【完結】ハリー・ポッターとラストレッドショルダー   作:鹿狼

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 タイトルに偽り無し。


第七十六話 「ビッグバトル」

 意識だけがぼんやりと在った。

 キングズ・クロス駅みたいな何処かで僕は、僕の中に在ったヴォルデモートが死ぬのを見た。

 

 これが、彼の成れの果て。

 不死に執着したのは、誰も信用出来なかったから。

 友情も、愛も。

 誰かに自分を託せず、だから永遠に生き様とした、哀れな化け物。

 そう、父さんと母さんは言った。

 

 どうやって、此処に?

 何時も、私達は居た。

 蘇りの石のお蔭で、こうして見えるようになっただけ。

 

 確かに僕は蘇りの石を持っていた、ダンブルドアの遺品として貰った、一年の時手に入れたスニッチの中に隠される形で。

 途中で気が付き、取り出す事に成功した。

 けれど、掌で三回転がさないと、効果は出ないんじゃ?

 

 回さなくても効果は在る。

 此処はこの世とあの世の境目、だから秘宝は力を発揮したのよ。

 そうなのだろうか……そういうものなのだろう。

 

 ハリー、あれを見るんだ。

 

 父さんが指さす方向を見た僕は、訳も分からない気持ちになってしまった。

 映画のスクリーンみたいに、駅の壁にホグワーツの景色が映っていたから。

 上映されていたのは、ヴォルデモートと闘うスネイプの姿だった。

 

 どうして、あいつが戦っている?

 あいつが裏切っていなかったのも、ずっとダンブルドアの味方だったのも、先生が教えてくれた。

 だけどその理由までは教えてくれなかった。

 『彼との約束なのじゃ』、と、『悔いているのじゃ』としか。

 

 そんな筈が無い、母さんを『穢れた血』と罵る男の何処に、そんな人間味が在る。

 そう思って来たのに、目の前には、どう見ても僕を庇って戦う先生の姿があ在った。

 

『これ程の時が経ってもか』

『永久に』

 

 見たことも無い顔で、断言するスネイプ。

 母さんを愛していたと、その為に僕を護ると宣言する。

 ずっと、ずっと僕を護っていたのか。

 いや、そんなことは……一年の頃からとっくに分かっていた筈だ。

 見て見ぬ振りをしてきたのは、僕の方じゃないか。

 

 母さんは、とても悲しそうな、けど嬉しそうな顔で、あいつを見つめる。

 父さんは物凄く苦々しい顔で、あいつを見つめる。

 

 目にも止まらぬ速度で、切断呪文を繰り出す。

 直接狙いに、牽制、不意に捻じ曲がる物、全く違う呪いを混ぜて。

 一つの呪文をこれだけ応用出来るスネイプの力は、圧倒的。

 しかしヴォルデモートは、杖も振らずピンポイントで盾を張る。

 

 それどころか盾が呪文を反射し、逆にスネイプを傷付ける。

 動きが鈍ったと同時に変身術による大蛇が、彼を飲み干す。

 体内から切断し脱出するものの、噛まれた事による毒が、傷口を深く抉る。

 

 こんなにも、差があるのか。

 スネイプは掠り傷一つすら与えられずに、一方的に蹂躙される。

 このままじゃ、あいつが死んでしまう。

 散々嫌がらせを受けていたので、嫌いだと未だに思うが、死んで欲しくは無い。

 何とかしたいと思うのに、現実の僕はまだ寝ていて動けない。

 

 もう、止めてくれ。

 僕の思いを何時も通りに裏切り、あいつはまだ戦う。

 死ぬ気には見えない、けど、間違いなく死ぬ気で闘っている。

 

 煌々と燃える瞳を携え、黒い煙になる独特の飛行呪文により、高速で死角に回り込む。

 高速移動と多重攻撃。

 次第にヴォルデモートでも盾を張るのが追い付かなく、体の幾つかに傷を付けて行く。

 代償に傷口がどんどん開き、地面を赤く染めて行く。

 

