【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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炎のゴブレット編、最終回。
始まります。


第四十三話 「リドル」

セドリックの死。

ヴォルデモートの復活。

かつての戦場を思い出させる光景に呻きながらも、俺の体は動き出す。

心とは別に、体に染み付いた硝煙の臭いが俺を動かしていた。

 

「立て、ワームテール、俺様の杖を寄越せ」

「は、はい…ご主人様…」

 

腕の切断面から流れる血を押えながら、ペティグリューは杖を差し出す。

それを懐かしそうな顔で手に取ると、杖をペティグリューに向けた。

 

「腕を出せ」

「おお…ありがとうございます」

 

腕を治して貰えると思ったのだろう、だがその願いはあえなく潰えた。。

 

「違う、反対側の腕だ」

 

その言葉に身を竦ませ、泣いて許しを請う。

しかしヴォルデモートは聞き入れず、無傷の腕に杖を押し当てた。

 

「ああああああ!」

 

悲鳴と共に、ヤツの腕が焦げ付いていく。

数秒の後杖を離し天を仰ぐ、まるで誰かを待っている様に。

 

「今ので全員気付いただろう、これを見て戻る者は何人いるか、逃げ出す臆病者な何人いるのか」

 

一人呟いたヴォルデモートは、拘束されているハリーの方を向いた。

 

「ポッター、お前がいる場所が何か分かるか? そうだ俺様の父親の死体、その上だ」

 

淡々とヴォルデモートは語る、自分が何処で生まれ、どう育ち、どんな人生だったのか。

母の孤独死、魔法に恐怖した愚かな父の事。

自らの人生が、ハリーとよく似ていると。

 

その言葉に怒りもがくハリーを見つめ、笑いながらヤツは叫んだ。

 

「だがこの瞬間、愚かな父やマグルなどでは無い、本当の家族が戻ってくる!」

 

その言葉と共に、幾つもの黒い影が墓場に降り立つ。

最初から居た連中と合わせて、合計二十人程か。

 

「よくぞ戻ってきた、死喰い人達よ」

 

死喰い人達は一人一人跪き、ローブの端に口付けをしていく。

やがてヤツらがヴォルデモートを中心に円を組むように並ぶと、ヤツは饒舌に語りだした。

 

最初こそ戻ってきた部下に対する歓喜の言葉だったが、やがてそれは何故最初から助けに来なかったのだという、憤怒の言葉に変わっていった。

 

「俺様は告白しよう、…お前達には失望させられたと」

 

意図的なものだろう、冷徹な言い様に震えた一人が許しを請う。

だが懺悔の救済は、″磔の呪文″による拷問だった。

 

「ギャアアアアア!!」

「見ろ、彼は十三年分の裏切りを磔の呪文一つで償った、…俺様は寛大だ、お前達を赦そうではないか」

 

今のは見せしめだ、もっとも何人かが安堵の表情を浮かべているあたり、殺されないだけマシなのだろう。

死喰い人達を舐めまわしながら、ヤツは一人の仮面を奪い取る、その顔は俺も知った物だった。

 

「おや、面白いヤツが居るな…」

「お久し振りです我が君、肉体を取り戻せた事は私にとっても歓喜の極み」

「相変わらず白々しい男よ、ルシウス」

 

ルシウスはヴォルデモートを前にしても怯む事無く方便を語るが、その額には一筋の汗が流れている。

 

「誠に申し訳ありません、ほんの僅かでも情報があれば、直ぐに馳せ参じたのですが…」

「何を言う? 魔法省に勤めている同士、お前に伝わっていない筈が無かろう」

「そ、それは…」

 

勤めているだと、魔法省に間者が居るのか?

一瞬硬直するルシウス、それを嘲笑うヴォルデモート。

 

「まあいい、これからの働きを期待しようではないか」

「寛大なお心、感謝致します」

「ルシウスだけでは無い、お前達もだ、十三年間のツケをどう払ってくれるか楽しみだ。

その点、ワームテールや先んじて馳せてくれた者達は多少マシと言える、だが多少に過ぎない、分かっているなワームテール」

「は…はい…ご主人様…」

 

大量出血によって朦朧としながらも、声を搾り出すペティグリュー。

 

「その痛みは報いだ、だが復活に貢献したのも事実、ヴォルデモートは助ける者には褒美を与える」

 

