指先に映る貴女   作:とある世界のハンター

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№3 始まりの糸

 

 

 

 

 

 始まりの月、四月。

 グレーに緑のラインが入ったブレザーに、膝上スカート。新品のローファーを履いたら、そこからは高校生の風格。中学生から向けられた憧れの眼差しは避けられない。

 

 雄英高校受験を終えて数週間。糸包クミは狭い関門をくぐり抜け、無事に雄英高校に合格していた。唯一の家族である姉からは嫌という程祝われたが、めでたい時の彼女はそういうものだとクミは甘んじて受け入れた。仕事が忙しく中々話す機会がないためか、こういった時はとことん接する。だからこそ、この入学当日という日に言葉を交わせないのは、少しだけクミに寂しさを味合わせる。

 

『行ってらっしゃい!』

 

 書き置きの手紙が、彼女の口の中で反芻されていく。

 

「まもなく、雄英高校前。お出口は左側です」

 

 最寄り駅から一時間と少し。丘の上に聳え立つ、数週間ぶりの"最高峰"だ。

 

 

 

 

 

 

 

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(1-Aは......ここか)

 

 事前に送られてきた資料を片手に、教室の扉に手をかける。個性社会特有のバリアフリー(5m越え)の扉は存外軽い。始業開始ギリギリの教室は、殆ど席が埋まっている状態だった。

 

(っと)

 

「ゴメンね」

 

 扉を開けてスグのところで談笑していたグループを避けて、とりあえず空いている席、なるべく後ろの方を選んで座る。これは彼女のいつもの癖だ。

 

「ヒーロー科だぞ」

 

 カバンを下ろしたところで、入口から声が聞こえてくる。少なくとも学生の声ではない。先生の声であると察した。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 担任を名乗る人物が扉から顔を覗かせる。

 髪はボサボサ、無造作に生やした髭。"合理的"という言葉を頻繁に口にするこの男の挨拶から、彼等の学園生活は始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

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「「「「「個性把握テストォ!?」」」」」

 

 渡された体操服に着替えた生徒達は、皆グラウンドに来るよう指示されていた。よくある晴天は、この季節には苦にならない日差しだった。皆は座ることなく担任の話を聞くことになる。

 担任曰く、ヒーローになるなら入学式やガイダンス等の行事に出る必要はないとの事。

 

(まあ、極論そうですね)

 

 皆が不満や疑問を漏らす中、クミは相澤の意見に頷いていた。彼女は面倒な行事には参加したくない口なのだ。

 どうせやるなら楽しいことをやりたい。そうして生きてきた彼女にとって、この状況は心を踊らせるものだった。

 

「雄英は"自由"な校風が売り文句。そしてそれは"先生側"も然り」

 

 "自由"というワードに少し引っ掛かるクミだが、止まらない担任の話に意識を向けた際に疑問を手放してしまった。個性禁止の体力テストを文部科学省の怠慢だと罵る相澤は、生徒の一人を指刺した。

 

「爆豪、ソフトボール投げを"個性"を使ってやってみろ。思いっきりな」

 

 相澤は爆豪勝己にボールを投げ渡した。見るからに粗暴の悪そうな少年は、言われるがままに円の中に入る。余裕綽々と言った表情で構え、足を踏み出し、

 

「死ねえ!!!」

 

 爆風を乗せて投げた。

 

(......死ね?)

 

「まずは自分の"最大限"を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

「705.2m......」

 

 相澤が差し出したタブレット端末に表示された結果。まだいけると高を括る爆豪と、口に手を当てるクミ。そして、この『個性把握テスト』というイベントに歓喜する生徒達。

 そんな生徒達の零した「面白そう」という言葉が鼻に触ったのか、相澤は冷たい眼でこう告げた。

 

「ヒーローになるための3年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 

 皆に悪寒が走る。しかし、そんな事など気にしてないかのように相澤は続ける。

 

「よし。トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

 

「「「「「はああああ!?」」」」」

 

(これは......)

 

「生徒の如何は先生の"自由"。ようこそこれが雄英高校ヒーロー科だ」

 

(中々に厳しいんじゃない?)

