事を説明し始めた。

 

「皆選手をどうやって選ぶのか気になっておるじゃろう、その公平なる選考人は…これじゃ、ミスターフィルチ、頼む」

 

フィルチが運んできたのは、大小様々な宝石が散りばめられた木の箱だった。

ダンブルドアがそれをコツンと杖で叩くと、中から粗削りのゴブレットが姿を表す。

そしてそこに、煌々と揺らめく青い炎が灯った。

 

「″炎のゴブレット″これが選手を選んでくれる。

我こそは、と思う勇敢な者は、羊皮紙に学校名と名前を書き、この炎の中に投げ入れるのじゃ」

 

ただの炎が選手を公平に選べるとは考えにくい、恐らく魔法道具の一種だろう。

それにしても、あそこまで派手な演出をする必要性は考えにくいが…しかしその理由はすぐに分かった。

 

「炎のゴブレットに名前を入れればそれを取り消す事はできぬ、悪戯半分で名前を入れぬことの無いように」

 

なるほど、ただ派手なだけではなく、辞退やふざけ半分での参加を防止する能力もあるという訳か。

下手すれば死人が出るこの大会、そのくらいの措置はして当然だろう。

 

「選手は三校から一人づつ選ばれる、そして彼等が挑むのは三つの課題、それによってあらゆる角度からその力を試される。

課題の内容はすでにクラウチ氏とパグマン氏が協議し決定済みじゃ、この課題の総合得点が最も高い者に優勝杯が与えられる。

あ、あと1000ガリオンの賞金も忘れてはいかんな」

 

三つの課題、優勝杯、1000ガリオン。

名誉と金を同時に得られる一世一大の大チャンスに、生徒達は沸き上がった。

…が、次の瞬間その大半はあえなく撃沈していった。

 

「ただし、未熟な者が危険に挑まぬよう、今回は儂が直々に″年齢線″を張らせてもらった。

17歳に満たぬ者はゴブレットに名前を入れる事も近寄る事も出来ぬ」

 

ホグワーツ生を中心としてブーイングが上がる。

当然の措置と言えば措置だが、なにせ生徒の大半が参加できないのだ、苦情が出るのも無理はない。

 

「制限時間は24時間以内、ゴブレットは玄関ホールに置かれる、明日のハロウィンの夜、課題に挑むに相応しい者達をゴブレットが吐き出すじゃろう。

もう一度言おう、一度名前を入れれば、例え死のうとも闘い続けねばならぬ。

覚悟と決意を持つ者だけが、ゴブレットに名前を入れるのじゃ。」

 

 

 

 

パーティが終わった後、ゴブレットに名前を入れるヤツはいなかった。

まあ既に夜なので、今から入れるには遅すぎる、入れるヤツは明日入れるのだろう。

 

寮へ帰る道の中で生徒達が話しているのは、如何にして″年齢線″を突破するかだ。

老け薬を使うだの、ポリジュース薬はどうかだの、上級生に頼んでみてはどうかだの…

しかしそれは恐らく無駄骨になるだろう、世界最強のダンブルドアが引いた魔法だ、たかが学生ごときで突破できるとは思えない。

…この三年間、ダンブルドアが居るにも関わらず事件ばかり起こっているがこの際気にしないことにする、気にするだけ無駄だ。

 

だが大人しい事が特徴ともいえるハッフルパフに、そんな無謀な挑戦をするヤツは居ないようだ。

暖炉の前では、猛烈なセドリックコールが巻き起こっている。

 

「セドリック先輩かあ、…パーフェクトだ!」

 

容姿端麗、成績優秀、温厚篤実、ヤツなら例えスリザリン生でも文句は言わないだろう。

しかしあの男、こういった事に興味があるとは少し意外だな。

いや、少なからず目立ちたいという思いはあるだろう、でなければクィディッチ選手になどなっていない筈だ。

 

「キリコは出ないの?」

「…断る」

 

出たい、等微塵も思わない、むしろ全力で拒否する。

元来俺は目立ちたくは無いのだ、この三年間やむを得ぬ事情で面倒事に関わり続けてはいたが、できるならひっそり穏やかに過ごしたいのが理想である。

 

「…うう、た、大変だった」

「あ、セドリック先輩お疲れさまです、水飲みます?」

「ありがたく頂くよ」

 

群衆の中から脱出してきたセドリックは、キニスから渡された水を飲むといつも通りの笑顔に戻った。

 

「そういえば先輩、何で出ようと思ったんですか?」

 