杖を振ると、地面から液状の銀が溢れだす。

それはペティグリューに集まり、新たな義手を構築する。

 

「あ、有難うございます…!」

「その忠誠心が二度と揺らがない事を期待するぞ」

 

そしてヤツは裏切り者には制裁を、アズカバンに投獄された者に名誉を与えると宣言した。

 

「最後に最高の名誉を与えなければならない者が二人居る、一人はホグワーツで任に就きその命を散らしてまで任を達成した、もう彼がここに来ることはないだろう、俺様は彼の死を慎む」

 

バーテミウス・クラウチ・ジュニアの事か、ヴォルデモートが目を閉じると他の死喰い人達もそれに続く。

…殺してはいないが、あれで無事に帰れる筈は無いだろう。

 

「そしてもう一人、四年前俺様が生きている事に気付いたヤツは俺様を支えてくれた、魔法省の内情を探り、復活の策を練り、居なくなってしまった間死喰い人達を纏めてくれた。

彼等二人の働きにより、今宵二人の友人を迎える事ができた」

 

一人はハリーで間違いない、だがもう一人は…俺なのか?

 

「紹介しよう、かつて俺様の手から逃れ、滅ぼし、英雄として担ぎ上げられている男の子、ハリー・ポッターだ」

 

ヤツらの目線がハリーに集まると、ルシウスが一歩前に出て頭を下げながら問う。

如何なる軌跡を辿り、如何なる奇跡を用いたのかと。

 

ヴォルデモートは語りだした、何故ハリーを殺そうとし、呪いが跳ね返ったのか。

どう生き延び、どれだけ惨めな姿になったか。

クィレルを利用し、失敗した時の絶望を。

その時一人が馳せ参じ、ペティグリューを得復活した事を。

 

クルーシオ(苦しめ)!」

 

そこまで語り、ハリーに呪いを放つ。

絶叫を上げるハリーを見つめ、高笑いを悲鳴に響かせる。

 

「見たか! この小僧は何もできはしない! こいつは俺様から偶然と幸運だけで逃げ延びたに過ぎないのだ!」

 

醜悪な笑みを浮かべ拷問を続けるヴォルデモート。

暫く経ちようやく杖を下ろした頃にハリーの悲鳴は止んだ。

 

「宣言しよう、今夜我らが友人ハリー・ポッターを殺すと、そうすればお前達も、魔法省の腐った犬共も俺様の力を信じるだろう…だがもう一人紹介しよう」

 

ヤツの赤い眼が俺を捉える、それを困惑した目で見つめる死喰い人達。

その困惑をルシウスが代弁した。

 

「我が君…この小僧が何なのでしょうか?」

「良い質問だルシウス、まあこいつに関しては知らなくて当然だ」

 

何故俺が主演の一人なのだ、まさかこいつは異能を知っているのか。

考えられる理由はそこ以外見当たらない。

異能を知られるという恐怖に、冷や汗が頬を流れる。

 

「一体どこから説明したものか…よし、ここからだな、それといつまで縛られたフリをしている?」

 

ざわつく死喰い人達、既に見抜かれていたか。

とっくのとうに縄抜けをしていたが、これで不意を突けなくなってしまった。

奇襲を諦め、地面に降り立つ。

 

「見たか? こいつは呪文も使わずに拘束から脱した、四年生とは思えん恐るべき力量だ、…ああ杖はそのままでいいぞ?」

 

…いつでも殺せる自信があると言う事か。

杖を構えたからといって、状況は全く変わらなかった。

 

「さて続きだ、三大魔法学校対抗試合の時、彼にポッターを連れてくる事以外にもう一つ命令したのだよ…キリコ・キュービィーを抹殺せよとな」

 

…どういうことだ。

殺せと命じておいて、ここに主演として迎えられた? 矛盾している。

 

「彼は任務を全うしようとした、第二の課題では100体の水魔を放って殺そうとし、第三の課題では他の選手を操り、自分の手で殺そうとまでした。

…だがこいつはここに居る、分かるか? 俺様に最も忠実だったクラウチ・ジュニアは、たかが十四歳の学生に倒されたのだ!」

 

今までで最も激しく動揺する死喰い人達、ヤツはそんな強かったのか。

 

「だがそれで証明された、この男が何なのか。

…俺様はジュニアに嘘をついていたのだ、嘘をつかねばならなかった。

彼は忠実だ、それ故に…本心を話したら、無意識の内に手心を加える可能性があったのだ」

 

嘘だと、ならヤツが俺を憎んでいた理由も嘘なのか。

俺が立候補したのは、やはりヴォルデモートの思惑の内だったのか?

