【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

87 / 91
 やっと……最終回まで書き終えた。
 という訳で今日から、毎日投稿で一気にクライマックスまで転げ落ちて行こうと思います。


第七十五話 「乱雲」

 神とは何だろうか。

 白痴、全能、神秘。

 様々な在り方が在るが、力のあるモノを神と呼ぶならば、ワイズマンは間違いなく神だった。

 

 吹き荒れる嵐と打ち付ける雨粒、一つ一つ全てが死の呪い。

 屋外に居た者達は次々と死んで行き、戦いで野晒しになった屋内にも水が入り込む。

 水溜まりを踏んだだけでも死ぬ、何の冗談か。

 

 こんな状況の中でポッターを助け出す事が出来た我輩は、相当な幸運なのだろう。

 ハリーを抱えるスネイプは、誰と知れず感謝した。

 

 マルフォイと同じく裁かれるであろうルシウスを比較的安全な場所に隠した後、スネイプはハリーを探した。

 あちこちを彷徨った末、野晒しになった必要の部屋で、レイブンクローの髪飾りを破壊したハリーとハーマイオニーを発見。

 

 その直後、死の呪いの雨がハリーを殺した。

 何が起きたのか全く理解出来なかったが、これが危険な物だとは分かった。

 彼は飛び出し、ハリーを抱え雨の当たらない屋内へと逃げ込んだのである。

 その際グレンジャーを突き飛ばし、ついでに屋根の下へ放り込んでおいた。

 

 ハリーの生死を確認した所、何とか生きていることが分かり安堵する。

 ダンブルドアの見立ては当たっていた様だ……ヴォルデモートがポッターの分霊箱になっているという推測は。

 ヴォルデモートは復活する際、ハリーの血を使った。

 結果血の中に在る魂や、リリーの護り諸共取り込んでしまったのである。

 結果、疑似的なハリーの分霊箱になっていたのだ。

 ヴォルデモートが生きる限り……ハリーは死なない。

 

 この調子だと、恐らくポッターの中の魂は破壊されているのだろう。

 次死んで生き残れる保証は、限りなく低い。

 我が君は間違いなく、このチャンスを狙ってくる。

 スネイプはハリーの懐から透明マントを取り出し、ハリーに被せる。

 

 ずっと、考えてきた。

 キリコ・キュービィーの在り方を、考えてきた。

 フィアナの願いの為に生きている、その願いは間違いなくフィアナの願いだ。

 どこまででもフィアナの為に、その在り方はリリーの為に生きる我輩と変わらない様に見える。

 

 見えるが、致命的に違う点があった。

 罪悪感、贖罪。

 リリーを殺めてしまった事への罪悪感と償いが、我輩の根源。

 そんな思いを持たず、純粋にフィアナの願いを叶えようとするキリコとは違う。

 

 気付いていた、我輩のは所詮自己満足でしかない事に。

 償いという新しい傷で、罪悪の痛みを誤魔化すだけ。

 どれ程傷付いたとて、彼女がどう感じるかなど分からないのだ。

 

 そう……分からない、彼女が何を願っていたのか。

 直接聞き届けた奴と違い、我輩は分からないのだ。

 我輩に何を願っていたのか、いや、何も願っては居ないのだろう。

 穢れた血と罵倒した我輩に願う事など、あってはならない。

 だからこうして、ジェームズ似の忌々しいポッターの子守をしているのだ。

 それしか、彼女の願いを知らないのだから。

 

 だが、このままで良いのかとも思う。

 我輩はリリーを愛している。

 彼女に捧げる思いが、単なる自己満足で良いのだろうか。

 こんなので本当に、彼女を愛していると言えるのか。

 彼女が本当に喜んでくれるのは、何なのか。

 

 だからこそ、考えてきたのだ。

 キリコのように、真にリリーを愛していると、どうすれば証明できるか。

 リリーの願いは何だ。

 ポッターを守る事だと考えてきた。

 命乞いまでして自身の息子を守ろうとした、彼女の気高さが、その証。

 

 考え続けている時に、ふと脳裏に浮かんだ光景があった。

 それは、不死鳥の騎士団の集合写真。

 偶々目にした写真に写っていた光景、その時は見て見ぬ振りをした。

 耐えられなかったのだ……ジェームズと並ぶリリーの姿を見るのが。

 

