【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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☆ダウン・バースト発生☆

…やり過ぎたか…?
まあ今更引き返せないししょうがない、決死の脱出劇始まります。


第四十話 「ダウン・バースト」

ペリキュラム(花火よ上がれ)!」

 

今大会用にダンブルドアが用意した、救難用の花火呪文。

その花火は水中だった為、色水へと姿を変え地上へ昇って行く。

しかしその希望は、ぶ厚過ぎる氷塊に阻まれ誰の目にも届かない。

 

「何で!? 何で誰も来てくれなーいの!?」

 

これを撃ったのに救助が来ないという事は、少なくとも時間切れまで救助はあてにならないという事を意味する。

大切な者を取り返すだけだった筈の第二の課題、今やそれは確約された死を待つだけの地獄に成り果てていた。

 

「ど、どうすれば…」

 

愕然としているのはセドリックだけではない、ここに居る全員がその事実に絶望しきっている。

上を見上げれば、今も尚巨大化し続ける氷塊。

岩影から顔を出せば、数百匹は居るであろう水魔の大群が蠢く。

 

「なんとかならなヴぃのか…!?」

 

唸るクラム、それに対する答えを持つヤツはここには居ない。

デクラールは人質であるキニスを守ろうとしている。

ハリーは必死に打開策を考えているが、パニックに陥った頭が妙案を作り出せる筈も無い。

四面楚歌か、阿鼻叫喚か、もはや競技どころではなくなっているのであった。

 

だがその中で俺は一人、自分でも不気味だと感じる程冷静に、この地獄からの脱出法を考えていた。

それはかつて似た経験をした事があるからだろう、あの白い大地から生き延びたという事実が、ほんの僅かな冷静さを与えていたのだ。

 

だからといって状況が絶望的な事に変わりはない。

ガレアデを襲ったのとは性質が違うのだろうか、長時間続くタイプのダウン・バーストだと推測できる。

その結果凍る範囲を拡大させ続けている結氷は、あと数分で湖のほとんどを呑み込もうとしていた。

 

では残りに避難し救助を待つか、それもできない。

常軌を逸した水魔の群れ、一人だけなら逃げ切れたかもしれないが、人質を抱え水中という制約の中逃げ切る事は不可能だ

 

なら氷塊を破壊し脱出するか、それも良いかもしれない。

最も、既に目測50メートル以上に成長した氷塊を破壊できる自信があるならばだが。

 

まさに八方塞がりと言えよう、しかしのんびりと考える時間もない、この岩影もいつ水魔に襲われるか分かったものではないからだ。

 

「―――! まずい!」

 

セドリックの声につられ、ヤツの見る方向を見れば水魔の大群がこちらに迫っていた!

やはり気付かれてしまったか…!

逃げなければならない、その場から瞬時に離脱する!

 

先程は慌てていて分からなかったが、その量も種類も尋常ではない。

ケルピー、グリンデロー、果てには河童まで混じっている。

 

キリコは水圧ジェット、クラムは頭部を鮫に変身させる事で、ハリーは鰓昆布の力によって高速移動を可能にし素早く逃げ切る。

 

しかし残りの二人は高速移動手段を用意していなかったのだ!

それが意味するのは只一つ。

 

水魔達は遅れた二人に狙いを定め集中攻撃を行っていた!

しかもセドリックがデクラールを庇ったせいで泡が割れてしまっている!

 

フリペードブレイト(貫通弾頭)!」

ペトリフィカス・トタルス(石になれ)!」

 

貫通弾頭が河童の脳天を貫く!

キリコに続き状況を理解したハリーの石化呪文によってグリンデローが沈む!

攻撃によって水魔が気を取られた一瞬を突きクラムが突貫!

鮫の遊泳力を持って二人をその中から助け出す!

 

ペリキュラム(花火よ上がれ)!」

 

助け出されたデクラール、彼女は追い縋る水魔に向けて花火を撃ち込んだ!

この呪文はリタイア宣言用にダンブルドアが使うよう指示した呪文。

しかしここは水中、花火にはならず只の色水が吹き出しただけ。

だが彼女はそれを利用した!

 

色水の煙幕が水魔を包み込む!

その間に彼等は逃走を再開する!

 

すると突然ハリーが立ち止まり、杖を下に向けて何かを訴える!

ハリーが指し示した場所は海草の群生地帯! 隠れるにはうってつけの場所!

