【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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ヌルメンガードの構造は独自描写が中心です。
だって原作でも碌に描写されてないんですもの。
ファンタビで細かくやるんでしょうか?

キリコの日帰りヌルメンガードツアー
ゲラート「あっ(察し)」
ヌルメン「あっ(察し)」

あ、あと再戦フラグが立ってたあいつとの決着がつきます。



第六十六話 「因縁」

『より大きな善の為に』

 

 その言葉が深々と刻まれた、巨大な門。

 地滑りの如く、地面を移動し続ける巨大な建造物、ヌルメンガード。

 

 ドイツ魔法省は機能の殆どを消失しつつも、ある事情により、此処だけは運営を保っている。

 巨大監獄の中央棟、その頂上で、一人の老人が新聞を読みふけっていた。

 

『ホグワーツ生徒のマグル保護者リストを英国軍へ譲渡。本格的なマグル狩りが始まる。シックネス政権の実績になりうるか?』

『旧アメリカ合衆国、ノーマジ派と魔法使い派による、第二次南北戦争始まる』

『ドイツ、核により国土の三分の一を消失』

『キリコ・ブラッド・キュービィー。魔法界、マグル界共に全世界で指名手配。報酬金は一億ガリオン』

『英国魔法省、傘下に入る国家に核除染魔法による支援を行うと発表』

 

 本来新聞など、入手できる筈もない。

 彼の居る檻は、他の何よりも厳重に監視されている。

 それでも尚入手できているのは、彼が他の誰よりも超常的な魔法使いだからに他ならない。

 

 痩せこけた肌に、深く刻まれた皺。

 この姿を見て、彼が彼だと分かる者は、一人しか居まい。

 

 そう、ヌルメンガードがまだ無事なのは、この男を捕えて置く為なのだ。

 かつて、『史上最悪の闇の魔法使い』と、()()()()()()()

 アルバス・ダンブルドアと史上最大の決闘を行い、敗れた男。

 そして、彼の親友だった男。

 

 彼の耳に、階段を登る、規則的な音が聞こえる。

 ふむ、おかしい、食事の時間はまだだったと思うが。ということは、いよいよ私はボケてきたという事か?

 所がそういう訳でもなさそうだ、警備も何やら首を傾げている。

 

「おい、交代の時間はまだ───」

 

 不審に思った警備兵が、そう言いかけた瞬間、彼の意識は刈り取られた。

 暗い廊下を、蝋燭が照らす。

 蝋燭に照らされ、揺らめく赤い影、青い髪。

 彼には彼が誰なのか、直ぐに分かった。新聞の一面を飾る有名人が目の前に立ち、言った。

 

「お前が、ゲラート・グリンデルバルトか」

「その通りだ、キリコ・ブラッド・キュービィー」

 

 異能生存体と、死の秘宝を求めた男。

 二人の出会いが、過去に秘められた真実を紐解く。

 

 戦闘機を使い、どうにかドイツへ逃げ切ったキリコは、『地図』と『鍵』を使い、常に移動する姿の隠された此処へと辿り着いた。

 その『鍵』を使い、ゲラートの牢を開け、傍に近寄る。

 

「それで? 今をきらめく有名人が、この老いぼれに何の用だ?」

 

 ゲラートは既に過去の人物。ダンブルドアに敗れ、帝王の座も今やヴォルデモートの物だ。

 『ニワトコの杖』について聞きにでも来たのか?

 キリコの人物像を知らないゲラートは、幾つかの推測を重ねる。だが答えは、そのどれでもなく。

 

「『ワイズマン』」

「!!」

「その様子だと、知っているらしいな」

 

 ダンブルドアは何故、ゲラートがワイズマンを知っていると推測したのだろうか。

 それは、あの頃抱いていた、僅かな『違和感』にある。

 明確な証拠はないが、ゲラートと親友として付き合っていた頃と、敵対していた頃の彼とでは、確かに何かが違っていたのだ。

 そしてそれは、まさしく『正解』だった。

 