 何故なら、笑っていたからだ。

 既に子を宿していたお腹を、愛おしそうに摩りながら。

 辛かった、憎んだ、嫉妬した。

 どうしてこの笑顔が、僕に向けられないのか。

 

 ……嫉妬、か。

 罪の意識に縛られて、忘れ掛けてた事を思い出す。

 彼女の聡明さに惹かれた、教えた魔法の知識をどんどん吸収していくのは、本当に楽しかった。

 明るさにも惹かれた、散々だった家庭の中で、彼女との時間だけが色咲いていた。

 偏見の無さも良かった、あっさり僕を受け入れてくれた事は、本当に嬉しかった。

 

 何より、笑顔が素敵だった。

 あの笑顔に、僕は何より惹かれていた。

 ……そうだ、この笑顔を見ていたいと思っていた。

 あのジェームズと並んでいた笑顔ですら、どうしようもなく素敵に写っていたのだ。

 

 けれどそれはもう、叶わない願い。

 なら、どうする。

 漸く気付いた、リリーが本当に喜ぶのは何なのか。

 彼女が笑顔で居られ続けるのは、何なのか。

 

 お腹を摩るリリーの笑顔が、答えだった。

 だから、命乞いまでしたのだ。

 ハリー・ポッター、奴こそがリリーの笑顔の……答え。

 息子の成長を見守り、幸福を喜ぶ。

 

 答えは、単純だった。

 単純過ぎて笑えて来る。

 ふざけるなよロッチナめ、結局やることは変わらないではないか。

 あのアドバイスは嫌がらせだったのではないか、いっそそう思えてくる。

 

 ハリー・ポッターを守る事では無い。

 ハリー・ポッターが死ぬ瞬間まで護り抜く事。

 心底嫌だが、奴が最後まで幸福に生き抜く事。

 それを見届けるまで、護り続ける事。

 これが、これだけが自己満足などではない、笑顔でいてくれる方法。

 真に彼女の為になる、たった一つの道。

 

 ならば、死んでなどいられない。

 ハリーを護る為に死んで、終わりなど認めない。

 最後まで、幸せに死ぬ瞬間までポッターを護り抜かねばならない。

 

「……セブルス、久方だな」

「……ご機嫌はよろしく無いようで」

 

 目の前に、ヴォルデモートが現れる。

 我輩を殺すつもりだろう、既に我輩は裏切り者なのだから。

 その後に、ポッターを殺しにかかるつもりだ。

 

「ああ、実に悪い、うっかりお前を殺してしまう程にはな……だが長い間俺様に貢献してくれたのだ、一つくらいの慈悲はあってもいいだろう」

「…………」

「ポッターの場所を教えろ、そうすれば楽に葬ってやる」

 

 贖罪の意識は残っているが、それよりもリリーの笑顔を護りたい思いの方が強い。

 その為に、護り続けなければならない。

 眼前に居るのが奴の命を狙う者なら、返事は一択。

 

セクタムセンプラ(切り裂け)

「……これが、答えか」

 

 ヴォルデモートを倒す。

 ポッターも我輩も、生き抜かねばならない。

 やることは変わらない筈だが、不思議と力が漲って行く。

 

「何故ポッターを護る? 嫌っている小僧一人を……何故?」

「無論、リリーの息子だからです」

 

 ヴォルデモートが、目を驚愕に染める。

 愛を認めない彼には、理解出来なかった。

 

「帝王よ、ヴォルデモートよ、我輩もポッターも死ぬ訳にはいかぬのです。

 こやつに生きて貰わねば……リリーの笑顔は守れない」

「貴様は言っていただろう、穢れた血の女に、興味は無かったと」

「全てはリリーの為……あの時リリーを殺してから、我輩はずっと貴方の敵でした」

 

 やることは変わらない、ポッターを護ること自体は。

 だが、もう贖罪ではない。

 全てをリリーの為に、愛する者の幸せの為に捧げ抜く。

 セブルス・スネイプは、覚悟を決めた。

 

「これ程の時が経ってもか」

「永久に」

 