迷っている様な暇は無く飛び込んで行く!

最後の一人が隠れたと同時に、水魔が煙幕から脱出しこちらへ迫る!

 

「…………行ったか、…いや?」

 

息を潜める事数秒、幸いにも水魔はこちらに気付かす通りすぎて…くれなかった。

 

「こ、これは…!?」

 

信じられない事に水魔達は散開、水中にくまなく分散して行った。

奴等は索敵を始めたのだ!

このままでは再び見つかるのは必然か…!

 

「セドリック! 大丈夫ですか!? 今呪文を!」

 

溺死しかけていたセドリックに包頭呪文を掛け直すデクラール。

更に治癒呪文と蘇生呪文を使い意識を復旧させる。

 

「う、うう…」

「ああ! 良かった、本当に…」

「…だが、状況は全く好転してヴぃなヴぃ」

 

そうだ、一時は逃げ切れたが何も変わっていない。

むしろかなり悪化している、水魔の索敵もあるが上方の氷塊も更に巨大化しているのだ。

 

「…あれ、破壊できないの?」

「無理だ、大きすぎる」

 

あれ程巨大化しては、もう爆破呪文をどれだけ撃っても無駄だろう。

非常過ぎる現実を前に俺はかつての地獄を懐かしんでいた、これでは事前に覚悟ができていたガレアデの方が遥かにマシだ。

いや、この状況はある意味あの時そっくりといえる。

 

このダウン・バーストは、あのエルンペントの角によって起こされた大爆発が原因だったのだろう。

あの時の異常気象も俺達が発端となって起こった、ポリマーリンゲル液タンクの大爆発が原因だったからだ。

 

「………!」

 

その瞬間寒気がするほどの恐るべき感覚が俺を貫いた。

この方法なら脱出できる、しかし作れるのか? 確実と言えるのか?

 

「ど、どうしたんだキリコ?」

「…脱出方法がある」

『何だって!?』

 

上を見れば巨大化を続ける氷塊、水魔に見付かるのも時間の問題。

ならば…心を決めるしかない…!

 

「だが凄まじく危険だ、だからこそ聞きたい事がある」

「それは何でーすか?」

「救助を待つか、俺の作戦に乗るかだ」

 

だが最大の不確定要素がそれだった、競技時間中だから来れないだけという可能性がある。

それがあり得る以上、俺一人の意志で死地に向かう事は許されない。

…しかし。

 

「決まってヴィる、当てにならなヴぃ救助を待つ方が危険だ」

 

最初に口を開いたのはクラムだった、ヤツに続き全員がその決意を表していく。

 

「そうだよ! ここでじっとしていちゃ駄目だ!」

「ハリーの言う通りだ、それにこの競技に立候補したんだ、それくらいの覚悟はできている!」

「私達だけじゃない、大切な者の命も掛かっていまーす、今何かできーるのは私達だけでーす!」

 

何てことは無い、最初から覚悟は決まっていたという事か。

甘く見ていたのは俺の方だったらしい、潜った地獄こそ少ないがこいつらも十分な戦士だったのだ。

ならば迷っている暇は無い、時間も限られている…!

 

「…で、一体どうするの?」

「この湖を爆破する」

「は!?」

 

まあ脱出と湖を爆破する事を繋げるのは困難だろう、目を丸くするハリーが当然の指摘をする。

 

「何言っているのキリコ! それはさっき出来ないって…」

「可能だ、それを説明する」

 

この作戦の全てはそこにかかっていた、まさか二度と使う事は無いと思っていたあれを作る事になるとは。

実の所″装甲起兵″を練習している時に作ってはいたのだが、ATを動かすのに不要と分かってからは作るのを止めてしまったのだ。

そう、俺が創ろうとしていた物、それは″鉄の血液″と呼ばれた物、かつて俺達が運命を賭けてきた物。

 

「″ポリマーリンゲル液″、…それが作戦の要だ」

 

 

 

 

巨大化し続ける氷塊の近くに佇むキリコ、その目の前には泡頭呪文で作った泡が五つ。

その中に浮かぶのは、水を変身させた青緑の液体、…ポリマーリンゲル液。

あの後すぐに水魔に発見された彼等はただちに作戦を始めた、しかし内容は単純、PR液が完成するまで時間稼ぎをするだけである。

 

ペトリフィカス・トタルス(石になれ)!」

 

デクラールの石化呪文が命中し、水底へ沈んで行く水魔の一体。

だが水魔達は尚キリコに向けて猛進し続ける!