 持つ訳が無い、ヴォルデモートを倒し切る前に、あいつが倒れるに決まっている。

 母さんの為に、僕の為に。

 此処まで無茶をするのか、そこまで愛していたのか。

 

 ……勝負が決まる。

 加速に慣れたヴォルデモートが、杖で切断呪文を受け止め始める。

 何十発撃ち込んでも、全て杖で防がれる。

 まるで剣だ、魔力を通した杖を、剣の様にして、受け流しているのだ。

 

 これ以上の加速は出来ない、覚悟ではなく、スネイプ自身の限界。

 遂にパターンを見破ったヴォルデモートが、転移するスネイプの前に出現。

 切断呪文を宿す杖と、死の呪いを宿す杖が、鍔迫り合う。

 結果は分かり切っている、死の呪いに、反対呪文は無いのだから。

 

 ……行けそうな、戻れそうな気がする。

 遅い、遅すぎるぞ。

 自分で自分を恨む、あとちょっと早ければ。

 

 二人に、行って来ますと告げる。

 二人が、僕を抱きしめてくれた。

 感触も温かさもないけど、心を感じて。

 光が、溢れて消えた。

 

 

 

 

「……死んだか、裏切り者には相応しい末路だ」

 

 全身がバラバラになり、よく見なければ人だと気付けない程ボロボロになったスネイプを、ヴォルデモートは見下ろす。

 たかが穢れた血一人を愛したばかりにこうなるとは、やはり愛とは碌なものではないな。

 時間を喰ってしまった、早いところポッターを殺し、ワイズマンの所へ向かわなければ。

 

「待て、ヴォルデモート!」

 

 背後から聞こえて来る、渇望した声。 

 セブルスめ、だから必死で抵抗したのか。

 あいつの後ろには、透明マントで隠れていたポッターが居たのだ。

 脱ぎ捨てた透明マントが、宙を舞い外へと飛んで行く。

 懐から転がり落ちた石には、見覚えがある。

 ……何故破壊済みの分霊箱を、持っていたのだろうか。

 まあ既に、終わった事だと片付けた。

 

「態々姿を現すとは、命懸けで庇ってくれたセブルスに……申し訳ないとは思わないのか?」

「此処でお前を倒す事が、先生への……弔いだ!」

 

 ハリーの胸中に在ったのは、どこまでも溢れる尊敬と後悔、感謝の念であった。

 彼は誰よりも、勇敢な人だった。

 どうして僕は、この人を軽蔑し続けていたのか。

 そして、ありがとう。

 初めて先生と呼んだ事が、証拠であった。

 

「俺様は不思議でならない、どうしてそう『弔い』やら『愛』とやらで、死にに来れるのか。

 死んだら全て等しくゴミ、生きていてこそ全てが在ると言うのに」

「皆死んでなんか居ない、何時も傍に居る!」

 

 きっと、いや間違いなく、僕の事は嫌っていただろう。

 僕や、父さんの様に。

 それでも尚、先生は母さんへの愛を貫いた。

 どれ程の覚悟か、どれだけの勇気か。

 

 ……背中が重い、色々な人達の色々な思いが圧し掛かっている。

 不安だ、これに応えられるのか。

 皆そうだろう、恐怖にしろ死にしろ、不安を抱えて生きている。

 けどこれを乗り越えて戦う心こそが、『勇気』だ。

 一転して、重さが力へと変わる。

 

「ならば皆とやらの元に送ってやろう! これで忌々しい因縁も終わりだ! ハリー・ポッター!」

「終わりになるのはお前だ、トム・リドル!」

 

 それから逃げ出した、可愛そうで臆病なお前なんかに、負ける理由は無い!