 彼は今、キリコと同じ者になった。

 僅かに変えられた運命だが、結末は変わらない。

 しかし、確かに変わった事がある。

 彼は気付く事が出来た、自分自身の本心に。

 それは小さくとも、大きな変化だった。

 

 

*

 

 

 嵐が吹き荒れる、死の呪いを宿す大雨が。

 木も石も人も溶かして洗い流す。

 主戦場は屋外、瞬く間に死体の山が積み重なって行く。

 地獄の中で、二人が動き出す。

 

「やれるかの?」

「フン、伊達に老いては居ない」

 

 二人が杖を、空を覆う暗雲に向けて突き立てる。

 突風が渦を巻き、暗雲を掻き回す。

 死の呪いを撒き散らす雲は、瞬く間に霧散して行った。

 

「ゲラートよ、奴が……」

「ああ、ワイズマンだろうな」

 

 ゲラートは空に浮かぶワイズマンを睨み付ける、目の奥で積年の思いが煮えたぎる。

 遥か昔に諦めていた、神を打倒するチャンスが巡ってくるとは。

 どうやら俺はまだ、運命に見捨てられてはいないらしい。

 

 対するダンブルドアもまた、睨み付ける。

 あやつがワイズマン、何故スリザリンの姿をしているのか分からぬが、関係あるまい。

 儂等の出会いも、青春も、アリアナの死もこやつの仕業だった。

 このまま黙ってはいられない、恩讐に身を焦がすなど忌まわしい行為じゃが、今この時だけは魂を燃やそう。

 

「……あいつは何だ!?」

「殺せ! 人間が空を飛べる筈がない!」

 

 屋内に居た、兵器の中に居たなど、助かったマグルの兵士が動き出す。

 傍から見れば悪逆その物、生身の人間に戦車砲や機関砲、ミサイルや対戦車ライフルを撃ち込んでいるのだから。

 

「!? 効いていないだと!」

「撃ち続けろ! 何れ体力は尽きる!」

 

 ダンブルドアだけが気付いた、ワイズマンの周りにプロテゴが張られている事に。

 それもマキシマを、無言で、幾重にも、杖も無く。

 

「アバタケダブラ!」

「ハハハ! 良い的だ!」

 

 続けて死喰い人が、即死や瀕死を齎す呪いを放つ。

 どんなに呪文を張ろうと、死の呪いの反対呪文は存在しない。

 プロテゴを突き抜け、何発も死が放たれる。

 

「な、なぜ死なない!」

「……そうか、死体に死の呪いが効く訳がない」

 

 理解できない死喰い人を他所に、理解したゲラートが呟く。

 それでも尚、効く効かないに関わらず、死喰い人とマグル軍の攻撃は続く。

 

「……邪魔、だな」

「!」

 

 二人の背中を、悪寒が抉る。

 ただ一言口に出しただけだが、裁判官の死刑宣告よりも避けられぬ死が感じ取れた。

 

「皆逃げるのじゃ!」

 

 生徒に向かって叫ぶ彼だが、もう手遅れだ。

 ワイズマンが初めて、呪文を唱えた。

 

カエルム・プロフォンド(地とは天)

 

 瞬間全ての人が、兵器が、空へ浮かび上がった。

 瓦礫も砂も、何もかもが。

 この現象を正しく理解出来たのはごく少数、彼等は等しく絶句した。

 

 浮かんだのではない、空へ向かって落ちている。

 一切の比喩無し、天地が逆転していた。

 

「何……と……」

「これ程までとは……」

 

 魔法でホグワーツの壁に張り付くダンブルドアとゲラートは、僭称と言えど神と呼ばれる力の一端を思い知る。

 そう、一端に過ぎ無い。

 ワイズマンは崩れなかった建物の中に、逃げ込めた人々に更なる裁きを下す。

 

クイントゥバ(蝗の音)

 

 地平線の彼方が黒く染まり、砂嵐が押し寄せる。

 しかし近づくに連れ、それが嵐で無いと理解する。

 

「イナゴ……!?」

 

 イナゴの群れが億、兆、京、那由他。

 人食いイナゴの大津波が、ホグワーツを包み込んだ。

 

「痛い! 痛いいいい!」

「俺の手がない! 足も!」

「誰か助けてくれれええ!!」

 