何故か水魔はキリコ一人に集中攻撃を加えていた!

 

その原因は彼が持つロープ、その先にある五人の人質!

時間稼ぎに専念する為に人質を預けたのが仇になったのかもしれない!

獲物が集中している場所を襲うのは当然だからだ! しかし!

 

インカーセラス(縛れ)!」

ステューピファイ(失神せよ)!」

 

縛られ沈静化するケルピー、失神させられる河童、そして食い千切られるグリンデロー!

ハリーやセドリックの呪文と、鮫になったクラムの牙が水魔の接近を阻む!

そうだ、こいつらの為にも急がねばならない。

 

妨害を潜り抜けようと密集体型をとるグリンデロー軍団、その数は目測で20匹相当!

しかしそれは逆に、奴等の戦力を大幅に削ぐ結果に終わった!

 

グレイシアス(氷河となれ)!」

 

杖を振るセドリック! 大イカに対してキリコがやったように周りの水諸共氷漬けに!

 

コンフリンゴ(爆発せよ)!」

 

からの爆破呪文! 纏めて木っ端微塵にされた!

密集体型が仇となり二次被害をモロに喰らっていく水魔達!

だが数の暴力は圧倒的! その間を潜り抜け一体の河童が現れた!

 

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

 

武装解除呪文を放つハリー、手馴れているのか赤い閃光は直撃するが怯ませただけ。

けど、それで十分だ…!

その怯みがヤツの接近を許す!

強靭な肉体に鮫の勢いを乗せ、頭の皿を破壊し力を失わせる!

高い遊泳能力によって縦横無尽に駆け巡るクラム!

誰もが必死に戦っている中、俺だけが違っていた。

 

(駄目なのか…!?)

 

先程生成したPR液は全て爆発、それ以降も失敗が続ている。

何故なら記憶が曖昧だからだ、あまりに昔過ぎる。

そもそもPR液の配合比率など、専門家でもない限り知る機会すら無い。

どうする、思い当たるのは全て試した、当てずっぽうをする時間は無い…

考えろ、どうすれば思い出せるのか…

 

(………!)

 

そうか、俺が忘れていても、俺は覚えている。

その事に気付いた俺は自分の額に杖を突き立てた、そして…

 

「レジリメンス -開心」

 

俺が覚えていないなら、記憶を直に見ればいいのだ。

全身の内側を這いずり回る感覚と共に、ビデオテープの様に記憶が廻っていく―――

 

―――極寒の地に取り残された俺達周囲を囲むパララントの大群空を覆うダウン・バーストの厚い雲小太りの仲間が液体を並べる様々な液体や材料をぶち込んでいき複雑な計算式を書き綴るだが上手くいかずヤツは頭を掻き毟る次々と爆発してくPR溶液ガンマリンゲル電子量0.265ボルス俺の持つサンプルを舐め戦慄する仲間達それが安定を見せ歓喜の声を上げるそのサンプルのリンゲル反応は代謝率R酸化剤配合したのはその量は―――

 

―――これだ、その記憶に従い水を変身術でPR液に変身させる。

そしてそれは、ダウン・バーストが齎した超低温の氷に触れても爆発する事は無かった。

あいつが創った零下200度でも凍結しないPR溶液が再び完成したのだ。

 

『PR溶液が完成した』

 

ハリー達の脳にキリコの声が響き渡る、しかし返事が来ることは無い。

この呪文は一方通行のテレパシーしかできないのだ、だが指揮や伝令をする時には最適でもある。

 

『これがそのデータだ、…頼む』

 

それぞれに配合比率等のデータをイメージとして送り付ける。

何も理解する必要は無い、それを大体把握していれば十分だからだ。

データを送った数秒後、セドリックとクラムが動き出す。

彼等が通った後には青緑色の液体が生成されている。

 

そう、キリコはホグワーツ湖の水をPR溶液に変身させ、その爆発で氷塊を吹き飛ばそうと目論んでいたのだ!