 崩壊を始めるホグワーツ城の一角で、この世界を揺り動かしてきた、一つの巨大な因縁に決着が着こうとしていた。

 

 

*

 

 

 地獄、黙示禄、最後の審判、神々の黄昏。

 色々並べてみたが、しっくりこない。

 前の光景が非現実的過ぎて、神話の方がまだ実感を持てる。

 城に巻き付く程のバジリスクの暴挙は、出鱈目極まっていた。

 

 巨大な尾を一薙ぎするだけで、どんなに頑丈な兵器も潰れる。

 ついでに地面が割れ、地獄へ繋がる亀裂が走る。

 まさにブラックホール、誰彼構わず等しく地獄行き。

 

 身動き一つもまた天災、魔法で固められていた城壁はクラッカーの様に崩される。

 真下に居た者達は、隕石の如き雨に晒される。

 衝撃一つが、また城壁を打ち崩す。

 

 神の怒りは止まらない、バジリスクの毒がワイズマンの力により増幅される。

 蛇の中には毒を発射する個体が居る、同じ様に口から毒を打てるように改造。

 

 決定的に違うのは、毒が水圧カッターの様に掃射されている点。

 切断面を気化させ、ホグワーツ湖が真っ二つに裂けた。

 バジリスク本体の魂が作用しているからか、死の魔眼が無いのが唯一の救いかもしれない。

 

 狂気に身を任せていたマグル達は、恐怖に身を任せ逃げて行く。

 狂気といえど所詮は人の産物、神の怒りに敵う筈も無し。

 我先と走る渦を掻き分け、ロンが彼女の元へ走っていた。

 

「ハーマイオニー!」

「ロン! 此処よ!」

 

 船着き場に隠れて居た彼女を見付けると同時に飛び込み、二人で暫く抱き合う。

 この地獄の中で生きていた事が、何よりも嬉しい。

 

「ハリーは? 一緒に居たんじゃ」

「スネイプ先生に助けられて……離れてしまったの」

 

 スネイプが?

 ハリーが無事か不安になるが、裏切ってなかったんだから、信じても良い……筈。

 

「そっちはどう?」

「どうもないよ! 指揮も統制も無茶苦茶だ! あいつのせいで……」

 

 指差す先にはバジリスク、昔見たマグルの映画に登場する様な怪獣に、戦場は蹂躙されていた。

 

「やっぱり秘密の部屋のバジリスクなのかしら……」

「……そうだ」

 

 不意に聞こえた声は、キリコの声。

 彼も生きてくれてた、喜びを全身に出しながら彼を見ると、肩に人を背負っている事に気付く。

 

「キリコ! ……誰そ───」

「───キニス!?」

「……あ、ひ、久し振り……」

「余り喋るな……傷に障る」

 

 当然何故生きていたと、応急措置を施す彼に詰め寄る。

 のんびり語る時間は無い、処置をしながら簡潔に経緯を語っていく。

 

「……マーリンの髭」

「良かった……本当に……」

 

 茫然とするロンと涙を流すハーマイオニー、共に有るのは驚愕と喜び。

 気まずいなと眼を反らす。

 キリコはキニスに、自身のインファーミス1024を渡す。

 

「これで逃げろ」

「……ああ、悪いが、後は頼む」

 

 もっと、最後まで戦っていたい。

 しかしPSとしての本能が教えてくれる、無駄だと。

 寧ろ足手纏い、碌に戦えない。

 我が儘を聞く余裕が無い事は、理解している。

 

「……任せろ」

 

 聞こえ無い程小さな声、反して込められた意思は大きい。

 キニスを見送ったキリコは、空を見上げる。

 

「ぬおおおおおお!!」

 

 腹の、心の底から捻り出す轟音。

 今ホグワーツに迫っている核ミサイルは、ダンブルドアが食い止めている。

 つまり、俺達だけでバジリスクと闘わなければならないという事。

 力の差は明確、下手すれば奴に呑み込まれ、異能を手にしてしまうかもしれない。

 

「先生……」

「……僕が、僕たちがやらなきゃ」

 

 ロンは立ち向かおうとしていた、天を突く怪物に。

 勝てるのか、犠牲が増えるだけじゃないか。

 あれは俺の敵、お前達が戦う必要はないんだ。

 悲鳴が過るが、押し止める。

 こいつらは覚悟を決めている、もう子供では無い、一人の意思を持つ戦士の目。

 

「……言っとくけど、止めても僕は行くよ」

「…………!」

「此処で逃げて、何もしないのは嫌だから」

「私だってそうだよ」

「ルーナ!」

 