「……成程、お前と私は、同じだったという訳か」

「お前は何処まで知っている」

「……ワイズマンは、私の協力者であり───」

 

 そして、過去が暴かれる

 

「───私の、敵だった」

 

 

 

 

 ゲラートとダンブルドアの出会いは、偶然だった。

 叔母のバチルダの元を訪れた時に出会い、共に優秀で……そして、現状に縛られていた者同士、瞬く間に親友となった。

 彼等は、ある計画を練った。

 『死の秘宝』を制し、『死』の支配者となり、魔法界を統べること。

 賢い魔法使いが、マグルを支配する世界を作ること。

 

 だが、彼等は道を違える事となる。

 ダンブルドアは妹、アリアナに縛られていた。彼女の魔力は幼い頃マグルの暴行を受けたせいで、非常に不安定になっていたからだ。

 それから逃げる様に計画に打ち込んだ彼に、たまたま帰って来ていた弟のアバーフォースは、激怒した。

 

 口論の末、脅しのつもりでゲラートが放った呪いが、三つ巴の笛を吹く。

 その末に……流れ弾により、アリアナは死んだ。

 

 ダンブルドアは後悔した、自分の傲慢さを。

 ゲラートは恐れた、親友の妹を殺したかもしれない可能性に。

 

 それでもゲラートは計画を諦めず、ドイツを拠点に様々な活動を行った。

 テロ行為、ヌルメンガードの建設、それらは悉く上手く行き、彼の計画は結実に近づき始める。

 

 彼は違和感を抱いた、成功率が高いのも低いのも、悉く上手くいく事に。

 

 何かが、居るのではないか。

 調べ始めた、今まで起こした全ての事象を、事柄を。

 全ての行動。

 それが成功するように、たまたま動いていた人々。

 たまたま人々が動いていた、その原因。

 

 魔法省、否、『予言』。

 予言が、ゲラートの計画を手伝っていたのだ。

 

 彼は知った、その予言を出していた存在を。

 いや、たまたま叔母の元を訪れるようにし、たまたまアバーフォースが帰宅するようにしていた存在を。

 

 『ワイズマン』

 

 彼は激怒した、全てがこの存在の茶番だった事に。

 求めたのは『力』。

 『ニワトコの杖』、『オブスキュラス』。

 全てはワイズマンを倒す為だった。

 

 だがワイズマンの名前がヒントのように隠されていたことこそ、罠だった。

 自分を追う者を始末する為の釣り餌。

 全てが上手く行かなくなった、ニュート・スキャマンダーがニューヨークに来たことも、ダンブルドアとの対決も、全てが仕組まれたことだった。

 

 

 

 

「……後は知っての通り、私は負け、此処に居る」

「…………」

「私は悔しい、アルバスに負けたことでも、ワイズマンに負けたことでもない。あの青春の日々が、情熱の日々が、誇り高き魔法族の歴史が、全て何もかもヤツの掌であったことが!」

 

 キリコは彼の慟哭を、黙って聞いていた。

 彼に気遣ったというよりは、ワイズマンの力に圧倒されることで。

 

「……お前も恐らくヤツの掌に居る、ヤツの存在を知り、追っているのなら。言ったろう、魔法省はヤツの五臓六腑だと」

「何?」

「二年前の魔法省崩壊事件、その混乱の一端は、騎士団に襲撃を掛けたファッジ率いる闇祓いにある。では聞こう、何故ファッジは騎士団を襲った?」

 

 キリコはあの時の記憶を探り、思い出す。

 確か、ファッジの証言によれば、騎士団が魔法省に現れ、そして崩壊するという()()を信じたからだ。

 

「…………!」

「気付いたようだな、既にお前も、ヤツの掌に居る」

 

 まさか、魔法省で起きた全てもワイズマンの意図したことなのか。

 では、ワイズマンは魔法省に居るのか。

 しかしゲラートは否定する。

 

「私の調べた限り、魔法省には居ない、あくまであそこは手足、心臓の場所までは、潜んでいる場所は分からなかった」

「……ヤツの狙いは何だ」

 