その為にPR液を作りつつ、二人が作ったのもこちらへ引き寄せる。

 

水魔の狙いがキリコに集中しているので二人はPR液生成に専念できるのも幸いであろう。

そして彼に集中した水魔達はハリーとデクラールが対処する。

凍結、失神、縄、水、ありとあらゆる閃光が飛び交い、その度に水魔が一匹、また一匹と沈んでいく。

だが状況は芳しくない、その圧倒的な数の暴力によって彼等は徐々に追い詰められている。

元々四人でも何体が逃がしていた以上、二人でやるのは無理だったのだ。

 

助けなければ、しかしそれをすればPR液生成に支障がでる…。

歯がゆさに身を震わせるが、突如水魔の大群が崩れ始めた。

その中に居たのは灰色の肌と緑色の髪を持つ、槍を持った戦士達。

 

(水中人…!)

 

この恐るべき状況の中、彼等を助ける為に現れたのだ。

その救援を生かし、一気に生成速度を上げていく。

…氷塊が更に巨大になっているのか? …いや狙い通りだ。

何故なら彼の周辺だけは凍結せず、まるで板に丸い窪みができている様になっていたからだ。

 

わざわざ自分に開心術を掛けてまで、あの時のPR液を作った理由がこれだった。

零下200度でも凍結しないPR液が湖の一部を満たした結果、そこだけ凍結せず薄い部分が出来上がっている。

少しでも破壊できる可能性を上げる為の策は、今功を成した!

 

『集まれ!』

 

だが危険な状態には変わりない、一刻も早く脱出しなければならない。

このくらい生成できれば十分だ、そう判断し彼は招集を掛ける。

 

アグアメンティ(水よ)

 

氷塊の窪みにできたPR溶液のたまり、そこに少しだけ真水の場所を作る。

そうしなければ着火した時全員巻き込んでしまうからだ。

次々と集まってくる選手達、それに追いすがる水魔の軍勢。

だがその中にハリーの姿だけが無かった、ハリーは溺れていた!

ヤツは鰓昆布があったのでは?

しかし彼らは、首元にある筈の鰓が無い事に気が付いた、効力が切れていたのだ!

 

助けに行かねば!

しかし窪みを作ったのが仇となり、その小さなスペースに集中してしまった水魔達。

人が通れるスペースは既に無い、纏めて吹っ飛ばせば巻き込まれる。

―――そうだ!

その方法を閃いたセドリック!

 

アクシオ・ハリー・ポッター(来い、ハリー・ポッター)!」

 

彼は呼び出し呪文を使った、その閃光は水魔の隙間をねりハリーに届いた!

呼び出し呪文! でも…!

ハリーの大きさでは水魔の密集地帯を潜る事は不可能、しかし彼女は瞬時に思いつく。

 

レデュシオ(縮め)!」

 

デクラールはハリーを縮小呪文で縮ませる、これで隙間を潜れる様になった!

水魔の間から飛び出してきたハリーに拡大呪文と泡頭呪文を掛ける。

人質、選手、全員揃ったか。

水魔はもう目前、今やらねばやられる…!

 

『盾を張れ!』

「「「プロテゴ(盾よ)!」」」

 

呪文が使えないハリー以外の三人が盾を張った瞬間、キリコは最初の火を放つ!

 

インセンディオ(燃えよ)!」

 

青緑色の液体に火が灯る、次の瞬間!

―――視界の全てが白く染まった。

 

「うわああああ!!」

 

盾一枚を挟み大爆発を起こすPR液!

火球に呑まれ消滅していく前方の水魔達!

軋みながら轟音を鳴らす後方の巨大氷塊!

それに挟まれた彼等は尋常ではない圧力に必死で抵抗する!

 

「あ、暑ヴぃ…!」

 

盾の魔法で軽減されているにも関わらず体感温度は300℃近く!

灼熱に晒され、空気に肺を焼かれ呼吸すらままならない!

 

しかし包頭呪文を張る間も無い、盾を解いたが最後水中で焼死してしまう!

 

だがキリコの読み通り、氷塊は大きく歪み今にも砕けんとしている!

このままいけばあと数秒で崩壊する!

しかしそう簡単に事が進む筈も無かった!

 

(…く、砕けない…!?)

 

僅かな皹が氷塊に入るが、それ以上割れてくれないのだ!

何故だ!? 爆発は十分だった!?

いや…水か!? 水によって威力が減衰したのか!?

愕然とするキリコ!

 

「ま、まだ…砕け無い…の…?」

 

氷と盾による密閉空間、その熱は上昇し続ける!

うっすらと見える地上、あと一押しだというのに…!