それならヤツ以外の内通者が居る事になるが…

 

「では本心は何なのか、何故殺せと命じたのか、それは…実験の為だ、こやつが生き残るかどうかの。

だからこそ本気で殺さねばならなかった、もし死んだら俺様の検討違いだったで済むからな」

 

実験、実験だと、まさか、こいつは、俺の事を…!?

確信に近付いていく予感に、俺は怯える。

 

「信じられるか? 100体の水魔どころか大寒波からも脱出し、本気のジュニアを破った事を。

それだけでは無い、クィレルに寄生していた時、俺様はこいつに死の呪いを放った、だがその呪いは―――砕け散ったのだ!」

 

どの死喰い人も驚愕を隠せない、死の呪いは普通防げないのだ、当然の反応と言える。

 

「更に二年生の時はバジリスクの牙に心臓を射抜かれ、尚生き残った! 奇跡でも起こらなければ助からない状況で二回も生き残ったのだ!

これは偶然などでは無い、もうお前達も理解しただろう…?」

 

何故その事も知っている?

いやそれよりも、こいつはやはり…!

 

「―――不死身の存在、それがこの男の正体だ!」

 

隠し続けていた秘密、異能の存在。

それが今、この世界に放たれた。

 

「―――な、何を仰います! 永遠なる存在は貴方様しか…」

「驚くのはまだ早いぞルシウス、その前にこいつの過去を語らなくてはいけない」

 

だが俺にとっての衝撃はここからだった。

 

「こいつは一人で生きてきた、六歳の時火事で両親が死んだからだ、だが本当の両親では無い、真の親、それが問題だ」

 

忘れもしない、俺を庇ってくれた義母の事を、助けてくれた義父の事を。

そして俺を生み、死んでしまった母の事を。

そこに、一体何があるというのか。

こいつは俺の母を知っているのか

 

「…俺様は不死に近い、だが完璧には程遠い、故に不死について誰よりも調べた、そして学生の頃知ったのだ、不死を求める一族を」

 

何かを懐かしみながら語るヴォルデモート。

それが俺の母と、何の関係があるというのだ。

 

「その最後の一人を、俺様は何とか見つけ保護する事に成功した。

純血、半純血、穢れた血、マグル、スクイブ、魔法界で優れた血の順番だ。

…だが知っているか? これよりも、更に下があると」

 

周りの死喰い人達が、急に騒ぎだす。

何となくだが勘づいてきた、この話は単なる昔話ではないと。

 

「教えてやろう、お前の母親の名は―――

―――ジャックリーン・ブラッド、″悍ましき血″ブラッド家最後の生き残りだ」

 

その瞬間、墓場に悲鳴が響いた。

ある者は後ずさりをし、ある者は倒れ、ある者は地に崩れた。

何なんだ、俺の母親は一体何者なんだ。

 

「わ、我が君!? ブ、ブラッド家と、い、今…!?」

 

ルシウスのあの動揺振り、あそこまで恐怖する理由は何なのか。

俺の疑問を見透かすように、ヴォルデモートは話し始める。

 

「知らないだろうから説明してやろう、ブラッド家とは何なのか。

奴等は300年程前、純血の王ブラック家から派生した分家の一つだ、奴等が不死を求めていた理由は分からないが…それを求めたのは事実だ」

 

…それだけでは無い筈だ、それだけで死喰い人があそこまで震えあがる訳がない。

 

「だが奴等の名は歴史に無い、何故だと思う? 実に簡単だ、弾圧されていたのだよ。

不死を求めるという、愚民共曰くの禁忌に手を染めたからだ、…だがそれだけで歴史から末梢はされない」

 

俺は血塗られた運命が、この世界でも尚続いている事を知る事となった。

 

「不死へのアプローチは魔法だけでは無かった、奴等はマグル式…つまり科学にも手を染めていたのだ。

いやまだだ、黒魔術、人体実験、更に近親相姦、家族殺し、大量虐殺、挙句の果てには吸血鬼や吸魂鬼の血や魂まで取り込んでまで不死を目指した。

…当然この様な存在を認める者は、マグル、魔法使い、純血主義者のどこにも居なかった。

そして徹底的な弾圧の末…滅んだのだ」

 