 

 でも、問題ない。

 冷や汗を垂らすクミ。不安と自信、相反する感情を抱いて、このイカれたテストへと臨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

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 個性把握テストは全8種目行われた。第1種目は50m走。

 出席番号5番の糸包クミは、本人が想定していたよりも早く番が回ってきた。位置に着くまでの間、生徒達には個性使用の為の時間が設けられている。その間にクミは、指先から腕、指先から足の先まで()()()()()

 

 糸包クミの個性は『糸』。

 手の指先から糸を伸ばす個性で、糸は鍛えれば鍛える程に硬くなる。柔らかい、硬いなど、大まかな硬度は任意で変更可能。

 

 脳→脊髄→四肢<脳→個性

 つまり、四肢を動かすより個性を使う方が速いというのが彼女の持論である。

 手足の動作確認を終えたクミは、クラウチングスタートの構えをとる。

 

「START!!」

 

 雄英ロボの合図により走り出す。傍から見れば何ら変わったところはない。隣の女子も同じようだった。

 結果は6:24。

 

(まあ......中学の時よりかは速くなってるよね)

 

 想定していた通りの結果に安心感を覚えるクミ。息を吐きながら個性を解除する。無理矢理動かされた筋肉達は悲鳴をあげているようで、出来れば座りたいと叫んでいた。しかし周りが座らない為か、クミも座らない。

 

(『"Plus ultra"さ。全力で乗り越えて来い』なんて、言うけどさ......)

 

 始まる直前の相澤の言葉を思い出すクミは、たった今走り終えた彼を目で追った。先程の爆豪と共に走った、地味目の男子。傍から見れば個性を使っていない様に見えたが、その真相を知るのは彼のみだ。

 

(私は大丈夫そう、だな)

 

 少し、不安が減った。

 

 

 

 

 

 

 

 第2種目、握力。

 第3種目、立ち幅跳び。

 第4種目、反復横跳び。

 第5種目、ソフトボール投げ。

 いずれも自分の身体に糸を這わせるといった手法を使ってパスした。結果はどれもそれなりで、下位ではないが、全てトップに及ぶものではなかった。

 

「みんな凄いわね」

 

 投げ終わったクミの隣には、同じく投げ終わった蛙吹梅雨がいた。入試の際、寝ていたクミを起こした人物だ。

 思った事を口に出してしまうという彼女は、生徒達の投げる姿をじっと見詰めていた。

 

「そうだね」

 

 授業中特有の、喋ってよいのか分からない時間。故の会話。

 少しだけクラスの中にある壁が溶け始めた頃、事件が起きた。

 

「何か言われるわね」

 

 一球目を投げた"地味目の男子"が担任に呼び止められていた。これまでの成績が振るわない彼は、悪い意味でクラスの中で少しだけ浮いていた。除籍宣告だろう、嫌な言葉が飛び交う。

 

「......なんだろうね」

 

 少しの期待。

 その予感は的中した。

 平凡な男子高校生程度の一球目に対し、二球目は先刻の爆豪勝己と大差ない結果を出したのだ。投げた手の人差し指が痛々しく腫れ上がっている。その異質さと、今までとのギャップにクラスメイトは度肝を抜かれた。

 

「凄......」

 

 クミもそのうちの一人だった。

 

 地味目の男子......緑谷出久は、その後すぐに爆豪勝己に悪い意味で絡まれた。しかし相澤の個性『抹消』と、武器として使用しているであろう『捕縛布』によって事なきを得た。

 個性把握テストはそのまま続行。

 第6種目、持久走。

 第7種目、上体起こし。

 第8種目、長座体前屈。

 

 これらを終わらせた生徒達に待っていたのは除籍━━━━

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

(嘘か〜い!)

 

 最大限を引き出す為の合理的虚偽、そう笑う相澤は校舎裏へと消えて行った。カリキュラムに目を通すこと、カリキュラムを取ったら帰宅して良いことを伝えられた彼等もまた、同じように校舎へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

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「で、友達できたの?」

 

 妹の愚痴を聞く姉は、初めて聞くヒーロー科の話に高揚していた。破天荒と言っても差し支えないその学園生活は、彼女と相性が良かったのだ。

 

「もちろん出来たよ。クラスの女の子とは一通り話したけど、帰りは芦戸三奈ちゃんと葉隠透ちゃんと一緒に帰った」

 

 あの妹に友達が出来た。そのうち家に招いてお泊まり会を開くこともあるのだろうか、そんな時間無いのだろうか。自分の事のように喜ぶ姉は、口も箸も止まらない。

 

「へ〜。どんな感じの子? やっぱりヒーロー! って感じ?」

 

「ヒーローって感じが分かんないけど、2人とも明るいよ。特に三奈ちゃん。あの子がムードメーカー的な感じになるんじゃないかなぁ」

 

「クミはムードメーカーって柄じゃないもんねぇ。男の子はどう? 喋った?」

 

「まだ。まあいずれ話すんじゃないかな」

 

 対して妹は食に没頭したいようで、テキパキと箸を動かしていく。

 

 ご馳走様の声と共に皿洗いを始める2人、まだ会話が途切れることは無い。

 数時間後、就寝。糸包クミの学園生活1日目は、漸く幕を閉じたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

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