「そろそろ、先ほどの生成が終了したようですね。
取り出してみましょうか」
「あ、はい」
うん、いつの間にか終わってたか。
んじゃ、ぽちっとな……
「ラベル無しの瓶と、液体じゃな。
どれどれ……ふむ、
「えっと……?」
「ウォッカ、と言った方が分かりいいかの。
まあ、酒の称号の効果じゃろうな」
「そうか、酒か……最初にできたのを那智に渡す約束をしてるけど、これは大丈夫なのか……?」
「約束なのでしたら、あれこれ悩んでも仕方が無いでしょう。
それでは、次の生成を試したいのですが……」
「明石が表まで持ってきてくれているので、受け取ってきます!」
「明石さんが?
そうですね……せっかくですから、一緒に見てもらってはどうでしょう?
装備の改修は明石がこの施設を使って行うことになりますから、無駄にはならないかと」
「それなら、入ってもらうか。
榛名、頼む」
「はい、提督」
てか、生成と開発と建造と改修がコレって……役目を持たせすぎなのか、機能別じゃないから負担が増えてないのを喜ぶべきなのか、よくわからんな。
「そういえば、設備の数の上限は決まってますか?
ゲームだと制限ありでしたけど」
「ゲーム的な制限は、特に無いはずです。自身用と貸出用に多くの入渠設備を配置している提督もいらっしゃいますし、資材の売買拠点では多めの資材倉庫を維持していますから。
もちろん、魔力の限界に挑戦することはお勧めできませんし、場所や維持管理といった面を考慮する必要もあります」
「乱造を防ぐための、コストの重さ……ですか。
っと、来たか」
「明石、どんぶり4つと共に到着しました!」
元気なのはいいんだが、なんというか、胸元でどんぶりを持つ姿が牛丼屋コラボの時みたいに見えて仕方がない。
どことなく、表情も楽しみにしているような感じがするし。
「えーと、どんぶりを使って、生成するのですか?」
「はい。
正確には、生成するものに関係するものを魔法陣に置くことで、生成結果の可能性が変化する事を期待する、となります。また、そのものが使用可能である場合は、必要素材が減少する場合もあります。
今回はどんぶりを使用することで、丼飯を引き当てる可能性を上げ、どんぶりの生成に必要な素材を削減する効果を狙います」
「関係するもの……」
丼飯で必ず必要になる、どんぶり。
つまり、酒瓶だと酒の可能性が上がるって事か? パンツ……うん、考えないでおこう。
「艤装や装備の生成については、魔法陣の中にいる艦娘に影響される事が判明しています。
特に装備の場合に顕著ですので、艦隊これくしょんの秘書艦に相当すると考えてよいでしょう」
「つまり、ビスマルクの艤装が欲しければZ1を魔法陣の中に入れて生成しないといけない、とかですか」
「Z1やZ3がいない状態での生成報告が無いわけではありませんが、誤報を疑われる程度には珍しいですね。
あと、言い忘れていましたが、艦娘自身が生成を行った場合は、提督ではなく艦娘の特性で結果が得られます。ですので、生成等の称号で得られるものを求める場合は、提督か提督が契約した妖精が生成を行う必要があります」
「それで、妖精に任せるという話だったわけですか。
逆に言えば、称号の影響を受けたくない場合は艦娘に任せる方が良い、という事ですよね?」
一般的な確率で生成したいとか、称号で出るものを避けたいとか。
そういう需要もある……よな?
「そうなります。ただ、誰でも得られる結果になるという事ですから、市場に在庫があるならば購入した方が結果的に安く済むでしょう」
「つまり、欲しいものが市場に無い場合に生成しようとして、結果的に売りに出される不要なものが多い……」
「その通りです。改修で消費しない装備は比較的安いですね。
それでは、そろそろ生成をしてみましょう。明石さん、どんぶりを提督の傍に」
「はいっ!
……でも、足がぶつからない程度に離した方がいいですよね?」
「そうですね……ええ、そこで問題ないでしょう。
その状態で、この有機物を1つ使用して、生成を始めましょう」
「えーと……表示は『有機物×1』だけでいいんですよね?」
「どんぶりなどは生成するものに変化しないからか、材料とはみなされません。資料などでは触媒と呼ばれる事も多いですね。
いずれにせよ目視での確認が重要になりますし、余計なものを持ち込まない事も必要になりますから、普段から気を付けるようにした方が良いでしょう」
「なるほど。今は最低限の物しか持ってないし……どんぶりはあるし。問題ない、かな。
じゃあ、始めます」
ぽちっとな、と。
……残り5分。
「早いな。5分だと料理には短いか……?」
「いえ、本当の外れは1分のものが多いですし、1分できちんと成功するものもありますから。
高級品やセット品のようなものは長くなりがちですが、これは単品とも言えるものですし」
「本当の、外れ?」
「ええ、事実上の生成失敗と言える生成物ですね。
【折れた竹串】などは、失敗としか言いようが無いでしょう。変化すらせずに【割れた有機物資材】になる場合もあります」
「えーと、再利用は……不可、ってことですよね」
「割れたり潰れたりした資材は、ゴミとして処理することで使用可能な資材になります」
「なるほど、確かにゴミ……失敗ですね」
折れた串なんて、串としては役に立たないだろうし。
割れた有機物は、形が変わるだけなら使えても良さそうなもんだけど……魔法的な何かが壊れると思えばいい、のか?
