このままでは働いてる分カン・ユー大尉以下になってしまう…
十月、秋晴れの日差しは暖かく秋風は心地よい。
だがホグワーツの中では、ピンク色の大嵐が吹き荒れていた。
数日前三桁に足をかけたアンブリッジの体罰に対し、マクゴナガルがとうとう切れたのが事の始まりである。
マクゴナガルは生徒への体罰は許されないと言ったのだが、あの
その翌日、日刊預言者新聞の一面は眩しすぎて直視できない微笑を浮かべるヤツが飾っていた。
そこにはアンブリッジが、″ホグワーツ高等尋問官″なるものに指名されたと書かれている。
具体的にどんな権力を得たかまでは書かれていなかったが、その横暴は後日存分に味わう事ができたので知る必要はなかった。
奴は授業中の所に乗り込み、教師への質問もとい授業妨害をしまくっていた。
マクゴナガルの所に乗り込めば魔法省の教育方針と違うと言い、フリットウィックの伸長をメジャーで図るのは日課と化している。
スネイプの逆鱗を突っつくような真似にスプラウトの服を一々嗅いでは鼻を摘まむ。
俺はもはや、よくあそこまで人を苛立たせられるなと感心するしかなかった。
しかしこれだけやっても文句が出ないのは、一重に権力があるからだ。
ヤツはやろうと思えば教員を解雇する事ができる、教員達は理解しているのだ、今やるべき事は教鞭を取る機会を失うことではなく、少しでも生徒が学ぶ様務める事だと。
しかし、それから数日後とうとう恐れていた教師追放が起こってしまった。
対象となったのは占い学の担任シビル・トレローニー、占い学というのは元々具体的な成果が見えにくい科目ではあるが、彼女の曖昧な授業進行が止めとなった。
ここ以外に居場所はないと泣きすがるトレローニーを「決定事項です」と、吐き気を催す微笑で突き放すアンブリッジ。
力なく崩れる彼女に駆け寄るマクゴナガルだが、千の言葉を掛けても彼女の首は変わらない。
だが稀に核心的な予言をする彼女を、放っておくダンブルドアではなかった。
ヤツは「ホグワーツから追い出す権利は、まだ儂にある筈じゃ」と反論したのだ。
屁理屈もいい所だが実際その通りな以上ヤツには何もできず、苦虫を噛み潰した様な顔で負け惜しみの言葉を綴るのが精一杯。
その様子に、何人の生徒の濁飲を下げた事だろう。
仕返しと言わんばかりに、『審問官の許可の無い団体は全て禁止する』という教育令が出て暫く。
キリコはダンブルドアに呼び出され、応接間に居た。
しかし用があるのはダンブルドアでは無く、他の人物である。
「また会えたなキリコ」
「…やはりお前か」
そもそもキリコを知っていて、かつ応接間に通さねばならない様な人間等彼くらいしか居ない。
「随分元気そうだな、いや、まだ少し窶れているな。
当ててやろう、あのホグワーツ高等尋問官様のせいだろう」
これは別にキリコに限った話では無く、どの生徒も似たような状況である。
「まあ私が今日来たのは、その尋問官様の仕事振りを確認する…という建前。
実際はお前に会いに来たのだ」
ロッチナが私的に会いにくる、キリコは今すぐ逃げたいと思っていた。
「簡潔に言うと頼みがある、お前にしかできない事だ。
そしてそれは、お前にとってもメリットがある」
キリコにしかできない頼みとは何なのか、彼は首を傾げる。
「以前も言ったが私はより強い権力を求めている、だがそれにはあの女が邪魔なのだ。
…単にムカつくというのも大きいが」
(そっちが本心なんじゃないか)
実の所権力闘争六割、私怨四割なので嘘とも言い切れない。
あのロッチナをイラつかせる程の才能を、彼女は持っていた。
「…ここまで言えば、私が何を頼みたいか分かるだろう?」
「…見返りは」
「フッ…」
この遣り取りでキリコはロッチナの狙いに気付く、それと同時にデメリットとメリットを天秤に掛け、乗るか乗らないかを探る。
「…神秘部に予言の保管室があるのは知っているな?」
「…ああ」
キリコは以前ダンブルドアが話していた、トレローニーの予言を置きに行った事を思い出していた。
「…もう一つあるのだよ」
「…何?」
「お前に関する予言はもう一つ存在しているのだ、その場所を教えよう」
「…………」
目を見開いたキリコは、思わず聞き直す。
そして不味い、と思った。
トレローニーの予言にもあった様に、キリコの過去が書かれている可能性があるからだ。
予言はそれに関係する人物しか取る事ができないので、放置しておく事もできる。