俺も疑問に思っていた事を質問するキニス、セドリックは窓辺に腰掛けながらにこやかに答える。

 

「まあ理由は幾つかあるけど…皆に期待されてたり、父さんも期待してくれてるし…

でも一番は、やっぱり興味かな」

「興味…ですか?」

「うん、自分の力がどこまで通用するのか、どんな試練が襲い掛かってくるのか…怖くもあるけど、楽しみでもある」

 

少々意外な答えではあったが、予想の範疇でもある。

なにせ100年ぶりの祭典だ、興味を抱くなという方が無理だろう、俺でさえ少し興味を持っているのだから。

 

「それに100年ぶりのお祭りだからね、どうせなら参加してみてもいいんじゃないか…そう思ったんだ」

「なるほどー、流石セドリック先輩、死んでも応援しますよ!」

「そこまでやらなくても…第一まだ選ばれてすらいないんだから」

 

セドリック応援パーティも程々に、各々自室へと戻っていく。

明日は土曜日なので授業の準備などは必要ない、よって必要の部屋に籠ろうかと考える。

しかし少し思案し、それは無理だと断定した。

恐らく明日はボーバトンとダームストラングの生徒達が学校見学に勤しむ、その為必要の部屋に入る瞬間を見られる可能性があるからだ。

とどのつまり、明日は図書館に籠って勉学に励むしかないのである。

 

「でも残念だね、17歳じゃないと参戦できないなんて。

キリコなら絶対優勝狙えたのに」

「…興味が無い」

 

ブツブツ文句を垂れ流しているキニスには悪いが、今年はのんびり大会を見学しつつ、闇の魔術の研究に勤しむとしよう。

 

 

 

 

翌日の大広間には大勢の人が押しかけていた、最もその大半は野次馬であり、自ら参戦しようという者はいない。

その中からゴブレットに名前を入れるヤツが出るたびに、大きな歓声…というよりも煽り立てる様な歓声が爆発する。

ただ一日中見張っている暇なヤツはそうそうおらず、昼になれば観衆はほとんど居なくなっていた。

 

そんな大広間を通りかかった時、そっくりな見た目をした老人二人が俺を横切り遥か彼方まで飛んでいくのが見えた。

ロンが「兄貴ー!?」と叫んでいたので、あれは大方ウィーズリーの双子だろう。

老け薬を飲んで年齢線を突破しようとしたようだが失敗したみたいだな。

この調子を見るに、年齢線は問題なく機能しているようだ、これならまず突破されないだろう。

 

そうこうしながらも瞬く間に時間は過ぎ、気が付けば選手発表の時が訪れていた。

大広間はその日一番の静けさを見せ、生徒達は緊張と期待に胸を膨らませている。

しかしこの静けさは、熱狂が爆発する前のほんの一時でしかない。

 

「さて、時は来た」

 

ダンブルドアが壇上に立ち杖を振るう、大広間からは光が消え失せゴブレットの青い炎だけが人々の目に映り込む。

耳を凝らせば生唾を飲み込む音さえ聞こえる、それ程に静かな空間の中でヤツは再び話し出した。

 

「ゴブレットは試練に挑む勇者を選んだ、もう後戻りはできん、これに名前を入れた者は既に覚悟を決めている事じゃろう。

選ばれた者は、前に出るのじゃ」

 

そう言い終わるかどうかの所でゴブレットの蒼い炎は一層激しく燃え上がり、闘志を表すかの如く紅い炎に姿を変える。

一瞬、天井に届かんばかりにそれが燃え上がる。

次の瞬間天井から一枚の羊皮紙がユラユラと踊りながら、ダンブルドアの手元に舞い降りた。

そこに書かれた名前を、息を吸い込む空白の後に叫んだ。

 

「ボーバトン魔法魔術アカデミー代表は、フラー・デラクール!」

 

レイブンクローの席が爆発した、と思いかねない程の歓声の中をデラクールは歩く。

その立ち振る舞いはただ美しいだけでなく、その内に秘めた力強さも感じる女戦士の様である。

選ばれなかったボーバトン生の中には泣いている者もいるが、どこか納得したような表情で拍手を送っている。

 

彼女が奥の部屋に入って行った頃、その歓声と拍手も、次の炎が蘇った途端消え失せた。

再び紅く染まる炎が吐き出した羊皮紙を手に取ったダンブルドアは、先程と同じように叫んだ。

 

「ダームストラング魔法専門学校代表は、ビクトール・クラム!」

 