「蛇足ですが、壊れ物でも利用価値があるものが無いわけではありません。
例えば装飾品から貴金属や小さな宝石が得られる、といった具合ですね」
「壊れていても素材としては有効、ですか」
やっぱり壊れ資材が微妙だな。けど、ゲーム的にそういうものだと言われたらそれまでっぽい部分のような気もするし。魔道具の一種だと思った方が実情に近いかも……うーん、考えて答えが出るものでもないしな。
よし、深く考えない。これだ。
「さて、そろそろ出来ているようですね。
期待通りの結果が得られたら良いのですが」
おおう、考えてる間に終わってたのか。
特に考える必要も無いだろうし、ぽちっと……ん?
「ところで、この状態でどんぶりを片付けたり移動したりすると、どうなります?」
「魔法陣内の移動だけであれば、再配置されるので問題ありません。
ですが、魔法陣の外へ出してしまうと、その時点で提督が外に出た場合と同じく中止として扱われます。この性質を利用して何が触媒となり得るのかを調査することも可能ではありますが、成功時に得られるものを証明する事は難しいですね」
「つまり、魔法陣の中の物を減らすのはダメだ、と。
増える分には結果に影響しませんよね?」
「そう言われていますね。
もちろん、触媒でない物については、減っても問題ありません」
なるほど。まあ、必要なものは置いとけ、って事だな。ダメなら中止扱いになるわけだし、今はボタンが取得のまま変わってないから問題ない、と。
改めて、ぽちっとな。
「……海鮮丼、かな?」
「海鮮ですが……鮭とイクラ、海鮮の親子丼のようなものでしょうか。
同じものが2つですから、コスト的には微妙ですね。安定性次第ですが、売るほど安くなく、使えないと切り捨てるほど高くない、といったところかと」
「えーと、有機物の資材って、いくらくらいです?」
「波はありますが、有機物は1つあたり1000円前後ですね。無機物は出回る量が少なめだからか、5割ほど高いようです。
どんぶりを触媒に使用して安定するのであれば、自前のごみ処理で得た有機物は食費削減のために使うのもよいでしょう。少量で売る場合はかなり値が下がりますから」
「ああ、経費やら手数料やら信用やらの都合ですか」
査定を魔法でやるなら一発で大量にチェックした方が楽だろうし、店に信用されるならチェック自体ほとんどない場合だってあるかもだ。運送やらの都合もあるだろうし、その分のコストが値段に跳ね返るのは当然か。
「そうですね。
ちなみに、生成で得られる物は、行使者以外にも地域や時間といったものにも影響されているようです。確率が少々変化する程度だとは言われていますが、調べてみるのも面白いかもしれませんよ」
「それはまた……でも、時間はともかく、地域は調べられないですよね?」
日本とアメリカで違うとかだと、調べようがないよな。
海側と山側とか言われても、場所の確保が大変そうだし。家賃を払ってまで調べるようなものでもない、と思いたい。
「どこかに移る事があれば、という程度ですね。
さて、生成についてはこれくらいにして、次に進みましょう」
「次というと……」
「本来は宝珠の名付けと艦娘の登録、不足している物資の要請となるのですが……その前に、艦娘や装備妖精との契約を行いましょう。
上下提督の場合はあと2人の艦娘、できれば駆逐艦と契約を行っておくのが良いでしょう」
「えーと、依頼とかで必要になるから、ですよね?」
「そうですね。戦艦ばかりの艦隊でも遂行可能な依頼は多いですが、経費を考えるとお勧めできません。早々に軽巡洋艦も必要になるでしょうが、先に駆逐艦を揃えるべきです。
書類的に、レベルが96であると良いのですが」
「えーと……96だと誰がいたっけ?」
「レベルが96の駆逐艦ですと、潮改二、朝潮改二丁、朝霜改、天津風改が該当します。
対潜と……ツンデレ枠、でしょうか?」
「ちょ、榛名、ツンデレ枠って何!?」
別にツンデレが好きってわけじゃないから、たぶん!