しかしこの予言に、キリコ以外が関わっていたらどうなるだろうか。
彼以外の誰かが、その過去について知ってしまったら…
このメリットの様に見えて実の所脅迫に等しい情報に、彼はロッチナを睨む。
だがロッチナはいつも通り、不敵な笑いを返すのみ。
「フフフ…さあどうする? 別に私は構わないが…」
構わないも糞もない、選択肢を選ぶ余地も無い。
狙われた一択問題を前に、キリコは小さく呟いた。
「…分かった」
「そうか、それは助かる。
…あー、まあその分見返りも増やそう」
多少は申し訳なく思ったのだろうか。
そんな筈は無い、そんな事を思う性格で無いのは明らかだ。
「フフフ…これでやっとあの女を視界に納めなくて済む」
良い交渉結果を得れた事に満足したロッチナは、置かれた紅茶を飲み更に満足げとなる。
「うむ、やはり紅茶は良い、香りも一級品だ…」
手元に置かれた紅茶を飲むキリコも、その感想に同意する。
だがその豊かな気分は、次の瞬間消し飛ぶ事となる。
「本当にコーヒー等とは比較にならない、あんな
「…何?」
あからさまに不機嫌になるキリコ。
だがコーヒーを比較対象にして紅茶を褒め称えるロッチナはそれに気付かず、上機嫌で地雷原をスキップしていた。
「英国人に生まれた事を誇りに思うよ、幾ら革命運動だからといって、本当に紅茶を海に捨てる様な
「…………」
「いや? だからいまだに泥水を啜っているのか…?」
キリコはロッチナに杖を突き付ける、彼はコーヒー派だったのだ。
「…まさかお前、コーヒー派なのか?」
「…………」
「そうか、なら許す事はできない、今から私とお前は敵同士だ」
誇りと意地が、今ぶつかり合った。
…数分後、応接間が謎の大爆発を起こした。
瓦礫の跡地に駆け付けた生徒達が見たのは、マクゴナガルに正座で説教されている黒焦げの生徒一人と大人一人だった。
*
ロッチナとの交渉から数日、キリコはハーマイオニーから図書館に呼び出されていた。
「…自己練習か」
「そう、もうあの女には我慢ならないわ、あんなのを当てにしていたらいざという時何もできずに遣られてしまうわ」
アンブリッジの授業は一切為にならず、防衛術の本懐を成していない。
ならば自分達で練習し、自らを守る術を身に付けなくてはならない。
その為の組織をハーマイオニーは計画していた。
「でも一つ問題があるの、それは私達に教えてくれる人が居ないのよ」
防衛術は実践あってこそだが、実戦経験のある学生は殆ど居ない。
しかし教員はアンブリッジに監視されている以上、教える役は生徒から選ばなくてはならない。
では、実戦経験豊富な生徒とは?
「…俺に教師役をしろと?」
「ええ、この中で一番実戦経験があるのは間違いなくキリコかハリー、でどっちが強いかは明らかだわ」
実際その通りだが、本人の前で言ってしまうハーマイオニー。
現に後ろのハリーが少し悔しそうな顔をしているが、それでも文句を言ってこないのは事前に了承済みだからだ。
「無論ハリーにも手伝ってもらうわ、キリコもアンブリッジの授業を受け続けたくはないでしょ?」
腕を組みながらキリコは、つい先日出た新たな教育令について思考する。
『尋問官の許可のない学生の団体は、これを禁ず』という、以前受けた屈辱に対する仕返しじみた規制。
これにクィディッチチームまで含まれていた時の衝撃は大きい、…もっともグリフィンドールのキャプテンアンジュリーナがアンブリッジに付き纏い続け、許可をもぎ取ったのは有名な話である。
「…分かった、引き受けよう」
「本当に!? よかった、断られたらどうしようかと…」
「だが条件がある」
「条件?」
一体どんな無理難題を押し付けられるのだろうか、不安になるハーマイオニー。
しかし飛んできたのは、予想を遥かに下回る要望だった。
「…集まりの運営に俺も関わりたい」
「何だそんな事? むしろお願いしたい位だわ、…この二人が組織維持に役立つとは思えないし」
「…何だかさっきから僕達に辛辣な気がするんだけど」
ロンのぼやきを完全無視するハーマイオニー、この中でアンブリッジに一番苛立っているのは、実は彼女である。
…ともあれ組織の運営に関わる事になったキリコは、多忙な数日を送る事になった。
*
組織の下準備とアンブリッジの横暴に揉まれながらも、時はあっと言う間に過ぎて行った。
そして組織の初会合の今日、彼等はホグズミード村に集まっていた。
…尚キリコとハリーは当然許可がないので、共に透明マントを被りながらそこに辿り着いた。