 水に落ちた獲物を喰らうピラニア以上に、肉を貪るイナゴの群れ。

 壁に張り付いていた人は手を食われ、大空の彼方へと落下して行く。

 それだけならまだ救いがある、意識を残したまま体の中を食い破られるよりは。

 彼の様に。

 

「逃げろ! ……逃げろ……ドラ……コ……!」

「嫌だ! パパ! パパ!」

 

 屋内へ潜んでいたばかりに、イナゴの大群に包囲されてしまった彼等。

 ルシウスは体を喰われながらも、息子を逃がそうと奮闘する。

 当然認められぬと絶叫するマルフォイだが、父親の呪文によって……何一つ出来ずに、遥か彼方へと飛ばされて行く。

 ドラコは睨み付ける、この惨事を引き起こした神を。

 

 死ぬのはルシウスだけではない。 

 ロドルファス、ラバスタン、ドロホフ、ルックウッド。

 他ホグワーツ陣営500人中300名。

 マグル軍10000人中7000名。

 闇の陣営魔法生物を含み2000人中1800名。

 以上全て、この2分間での犠牲者である。

 そして次の犠牲者が、また一人増えようとしていた。

 

「ネビル!?」

 

 ダンブルドアの目に映ったのは、今まさに天空へ墜落しようとしているネビルであった。

 医務室からの襲撃から運よく助かった彼だが、火傷を殆ど引きずったままであり、遂に気絶。

 一切の抵抗無く、死に向かっている。

 見捨てるか? 所詮はただの子供一人、戦力の足しにもならない。

 否! 子供だからこそ見捨てぬのだ!

 

アクシオ(来い)・ネビル!」

 

 この程度なら杖を使わずとも行使可能、片手間に彼を引き寄せる。

 しかしこの善行が、微かな隙が、最悪の危機を呼ぶ事となった。

 

「やはりお前は危険だ、排除しなければならない」

「何じゃと!?」

 

 彼とネビルの間に、一瞬で現れたワイズマン。

 戦争を望む彼にとって、親マグル派のダンブルドアは邪魔者でしかない。

 今後の邪魔は無くしておこうと、神が迫る。

 だが今度は、彼等の間に三つの影が現れた。

 

「貴様の相手は私だ! ワイズマン!」

「早くネビルを、ダンブルドア先生!」

「……急げ!」

 

 ダンブルドアは驚愕する、キリコとゲラート。

 そしてキニスが現れた事に。

 驚愕を押し留め、ネビルを引き戻し抱え込む。

 

「今お前達に用はないのだ」

 

 神が、突如光りだす。

 全身から、呪文の光が溢れ出す。

 そうか、そうだったのか!

 ゲラートは理解した、何故ワイズマンが杖も無く呪文を使えるのか。

 体だ、サラザール・スリザリンの肉体そのものを杖に見立てているのか!

 魔法の才に溢れた彼の遺体は、ある意味杖の材料には相応しい。

 

 という事は、彼は戦慄する。

 遺体が杖なら、全身の細胞が杖という事。

 人間の細胞は合計37兆個と言われている、即ちワイズマンは37兆個の杖を持っているに等しいのだ。

 

「消えよ」

プロテゴ・マキシマ(最大の防御)!」

 

 三人が使える限り、最大の防御呪文を張る。

 だがワイズマンから放たれた37兆個の攻撃呪文は、何もかもを更地に帰した。

 意識が飛ぶ、体が千切れそうになる。

 全てが意味を持たず、誰もが吹き飛ばされる。

 ダンブルドアもまた、引き寄せたネビルを抱えて守るのが精一杯。

 暗転する意識がぐるりと戻り、天地が在るべき姿へと戻っていた。

 

「……やはり石の一つを失ったのは痛いか、呪文が維持出来ないとは」

 

 ワイズマンが何か言っているが、それどころではない。

 天地が戻ったという事は、今まで落ちて行った物・者が全て落ちて来るという事。

 地上に向けて彗星の如く落下する戦車や戦艦、礫に人。

 一息さえ許さず、ぐちゃぐちゃに潰れて行く。

 まさに最後の審判、三番目のラッパが響き渡っていた。

 痛む体に鞭を打ち、ネビルを安全な場所へ逃がそうとするが、神は何一つ許さない。

 