 そんなに嫌そうな顔をしていたのか、思った以上に俺は脆いらしい。

 ロンの意思に呼応し現れたルーナも、同じ思い。

 

「……あいつを、止めなきゃいけないんだよね?」

「ネビル!」

「おいおいキリコ、まさか一人で戦う気じゃないよな?」

「悪戯仕掛人の裏ボス様は部下を頼る事を知らないらしい!」

「兄ちゃん!」

 

 何処で拾ったのか、グリフィンドールの剣を持つネビル。

 アンブリッジの一件以来、周りからキリコの部下という認識になっていたフレッド&ジョージ。

 

「……というかどうやって僕たちを?」

「フォークスだよ」

 

 ルーナが上を指差す先で、不死鳥フォークスが羽搏く。

 ダンブルドアの差し金か、善意と冷徹さを使い分ける賢者に、キリコは呆れる。

 ───お主らなら、勝てる。

 調子の良い事を言っている気がした。

 

「……だが、どう倒すつもりだ」

 

 相手はバジリスク、魔法生物でも王と呼ばれる者。

 皮膚は魔法を防ぎ、ワイズマンによる強化は大地を穿つ。

 幾らなんでも勝算無しに、挑むのは認められない。

 

「弱点でもあれば……」

「そりゃ頭に決まってるだろう、物を制御するには中枢が必要だ」

「悪戯グッズも死体も同じさ、生き物なら頭に決まってる」

 

 悪戯グッズを山ほど量産し続けていた知識が、こんな所で役に立つ。

 しかしそれはキリコも知っている、ワイズマンがバジリスクの頭に入って行くのを目撃していたからだ。

 肝心なのは、倒し方。

 

「───頭だわ! そうよ!」

「急に如何したんだハーマイオニー?」

「死体を操る魔法、多くは死んだ直後の姿なの。

 バジリスクは口裏をハリーに貫かれて死んでいた、きっと古傷が残ってる筈よ!」

「じゃあ、そこだけは皮膚が薄いって事?」

 

 三人そろえば文殊の知恵、キリコ一人では気付かなかったかも知れない。

 彼は……一人では無い。

 というか、勝手に惹かれて集まって行く。

 これもまた、異能の因果が成す技か。

 なら、危険に飛び込むのは俺の役目だ。

 

「後はあの巨体、どうやって頭を攻撃するかだけど……崖に落とすのはどうかしら」

「名案だと思うけど、あのデカさ絶対脱出するぞ」

「……酷い案を出していいかな」

 

 ネビルが戸惑いながら言った理由は、彼等ホグワーツ生の思い出を粉砕する作戦だったからだ。

 

「ホグワーツ城で押し潰そう」

 

 現在ホグワーツ城はギリギリ原型を留めている状態になっている。

 加えてワイズマンが地底から出現した影響により、地盤が崩壊寸前。

 僅かな衝撃を加えれば、瞬く間に崩れる。

 この方向を制御できれば、押し潰す事が可能。

 

「それしかないわね……爆破の制御は出来るの?」

「大丈夫、こういうのは昔から得意だから」

「……ヤツの狙いは俺だ、谷底へ誘導する」

 

 作戦は完成した、完遂出来るかは俺次第。

 装甲起兵(アーマード・ロコモーター)で創られたATに乗り込み、残り少ない武器を手に取る。

 キリコは身を晒し、ワイズマンを宿すバジリスクに向かって行った。

 

 半端な攻撃では気を引くことも出来ない、大火力を出せるソリッドシューターを、眉間目掛けて発射。

 完璧に命中するも、分厚い皮膚は破壊仕切れない。

 付いた傷も、賢者の石により修復。

 

『そこに隠れていたか、キリコよ!』

「…………」

 

 レーザーの様に石畳を切り裂く毒液、驚異だが狙いが単純、複雑に動き、狙いを合わさせない。

 

「ネビルと兄ちゃん達は城を崩しに行って!

 ルーナは守護霊で、頭が弱点か確かめる!