あまりにも無茶苦茶な、そして凄惨極まった歴史。

それが俺の血脈だった。

 

「奴らはこう呼ばれる、″悍ましき血″と、″鮮血を背負う一族(レッド・ショルダー)″と、学者達はこぞって奴等を歴史から末梢した。

その生き残りがお前の母親だ、俺様は保護をする代わりに、研究の成果を提供するよう命じたのだ」

 

では、俺の母もそうだったと。

何人も、欲望の為に殺した悪魔こそが、母だったと。

 

「そして一報が届いた、孕んだ子供に一つの呪文を掛け、成功したと。

″例え何があっても生き残る″という、成功確率250億分の1、その呪文が完成したと

…最も何と交わったかは知らないがな、少なくとも人間では無いだろう」

 

欲望の為に自分の子供さえ実験体にする様なヤツが、俺の母親だったのか。

今更血など気にはしない、それでも俺の心は抉られていた。

…だが。

 

「…俺様は歓喜し彼女の元を訪れた、…だが奴は居なくなっていた。

奴は自分の子供恋しさに、俺様に子供が利用されるのを拒み、逃げ出したのだ!」

 

彼女は逃げていた、俺を守るために。

それは何の贖罪にもならない。

だがそれだけで、心に刺していた徐々に影は消えていった。

 

「刺客を送ったが帰らなかった、あったのは奴と刺客の死体だけ、お前は綺麗さっぱり居なくなっていた。

探そうとしたが、…今度は俺様が滅ぼされてしまった」

 

代わりに沸いてきたのは、母親を殺された事に対する感情。

 

「絶望したよ…完全な不死、その鍵が無くなったのだから、だからこそお前が死の呪いを砕いた時、まさか、と思ったのだ。

そして徹底的に調べた所…大当たりだった訳だ」

 

ヴォルデモートの言葉は耳に入らない、俺の中は既にかつて″神″に対し抱いた思いで埋め尽くされていた。

 

「念を入れこの大会を利用し不死かも試した、それも成功した。

…さあキリコよ、俺様の元へ来るのだ、お前の正体が知られればまともには生きてゆけぬ、だが俺様はお前を迎えよう―――」

「断る」

「…何?」

 

母親を殺された事、俺を利用し支配しようと言うなら―――

 

「例え神にだって、俺は従わない」

 

幾度無く吐き捨てた言葉を、呪詛の様に叩き付けた。

 

「…そうか、なら仕方無い、無理矢理来て貰うとしよう、だがその前に奴を歓迎しなくては」

 

そう言いながら杖を振り、ハリーの拘束を解除する。

そしてヤツは宣言した、決闘をすると。

 

「決闘の作法は学んでいるな? まずお辞儀からだ、格式ある伝統は守らねばならぬ―――」

 

杖を振りハリーの頭を無理やり下げさせると同時に、高らかに叫ぶ。

 

「お辞儀をするのだ!」

 

一瞬の後、磔の呪文がハリーの叫びを呼ぶ。

決闘とは名ばかりの蹂躙劇、それを楽しむヴォルデモート。

助けに行きたいが、流石に喉元に杖を突き付けられてはどうしようもない。

 

「何をしているポッター、逃げてばかりでは恥を晒すだけだぞ?」

 

ハリーは更なる追撃を岩に隠れ凌ぐが、時間の問題。

ヴォルデモートの挑発に反応したのか、ハリーが飛び出し呪文を放つ。

 

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

「アバダケダブラ!」

 

赤と緑の閃光が激突した。

…いやどうなっている、死の呪いが武装解除呪文と激突? そんな筈が無い。

相殺どころか拮抗もできない、だから死の呪いと恐れられるのだ。

 

その現象を目にした死喰い人も、ヤツ等の決闘に目を奪われていた。

今なら脱出できる、だがその後どうする?

 

今の俺ではヴォルデモートに勝てない、逃げるのが賢明。

しかし移動鍵(ポートキー)に触れても戻るのは俺だけ、ハリーはどうすれば良い。

手段を講じていると、再び異変が起こり始めた。

 

ハリーとヴォルデモートを中心に、巨大な黄金のドームが出現したのだ。

こちらからは分からないが、中の二人は何かを見て驚愕している。

 

そして突如膜が弾け、死喰い人達が吹き飛ばされた時ハリーが動き出した。

セドリックに向けて走るハリー、ヴォルデモートは何故か動けないでいる!