「しかし人間一人を殺すには十分、お前を排除する」

「むぅ……!」

 

 こんなものか、こんなものなのか。

 大賢者と呼ばれておいて、教え子一人助けられぬのか。

 どうすればいい、ネビルを見捨てられないが、打開策も無し。

 ダンブルドアの脳裏に、走馬燈が走る。

 後悔ばかりの人生だった、一体どうして、この様な結末になってしまったのか。

 死を覚悟する彼だが、裁きの時間は……何時まで待っても来ない。

 

 怒声が聞こえる。

 こんな状況で後悔、舐めた真似をする馬鹿に向かって、叱咤の声が飛ぶ。

 蹴り飛ばす音が示すのは、ネビルが相当乱暴な手段で、安全地帯へ飛ばされたという事実。

 瞼を開けたそこには、体から光を覗かせる、親友の姿が在った。

 

「ゲラー……ト……!?」

「ふざけるなよアルバス……お前は何時もそうだ!」

「まだ立ち塞がるか、お前の役目はとうに終わったのだ」

 

 ワイズマンが光り、全身から呪いを放つ。

 何発も、幾千発も直撃を食らいながら、それでも彼はワイズマンに歯向かう。

 こんな結末は認めない。

 神の好きに等させない。

 何より、そこの馬鹿に言う事が山程在る。

 

「優柔不断で、綺麗事ばかり言い!

 その癖変に効率を求めるから、最悪な事に成る!」

「……ッ!」

 

 リリアナだってそうだ。

 校長になったのもそうだ。

 野望と体裁、欲望と権力。

 どっちも取れず、どちらも離さず。

 結果がこれだ、こいつが指導者になれば、閉塞する魔法界は少しでもマシになったかもしれないのに!

 

「無駄な足掻きを、お前はもう時代に取り残されている」

「がっ……!」

「止めるのじゃ! 儂なんぞを庇う理由など───」

「まだ言うか!? お前に逃げ場は無い……逃げ込む綺麗事は無い!」

 

 瞬く間に千切れて消える体を立たせ、彼は叫ぶ。

 親友として、宿敵として残すべき言葉を。

 あの日言えなかった、真実を。

 

「アリアナを殺したのは俺だ!」

「!!」

「怖かった、お前に責められるのが、たった一人の友を失うのが。

 だから俺はドイツへ逃げて、真実をうやむやにしたのだ!」

 

 ワイズマンに踊らされた末の悲劇だとしても、仕立て上げた演者もまた黒子。

 彼は逃げるのを止めた、そうでなければ叫ぶ資格は無い。

 

「これで……消えた筈だ、お前の後悔は」

「…………」

「アルバス…お前は……ぐぅっ!?」

「これで終わりだ」

 

 思いの他頑丈だったと言いながら、無慈悲な鉄槌を振り下ろす。

 人間如きの戯れに付き合う理由は無いと言い。

 

「させるか……!」

 

 飛び込んで来たキリコの肩を掴み、地面に叩き付ける。

 全身の骨が砕ける衝撃を、キニスが影になって受け止めた。

 

「邪魔は許さない……」

「キリコ……!」

 

 親友が今際の際に残す言葉が、どれ程重いのかは知っている。

 それを邪魔する存在を、キリコは許さない。

 

「……ゲラート!」

 

 キリコが叫ぶ、今の内だと。

 ほんの少しの付き合いだが、感じていた。

 こいつにはこいつなりの、意志がある。

 間違っていたとしても最後の時なのだ、意志は残せずとも伝えさせてやりたい。

 

「……おぬしは」

「……負い目は……なくなったか?」

「……余り」

 

 此処まで来ても後悔する、消し切れぬ善性には呆れるしかない。

 しかしそれこそが、真に指導者に必要な事なのだ。

 より大きな善の為に、されど一線は越えない為の。

 

「フン……やはりな……まあ、それでも良い。

 進めアルバス、俺の様に過去を……自分を恐れるな」

 

 欲に溺れる自分を、権力に振り回される自分を恐れて逃げて居たら、何時までも歩き出せない。

 過去の過ちは繰り返してはならないが、囚われてもならない。

 難しいが……こいつなら、できる筈だ。

 