 ハーマイオニーは僕と一緒に、判断を頼む!」

 

 矢継ぎ早に指示を繰り出すロン、チェスの才能はキリコの地獄によって開花していた。

 城へ走り出す三人は、箒を取りだし反対側……崖の方へと向かう。

 バジリスクの近くを通るが、気に止める様子は無い。

 神は平たく言って、彼等を舐めていた。

 賢者の石は残り二個、警戒を引き締めているつもりで、4000年間君臨した愉悦は、中々紐を絞めない。

 

 途中、ダンブルドアを見た。

 視線の先を見た彼等は、核ミサイルを確認する。

 双子は父親から良く聞いていた、マグルが如何に凄いか……恐ろしいか。

 あれは、その中でも最たる物。

 あんなものが落ちたら、ここら一帯は更地になる。

 

 ダンブルドアはそれを食い止めている訳だが、良く見ると……徐々にミサイルが進んでいる。

 これは相当に急がなきゃならないらしいと、双子はネビルを引っ張り箒を飛ばす。

 途中で飛んで来る流れレーザーや、巨大すぎる体の体当たりは、箒を持たないネビルがグリフィンドールの剣で防いでいく。

 何発も浴びるが、よっぽど頑丈に作られたんだな、と製作者にネビルは感謝した。

 

 一方ルーナはウサギの守護霊を出し、頭部の中へ侵入させていた。

 守護霊呪文は吸魂鬼を追い払うのが主な役目だが、熟練すれば伝言や視界の共有をすることも出来る。

 元々守護霊の呪文を素早く習得していた彼女は、既に熟練者だった。

 

 傷口も……ある、頭の中に核……?

 何で人が収まっているのか、ルーナは分からなかったが、敵だと理解した。

 守護霊がバジリスクの上で、蜂のように踊る。

 彼等の推測が合っていたことを示すサインだ、つまり今の戦いは間違っていないという事。

 確信が、戦意向上を齎す。

 

 それと同時にルーナは、城の中でヴォルデモートと戦っているハリーの姿に気付く。

 城の崩壊に巻き込まれてしまう、ハリーに教えなきゃ。

 しかし付近をレーザーが掠め、その間に彼を見失ってしまう。

 けどまだ少し時間は有る、崩壊直前に伝えよう。

 

 口から毒のレーザーを吐き、巨体をうねらせキリコを押し潰そうとする。

 ふとした動き一つが、想像を絶する規模の破壊を呼び込む。

 さながら生き物というより、天災その物を相手取っているかのようだ。

 だが相手は神、人間の作り出した妄想の産物、人の届かない相手ではない。

 

 かつて潰れた、外皮を持たない目の跡に向けて打てば、僅かだが怯む。

 痛みは感じていない様だが、再生に魔力を取られ、動きが鈍るのだ。

 鈍ればその分、距離を稼げる。

 血と瓦礫で塗装された道が、ローラーダッシュの音で軋む。

 

 ふと疑問に思う、好都合だが何故今までの呪文を使わないのかと。

 追い詰められているのではないか、賢者の石という命の源泉を失った影響で、使える呪文に限界が来ているのではないか。

 なら尚更、この好機を逃す訳には行かない。

 

 瞬間、目の前が裂けた。

 放たれたレーザーにより、クレパスが出来上がる。

 これでは先に進めない、神の狙い通りか。

 

『逃げれるとでも思ったのか』

「…………」

 

 動きが止まった瞬間、蜷局を巻きATが包囲される。

 巨体に見合わず、いや、この巨体だからこそ、一跨ぎで数百メートル移動出来るのだ。

 世界そのものが狭まって来ている錯覚に襲われながら、俺は潰されようとしていた。

 

 危機こそ、チャンス。

 装甲起兵最大の利点は、ATを無尽蔵に生成出来る事ではない。

 戦場に在る物なら何でも、規格さえ合えば組み込める点。

 このスコープドッグ、腕だけは残骸になっていたオーデルバックラーの物を使っていた。

 

 バジリスクに向けて鉤付きワイヤー『ザイルスパイド』を発射、引っかかった所で巻き取り機『スピンラッド』を使い、AT自体をバジリスクへ引っ付ける。

 

『私を橋にしたのか!?』

 