 何故ワイズマンは、マグル界を支配しようとするゲラートを支援したのか。一体あの神はこの世界で、何を目指しているのか、キリコは知らなくてはならなかった。

 

「ワイズマンの目的は、歴史を紐解けば分かる。それは、全てヤツが関わっている前提を組まねば気付かぬ程に巧妙だが、確かにその痕跡を残しているのだ……それも、釣り針だったのだがな」

 

 自分を追う為を誘き出す為の罠は、歴史にすら仕込まれていたのだ。

 だがそれこそが、目的を浮かび上がらせる欠片になる。

 

「純血思想、魔女狩り、そして私の計画。マグルとの対立を引き起こす事柄に、ヤツは必ず居た」

「……対立」

「そう、ワイズマンの目的は、『マグルと魔法族の全面戦争』に他ならない!」

 

 全面戦争、終わりなき戦い。

 キリコは瞬時に気付いた、ヤツはあの銀河(アストラギウス)を再現しようとしているのだと。

 しかし何故、今更そんなことをするのだろうか? その問いにゲラートは答えられなかった。

 

「そこまでは分からない、がもう一つ二つ、分かることはある。

 一つは、ワイズマンは今、ヴォルデモートの背後に居るということだ」

 

 全面戦争がワイズマンの目的なら、確かに今の状況はヤツの理想と言える。

 それを引き起こしたのはヴォルデモート、成程、ヴォルデモート自身が知っているかは分からないが、関わっているのは確実。

 

「もう一つは、この状況が更に酷くなるという事だ」

「…………!?」

「今はマグルの一人舞台だ、マグルが魔法族に干渉する手段はないのだから。それは様々な『結界』によって守られているからに他ならない。では、それが壊せるとしたら……どうなる?」

 

 マグルがマグルを殺し、無防備となった市街地を、ひたすら蹂躙し尽くす。

 アストラギウスですら見れなかった、悪魔のサバトが、容易く想像できてしまう。

 

 その時、彼等を巨大な轟音が貫いた。

 小さな鉄格子から外を見たキリコは、唖然とした。

 

 戦車、装甲車両、爆撃機。

 あらゆる重兵器が、群れを成してヌルメンガードを破壊し始めたからだ。

 そう、様々な結界で守られている筈の、此処が。

 結界が、消えた。

 

「ククク……始まるぞ、役者も、観客も、監督も巻き込んで、会場ごとぶつけ合う大舞台(クロスオーバー)が!」

 

 叫ぶ彼を尻目に、キリコはすぐさま脱出の準備を始める。その為にまず、一本の薬瓶をゲラートに渡す。

 

「此処を出たいなら、飲め」

「こいつは、『幸運の液体』か? 何故こんな物を……いや、それはどうでもいいか」

 

 ゲラートは長年の牢獄暮らしで衰弱しており、脱出は難しい。その為これを彼に手渡したのだ、後は彼が脱出の意志を持っているかどうか。

 

「……ククッ、そうだな、このままでは終われない」

「外に車と運転手が居る」

「分かった、ではありがたく行かせて貰うとしよう」

 

 余談だがこの『運転手』とは、例の武器商人である。

 何故彼がこんな所に居るかというと、脱出のドサクサに紛れ、『検知不可能拡大呪文』を掛けたケースでコックピットに潜っていたのである。

 この『車』も、彼から買った物なのだ。

 

アーマード・ロコモーター(装甲起兵)

 

 警備兵とマグル軍との戦闘音が聞こえる、見つからないように、などという暇はもうない。

 スコープドックに乗り、ゲラートを掴んで、監獄棟から一気に階段を走り下りて行く。

 

「…………?」

 

 おかしい、外では戦闘音が聞こえるのに、中には人一人っ子居ない。

 いや、居るには居るが、全て気絶させられているのだ。

 一体、誰が。

 それは、辿り着いた先に、エントランスに居た。

 

「…………!」

「……遅かったな、キリコ」

 

 エディア。

 いや、イプシロン。

 ストライクドッグが、待ち構えていた。

 