「……魔法界を救え……アルバス」

「……ああ、親友よ」

「……これでもまだ、言うか……アホが……」

 

 動かなくなったゲラートを見つめる。

 もう、逃げ場は無い。

 儂が逃げれば、魔法界はおろか世界も消えるだろう。

 

 逃げるのは止めだ、親友の為にも。

 彼はそっと目を閉ざし、眠りに就かせ、彼の杖を取る。

 二本の杖を持ち、教え子を殺さんとする怪物に牙を剥く。

 

「……終わったか」

「うむ、いやしかし……おぬし、生きておったのか」

「話は後だよ先生……!」

 

 目覚めた賢者は、遂に真に立ち上がる。

 神は気付く、纏う空気が一変した事に。

 面倒な事になりそうだ、なら自動的に葬り去るとしよう、と天高く腕を掲げる。

 

 変身呪文は物理法則を無視する、ワイズマンはこれを極めていた。

 原子一個からでも、巨大な石像を顕現できる程に。

 バチンと弾ける音と共に、大地が暗黒へと染まる。

 

「これって!?」

「お前の相手はこれに任せるとしよう」

 

 そう言い残し、キリコ達を巻き込み消えるワイズマン。

 取り残されたダンブルドアは、目の前の軍勢と相対する。

 彼の相手は地を、空を覆う、合計1億2000万機のAT、それもオーデルバックラーであった。

 ワイズマンの火器管制能力により、スペックはPS以上の強さを持つネクスタントと同等。

 キリコも只では済まない大軍勢、人間風情が勝てる訳が無い。

 

「……ワイズマンは、あちらの方角か」

 

 しかし友の力を得たダンブルドアの相手では無い。

 無言呪文で位置を特定し、二本の杖を構える。

 

「残念じゃが、おぬしらに構っている暇は無いのじゃ」

 

 燃え上がる炎、吹き上がる荒波。

 ワイズマンは神だろう、だがダンブルドアもまた、今世紀最強の魔法使い。

 オーデルバックラーの持つ絶対の力は、無意味その物。

 彼の周りに浮かぶ火と水を混ぜ合わせた四体の不死鳥が、全てを蒸発させた。 

 そして突撃、一直線に飛翔する不死鳥を、止められる程オーデルバックラーは固く無い。

 融解、誘爆、爆発。

 レッドカーペットの様に続く道の先で、二人と相対するワイズマンが驚愕した。

 ワイズマンは、誰も手が出せない大空へと飛翔する。

 

「……何者も、神には届かない」

 

 ワイズマンが宣言するが、キリコからすれば予想外の抵抗に自身を鼓舞している様にしか聞こえなかった。

 

「二人とも、勝算はあるのかの?」

「……ある、ヤツの不死は三つの『賢者の石』で賄われている」

「それを破壊すれば……です」

「なら、儂はあやつを留めるとしよう!」

 

 ダンブルドアも、箒無しで飛翔した。

 神が目を見開く、彼等は分かっていない、この程度の呪文作ろうと思えば誰だって作れる事を。

 ヴォルデモートが作れて、ダンブルドアが出来ない理由は無い。

 

「儂から行かせて貰うぞ!」

 

 二本の杖を剣の様に振るい、幾つもの呪文が同時かつ、神を覆いながら放たれる。

 

「効かぬ」

「じゃろうな!」

 

 全身に纏った幾重ものプロテゴで弾き返すが、既に放たれた二撃目が迫る。

 今度は糸の様に細くなった悪霊の炎、プロテゴの隙間から死体を焼き、皮膚が飛び散る。

 

「無駄だ」

「まだじゃよ!」

 

 賢者の石により火傷も一瞬で再生、だがダンブルドアは止まらない。

 飛び散った皮膚を変身させ、目視できない程細い槍を突き刺し拘束する。

 

「小賢しい方法を!」

「むぅっ!」

 

 再び全身から炸裂する兆の呪文で、自分の体もダンブルドアも消滅させる。

 槍は消え、体は再生する。

 これで奴は消滅と目の前を見るが、僅かな魔力反応が感知されただけ。

 

「それは偽物じゃよ」

 

 後ろから聞こえる声に向かって呪いを撃つ。

 