 巨大なバジリスクの体表を疾走し、クレパスも追撃も逃れたキリコは遥か遠くへ向かい飛翔する。

 叩き落としてやろうとレーザーが発射される直前、ワイズマンの目の前をウサギが覆った。

 ルーナだ、彼女は守護霊によってキリコを手伝っていたのだ。

 あらぬ所へ命中するレーザー、ATは無事にそのまま、ホグワーツを繋ぐ橋へと降り立つ。

 橋の下は奈落、此処へバジリスクを叩き落とす。

 

 キリコは橋を渡り、追い駆けて来る様に誘い出す。

 果たして引っかかってくれるのか、キリコは掛かると確信していた。

 全ての分霊箱を破壊され賢者の石も後二個のワイズマンにとって、キリコは神の誘惑にも勝る麻薬の様な物。

 神たる不滅を保つ為の最後の手段を、むざむざ逃がす理由は無い。

 

「……今だ!」

 

 キリコが叫んだ瞬間、ホグワーツ城が傾き出す。

 あいつらは上手くやってくれたらしいと、キリコが安堵する。

 正確な計算により崩壊した城は、質量兵器としてバジリスクを谷底へ押し込む。

 しかし狙いに気付いていた神は、レーザーを裁断機の様に振り回し、城全てを裁断しようとした。

 罠には気付いていたが、幾らでも切り抜け方は有る。

 キリコを逃がすリスクと比較すれば、取るべき選択は明らかだ。

 

「───知ってたよ!」

 

 こんな解り易い罠に掛かる訳が無い、ロンは最初から確信していた。

 故に乗り越える事も含んだ作戦を組み、チェックメイトを掛けるクイーンを配置していたのだ。

 レーザーの真正面に立つのは、ロンと共に箒に跨るハーマイオニー。

 ロンはレーザーに向けて、小瓶を構えた。

 

 水圧カッターの威力、バジリスクの猛毒。

 瞬く間に破壊と蒸発を始めると思われた小瓶だが、何とレーザーをそのまま受け止めた。

 『複製バジリスクの毒』が入って居た小瓶に『割れない呪文』を掛ければ……彼等は賭けに勝った。

 

グレイシア(氷河となれ)!」

 

 小瓶に向けてハーマイオニーが氷結呪文を放つ、毒入りの小瓶が凍結し、一直線に繋がっていた毒のレーザーまでも凍らせて行く。

 遂に氷はバジリスクまで到達し、そのまま発射器官である牙諸共凍結させた。

 ───しまった、これではレーザーが!

 

 ホグワーツを破壊する術を失ったバジリスクは、城ごと谷底へ叩き落とされる。

 更に地形崩壊によりホグワーツ湖が決壊、大量の水が流れ込むと同時に、再度の凍結呪文。

 瓦礫と氷によって、バジリスクは完全に閉じ込められた。

 

「今だ! 止めを刺せ!」

 

 ロンが叫ぶと同時に、キリコが、ハーマイオニー達が突っ込む。

 口裏の傷口から、脳を貫く為に。

 だがバジリスクは死体、どれ程損壊してもワイズマンに痛みは無い。

 ……それが、水道管が破裂する様に、牙や口が爆発するという強行策を可能にした。

 

『愚かな、この程度の策、私には何の意味もないのだ!』

 

 凍結を力押しで破り、レーザーを自分自身に向けて発射。

 瓦礫と氷に埋まっていた胸から下を切断し、拘束から脱出したのだ。

 

「───そんな!?」

「ロン! 逃げ───」

 

 キリコがATごと破壊され、瓦礫の上を転がる。

 ロンを庇おうとしたハーマイオニー諸共、二人は尻尾に潰された。

 グリフィンドールの剣で防ごうとしたが、叶わず崖の壁に埋もれるネビル。

 ルーナは頭突きによって、遥か高度まで飛ばされ、落下。

 双子は動き出した怪物に崩された氷の床を突き抜け、奈落へ落ちて行った。

 

『キリコ! これで最後だ!』

「───ッ!」

 