大広間がメルトダウンを起こした、ヤツに至っては別格ともいえる。

何故ならヤツはクィディッチ・プロの一人、いわばヨーロッパのヒーロー。

スリザリンの席から歩き出したクラムは、ホグワーツの寮を通り越してどの学校の生徒達も拍手を浴び続けている。

ダンブルドアと力強い握手をした後、ヤツも奥の部屋に入って行った。

 

そして最後の炎が揺れ始めた、陽炎の様な炎の中には羊皮紙が映り込み、それはするりとダンブルドアの手に納まる。

 

「ホグワーツ魔法魔術学校の代表は、セドリック・ディゴリー!!」

 

ハッフルパフの席が核爆発を起こした。

その勢いは大広間全員の歓声よりも強力である、最もその理由は分かっていたが。

いわゆる日陰者、永遠の二番手、三年前に優勝杯を取っていたにも関わらず未だにそんな扱いのハッフルパフ。

そこから代表が出たのだ、嬉しくない筈が無い、見れば何人かは鼻水を垂らしながら号泣している…キニスお前もか。

自分の学校だからかほんの少し大声でセドリックを呼んだダンブルドアの元に、その笑顔を少しこわばらせながら歩いているセドリック。

 

「これで三校全ての選手が揃った! 彼らの勇気と情熱が見せる雄姿が今から楽しみじゃ! では観戦者である諸君にルール諸々を説明しよう」

 

ゴブレットの前に立、杖で空中に何かを書き綴っていくダンブルドア、今後の日程を分かりやすく紹介しようとしたのだろう。

…しかし炎は突然に蘇った。

 

「…これは」

 

死んだ筈の炎が、殷殷と火花を散らしながら蘇る。

そこから吐き出された一枚の羊皮紙が、異様な沈黙を打ち破った。

振り返ったダンブルドアは硬直しながらも、その憐れな犠牲者の名前を読み上げた。

 

「…ハリー、ハリー・ポッター」

 

大広間に居る全ての視線がハリーに注がれた、その騒ぎの元凶であるヤツは何が起こっているのかも理解できていないらしい。

目を白黒させながら戸惑うハリーに向かってダンブルドアは叫ぶ。

 

「ポッター! ハリー・ポッター! 来るのじゃ!」

 

混乱しながらもハーマイオニーに諭され、よろよろと中央の通路を歩いて行くハリー。

まるで死刑囚の様な雰囲気を漂わせるハリーに向かって、様々な感情を見つめる群衆たち。

だが俺は気付いた、その視線の中に一つだけ違う感情が混ざっている事に。

その大本を探ろうとした―――瞬間の事であった。

 

「…な!?」

 

炎は二度蘇る、地獄から聞こえる様な、不気味な音を鳴らしながらもう一枚の羊皮紙を打ち上げるゴブレット。

人々は騒めく、誰だ? 誰が選ばれるのだ? ホグワーツは既に二人選んだ、ならあれはボーバトンかダームストラングか。

しかし俺はこの時点で感じ取っていた、そこに刻まれたのが何なのかを。

 

「…キリコ・キュービィー」

 

何時だってそうだ、俺が望もうが望むまいが、常に戦いに巻き込まれてきた。

今回だけ例外、そんな都合の良い運命などある筈が無い。

 

「…キ、キリコ…!?」

「………」

 

深い深いため息をつきながらも立ち上がり、歩き出す。

期待、困惑、嫉妬、驚愕。

ありとあらゆる感情を乗せた視線の槍、それを全身に受けながら大広間を歩く。

どうやら、どう足足掻いてもこの戦いの堀から抜け出る事は無理らしい。

だが俺の感情が揺れる事は無かった。

こういった事は慣れきっている、今更驚くほどの事でもない。

だからこそ気付けたのだろう、その視線の中に一つだけ違うのが混じりこんでいた事に。

ハリーに向けて歓喜を、俺に向けて憎しみを向けるアラスター・ムーディ。

その訳を考えながら俺は一人、奥の暗闇に吸い込まれていくのであった。




無能、怯懦、虚偽、杜撰
どれ一つとっても試練では命取りとなる
それらをまとめて無謀でくくる
用意された計画、用意された地獄
行くも怖いが逃げるも怖い
脆弱な地盤 重裂な爪牙、充満する爆炎
まさに焼死必須の竜戦虎争
次回、『死の竜』
怒涛のドミノ倒しが始まる



久々の飯回&予定調和
Q何故わざわざ参加させたのですか?
A貴方はこの男が面倒事に巻き込まれないと思っているのですか?
よかったねセドリック! 出番は減らなかったよ!
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