チャンスは、今だ―――

 

「え? あ!? ああああ!?」

 

杖を突き立てていたヤツに一本背負いを叩き込む!

キリコもセドリックに向けて走り出す。

キリコはハリーの意図を察していた。

 

ルーモス・ソレム(太陽の光よ)!」

 

逃げ出した事に気付いた死喰い人の目を潰し、二人がセドリックの所に到着するとハリーが杖を振った。

 

アクシオ(来い)・優勝杯!」

 

優勝杯、もとい移動鍵(ポートキー)を呼び出すハリー。

彼等の狙いはセドリックと共に、移動鍵(ポートキー)で競技場に帰還する事だった。

 

「アバダケダブラ!」

 

誰かが放った死の呪い、だがもう遅い。

呪いよりも、移動鍵(ポートキー)が届く方が早いからだ。

―――邪魔が入らなければ。

 

「―――え!?」

 

転がりながら迫っていた優勝杯が、あと一歩の所で止まった。

鼠が、ワームテールが優勝杯を押さえつけていたのだ!

 

まずい、間に合わない。

今の遅れのせいで呪いの方が早くなった、このままだとハリーに当たる。

…なら、最後の手段に賭けるしかない。

 

エクスパルゾ(爆破せよ)!」

 

足元に向けての爆破呪文。

煙幕の中、地面の破片と共に飛ばされる優勝杯とワームテール、キリコ。

 

「―――え?」

 

ハリーは目を疑った。

煙幕の中で、大きな影と緑の光が重なったからだ。

見間違いだ、今のはきっと…

だが無情にも大きな影、…キリコはその場に崩れた。

 

「キ、キリ―――」

 

吹き飛んだ優勝杯が手に触れるのは、現実を認めるよりも速かった。

 

 

 

 

「…ハリィィィ・ポォッタァァァァ!」

 

怨敵を取り逃がし絶叫するヴォルデモート、それに震える死喰い人達。

ところがその暴風は急に収まった、何故なら―――

 

「………死んだの…か…?」

 

地面に倒れこむキリコ、その顔は青ざめ血の気を感じられない。

ヴォルデモートは落胆した、キリコが死んだ事に。

ジュニアを犠牲にしてまで得た理想が、結局偽物だった事に。

 

やはり、完全な不死など無いのか…?

いやこいつは死んだのだ、どう見ても死の呪いは直撃していた。

なら前向きに捉えよう、厄介な相手が死んでくれたと。

…それでも諦めきれず、遺体をもう一度見直す。

 

「…?」

 

違和感、何かが違う。

ヴォルデモートは死の呪いの達人、故に呪いの犠牲者は何人も見た。

 

「…まさか…」

 

だからこそ気付いた、その決定的な違和感に。

 

「…アバダケダブラ!」

 

死体に呪いを放つヴォルデモート、そして―――

 

「―――!」

 

呪いをかわした。

そう、死体が動いた。

呪いの直撃を受けて、キリコは生きていた。

 

「な…!?」

「こ、こんな!? こんなことが…!?」

「…黙れお前達」

 

ばれたか…!

あのまま死体と勘違いしてくれれば、後で逃げれたのだが…

不気味なほど嬉しそうに笑うヴォルデモート。

 

「ククク…やはりお前は本物だ、俺様以上の、完全な不死…

先程の行動を見るに、お前は自分の不死を自覚しているようだな?」

「…………」

「だんまりか…まあ良い、今の俺様は機嫌が良い、…暴いてやるぞ、お前が宿す、不死の呪文を」

 

ヴォルデモートも何気ない一言、それは俺に疑問を与えた。

呪文? 異能生存体の能力は遺伝子に基づく力の筈。

ヴォルデモートが知らないだけなのか、この世界では呪文の力なのか。

 

「…さて、では来て貰おうか、勿論拒否権はないぞ?」

「…………」

 

逃げられない以上、断る事はできない。

だからこそ俺はヤツを睨み付け、支配への抵抗を示す。

 

「強がるものではないぞ? 俺様は多くの心を覗いてきた、だから人の心が分かるのだ。

見えるぞ、恐怖に怯えるお前の姿が………!?」

 

俺と目を合わせると、突然ヴォルデモートが硬直した。

 

 

 

 

(何だ…何だこの男は!?)