 杖を振るおうとするが、手元に感覚が無い。

 何処だと見渡した俺は、今の衝撃で木屑に成り果てたニワトコの杖を見つけた。

 まだ杖は在るが、取り出すのが間に合わない。

 空が落ちて来る様に、俺は大口を空けるバジリスクに呑み込まれようと───

 

「まだ……終わっていないぞ……化け物!!」

 

 大口に向けて突撃して来たネビルの剣が、バジリスクの頬を貫く。

 思わぬ乱入に驚いたのか、キリコへの攻撃は中断され、ネビルに向けて再開された。

 

「が………っ………!?」

 

 圧倒的質量が直撃し、ホグワーツ城だった瓦礫の跡地に、ネビルが転がる。

 盾にしたグリフィンドールの剣は、弾かれ谷底へ落ちて行ってしまった。

 これで彼は、闘う手段を失ったのである。

 しかも凍っていた牙に貫かれ、肩にバジリスクの毒と凍傷が同時に捻じ込まれる。

 

 それでも尚、叫びたくなる痛みの中、彼は闘志を失わなかった。

 ワイズマンは思わず感心した、異能生存体でも無いのに、これだけ痛め付けても怯まぬ人間が居るとは。

 こういうのは、放置しておくと脅威になる。

 今だに痛みで動けないキリコを見て、逃走はされないと判断したワイズマンは、彼を殺す事にした。

 

『恐ろしい執念だ、だが私が神と知っていれば、この様な最後にはならなかっただろう』

 

 目の前の奴が誰かなど知らない、誰でもどうでもいい。

 丸腰の勇者は、唾を吐く。

 

「地獄の窯が凍っても、お前に逆らってやる」

『……愚かなり、ネビル・ロングボトム!』

 

 神は気付いていなかった、異能など関係無い人の強さに。

 何が人の強さ足りえるか、どんな奇跡を起こすのか。

 敢えて間違いを言うなれば、悪戯に犠牲を増やし過ぎた事である!

 

「パパの仇だ! 化け物ぉぉぉぉっ!!」

『───何だと!?』

 

 頭にグリフィンドールの剣を突き付けたのは、まさかのドラコ・マルフォイ!

 左手には、剣を取り出す為の『組み分け帽子』。

 超高度からの落下呪文(ディセンド)の重ね掛けが、頭部に傷を作り上げたのだ。

 だが何故だ、何故マルフォイがグリフィンドールの剣を持っている!?

 

 グリフィンドールの剣を取り出せるのは、『真のグリフィンドール生』だけである。

 マルフォイはスリザリン生、取り出せる訳がない。

 

 違う、今マルフォイは真のグリフィンドール生だったのだ。

 真のグリフィンドール生とは、恐怖を乗り越える勇敢さを持って、脅威に立ち向かうこと。

 勇気と狡猾さ、それは対極の様だからこそ、鏡写しの関係。

 オセロの様に、状況によってどちらにも引っ繰り返る。

 

 父親を殺され、怒りに燃えるマルフォイ。

 恐怖を越え、何としても仇を取らんとする姿が、勇気を与えた。

 寮など関係無い、今マルフォイは真に勇敢なる者だったのだ。

 

『小賢しい真似を!』

 

 勇敢だろうと力の差は変わらず、剣諸共吹き飛ばされるマルフォイ。

 しかし剣は、まるで導かれる様に再びネビルの手に納まる。

 マルフォイを追い、上空から覆い尽くさんと迫るバジリスク。

 

 ───これが、最後のチャンスだ! 

 ネビルはドラコの前に立ち、喰らい付く怪物の口の中に剣を突き立てた!

 入った!

 傷口を貫き、確かに脳に!

 片腕を貫かれながら得た実感、それは絶望へと変わる。

 

 倒れない!?

 貫いたのに!?