「戦闘機を奪取してまでドイツへ向かう理由など、此処くらいしかないと思ったが、当たってくれたらしい」

「……先に行っていろ、薬は保つ筈だ」

 

 一人語るイプシロンと、ゲラートを逃がすキリコ。

 二人の間に、それ以上の会話はない。

 言いたいことはとっくのとうに済ませている、残されたのは、ただ一つ。

 

「もう茶番はうんざりだ、今日、今、此処で、決着をつけさせてもらう」

「……そうか」

 

 勝つか、負けるか。

 

「行くぞ!!」

「…………!!」

 

 本当の決着を付けるべく、本物と紛い物が、再び激突する。

 ATの性能の違いか、先に動いたのはイプシロンだった。

 

 僅か一瞬の間にソリッドシューターと機銃の弾幕がキリコの退路を消す、その合間を縫うように動き、致命的な攻撃だけ的確に撃ち落としていく。

 だがイプシロンは既に『影』になる呪文によって、目前まで迫っていた。

 一撃で致命傷を作るクローが突き出されるが、超人的な反応速度でいなし、逆にアームパンチを撃ち込む。

 

 反撃を予見していたイプシロンは一瞬で距離を離そうとする、その直前、退路に向けてライフルが放たれていたことに気付く。

 逃げられない、なら、食らいつく。

 逆にキリコへ突っ込んで行くイプシロン、咄嗟に打ち込んだターンピックが姿勢を安定させ、受け止め、逆にストライクドッグが投げ飛ばされる形になった。

 

 空中に投げ飛ばされたイプシロンは追撃を防ぐ為機銃をばらまき、キリコも距離を取る為そのまま離れて行く。

 地面へ激突するイプシロンと、その瞬間を狙うキリコ。

 しかし衝突の瞬間影に姿を変え、瞬時に戻ることで、高速での体勢復帰を実現した。

 チャンスを失ったキリコは、再度攻撃を始め、イプシロンも呼応する、ここまで僅か三秒間。

 

 張られる弾幕、爆発の轟音、ローラーダッシュの軋み。豪雨のように互いを飛び交う銃弾は、お互いに掠りもしない。

 たった一発の被弾が命取りになる、逆に言えば、一発当たれば勝負は決する。

 それを理解している彼等は、確実なる先手を取りにいこうと強襲し、先手で返し、拮抗し振り出しに戻り続ける。

 呪文で小細工する間などない、杖に持ち替える間にやられるのは明らかだった。

 

 ヌルメンガードの中と外では、この瞬間もマグル軍と警備兵の激しい戦いが行われている。

 しかし彼等の周りには、マグル軍も警備兵も、囚人も誰一人として居ない。

 いや、まるで核がさく裂したかの如く、ある特定の距離から絶対に近づこうとしないのだ。

 

 本能的に理解していた、異能生存体とPS、近づけば確実に死んでしまうと。

 だが彼等は見誤った、デッドラインはそこではなく、この戦場全てが死の傘下だということに。

 

「ぎゃあああああ!?」

 

 流れ弾が跳弾し、装甲車両の当たってはいけない箇所に直撃、爆散。

 残念ながらここはリアルバトルの会場では無く、このスリリングなワンシーンを楽しめる最低野郎は居なかった。

 

「逃げろおおおお!!」

 

 蜘蛛の子を散らし逃げ出すオーディエンス、かくして観客は消え、役者一人、観客一人の舞台が完成した。

 決闘を邪魔する者も、見る者も居なくなった時、遂に決着のトリガーが引き絞られる。

 

 ささやかな偶然、ヌルメンガード自体を攻撃した戦車砲の一撃が、天井を崩す。

 崩れた天井から落ちた瓦礫が、スコープドックの進路に落ちる。

 このまま行けば僅かに減速する、かわせばその分減速する。

 鋭敏なばかりに気付いてしまったキリコ、僅か一瞬思考の海に沈んだ隙に、イプシロンは全てを賭けた。

 