「…埃臭! 本当にここでするの?」
「そうだ」
入った建物の名は″ホッグズ・ヘッド″、ホグズミードの端にある寂れたバーだ。
だが店内に人気はなく、しかも店主の格好のせいか埃の臭いが充満している。
普通に考えれば密会の場としては不適切だ、こんな人気の少ない場所に学生だけで入って行くなど、今から何かしますと言ってる様なものだ。
しかし、だからこそここを選んだ。
人気が無い分間者が居れば一発で分かり、忘却呪文を叩き込めるからだ。
しかもホグズミード村なので、″臭い″も実質無効である。
「あ…キリコ、遅かったねー…」
二階の小部屋に付いた二人を出迎えたのは、何やら疲れた様子のキニスだ。
部屋には彼以外にも、中々の人数が集まっている。
総勢約20名、それがこの組織に賛同した人数である。
中々の人数にキリコが感心していると、ハーマイオニーが組織の概要について演説し始める。
演説が終わり、各自各々に帰っていくのをキリコは見届ける。
この後ハーマイオニーと会議をしなければならないからだ。
肝心の演説は、途中文句を言ってくる人や疑問を言う人が居たが、かなり順調に進み、最後は全員納得して帰って行ってくれた。
無論まだ文句がありそうな人や、裏切りそうな人も居るが…
「…ふー、取り敢えずスタートは順調ね、じゃあ次は何処で練習するかね…」
一言に練習場所と言っても簡単では無い、狭すぎれば練習できず、かといって秘匿性が無ければアンブリッジにバレてしまう。
「…禁じられた森はどう?」
「無理だな、あれだけの人数では見つかってしまう」
「じゃあ…ホグズミードの何処かに…」
「遠すぎる、機会が減ってしまう」
あっちを立てればこっちが立たず、頭を悩ませるハーマイオニー。
…だがキリコは知っていた、その条件全てを満たす場所の存在を。
「…″必要の部屋″」
「え?」
何それ、といった表情のハーマイオニーに、キリコは概要を簡潔に説明する。
「…必要な時だけ出現し、用途に応じた場所が現れる部屋だ」
「そ、そんな部屋があるの? 聞いた事ないわ…?」
「…だが、実在している」
信じられない様子の彼女だったが、話を聞く度に表情は変わり、すぐにその存在を理解した。
そしてそこ以外の候補も思いつかなかった彼等は、組織の練習場所を必要の部屋に決定する。
最後に組織の名前について話し合う事になったが、ここは大して凝りもせず″防衛協会″というシンプルな名に纏めた。
「…それじゃあ、最初に集まる日はこの日で決定ね!」
そう言い残し去っていくハーマイオニーを見送るキリコは、一人別方向に歩き出す。
一体何をしようというのか、その先には叫びの館の跡地があった。
何てことはない、許可が出ていないキリコは正攻法で帰れない、かつての抜け道を使いに行っただけだったのだ。
*
防衛協会の、記念すべき第一回目の練習、彼等はキリコの提案通り、必要の部屋に集結していた。
最初に誰がリーダーをやるかでひと悶着あったが、キリコが直々にハリーを指名し、彼も了承したのでハリーがリーダーとなった。
「最初は…″武装解除呪文″かな?」
「…そうだな」
武装解除呪文は所詮、三年生で習う様な基礎中の基礎の呪文でしかない。
だがその実用性は全呪文の中でもトップクラスである、何せ消費魔力も少なく動作も素早い。
それに魔法使い同士の戦いは杖で行われる為、杖を奪われれば全ての攻撃手段を失い無力化できる。
予備を持てばそれを防ぐ事はできるだろう、しかし持ち替えの隙が生まれる事に変わりはない。
それに上手く当てれば対象を吹き飛ばす事もできると、とにかく便利な呪文と言える。
高い性能に低い魔力消費、そして覚えやすい、最初に覚えるならまさに理想的である。
「よし、じゃあ最初はそれから始めよう」
そこから練習が始まったが、彼等は肝心な事が頭から抜けていた。
そもそも武装解除呪文を撃った事のある人間が、ここに何人居ただろうか。
…居る訳が無かった。
「エクスペリアーーーーッ!?」
「さあ来「
「エックスンペアァァムッス! …何も起きないな」
呪文が逆流した事による自爆。
照準が外れ隣に飛んでいき誤爆。
そもそも綴りが違っている者、等々練習処では無く、まず真っ直ぐ正しく呪文を撃つ所から始める事になったのであった。
幸い慣れていないだけだったので、暫く練習した結果一先ず真っ直ぐ飛ぶ様にはなった。