 バジリスクは巨大化していたが、脳の大きさだけはそのまま。

 剣の長さ自体が足りず、届かない。

 無情過ぎる現実が、希望を押し潰した。

 

「───全員、死ぬなよ!」

 

 なら希望を潰す現実ごと、押し潰してしまえばいい。

 ネビルの勇気に触発された彼等が、バジリスクの脳天へと迫る。

 ジョージ、フレッド、ルーナ、ロン、ハーマイオニー、キリコ。

 先程マルフォイがやったのと同じ様に、落下呪文を重ね掛けし、自身等を加速。

 

 違うのはプロテゴを張り、質量弾に見立てている点。

 あと少しで剣は脳に届く、ならバジリスク自体を剣に押し込めばいい。

 隕石となった彼等が、頭部へと直撃した。

 

「これで……!」

 

 最後の駄目押しに、キリコが腕を構える。

 かつてのドラゴンとの戦いの様に、残っていたATの腕を、アームパンチを叩き込み。

 

「─────────!!!」

 

 赤子の悲鳴が、神の断末魔が聞こえる。

 キリコの耳に届いたのは、グリフィンドールの剣が砕ける音。

 そして、賢者の石が、神の命が残り一つとなる音だった。

 もう一つの声は───

 

「───は、はは、ハハハハハ!!」

 

 狂った様に笑う、ヴォルデモートの声。

 何だ、何が可笑しい。

 キリコにも、誰にも分からなかった。

 

「……ば、馬鹿……な……私が……神が……!」

 

 断末魔に等しい声に振り向く、骨に戻ったバジリスクから出て来た神の体は、崩れ始めていた。

 1000年前の死体に、ワイズマン自身の膨大過ぎる魔力。

 分霊箱と賢者の石によって保っていた姿は、いよいよ持たなくなっていたのだ。

 

「キリコ……こいつは一体……!?」

「何でサラザール・スリザリンの姿を……!?」

「……お前達は、もう逃げろ」

 

 色々聞きたい事がある、彼等の疑問は切り捨てられた。

 キリコの目は、今まで見たことが無い程本気。

 いや……彼等でも分かる程の、殺気が。

 

「キリコ」

「…………」

「帰って来てね」

「……ああ」

 

 彼等は気絶するマルフォイを担いで、安全な場所へ逃げて行く。

 まだ無線機を持っている事に期待し、ダンブルドアにも連絡を取る。

 ───最後は、俺の役目だと。

 

 空で核ミサイルを留めていたダンブルドアは、程なく負傷者の救出に移る。

 核到達まで……あと10分だろうか。

 キリコはアーマーマグナムを手に持ち、弾が無い事に気付く。

 ……弾代わりには成るだろう、ワイズマンに気付かれぬよう、足元の()()を纏めて拾っておく。

 

 この時キリコは気付かなかった、それに紛れて、ホグワーツ城の崩壊によって、此処まで転がって来た『ある物』まで拾っていたことに。

 

「───馬鹿な」

 

 まだ現実を見れない、当然だ、神は空想の産物なのだから。

 しかし、どうも変だ。

 目の前のワイズマンからは、異常なまでの動揺を感じる。

 ───次の瞬間、俺はその正体を知った。

 

「…………!?」

 

 頭の中に、声が聞こえる。

 死んだ筈のヴォルデモートの笑い声が。

 『実験は成功した』

 『神の野望は潰えたのだ』

 そして俺は、意識を失う事となる。

 腹を貫く、巨大な落石によって。

 

(───また何時ものように、意識が消える。

 幾度となく味わった感覚だが、何か、根本的なものが違うように感じられる。

 最も奇妙なのは、この恐怖感に、悍ましい程の愛おしさを抱いていた所だ。

 ……そう、まるで、長い悪夢から覚める様な。

 ───今この瞬間、俺は、『異能』を失った)




死に掛けた神が吼えている。
夢を失ったのなら、我が下に来るべからず。
王は与える、永久なる終わりを。
王は嘲る、1000年の謀略を。
神足りぬ者の壮大な絶叫。
人たる者の壮絶なる絶叫。
今ホグワーツに、最後の戦いが始まる。
次回「修羅」。
全てを得るか、地獄に落ちるか。




 ちゃんとDAメンバー(+フォイ)にも活躍の機会を与えておきたかったのが本心。
 グリフィンドールの剣が砕けてしまいましたね。
 これは一体どういう事なのか……次回、またお辞儀様が暴れるぞ!
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