 ソリッドシューターの残弾を全て吐き出し、あえてそれを自分で撃ち抜き、誘爆させる。

 爆炎の煙幕が、キリコの視界を覆う。

 いくら生まれながらのPSといえど、見えてないものをかわす手段はない。

 

 クローに搭載された機関銃が、スコープドックを襲った。

 鉄屑同然の装甲は容易く撃ち抜かれ、蜂の巣にされていく。

 しかし、異能生存体たるキリコに、それは当たらない───筈だった。

 

「……ッ!」

 

 装甲を貫通した弾丸が、キリコの肩を、足を、そして……肺を貫いた。

 『死』だけは絶対に回避する異能の力。

 高まった果てに、傷一つ負わなくなる程の力。

 では何故、キリコは今傷を負ったのか。

 

 イプシロンは、キリコを殺そうとしていなかった。

 殺そうとすれば、必ず敗北することを理解していたイプシロンは、その切れ味のいい殺意を、極限、限界、臨界まで研ぎ澄ました。

 そして、産まれた。

 『殺意』の全てを勝利への『闘志』にまで、練り上げた硝子のナイフが。

 

 殺すつもりはない、必ず殺す程の勢いで、勝ちに行く。

 刃が、キリコの喉元に突き付けられる。

 最初から、異能の魔法は解けていたのだ。

 

 迫る、迫る、迫る。

 意識から追い出そうとしても、神経を貫く激痛が、キリコを縛り付ける。

 牽制の弾幕も、あらぬ方向へ逸れ、意味を成さない。

 

 勝利のクローがキリコの喉元に食らいつこうとする、異能なきキリコなど、ただの一兵士に過ぎないのか?

 ……否、そんな筈がない。

 キリコは杖を構え、恐るべき大博打に打って出た!

 

「ッ!?」

 

 イプシロンが目を見開く。

 何かしてくるとは思っていた、だが……これは想像できまい。

 

 スコープドックの下半身が、爆散した。

 

 姿勢を保てなくなり、前のめりで地面に落下する上半身。

 何かが来る!

 『影』に姿を変え備えようとするが、余りに予想外の行動に、動きが一瞬遅れる。

 ほんの0.001秒足らずの誤差、だが彼等には永遠に等しい。

 

 前のめりで落下したスコープドックが、跳ねた。

 

 アームパンチを射出機代わりにし、ストライクドッグへ向けて突っ込んだのだ。

 逃げ遅れ頭突きを喰らったイプシロンを、コックピット越しのアーマーマグナムが貫く。

 反応は出来る、が、狭いコックピットでは致命傷を避けるのが限界。

 

「ぐぅっ!!」

 

 腕に、肩に、風穴が空く。

 射程内だったクローも、低下した操縦技能では、致命傷に届かない。

 スコープドックの横腹がひしゃげ、千切れる。

 アームパンチが、ストライクドッグの頭部を歪ませる。

 

 お互いのコックピットが破壊され、お互いが投げ飛ばされる。

 宙に浮き、墜落。

 衝撃が空気を、肺から押し出す。意識が途切れかけるが、執念で繋ぎとめた。

 

 折れたかもしれない足に力を込め、全力で立ち上がる。

 全身の出血も気にせず、立ち上がる。

 残弾一発のアーマーマグナムを構える。

 隠していたバランシングの槍を構える。

 

 歩み寄る、一歩一歩。

 確実に命中させる為に。

 確実に切り裂く為に。

 荒れた息が、十分聞こえる程の距離。

 

「…………」

「…………」

 

 時間が止まる。

 長き因縁が、この一瞬に収束されていく。

 そして。

 流星が流れた刹那。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カラン、という、槍の転がる音。

 地に伏せる、一つの影。

 勝敗は、決した。

 

「…………」

「……わ、私の……負け……か」

 

 放たれたマグナム。

 斬り落とそうとした。

 だが、抉られていた肩の痛みが、狙いを狂わせた。

 マグナムは槍を弾き飛ばし、イプシロンから戦う術を奪ったのだった。

 