「初期艦が叢雲ですし、翔鶴よりも瑞鶴を優先されていたようですし、天津風はそれほど特別な能力があるわけではないですから、そのような性格の娘もお嫌いではないと思っているのですが……違うのでしょうか?」
「ぐっはぁっ!?」
あ、改めて言われるときっつい……そうか、これが天然の力か……ッ
「性癖の追及は、後程ゆっくりと行ってください。
その中でのおすすめは、朝潮と天津風でしょうか。朝潮の対潜能力には定評がありますし、天津風は絶対数が少ないですから依頼の受注で有利になる事があります」
「そこは止めてほしかった……じゃなくて、艦娘の能力以外も受注に影響するんですか?」
「します。
例えば、大きな船団を組む際に、別の【羅針盤】であっても同じ艦娘を含まないよう調整する場合があります。これは、大きな被害を受けた際の再編成で制限を減らすことを目的とします。
半壊した艦隊を合流させる際に同じ艦娘を含まないようにするため、ですね」
「そういう事態も想定する必要がある、という事ですか……」
艦隊の半壊で合流って、要するに轟沈して数が減ったって意味だよな。
この辺はやっぱり、戦争なんだな……
「まあ、そのような事態は頻繁にあるものではありません。
通常は能力面を重視しますし、選り好みは指揮官や船員の好みや珍しい艦娘だと喜ばれるからという面が強いですね」
「……なんか、一気に俗っぽい理由になったな」
「命がけで海に出る指揮官や船員のやる気は、重要です。
それに、やる気の元になる艦娘を含む艦隊は危険な任務を任されにくい、という効果もあるようです。もちろん、あくまで比較的程度で、明確に差別化されることはほぼありませんが」
「うわぁ……って、そういう理由があるなら、珍しい艦娘と契約する提督が多いんじゃ……多いのでは?」
「天津風に限って言えば、明確に優位な能力といったものが無く、それでいて燃費が少々悪いですから。費用対効果という意味で選ばれにくいようですね。
車を買う際に、燃費を気にするようなものです。秘書艦やそれに準ずる艦として手元に置く提督はある程度いらっしゃいますが、遠方への派遣にはあまり出さないそうですよ」
「あー、お金に直結するからゲームの時より燃費が気になるし、好みで選んだなら長期出張はさせないのか。駆逐艦だと他の候補も多いわけだし、確か燃料消費が3割増しくらい……史実だと燃費は同じ程度、むしろ良い可能性もあったはずなんだけどなぁ」
「そこは、史実から直接派生していない事による影響かと。実際の大和は長門や金剛と燃料消費に大きな差は無く、むしろ大和の航続距離が計画より良かったために燃料の搭載量を減らしたくらいですから。
それに、ゲーム的な補正に関しては、悪い面ばかりでもありません。天龍などに石炭を要求されても困りますし、夢のまま終わった烈風一一型や紫電四一型の量産化、本来よりも大きな主砲や魚雷への換装などは、史実を重要視するのであればありえないと言ってよいでしょう」
「それは、確かに」
単装砲を連装砲にとか、普通に考えれば難しいよな。
戦艦の連装砲を三連装砲に替えるのも、重量やサイズ的に不可能だろうし。
「色々言いましたが、最終的には提督の好みや戦力の考え方が重要になります。
それに、余裕のある運用のためには、駆逐艦はそれなりの数を揃える必要があるでしょう。
数が少ないうちは、好みで選んでよいと思いますよ」
「……結局、好みか」
いやまあ、ゲーム的な補正でどの艦娘もそれなりに使える以上、やる気って意味でも、好みで選んでいいんだろうけど。
家族みたいな事を言っていたから、嫁の前で浮気相手を選ぶような構図ではないんだろうけど……これはあれだな、養子を選ぶと考えれば、何とか……ならんな。駆逐艦はともかく、戦艦や正規空母を子供と呼べるほど老けてない。ヒゲ面だけどな!
16ノット時の燃料1tあたりの航続距離
大和 1.6海里 (基準排水量 64000t)
長門 1.5海里 (基準排水量 39120t)
扶桑 2.2海里
…というデータを見かけました。大和のサイズを考えると、なんてエコなんでしょう。
なお、他の艦種だと、こんな感じだそうで。
妙高 3.4海里(14ノット時)
多摩 4.0海里(14ノット時)
阿賀野 4.2海里(18ノット時)
陽炎 8.0海里(18ノット時 基準排水量 2033t)
秋月 7.4海里(18ノット時)
翔鶴 1.9海里(18ノット時)
つまり大和は、陽炎の30倍のサイズにも関わらず燃料は5~6倍ほどしか使わない。
でも、艦これでは燃料消費が16.7倍。どういう事だってばよ。