そこまでくれば後は実践あるのみ、二人でペアになり呪文を撃ちあう、実戦形式の訓練に移行していく。
後はキリコやハリーが助言をしつつ、それをひたすら繰り返すだけの単調なやり方になる。
しかしもっとも効率的なのは確かであり、かつ実際にやり合う分面白いのか、全員飽きずに練習に取り組む。
それを時間一杯続けた後、初日の練習は終了となった。
それから一週間、この位になると全員の成長が明らかになってくる。
中でも特に成長が著しいのが、ルーナ、ジニー、ネビルの三人だ。
ネビルの成長は意外かもしれないが、それもその筈、彼の失敗は自信の無さが原因だったからだ。
呪文は多少なりとも精神状態の影響を受ける、だから自信が無い彼は、呪文を良く失敗していたのだ。
その自信をこの訓練で補った結果が、今の成長である。
無論彼等以外も、順調に成長している。
それと共に上がっていく意識のまま、今日の練習を始めようとした時の事だった。
「キリコ、今日は何をする? もう皆武装解除呪文はできる様になったし、そろそろ次の呪文に移ろうと思うんだけど…」
「…いや、それは必要無い」
「…そうね、確かに複数の呪文を覚えようとして半端になるよりは、一つを極める方が…」
「…そうではない、もう練習する必要は無い」
「…? ど、どういう事?」
キリコの要領を得ない言葉に、首を傾げるハリーとハーマイオニー。
中々練習が始まらないなと、気になりだしたメンバーが彼等の元に集まっていく。
その時、キリコが笑った。
「…!? 扉が…?」
「ま、まさか…!?」
「その通りですよ、生徒の皆さん…ウフッ」
この場に居る誰もが絶句した、何故、何故アンブリッジがここに居るのかと。
もっとも知られてはならない危険人物の登場に唖然とするハリーに、アンブリッジが喉をゴロゴロ太った猫の様に鳴らしながら詰め寄って行く。
「尋問官の許可の無い組織は、これを禁ず…エヘン、これは何の集まりですか?」
「な、何であいつが…だ、誰が…」
「まあ言うまでもありませんね、″防衛協会″、ハーマイオニー・グレンジャーが発案者となり、ホッグズ・ヘッドで組織された」
「!? どうしてそこまで…」
「ウフッ、どうしてだと思います?」
ハリーとハーマイオニー、いや、先程の笑みを見た人達はその時点で察してはいた。
だが彼に対する信用が、それを認めまいと、思考を曇らせていたのだ。
しかし、それに関わらず現実は非情にも、その真実を告げる。
「ミスターキュービィーは非情に賢い選択を取りました」
―――キリコだ、キリコが裏切ったのだ。
「う、裏切ったのか!?」
「そうだ」
「!!」
否定してほしかった言葉を、息を吐くようにキリコは肯定した。
その目には罪悪感も達成感も感じられない、まるで裏切りが当然であるかの様に、冷静そのものだ。
だがキニスはそれをまだ認めず、喉を絞り叫ぶ。
「そんな事無い! キリコが裏切ったなんて事ありえ―――」
「
「!!」
キニスの頬を閃光が掠める。
当たれば冗談では…いや、人を殺しかねない呪文。
キリコはそれを、親友に向けて一切躊躇なく撃ち込んだ。
それこそが決別の、何よりの証拠である。
「そ…そんな…嘘だ…」
「見ての通り、ミスターキュービィーは貴方方の様な劣等生とは関わりたくないそうです。
では教育令違反により…全員退学とします!」
「!!」
「正式な知らせは後から教えますわ、残りの学校生活を存分に楽しんでくださいね?」
恨みと怒り、悲哀と絶望。
様々な視線がキリコの背中を射抜くが、彼はむしろ心地よさそうに笑うだけ。
この視線が意味するのは決別、だからこそ彼は、無能共と完璧縁を切れる事が嬉しくて仕方が無かったのだ。
(友情、愛、信頼…
やっとだ、やっと煩わしいモノから解放された。
まだ完璧ではないが、俺は圧倒的な権力を手にする第一歩を踏んだのだ。
この力で何をする? どうヤツ等を甚振ってやろうか。
これから始まる楽しい学校生活、俺は今から楽しみで仕方が無かった…!)
かつてこの城を覆っていたあの美しさに満ちた白い光は既に無い
一人の暴虐が自由を押し流し、大地を洗い直したかに見える
だが、秩序だったかに見える大地の皮一枚下に食い込む、悍ましい核の槍
核に騙され核に泣く
忘れたのか、こいつがあいつをどう殺したか
核にすがって踊る女が一人
次回、『アーミー』
幻影の規律を脅かす、あの目、あの髪
うわー、何てこったい、キリコが裏切っちゃったー。
ホグワーツはもー終わりだー、どーしよー。