「それも偽物じゃ」

「……!」

 

 今度は真上、いや右、下全方位。

 何たる技量か、本来人には掛けられない『双子の呪い』を自分に掛けたのだ。

 十人のダンブルドアが、一斉攻撃を仕掛ける。

 

「やはりその程度だ、そんなものだ!」

 

 お返しか嫌味か、同じ方法で二十人に分裂したワイズマンが攻撃する。

 ダンブルドア達は本物諸共、瞬時に破壊されてしまった。

 辛うじて躱した頬から、血が流れる。

 あと少し遅れて居たら、首が飛んでいた。

 しかし、恐怖に怯んでいる暇は無い。

 

 神と鍔迫り合うダンブルドアだが、やはり押されている。

 時間稼ぎにはなっているが、勝つのは絶対に不可能だ。

 賢者の石を破壊しなければならないが、どうやっても再生速度の方が上回る。

 必要なのは大火力か、防御無視の一撃。

 

「キリコ、何か火力兵装は持っているか?」

「……いや、ロックガンがそうだったが、レグジオネータに破壊されてしまった」

 

 運が悪い、あれがあればまだ勝算は在ったのだが。

 だが泣き言を言っていたらヤツが殺られてしまう、何か考えなければ。

 試案するキリコだが、打開策は見つからない。

 

「……狙撃は出来る?」

 

 キニスが問う、こいつの目には確信が在った。

 神の命を削り得るという、必殺の策が。

 

「……出来なくは無い」

「上等、石は僕に任せるといい」

 

 影に成り何処かへと消えるキニスを見送り、キリコは狙撃銃を手に取る。

 PSとしての力でも、僅かな可能性でも無い。

 ずっと付き合って来た、あいつ自身の力を信じるだけだ。

 懐から取り出すのは、一発の徹甲榴弾。

 弾を装填、ヤツが気付かない場所に潜み、スコープを覗き込む。

 

「力を持たない人間にしては優秀だったが、私には勝てぬ」

「……それが何じゃ!」

 

 稲妻がプロテゴ・マキシマを破壊しダンブルドアの体を貫く。

 痛みに歯を食い縛りながら反撃の刃を放つ。

 幾千万のナイフが鳥の様に奇襲を掛けるが、光が近接防御火器システム(CIWS)のように、ナイフを撃ち落とす。

 瞬く間に追い詰められるダンブルドアがまだ持っているのは、ゲラートから借りた杖による二刀流と、友の意志を託された意地が在るから。

 それも、もう限界である。

 

「勝てぬ、これこそ運命」

 

 勝負を決めに掛かる神が、掌に黒い光球を出現させ放り投げた。

 あれは危険だ……死が肌を焼く前に、ダンブルドアはプロテゴを張りながら急速に離脱する。

 しかし離れようとしても、どんどん黒い光球に向かって引き寄せされて行く。

 ダンブルドアだけでは無い、空気も地上の戦車も人も全員吸い寄せられて潰れていた。

 

「これは呼び寄せ呪文(アクシオ)だ。

 神に掛かれば、これすらブラックホールと同等になるのだ」

 

 粘着呪文でどうにか足場に張り付くキリコが絶句する、どれだけ無茶苦茶なのか。

 何時足場ごと持って行かれてもおかしくない。

 それに、しがみ付く物の無い空中では……!

 

 キリコの予感通り、ダンブルドアは瞬く間に呑み込まれようとしていた。

 必死で抗うが、光すら呑み込む重力の底からは逃れられない。

 だからこそ彼は冷静に勤める、どんな状況でも冷静さを捨てられないのが、彼の欠点であり長所でもある。

 故に見つけた、起死回生の一撃を。

 

「これで最後じゃ!」

 

 ワイズマンの演算回路が出した答えは、自身と同じ引き寄せ呪文。

 成程、ブラックホールへ道連れにするつもりか。

 そんなのが最後の手段とは、当たらなければ効果は無いというのに。

 あっさり躱すワイズマンだが、神は読み違えた。

 ダンブルドアが引き寄せようとしたのは、ワイズマンの背後に居た()だったのだ。

 

「───掴まえたぁ!!」

「キニス・リヴォービア!?」

 