 

「あと…一回…強力な衝撃が…あれば…」

「衝撃…」

 

盾の呪文を張れないためその身で人質を守っていたハリーが呟く。

今行動を起こせるのはハリーだけだが、彼の使える呪文に″強力な衝撃″を起こせるものは無い!

 

「爆発呪文は…だ、駄目だ…!」

 

この密閉空間でそんな事をすれば全員巻き込まれる!

止めに最悪な事に爆発が弱まってきた!

爆発できるPR液が無くなってきているのだ!

 

「…た、盾が…!?」

 

展開していた盾に皹が入り始めた!

呪文を展開していたセドリック達が、この高温に耐えきれず倒れてしまったからだ!

溺死か、爆死か、万事休すか…!?

 

「………あ!」

 

その中で一人ハリーが叫んだ!

その目には確かな煌めきがあった!

そして、その機転のままに呪文を唱えた!

 

アクシオ―――(来い―――)

 

ハリーは思い出した、この湖にあったソレを!

ソレの質量がぶつかれば、この扉を破れるかもしれないと!

爆発を切り裂き、水底から引き寄せられたのは!

 

―――巨大イカ(巨大イカ)!」

 

氷漬けの巨大イカが盾に激突した!

イカと氷、それに呼び出し呪文の速度が加わればその破壊力は相当なものになる!

 

それだけではない! 

イカは盾に阻まれるが呼び出し呪文の効力により、ハリーに届くまで圧を掛け続ける!

 

盾越しに掛かり続ける圧力!

一気に広がっていく皹!

そして遂に、巨大氷塊が…決壊した!

 

前代未聞の大爆発を起こすホグワーツ湖!

吹き飛ばされた氷塊が客席に降り注ぐ!

突然の事態に唖然とする観客達!

それと共にブッ飛ばされた彼等はそのまま地面に落下して行く、呪文を唱える気力も残っていないのだ。

 

アレクト・モメンタム(動きよ、止まれ)!」

 

会場に響くダンブルドアの声、その瞬間周囲の氷塊ごと静止、そしてゆっくりと地面に降ろされた。

 

「ガハッ! ぐっ、ハァ、ハァ、ハァ…」

 

灼熱地獄と凍結地獄から解放され、温度差にむせながらも必死に息を吸い込む。

すると隣から、先程まで死ぬかもしれなかったとは思えない程明るい声が聞こえてきた。

 

「…大丈夫? キリコ」

「………お前は、無事か…?」

「うン、凄い元気」

 

全身火傷に噛み傷切り傷、凍傷と俺達はズタボロになっていた。

しかしダンブルドアが掛けておいたであろう保護呪文がしっかり作用していたのか、俺達とは違いラブグッドは傷一つ無いようだ。

 

「凄い爆発だったね、あんなの見れるとは思わなかったよ」

「…意識はあったのか?」

「あったよ、だから全部見てた、ポリマーリンゲル液って何?」

「…マグルの軍で使われてる液体火薬だ」

「液体火薬?」

 

全力で誤魔化していると、現れた大量の医務スタッフに取り囲まれてしまった。

そのまま何処かへ運ばれようとした時、ラブグッドがそれを呼び止める。

彼女は静かに、一言だけ言った。

 

「キリコ、ありがとう」

「………ああ」

 

その言葉を聞いて、俺はようやく理解した。

生き残る事ができたのだと。

暗闇に沈んで行く意識の中で、誰一人死ななかった喜びを噛み締める。

この安息が次の地獄までの、束の間の休息なのは分かっている。

だからこそ、今はこの暗闇に身を任せよう、真の地獄は目の前なのだから…




百年ぶりの大会が終結する
最後の戦い
古の牙城ホグワーツに動員される人員、一千二百人
勝利者が手にする名誉一千ガリオン
一度入れば小国の国家予算にも迫る
だが全てを知る者からすれば蚊の涙
こんなものだと狂気が嘯く
次回、『最終局面』
ウィザードトーナメントの仕掛け人が犯した最大の誤り
それは奴を敵に回した事だ



ホグワーツ湖「俺が何をしたあああぁぁぁ!!!」
ホグワーツ城「ドンマイ」
タイバス河「俺よりマシだよ」
残り三話です、かなりハイペースで進みそうだな…

追記 水中人&イカの安否は次回書きます。
   人質の部分を修正しました。

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