 

キリコの心を見た彼は、恐怖していた。

恐怖の象徴と呼ばれたヴォルデモート、彼の姿を見た者は多種多様な感情を抱く。

絶望、畏怖、反骨心、例えダンブルドアでさえ例外ではない。

 

だがこの男は違った。

恐怖の一片も無く、ただひたすらに殺意を研ぐ。

それはヴォルデモートが初めて出会う人間、自分を見て心を一切揺らす事の無い人間。

 

故に彼は、心の底から戦慄する。

人を見る目があるばかりに、理解してしまった。

この男は、誰にも支配できぬと。

 

 

 

 

「わ、我が君…?」

 

声を掛けるルシウスを、ヴォルデモートは突き飛ばす。

この空白の間、何を考えていたんだ?

 

「貴様は…」

「…………」

「お前は何者だ、キリコ・キュービィー!」

 

そう叫ぶヴォルデモートの顔は、まるで未知の存在に怯えている様だった。

 

「…まあいい、来て貰うぞ、逃げれはしないのだから

もっとも場所を知られては困るのでな…!」

 

ハリーは無事に逃げれただろうか、向こうはどうなっているのだろうか。

無事を祈りながら、俺は思う。

 

支配への嫌悪、それ以上の、孤独の悲しみを。

あと何回別れを経験するのか、幾つの死を見届けなければならないのか。

セドリックは、苦しまずに死ねたのだろうか。

 

「―――ステューピファイ(失神せよ)!」

 

闇に沈んで行く意識を、今でも覚えている。

それは、ささやかな祈りだ。

このまま永遠に目覚めなくてもいい。

最後まで人間らしかった彼の様に。

俺にも与えてくれ、永い眠りを―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あり得ない、あり得てはならない…例のあの人が復活したなど…!」

「お気持ちの方、ご察し致します」

「ダンブルドアは私を惑わせ大臣の座を奪おうとしているのだ、そうでなかったら、そうでなかったら…!」

「ご安心下さい大臣、直ちにマスコミに手を回し、ダンブルドアの信用を失墜させるよう手を打ちます」

「おお、…流石君だ、頼りにしているぞ」

「はい、また闇祓いを再編成、死喰い人の活動に対する対策を考案します」

「…!? 何を言っているんだ!? 君はまさかあの男を信じているのか!?」

「滅相も御座いません、…しかし、しかし万一本当に復活なさっていたら…どうなるか分かるでしょう?」

「そ、それは…」

「対策をすればダンブルドアに足元を救われます、しかし事が真実だった場合、貴方は「何もせずのうのうと椅子にしがみ付いていた無能」の烙印を永遠に押されてしまいます。

念には念を、ご安心下さい、ダンブルドアに隙を突かれない様、極秘裏に対策を進めます」

「う、うむ…確かにそうだ、では頼んだぞ!」

「お任せ下さい、是非期待に応えて見せましょう」




時は過ぎ、日は巡る。
今が今であればある程、あの日あの場所が懐かしい。
例えそこが屈辱と涙、血と裏切りに塗れていたとしても。
だからこそ鮮烈に蘇る。
いまだ生きてあり、俺とお前とあいつとこの子。
賢者の混乱、緑の地獄、潜り潜って幽鬼の狂気。
暴走、暴走、また暴走。
百々の詰まりは繰り返し、あの人までがぶっ飛んだ。
切ない程に懐かしい、狂おしい程に懐かしい。
ハリー・ポッターとラストレッドショルダー、第四十四話「レウニオン」。
蘇れ、あぁ、幻影の、あの日あの時。



キリコのオリ設定ですが、実は入れなくてはならない事情がありました。
というのもヴォルは異能について知る機会が無い、つまりキリコとの絡みが生まれない。
よって因縁や絡みが終盤に集中してしまうんですが、これだとシナリオが終盤まで盛り上がらなくなってしまう。
なのでオリ設定を加える事で、キリコとヴォルの絡みを中盤に入れられる様にしたんです。
少々言い訳がましくなってしまいましたが、なるべくブラッド家の話は表に出さない様進めて行きますので宜しくお願い致します。

では今年の投稿はこれで終わりです。
皆さま良いお年を。
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