 重力に引き摺られながら、彼は背後で機を伺っていたのだ。

 ダンブルドア、ワイズマン、キニスという並びで引っ張れば、ワイズマンに激突する。

 

「頼む、キリコ!」

 

 そしてキニスが、ワイズマンごと『姿くらまし』をした。

 これが彼の狙い、姿くらましには『バラケ』のリスクが伴う、キニスはこれを逆に利用した。

 ワイズマンの肉体諸共、意図的にバラけたのだ。

 

「!!」

 

 意識が飛ぶ、片腕が消え、足が抉れる。

 何より、心臓が裂けた感覚があった、死の感覚が。

 だが、ワイズマンも同様。

 全身がバラけたことで、内部の『賢者の石』が剥き出しになる。

 

「止……め……ろ……!」

 

 こんな無謀な戦術が成り立ったのは、賢者の石が在ったからだ。

 ワイズマンの命を奪い取ると同時に、発生させた命の水で心臓を再生させる。

 生き残れた安堵と共に、石を握った手を高く掲げた。

 

「一撃で仕留める……!」

 

 破裂音、マズルフラッシュ。

 まさしく吸い込まれるように、徹甲榴弾はキニスの手を、内部の賢者の石を貫いた。

 同時に消滅するブラックホール、落ちて来るダンブルドアとキニスを受け止める。

 

「へへ……ざまあみろ……!」

「喋るな……」

 

 全身から血を流すキニスに、駆け寄ったダンブルドアが応急処置を施す。

 これで一先ずは……と呟いた時。

 

「……なんという事を」

 

 ダメージのショックで墜落したワイズマンが、瓦礫から立ち上がる。

 体の一部が崩れているサマは、再生能力の低下を意味していた。

 信じられない事態に神はふら付きながら、バジリスクの死体へ歩み寄って行く。

 

 何故バジリスクの死体が?

 そうか、ワイズマンの神殿の真上は秘密の部屋だ。

 地面を突き破る神殿に巻き込まれ、地上まで放り出されたのか。

 

「こうなれば、手段は選ばない」

 

 落ちていた無線機から声が聞こえたのは、運が良かったのか悪かったのか。

 終末へ、舞台が向かう。

 人も世界も巻き込んで。

 

『……報告! 核弾頭が、世界中の核弾頭が発射されています! ……目標はホグワーツの模様……』

 

 神がバジリスクの亡骸に手を付き、宣言する。

 もう終わりだ、余興も舞台も、全ては塵と還り閉幕するのだと。

 

 ワイズマンが、バジリスクの中へ溶け込んで行く。

 骨だけだった残骸に肉が付き、目に光が宿る。

 地鳴りと轟音のオーケストラ、主旋律へ移行する様に、指揮者の乗るバジリスクが膨れ上がって行く。

 

「……ウソだろ」

 

 呟いたのは誰か。

 バジリスクが、蘇った。

 それもホグワーツ城に絡みつき、覆い尽くす程の。

 蛇どころでは無い、もはや天を貫く『竜』その物。

 正しく黙示禄に記された、終末の獣に他ならない。

 城へ巻き付く獣の轟音が、七番目のトランペットを吹き鳴らした。

 

(名に偽りのない神の咆哮、裁きの雷と終わりの獣。

 地獄どころか、審判そのものが再現されたかの様だ。

 加速する指揮はもう、誰も纏めてはいない。

 好き勝手に鳴らされる、魔法と銃、楽器の数々。

 俺が吹く銃撃の音は、あの怪物へと届くのだろうか)




誕生以来変わる気もなし、戦乱と誘惑。
神の望みとその歪み。
驕りに満ちた有と空。
加うるもなし、引くもなし。
淡々たる自己複製、外道と言わば言うも良し。
我が行く道は絢爛の、後は捨て置く塵ばかり。
黒い獣の烈火の眼、ぐるり回って虚ろの目。
全ては、そう、振り出しに戻る!!
次回、「ビッグバトル」
これがボトムズだ!!

 ラスボス戦で過去ボスが復活するのは定番だって誰か言ってたのでやってみました。
 でもそのまま復活するんじゃつまらないので、一工夫加えてみました
 復活バジリスクの全長は……ホグワーツ城に巻き付いてもまだ余る位ですかね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。