 残る武器は杖だけ、しかしこの痺れた腕では、それも叶わない。

 『影』になろうにも、この距離では間に合わない。

 もう一度言おう、勝敗は……決した。

 

「……所詮……紛い物に……過ぎなかった、訳か……」

「…………」

 

 何か声を掛ける訳ではない。

 前世から今に至り、言いたいことは、言わなければならないことは、全部言っていた。

 唯一かもしれない戦友、PSにこだわるしかなかった友。

 

 憐れもうとしたが、辞めた。

 負けたにも関わらず、その顔はどこかすがすがしかった。

 

「……やはり悔しいが……納得はいった」

 

 二人の世界。

 戦士の世界。

 その世界も、直ぐに終わりを告げる。

 

「ッ!?」

「……空爆が始まったらしいな」

 

 外を包囲していた軍の戦車砲と、爆撃機による空爆が、ヌルメンガードを崩壊へと導く。

 逃げる体力など残っていない、それでもキリコは、イプシロンを担ぐ。

 

「……私は、置いていけ。裏切り者には……相応しい末路だ……」

「喋るな、傷に響く」

 

 誰が見捨てられるのか、同じ咎を抱えた仲間を。

 友情を嘲笑うように、崩れた柱が、二人を押しつぶそうと迫る。

 だが友情に答える者も居た。

 RPG7である。

 

「遅いでぇすよぉ、大丈夫でぇすかぁ?」

「…………!」

「肝心のお前が居なくなってどうする、キリコ・キュービィー」

 

 瓦礫をジープで蹴散らし乗り込んできた、ランチャーを構える武器商人とゲラート。

 二人は二人の手に捕まり、車に転がり込む。

 

「さて、ウォーミングアップと行くか」

 

 何時奪ったのか、ちゃっかり自分の杖を取り戻していたゲラートが杖を振る。

 瞬間、ジープが光のように加速。

 視界が戻った頃には、もうヌルメンガードは遥か彼方だった。

 

「…………」

 

 キリコが呆然としているのは、決して崩壊するヌルメンガードを見ていたからではない。

 確かに一緒に乗った筈のイプシロンが、居なくなっていたからだ。

 

「あの白髪の小僧なら、さっきの間に『姿くらまし』をして消えたぞ」

「……そうか」

 

 それを聞き、キリコは少しだけ、安堵を覚えた。

 殺し合いしかしたことのない彼等だが、その間には確かな絆があった。

 

「……あ、キィリコさん、ニュゥゥスがあるんですが」

 

 空気をまるで読まずに話しかけてくる武器商人、キリコは努めて無視したが、その内容は無視できるものではなかった。

 

「ポッターとそぉの仲間達が、マルフォイ邸に捕まっているそぉうですよ」

「……本当か」

「えぇぇ、死喰い人にも、お金が好きな人は大勢居ますからぁ」

「次の目的地は決まったらしいな」

 

(懐かしい戦友、イプシロン。

ヤツとの戦いは、まるで旧友と語り合うように、楽しかった。

だがそれは終わった。

次に語り合うのは親友ではない、忌まわしき過去そのもの。

ワイズマンの幻影は今、影になった。

後は影を照らす日の光を追い求めるだけ、沈む夕日の先にこそ、ヤツは居る)




結界がねじれ、地層が断裂する。
魔法界の腸が抉られる。
過去に見えた古代秘宝の輝きが、叛逆をそそる。
天の川銀河の再奥で、巨大な意志が響きはじめた。
触れ得ざる扉を開くのは誰だ。
次回「禁忌」。
神への決起が始まる。




ヌルメン「知ってた」
アズカバ「良かった……助かった」
マグル軍「などと思っていたか! 馬鹿め!」
アズカバ「ぬわーっ!」
※アズカバンが崩壊しました。

 キリコvsイプシロンは、『異能』補正なしで闘ったらどうなるんだろう、と思いながら書きました。
 最終的に死線を乗り越えた経験の差で、キリコが勝つのでは?
 と思い、キリコwinとなりました。
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